軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

〈帰り道〉

新大陸アストラムでの探索を一区切りとして、町に帰ることにした。

回廊は開通した。踏破率は58%。東半分のエリアが開放された。星の祝福は完成済み。虚晶の精製方法も記録した。サーラの絵の具、星巡りの靴、テンの加入。多くのものを得た。

だが全ては終わっていない。踏破率はまだ半分。東のエリアはこれから。海底都市の未踏区画もある。星の回廊の地図にはまだ書かれていない分岐がある。そして──四つ目の光の謎。

「また来る」

港町の桟橋。帰りの船を待っている。リーリアが見送りに来ていた。

「次はいつ来るの?」

「わからない。表の世界でやることもある。聖都にも戻る。カレンに報告しないと」

「カレンさん。聖都の王だった人だよね。星の文献に名前が出てくる。『光の封じ 手(ひかりのふうじて) 』」

「封じ手か。的確な呼び方だな」

「あなたは何て呼ばれてると思う? この大陸で」

「旅人だろう」

「ただの旅人じゃないよ。『回廊を拓きし者』。でもわたしは別の呼び方をしてる」

「何だ」

「『星が待っていた人』」

「大げさだ」

「大げさじゃないよ。十四年間待ったんだから。わたしが」

リーリアが手を差し出した。握手。

「またね。トワ」

「ああ。また」

握手を交わした。リーリアの手は小さくて温かかった。

船の上。帰りの航海。

行きと違って、穏やかだった。星海鯨が遠くで潮を吹いている。空は澄んでいて、水平線がくっきり見える。

セレスが肩の上で、風に髪を靡かせていた。

「トワ、かえるね」

「ああ、帰る」

「はじまりのまちに、かえる」

「聖都にも寄る」

「エリーのパン、かいにいかないと。ぜんぶたべちゃったから」

「禁域で全部食べたのは、お前だろう」

「はんぶんはトワがたべた」

「半分は食べた……か?」

「たべた」

「……認めよう」

「くいしんぼ」

「セレスにだけは言われたくないな」

ルーナが影の中から、船の揺れに合わせて小さく揺れている。

「ルーナ、船酔いしてないか」

「してない。影の中は揺れない。でも……海の上は落ち着かない。影が薄いから」

「もうすぐ着く、陸に上がれば影が戻るだろう」

「うん。早く陸に戻りたい」

テンがブーツの上で眠っている。新大陸で一番働いた虫。闇感知の功労者。今はただの甲虫として、平和に眠っている。

ハルが甲板でメモを取っている。新大陸の記録をまとめている。導師としての仕事。

「師匠。新大陸の報告書、まとめていいですか。フォーラムに載せるんじゃなくて、旅人の記録として」

「好きにしろ。だが機密情報は載せるな。旅人の塔の旅日記の内容とか」

「わかってます。一般公開用と、旅人限定用に分けて書きます」

「いい判断だ」

「師匠に鍛えられましたから」

ゼクスが船の舷側にもたれて、短剣を弄んでいた。星鉱石の短剣。闇の蝕みを受けなかった武器。

「ゼクス。次はどうする」

「聖都に戻ってカレンに報告する。ルミナリアの様子も見ておきたい。闇の活動が活発化しているなら、ソルシアとルミナリアにも影響が出ているはずだ」

「ああ。ヴェノムからも報告が来ている。第一の穴の周辺が不穏だと」

「世界中が繋がっているんだな。新大陸の回廊を開通させたことで、根の流れが変わった可能性もある」

「リーリアが調べてくれる。星の配列の変化を」

タマキが船室で薬の整理をしていた。新大陸で得た素材で、新しいレシピの試作を続けている。

「トワさん。虚晶を使った新薬の構想があるんですけど、聖都に戻ったら試していいですか」

「もちろんだ。精製設備の情報は持ち帰っている。ガルドに再現を頼めるかもしれない」

「鍛冶師に精製設備を作ってもらうんですか? 異業種の共同制作ですね」

「BCOは全ての職業が繋がっている。旅人が歩いて情報を見つけ、星読みが翻訳し、薬師が素材を調合し、鍛冶師が設備を作り、航海士が海を渡る。一人では何もできないが、全員の力を合わせれば──」

「世界を変えられる、ですね?」

「ああ」

アストレアが船の舳先に立っていた。聖剣ルミナスを握って、水平線を見つめている。

「トワさん。私は、新大陸で思ったことがあります」

「何だ」

「私の聖属性は、ルミナリアの聖騎士の系譜です。光の力。でも新大陸では──光だけでは足りなかった。闇の中で役に立てたのは、ルーナの夜と、セレスの月光と、テンの闇感知でした。わたしの光は、闇の中では力不足だった」

「力不足だとは思わない。お前の聖属性は、中継拠点で蟲を散らす時に役立った。禁域の手前でMPを蓄えていたのも、俺は見ていた」

「見ていてくれたんですか」

「もちろん、全員を見ている」

「……ありがとうございます。──わたしも、もっと強くなります。聖属性だけじゃなく、新しい力も取り込んで」

「虚晶のアクセサリを作れば、お前の聖属性に全属性耐性が加わる。聖属性の弱点が消える」

「虚晶で──! それは、すごく楽しみです」

船が港に近づいていた。港町マリスタ、トワたちが出発した場所だ。

「セレス。帰ってきたぞ」

「かえってきた。──でも、またいくよね」

「行く。まだ半分も歩いていない」

「はんぶんのこってる。──たのしみ」

「ああ。楽しみだ」

港町マリスタに着いた。桟橋に足を降ろす。表の世界の土を踏む。足元のテンが一回光った。