作品タイトル不明
〈新しい道〉
回廊が開通した翌日。
新大陸アストラムは祭りのような騒ぎになっていた。
星の回廊の転送ポイントが全プレイヤーに開放されたことで、大陸の東半分に一瞬でアクセスできるようになった。これまで未踏だったエリアに、プレイヤーが殺到している。
「東口から出たら、平原が広がってる! 新しいモンスターがいる!」
「東の港町があるぞ! NPCの漁師がいる!」
「回廊の中継拠点の泉、全回復効果あるの知ってた!?」
「回廊の壁画がきれい。星の紋章が全部光ってる。トワが浄化する前は、真っ暗だったんだろ?」
「トワが歩いた後に光が灯る。ソルシアでもルミナリアでも、トワが通った後は世界が変わるな」
ダリオが船で東の港町に回り込み、海側からの航路も開拓していた。陸路と海路の両方が開通し、新大陸の交通網が一気に整備された。
「トワ! 東の港町に着いたぞ! 海底にも新しいダンジョンが見える!」
「そっちは任せる。俺は東の平原を歩く」
「了解、海はこっちで開拓する! ──また取引しようぜ」
「ああ……いつでも」
◇
オルテリアに戻ると、リーリアが走ってきた。
「トワ、回廊開通おめでとう! 星の配列が一晩で変わったよ……すごくきれいになった!」
「星の配列が変わったのか」
「うん、回廊が闇で塞がれてた時は、星の配列がいびつだったの。でも今は整然としてる。大陸の気脈が正常に戻ったんだよ!」
「気脈……回廊はただの交通路じゃなくて、大陸のエネルギーの流れを繋いでいたのか」
「そう。古代星王朝は回廊を使って、星の力を大陸全体に循環させていた。闇で塞がれてから、循環が止まってた。それが千年ぶりに再開した」
「循環が戻ったことで、何が変わる」
「モンスターの生態系が安定する。星属性の植物の成長が早くなる。NPCの活動範囲が広がる。全部にいい影響がある」
実際に、オルテリアの街では変化が始まっていた。NPCたちの表情が明るくなり、街の外に出て畑を広げ始めている。モンスターの出現頻度も安定していた。
「師匠の回廊開通、ゲーム全体に影響を及ぼしてるんですね」ハルが感心した。
「俺がやったのは、闇を浄化しただけだ。回廊の本来の機能が戻ったのは、古代星王朝の設計の力だ」
「それでも、浄化しなければ戻らなかった。師匠が歩かなければ」
「歩いただけだ」
「歩いただけ、が一番すごいんですよ。師匠の場合」
タマキが露店を再開した。新素材が東のエリアから大量に入ってきている。新レシピの開発ラッシュ。薬師の腕が鳴る。
「トワさん。東のエリアの素材で、闇耐性薬の上位版が作れそうです。回廊の禁域で使った特濃よりさらに上のものを!」
「ありがたい、次の探索に備えておこう」
「次って、もう次があるんですか?」
「ある。回廊の東半分にはまだ行っていない中継拠点がある。そこに何があるか、見に行く」
「休んでからにしてくださいね。禁域で、かなり消耗したでしょう」
「今日は休むさ。セレスとルーナも疲れているからな」
セレスがトワの肩の上で珍しく、おやつを食べずに静かにしていた。疲労が残っているらしい。
「セレス。大丈夫か」
「だいじょーぶ。──つかれてるだけ、あしたにはなおる」
「無理するな」
「むりしてない。セレスはむりしない。おやつがあれば、すぐなおる」
「結局おやつか」
「おやつはせーぎ」
◇
夜。オルテリアの広場。
プレイヤーたちが集まって、即席の宴会をしていた。回廊開通の祝い。新大陸に来ているプレイヤーが二百人以上。ナハルからもオルテリアからも、回廊の転送で一瞬で集まれるようになった。
「乾杯! 回廊開通おめでとう!」
「トワさんに感謝!」
「Lv1旅人が大陸の交通網を開通させた!」
「BCO史上最大のインフラ整備だろ」
「インフラ整備って言い方やめろ。冒険だろ」
「冒険的インフラ整備」
「それはそれで語呂が悪いな」
トワは宴会の端で、セレスとルーナとテンと一緒に座っていた。
リーリアが隣に来た。
「トワ、改めてお疲れさま」
「ああ、ありがとう」
「回廊の最深部に、壁画があったって聞いたけど……結晶体の向こう側に」
「浄化した後に見えたな。金色の結晶の裏側の壁に」
「そこには、何が描いてあった?」
「三つの光が描いてあった。太陽と月と星。そして、その下に──四つ目の光が描いてあった」
「四つ目?」
「見たことのない光だ。三つの光とも違う。色もない。形もない。ただ──そこにある、としか言いようがない光。壁画の下に文字があったが、見聞録では翻訳できなかった。星読みの文字だ」
「写した?」
「ああ、見てくれ」
トワが見聞録のログからスクリーンショットを表示した。リーリアが覗き込んだ。文字を読む。
リーリアの顔つきが──変わった。
「これ……」
「何が書いてある?」
「『三つの光は世界を照らす。四つ目の光は世界を繋ぐ。四つ目の光を灯す者だけが、全ての扉を開く』」
「四つ目の光が──全ての扉を開く。深淵の門を含めて」
「たぶん。でもこれだけじゃ、四つ目の光が何なのかわからない。太陽でも月でも星でもない光。この大陸の文献にも出てこない概念だよ」
「わからないなら──歩いて見つけるしかない」
「また、それ」
「また、それだ」
リーリアが笑った。呆れたような、嬉しいような笑い。
「わたしも手伝う。星の文献を全部調べ直す。四つ目の光の手がかりが、どこかにあるはず」
「頼む」
「任せて。星読みの仕事だから」
広場の宴会が続いている。プレイヤーたちの笑い声が、星の苔の光に照らされたオルテリアに響いている。
トワは空を見上げた。双子星が輝いている。その周りに無数の星。月はない。新大陸には月がない。代わりに星がある。
太陽。月。星。そして──四つ目の光。
まだ見ぬ光。まだ歩いていない道。答えはまだ遠い。
だが、遠いことは悪くない。歩く理由があるということだから。