作品タイトル不明
〈帰り道〉
新大陸アストラムでの探索を一区切りとして、町に帰ることにした。
回廊は開通した。踏破率は58%。東半分のエリアが開放された。星の祝福は完成済み。虚晶の精製方法も記録した。サーラの絵の具、星巡りの靴、テンの加入。多くのものを得た。
だが全ては終わっていない。踏破率はまだ半分。東のエリアはこれから。海底都市の未踏区画もある。星の回廊の地図にはまだ書かれていない分岐がある。そして──四つ目の光の謎。
「また来る」
港町の桟橋。帰りの船を待っている。リーリアが見送りに来ていた。
「次はいつ来るの?」
「わからない。表の世界でやることもある。聖都にも戻る。カレンに報告しないと」
「カレンさん。聖都の王だった人だよね。星の文献に名前が出てくる。『光の封じ 手(ひかりのふうじて) 』」
「封じ手か。的確な呼び方だな」
「あなたは何て呼ばれてると思う? この大陸で」
「旅人だろう」
「ただの旅人じゃないよ。『回廊を拓きし者』。でもわたしは別の呼び方をしてる」
「何だ」
「『星が待っていた人』」
「大げさだ」
「大げさじゃないよ。十四年間待ったんだから。わたしが」
リーリアが手を差し出した。握手。
「またね。トワ」
「ああ。また」
握手を交わした。リーリアの手は小さくて温かかった。
◇
船の上。帰りの航海。
行きと違って、穏やかだった。星海鯨が遠くで潮を吹いている。空は澄んでいて、水平線がくっきり見える。
セレスが肩の上で、風に髪を靡かせていた。
「トワ、かえるね」
「ああ、帰る」
「はじまりのまちに、かえる」
「聖都にも寄る」
「エリーのパン、かいにいかないと。ぜんぶたべちゃったから」
「禁域で全部食べたのは、お前だろう」
「はんぶんはトワがたべた」
「半分は食べた……か?」
「たべた」
「……認めよう」
「くいしんぼ」
「セレスにだけは言われたくないな」
ルーナが影の中から、船の揺れに合わせて小さく揺れている。
「ルーナ、船酔いしてないか」
「してない。影の中は揺れない。でも……海の上は落ち着かない。影が薄いから」
「もうすぐ着く、陸に上がれば影が戻るだろう」
「うん。早く陸に戻りたい」
テンがブーツの上で眠っている。新大陸で一番働いた虫。闇感知の功労者。今はただの甲虫として、平和に眠っている。
ハルが甲板でメモを取っている。新大陸の記録をまとめている。導師としての仕事。
「師匠。新大陸の報告書、まとめていいですか。フォーラムに載せるんじゃなくて、旅人の記録として」
「好きにしろ。だが機密情報は載せるな。旅人の塔の旅日記の内容とか」
「わかってます。一般公開用と、旅人限定用に分けて書きます」
「いい判断だ」
「師匠に鍛えられましたから」
ゼクスが船の舷側にもたれて、短剣を弄んでいた。星鉱石の短剣。闇の蝕みを受けなかった武器。
「ゼクス。次はどうする」
「聖都に戻ってカレンに報告する。ルミナリアの様子も見ておきたい。闇の活動が活発化しているなら、ソルシアとルミナリアにも影響が出ているはずだ」
「ああ。ヴェノムからも報告が来ている。第一の穴の周辺が不穏だと」
「世界中が繋がっているんだな。新大陸の回廊を開通させたことで、根の流れが変わった可能性もある」
「リーリアが調べてくれる。星の配列の変化を」
タマキが船室で薬の整理をしていた。新大陸で得た素材で、新しいレシピの試作を続けている。
「トワさん。虚晶を使った新薬の構想があるんですけど、聖都に戻ったら試していいですか」
「もちろんだ。精製設備の情報は持ち帰っている。ガルドに再現を頼めるかもしれない」
「鍛冶師に精製設備を作ってもらうんですか? 異業種の共同制作ですね」
「BCOは全ての職業が繋がっている。旅人が歩いて情報を見つけ、星読みが翻訳し、薬師が素材を調合し、鍛冶師が設備を作り、航海士が海を渡る。一人では何もできないが、全員の力を合わせれば──」
「世界を変えられる、ですね?」
「ああ」
アストレアが船の舳先に立っていた。聖剣ルミナスを握って、水平線を見つめている。
「トワさん。私は、新大陸で思ったことがあります」
「何だ」
「私の聖属性は、ルミナリアの聖騎士の系譜です。光の力。でも新大陸では──光だけでは足りなかった。闇の中で役に立てたのは、ルーナの夜と、セレスの月光と、テンの闇感知でした。わたしの光は、闇の中では力不足だった」
「力不足だとは思わない。お前の聖属性は、中継拠点で蟲を散らす時に役立った。禁域の手前でMPを蓄えていたのも、俺は見ていた」
「見ていてくれたんですか」
「もちろん、全員を見ている」
「……ありがとうございます。──わたしも、もっと強くなります。聖属性だけじゃなく、新しい力も取り込んで」
「虚晶のアクセサリを作れば、お前の聖属性に全属性耐性が加わる。聖属性の弱点が消える」
「虚晶で──! それは、すごく楽しみです」
船が港に近づいていた。港町マリスタ、トワたちが出発した場所だ。
「セレス。帰ってきたぞ」
「かえってきた。──でも、またいくよね」
「行く。まだ半分も歩いていない」
「はんぶんのこってる。──たのしみ」
「ああ。楽しみだ」
港町マリスタに着いた。桟橋に足を降ろす。表の世界の土を踏む。足元のテンが一回光った。