軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

〈万能素材〉

精製室に入った。

部屋の中央に、大きな装置がある。石の台座の上に、水晶のような容器。容器の周囲に星の紋章が刻まれた管が放射状に伸びている。古代の精製装置だ。

「これが──【深淵の根】のエネルギーを精製する装置か」

リーリアが装置を調べた。壁の説明書きを読み上げていく。

「手順が書いてある。まず容器に深淵の根の欠片を入れる。次に星の力で加熱する。闇のエネルギーが蒸発し、残った結晶が万能素材──『 虚晶(きょしょう) 』になる。虚晶はあらゆる属性に対して中立で、どんな力にも適応する」

「虚晶。虚無の結晶か」

「そう。闇を精製して虚無に戻し、結晶化する。闇そのものではなく、闇の元になった虚無を取り出す」

「理屈はわかった。で、深淵の根の欠片は持っているか」

トワがアイテムストレージを確認した。星花の里で黒い花を封印した時、タマキが回収していた根の欠片がある。

「ある。タマキが保存していた浄化薬の残留物の中に、根の欠片が含まれている」

「残留物をちゃんと捨てずに保管しておいてよかったです。薬師の癖で、使い終わった素材も捨てないんですよ」タマキが鞄から小瓶を取り出した。浄化薬に溶けた黒い粒子。深淵の根の残滓。

「これを容器に入れる。リーリア、星の力で加熱できるか」

「わたしの星読みの力で──やってみる」

リーリアが装置の前に立った。容器にタマキの小瓶の中身を注ぐ。黒い粒子が水晶の中で浮遊している。

リーリアが両手を容器にかざした。額の紋章が光る。星の力が、古代の管を通じて容器に流れ込む。

容器が光った。黒い粒子が──沸騰するように動き始めた。闇のエネルギーが蒸発していく。黒い蒸気が上がり──容器の排気口から外に出ていく。

「【闇】が蒸発している。──残ったものは」

黒い粒子がなくなった後、容器の底に──透明な結晶が残った。色がない。光も闇も映していない。完全に透明な結晶。

【虚晶を精製しました×1】

【虚晶:万能素材。あらゆる装備・薬・料理に組み込むことができ、全属性耐性+10%を付与する。さらに、深淵の環境下でも劣化しない唯一の素材】

「全属性耐性+10%。そして──【深淵】の環境下でも劣化しない」

「深淵対策の決定打だ。これを装備に組み込めば──【深淵】に入っても装備が壊れない」

「ただし、素材が少ない。根の欠片がもっと必要だ」

「トワさん。星花の里の黒い花の封印を解けば、根の欠片がもっと回収できるんじゃないですか」

「花の封印を解く必要はない。──花の周囲の土壌に、根の成分が浸み出しているはずだ。土を採取すれば、微量だが根の欠片が取れる」

「わたしの浄化薬で土壌から根の成分を抽出できます。濃度は薄いですけど、量を集めれば精製できるはず」タマキが計算を始めた。「十リットルの土壌で虚晶一個分。星花の里の畑の土なら──十個分くらいは取れるかな」

「十個。パーティ全員の主要装備に一つずつ組み込めば、全員が深淵耐性を持てる」

「素材回収は帰ってからだ。今は精製方法を記録する」

見聞録で精製装置の全工程をスキャンした。装置自体は持ち帰れないが、構造と原理を記録しておけば、表の世界で再現できるかもしれない。

「リーリア。この装置の設計図を読み取ってくれ。俺が構造をスキャンする。お前が説明文を翻訳する。二人がかりで全情報を持ち帰る」

「うん。やる」

二人で分担作業。トワが装置の物理構造を見聞録で三次元スキャン。リーリアが壁の説明文を翻訳してメモ。タマキが精製過程の化学反応を観察して記録。ゼクスが入口を警戒。ダリオが時間を管理。

「全員に役割がある。──いいチームだな」ダリオが感心した。

「役割がない人間はいない。適材適所だ」

「セレスが聞いたら怒るぞ。適材適所は肩の上って言い出す」

「言うだろうな」

「言うでしょうね」

「言うはずだ」

「言いそう……」

四人が声を揃えて言った。

【水中行動可能時間:残り28分】

「撤収する。十分な収穫だ」

帰路は来た道を戻る。守護者の巡回パターンが変わっている可能性があるため、見聞録で常時解析しながら慎重に進む。中央区画の扉を出て、外周の建物の影に隠れ、空白のタイミングで移動。

一度だけ、守護者二体とすれ違った。見つかりかけたが、ゼクスが守護者の背後に回って視界を遮り、その隙にリーリアとタマキが通過。トワが最後尾を殿として離脱。

「さっきの、ギリギリでしたね」タマキが心臓を押さえた。

「ギリギリではない。余裕を持って対処した」

「余裕って──ゼクスさんが守護者の目の前に立ったじゃないですか」

「あれは余裕だ。俺が立てば、守護者はそっちを向く。その間に後ろを通れる。計算通りだ」ゼクスが言った。

「暗殺者の計算は怖いです……」

海面に浮上。全員無事。残り時間六分。

「また余裕で持って帰れた。タマキさんの呼吸薬のおかげだ」ダリオが笑った。

「いえいえ、航海士さんたちの水中機動力のおかげです!」

「お互い様ってことで。──また組もうぜ、トワ」

「ああ、次は──星の回廊の入口を探す時に、力を借りるかもしれない」

「星の回廊? 何それ。面白そうだな」

「大陸横断の地下トンネルだ。古代のインフラ。入口がまだ見つかっていない」

「トンネルの入口探しか。──海岸沿いに入口があるかもしれないな。崖の洞窟とか」

「西の断崖海岸に洞窟があった。サーラの秘密基地だったが、その奥にもっと深い構造があるかもしれない」

「調べに行くか?」

「行く。──だがまず、陸に上がって飯を食う。腹が減った」

「お前、腹減るんだな。ゲームなのに」

「VRの体感システムは空腹も再現するからな」

飯の話になると、必ずあの精霊さまが黙っていないだろう。

みんな同じ事を思いながら、陸に上がっていった。