軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

〈新しい道〉

回廊が開通した翌日。

新大陸アストラムは祭りのような騒ぎになっていた。

星の回廊の転送ポイントが全プレイヤーに開放されたことで、大陸の東半分に一瞬でアクセスできるようになった。これまで未踏だったエリアに、プレイヤーが殺到している。

「東口から出たら、平原が広がってる! 新しいモンスターがいる!」

「東の港町があるぞ! NPCの漁師がいる!」

「回廊の中継拠点の泉、全回復効果あるの知ってた!?」

「回廊の壁画がきれい。星の紋章が全部光ってる。トワが浄化する前は、真っ暗だったんだろ?」

「トワが歩いた後に光が灯る。ソルシアでもルミナリアでも、トワが通った後は世界が変わるな」

ダリオが船で東の港町に回り込み、海側からの航路も開拓していた。陸路と海路の両方が開通し、新大陸の交通網が一気に整備された。

「トワ! 東の港町に着いたぞ! 海底にも新しいダンジョンが見える!」

「そっちは任せる。俺は東の平原を歩く」

「了解、海はこっちで開拓する! ──また取引しようぜ」

「ああ……いつでも」

オルテリアに戻ると、リーリアが走ってきた。

「トワ、回廊開通おめでとう! 星の配列が一晩で変わったよ……すごくきれいになった!」

「星の配列が変わったのか」

「うん、回廊が闇で塞がれてた時は、星の配列がいびつだったの。でも今は整然としてる。大陸の気脈が正常に戻ったんだよ!」

「気脈……回廊はただの交通路じゃなくて、大陸のエネルギーの流れを繋いでいたのか」

「そう。古代星王朝は回廊を使って、星の力を大陸全体に循環させていた。闇で塞がれてから、循環が止まってた。それが千年ぶりに再開した」

「循環が戻ったことで、何が変わる」

「モンスターの生態系が安定する。星属性の植物の成長が早くなる。NPCの活動範囲が広がる。全部にいい影響がある」

実際に、オルテリアの街では変化が始まっていた。NPCたちの表情が明るくなり、街の外に出て畑を広げ始めている。モンスターの出現頻度も安定していた。

「師匠の回廊開通、ゲーム全体に影響を及ぼしてるんですね」ハルが感心した。

「俺がやったのは、闇を浄化しただけだ。回廊の本来の機能が戻ったのは、古代星王朝の設計の力だ」

「それでも、浄化しなければ戻らなかった。師匠が歩かなければ」

「歩いただけだ」

「歩いただけ、が一番すごいんですよ。師匠の場合」

タマキが露店を再開した。新素材が東のエリアから大量に入ってきている。新レシピの開発ラッシュ。薬師の腕が鳴る。

「トワさん。東のエリアの素材で、闇耐性薬の上位版が作れそうです。回廊の禁域で使った特濃よりさらに上のものを!」

「ありがたい、次の探索に備えておこう」

「次って、もう次があるんですか?」

「ある。回廊の東半分にはまだ行っていない中継拠点がある。そこに何があるか、見に行く」

「休んでからにしてくださいね。禁域で、かなり消耗したでしょう」

「今日は休むさ。セレスとルーナも疲れているからな」

セレスがトワの肩の上で珍しく、おやつを食べずに静かにしていた。疲労が残っているらしい。

「セレス。大丈夫か」

「だいじょーぶ。──つかれてるだけ、あしたにはなおる」

「無理するな」

「むりしてない。セレスはむりしない。おやつがあれば、すぐなおる」

「結局おやつか」

「おやつはせーぎ」

夜。オルテリアの広場。

プレイヤーたちが集まって、即席の宴会をしていた。回廊開通の祝い。新大陸に来ているプレイヤーが二百人以上。ナハルからもオルテリアからも、回廊の転送で一瞬で集まれるようになった。

「乾杯! 回廊開通おめでとう!」

「トワさんに感謝!」

「Lv1旅人が大陸の交通網を開通させた!」

「BCO史上最大のインフラ整備だろ」

「インフラ整備って言い方やめろ。冒険だろ」

「冒険的インフラ整備」

「それはそれで語呂が悪いな」

トワは宴会の端で、セレスとルーナとテンと一緒に座っていた。

リーリアが隣に来た。

「トワ、改めてお疲れさま」

「ああ、ありがとう」

「回廊の最深部に、壁画があったって聞いたけど……結晶体の向こう側に」

「浄化した後に見えたな。金色の結晶の裏側の壁に」

「そこには、何が描いてあった?」

「三つの光が描いてあった。太陽と月と星。そして、その下に──四つ目の光が描いてあった」

「四つ目?」

「見たことのない光だ。三つの光とも違う。色もない。形もない。ただ──そこにある、としか言いようがない光。壁画の下に文字があったが、見聞録では翻訳できなかった。星読みの文字だ」

「写した?」

「ああ、見てくれ」

トワが見聞録のログからスクリーンショットを表示した。リーリアが覗き込んだ。文字を読む。

リーリアの顔つきが──変わった。

「これ……」

「何が書いてある?」

「『三つの光は世界を照らす。四つ目の光は世界を繋ぐ。四つ目の光を灯す者だけが、全ての扉を開く』」

「四つ目の光が──全ての扉を開く。深淵の門を含めて」

「たぶん。でもこれだけじゃ、四つ目の光が何なのかわからない。太陽でも月でも星でもない光。この大陸の文献にも出てこない概念だよ」

「わからないなら──歩いて見つけるしかない」

「また、それ」

「また、それだ」

リーリアが笑った。呆れたような、嬉しいような笑い。

「わたしも手伝う。星の文献を全部調べ直す。四つ目の光の手がかりが、どこかにあるはず」

「頼む」

「任せて。星読みの仕事だから」

広場の宴会が続いている。プレイヤーたちの笑い声が、星の苔の光に照らされたオルテリアに響いている。

トワは空を見上げた。双子星が輝いている。その周りに無数の星。月はない。新大陸には月がない。代わりに星がある。

太陽。月。星。そして──四つ目の光。

まだ見ぬ光。まだ歩いていない道。答えはまだ遠い。

だが、遠いことは悪くない。歩く理由があるということだから。