作品タイトル不明
〈レース〉
ログイン。新大陸アストラム。
ナハルのオアシス都市に戻ると、広場に看板が立っていた。
【プレイヤーイベント「星砂横断レース」開催!】
【ナハルからオルテリアまでの砂漠横断タイムアタック!】
【参加費無料。優勝者には限定称号と星砂の 王冠(アクセサリ) を授与!】
「レース? プレイヤーが企画したのか」
看板の主催者名を見ると、航海士ギルドの名前。ダリオだ。
「よう、トワ! レース企画したんだ!」ダリオが駆け寄ってきた。「新大陸に来てるプレイヤーが増えたから、交流イベントがほしくてな。砂漠横断レース。ナハルからオルテリアまで。モンスターを避けながら走るタイムアタック」
「航海士が陸のイベントを企画するのか」
「海のイベントは船がないプレイヤーは参加できないからな。陸なら全員参加できる」
「気が利くな」
「照れるぜ」
参加者が集まっている。五十人以上。剣士、魔法使い、盗賊、航海士、そして旅人。さまざまなクラスのプレイヤーが、スタートラインに並んでいる。
「師匠! 出ましょうよ!」ハルが目を輝かせた。
「レースか。俺は別に」
「師匠が出ないとつまらないですよ! Lv1旅人が全クラスのプレイヤーとガチで走ったらどうなるか、見たくないですか!?」
「見たいのはお前だろう」
「わたしも出ます! 師匠と勝負です!」
「お前が俺に勝てると思っているのか」
「思ってません! でもどこまで食らいつけるか試したいんです!」
ゼクスが横から言った。
「俺も出る。お前と全力で走ったことはない。PvPでは戦ったが、レースは初めてだ」
「ゼクスまで──」
「面白そうじゃないか。Lv1の旅人が、Lv90の暗殺者と走る。どっちが速いか」
タマキが手を挙げた。
「わたしは応援席で薬を配ります。途中で倒れた人の回復もしないと」
「薬師らしい役割だな」
「走るのは苦手なので」
アストレアも参加を表明した。
「聖騎士は重装備ですが──走れなくはありません。鎧を脱げば」
「アストレアが鎧を脱ぐのか。それはレアだ」
「脱ぎませんよ。鎧着たまま走ります。聖騎士の矜持です」
「重装備で砂漠走るのか。漢だな」ダリオが笑った。
「女です」
◇
スタートライン。五十三人の参加者がナハルの東門に並んだ。
【星砂横断レース──まもなくスタート】
【ルール:ナハルからオルテリアまでの最短距離を走る。飛行禁止。騎乗禁止。モンスターとの戦闘は任意(逃げてもOK)。到着順で順位決定】
「飛行禁止、騎乗禁止。純粋な走力勝負か」
「トワさん。星巡りの靴、装備してますよね」タマキがスタートライン横から声をかけた。
「している。移動速度+15%の靴だ」
「ずるくないですか、それ」
「装備の性能もプレイヤーの実力のうちだ」
「言い切った」
カウントダウン。
【3……2……1……スタート!】
五十三人が一斉に走り出した。砂漠に足跡が刻まれる。トワの足跡だけが星の光を残していく。
先頭集団が形成される。盗賊クラスのプレイヤーが速い。スピード特化ビルド。航海士は陸では遅い。剣士は中程度。魔法使いは最後尾。
アストレアが重装備で走っている。重い。遅い。だが止まらない。
「アストレアさんがんばれ!」後方から声が飛ぶ。
「聖騎士は……止まりません……!」
先頭集団の中に、トワがいた。盗賊クラスの二人と並走している。ゼクスはその二歩後ろ。ハルがさらに後ろ。
「速い──トワさんマジで速い!」盗賊の一人が叫んだ。「Lv1なのに盗賊と並走してる!」
「星巡りの靴の+15%が効いてるな。だがそれだけじゃない。走り方が違う」
トワの走り方は独特だった。見聞録で地形をリアルタイム解析し、砂の硬さ、傾斜、風向きを計算して最適なルートを取っている。直線ではなく微妙に蛇行して、砂の硬い部分だけを踏んでいく。足が沈まない。
「砂漠の走り方を知っている。見聞録で砂の硬さを読んで、足場のいい場所だけ踏んでるんだ」
「それ、反則級の知識だろ!」
「反則ではない。知識も実力のうちだ」
レースの中盤。砂漠の真ん中で──モンスターが出現した。
【星纏い猿の群れ──進路上に出現!】
「猿だ! 避けるか戦うか!?」
プレイヤーたちが散った。避ける者。戦う者。足を止める者。
トワは──止まらなかった。
走りながらアイテムストレージから星果実を取り出し、群れのリーダーに投げた。リーダーが食いつく。群れの連携が崩壊。猿たちが道を空ける。
一秒も立ち止まっていない。走りながら果物を投げるだけで、モンスターを無力化した。
「えっ!? 走りながら!? 果物で!?」
「頭が切れるってレベルじゃないぞ!」
後方の盗賊プレイヤーがモンスターに引っかかっている間に、トワが単独で先頭に立った。後ろにゼクスだけが食らいついている。
「お前──速いな」ゼクスが横に並んだ。
「お前も速い。影潜りなしでこの速度は──本物だ」
「影は使えない。ルール上飛行禁止だが、影潜りは飛行じゃないからな。だが、使わない。純粋に走る」
「いい心がけだ」
「お前に言われると腹が立つが──その通りだ」
残り三分の一。オルテリアの街が見えてきた。丘の上の星読みの塔が目印。
トワとゼクスが並走している。どちらも限界の速度。
「ラストスパートだ」
「ああ、言っておくが負けないぞ」
「俺も負けない」
二人が同時に加速した。砂が舞い上がる。トワの足跡が星の光を撒き散らす。ゼクスの足跡は影のように薄い。光と影が砂漠を並走して駆け抜ける。
オルテリアの東門。ゴールライン。
二人が──ほぼ同時に駆け込んだ。
【星砂横断レース──結果】
【1位:トワ(旅人・Lv1)──タイム 23分18秒】
【2位:ゼクス(暗殺者・Lv90)──タイム 23分19秒】
【差:1秒】
「一秒差か」ゼクスが肩で息をしながら笑った。「靴の分だな」
「靴の分かもしれないが、お前が影を使っていたら負けていた」
「使わなかったのは俺の選択だ。──悔いはない。いいレースだった」
ゴールに次々とプレイヤーが駆け込んでくる。
【3位:疾風のライカ(盗賊・Lv88)──タイム 24分02秒】
【4位:ハル(導師・Lv1)──タイム 26分47秒】
「四位! わたし四位です、師匠!」ハルが息も絶え絶えにゴールした。
「ハルが四位か……大したものだ」
「師匠には全然追いつけませんでしたけど──盗賊に勝ちました!」
「お前も地形を読んでいたな。砂の硬い場所を選んで走っていた」
「師匠の走り方をずっと見てましたから。足跡が光って見えるから、どこを踏んでるかわかるんです」
「星巡りの靴の副次効果か。足跡が後続の道標になる」
「師匠の足跡を追いかけて走ったら、四位になれました」
アストレアが最後尾近くでゴールした。鎧姿で砂漠を走り切った。
【47位:アストレア(聖騎士・Lv90)──タイム 42分33秒】
「完走しました……! 聖騎士は……止まりません……!」
「お疲れさま。鎧で砂漠走る人、アストレアさんだけでしたよ」タマキが水を渡した。
「矜持です……」
ダリオが結果を見て大笑いしている。
「Lv1の旅人が一位で、Lv90の暗殺者が二位で、Lv1の導師が四位。レベル関係なさすぎだろこのゲーム」
「BCOはレベルじゃないんだ。知識と経験がものを言う」
「それを言えるの、七千時間歩いたお前だけだよ」
この結果を見て、フォーラムも大いに盛り上がっていた。
──「星砂横断レースの結果出た! 一位トワ、二位ゼクス! 一秒差!」
──「Lv1が全員をぶっちぎって草」
──「猿の群れを走りながら果物で無力化したのは笑った」
──「知識があるって、何よりも強いことなんだな」
──「ハルちゃん四位もすごい。師匠の足跡追いかけて四位って、弟子の鑑だろ」
──「アストレアさん重装備で完走。聖騎士の矜持を見た」
──「BCOで一番熱いコンテンツ、PvPでもレイドでもなく砂漠レースだったとは」