軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

〈星祭り〉

地下水脈のショートカットを使って、半日でオルテリアに戻った。地上ルートなら二日かかる距離を、水脈で半日。旅人限定の特権だ。

オルテリアに着くと、街が騒がしかった。

住人たちが広場に飾りつけをしている。星の形をした提灯。花輪。色とりどりの布。

「何かあるのか」

「星祭りだよ」リーリアの声がいつもより高い。興奮しているようだ。「年に一度の──双子星が最も近づく夜のお祭り。オルテリアで一番、大きなイベント」

「星祭り──」

「今夜なの……ふふっ、タイミングぴったりだったね」

星祭り。

夜になると、オルテリアの街が一変した。提灯に火が灯り、広場に露店が並び、住人たちが晴れ着を着て集まっている。

だが住人だけではなかった。プレイヤーたちも大勢参加している。新大陸に来ているプレイヤーが口コミで星祭りのことを知り、オルテリアに集まってきたのだ。

「プレイヤーが十万人以上いますよ。すごい」タマキが見回した。

「BCOの運営が仕込んだイベントか?」ゼクスが聞いた。

「違うよ。NPCの暦に組み込まれた、この大陸のお祭り。毎年やってるの。──でも、外から来た人が参加するのは、今年が初めて」リーリアが誇らしそうだ。

露店には新大陸の料理が並んでいた。星果実の飴細工。星粉をまぶした焼き菓子。虹色のジュース。

「タマキさん。あの焼き菓子──星の粉の使い方が面白いですよ。見てください」

「見てます! あの焼き方、わたしのレシピにありません……あのNPCさんに聞いてみたいです!」

タマキが料理の露店に駆け寄って、NPCの菓子職人に質問攻めを始めた。菓子職人が嬉しそうに焼き方を教えている。

「タマキが、取材モードだな」ゼクスが肩をすくめた。

「薬師と料理人は紙一重ですから」ハルが笑った。

広場の中央に──ステージが作られていた。木の板を組んだ簡素なステージ。リーリアがそこに立った。

「皆さん。今年の星祭りは、海の向こうからお客さんが来てくれました。是非、一緒に楽しみましょう」

住人から歓声が上がった。プレイヤーたちも拍手している。

「リーリアちゃん、仕切ってるんだ」

「星読みがお祭りの司会をするのが、この街の伝統なの」

祭りのプログラムが始まった。最初は──星の舞。住人の踊り子たちが、星の光を帯びた衣装で踊る。振り付けに合わせて、衣装の星が明滅する。

「きれい──」

「あの衣装、星珊瑚の糸で織ってるんだって」リーリアが解説してくれる。「一着作るのに三ヶ月かかる」

次に、星読みの占い。リーリアが一人ずつの星を読んでくれるコーナー。プレイヤーたちが行列を作っている。

「占いができるのか。NPCが占ってくれるイベントは珍しいな」

「あなたの星も読んであげるよ、トワ」

「俺はいい」

「えー。せっかくだから」

「星占いは信じてない」

「信じなくてもいいよ。当たるから」

リーリアがトワの手を取った。手のひらを見る──ではなく、空を見上げた。双子星が低い軌道で輝いている。

「トワの星は──旅人の星。ずっと動いてる星。止まらない星。でも──最近、もう一つの星と並走してる。寄り添うように」

「もう一つの星?」

「暖かい星。薬草の匂いがする星。──あなたの隣にいる星」

タマキが露店で焼き菓子の作り方をメモしている。トワの方は見ていない。

「……」

「当たった?」

「ノーコメントだ」

「当たったんだ」

リーリアがにっと笑った。少女の、いたずらっぽい笑みだった。

祭りのクライマックス。

双子星が最接近する瞬間に、オルテリアの広場から──星の光柱が空に打ち上がる。星読みの一族が代々受け継いできた儀式。

リーリアがステージの中央に立った。両手を空に掲げる。額の星の紋章が、強く輝いた。

光が、天に昇った。

虹色の光柱。広場から空に向かって真っ直ぐに。双子星に届くかのように。光柱の周囲に星の粒子が舞い散り、広場全体が雪のように光に包まれた。

「うわ、すげえ綺麗だな!」

「スクショ取らなきゃ、ほら、早くこっちこっち!」

「現金なもんだな。俺は、いまこの瞬間を楽しみたい」

「ああ、純粋に景色を楽しもうぜ」

プレイヤーも住人も、全員が空を見上げていた。

光柱の中に、映像が浮かんだ。──この大陸の歴史。古代星王朝の繁栄。星巡りの旅人たちが歩く姿。海底都市が沈む前の姿。そして、星読みの一族が受け継いできた──星への祈り。

「この映像は、リーリアが見せてるのか」

「星読みの力で──星の記憶を映し出してるの。一年に一回だけ、この夜だけできること」

映像の最後に、新しい光景が加わった。

海の向こうから船がやってくる。船から降りた旅人が、砂浜に一歩目を踏み出す。足跡が光る。

「これ……トワさんが新大陸に来た時の映像だ」タマキが気づいた。

「星が──記録してたんだ。トワが来たことを」リーリアが光柱の中で微笑んでいる。

映像が消えた。光柱がゆっくりと薄れていく。星の粒子が舞い落ちる中、広場に拍手が響いた。プレイヤーも住人も、一緒に。

【期間限定イベント「星祭り」に参加しました】

【称号「星祭りの客人」を獲得しました】

【全参加者に「星の記憶の欠片(アクセサリ素材)」が配布されました】

「称号と素材もらえた!」

「星祭りの客人──いい称号だ」

「この素材、何に使えるんだ?」

「アクセサリに組み込むと、星属性の全ステ+2%らしい」

「微量だけど、タダでもらえるなら嬉しい」

祭りの後。広場の隅でトワが座っていた。セレスが膝の上で、星の粒子を手で掴もうとしている。掴めない。光だから。

「つかめない。──ほしのこな、にげる」

「光は掴めないぞ」

「じゃあ、おやつにできない」

「できない」

「ざんねん」

ハルが隣に座った。

「師匠。今日のお祭り、楽しかったですね」

「ああ。──こういうイベントは、冒険とは違う楽しさがある」

「ですよね。戦闘もダンジョンもないけど、NPCと一緒にお祭りをする。これもMMOの楽しさですよね」

「ああ。ゲームは戦うだけのものじゃない。こうして誰かの文化に触れて、一緒に祝うこともできる」

「師匠がそういうこと言うの、ちょっと意外です。いつもは『歩け』『戦え』『自分で見つけろ』ばっかりなのに」

「お前の中の俺は、ずいぶん無骨だな」

「無骨ですよ。でもそこが好きです。──あ、師匠としてですよ。尊敬の意味で」

「わかっている」

その後もしばらく、トワたちはみんなで空を見上げていた。