作品タイトル不明
〈地下水脈〉
海底都市の探索から三日後。
リーリアが【闇の本】の解読を進めている間、トワは星巡りの塔の旅日記に書かれていた「もう一つの隠しルート」の調査に向かった。
星砂の砂漠の地下に、オアシス都市を繋ぐ水脈がある。旅人だけが入れる隠し通路。
ナハルのオアシスの湖の底に、入口があった。
【隠しエリア「星の地下水脈」が出現しました】
【入場条件:旅人クラス限定】
「旅人限定エリアか。久しぶりだな、こういうの」
「師匠。わたしも旅人クラスですけど、入れますか?」ハルが聞いた。
「導師は旅人の上位職だ。入れるはずだ」
「やった! 師匠と二人で隠しエリア探索!」
「二人じゃない。セレスとルーナとテンもいる」
「精霊と虫は人数に入りますか?」
「入る」
「セレスはいつも、はいらないっていわれるのに」セレスが不満そうだ。
「場面によって変わる」
「ごつごー、しゅぎ」
今回のメンバーはトワ、セレス、ルーナ、ハル、テン。旅人クラス限定なので、ゼクス、アストレア、タマキは入れない。
「俺たちは地上で待つ。何かあったら大声で叫べ」ゼクスが言った。
「地下で叫んでも、聞こえないだろう」
「そんなことはない。気持ちの問題だ」
タマキが薬の束をトワに押し付けた。
「今回、わたしは入れないので、お薬を渡しておきますね! 回復薬と解毒薬と高山病対策薬と──あと、念のため浄化薬も」
「多すぎないか」
「トワさんはいつも無茶するから、多いくらいでちょうどいいんです」
「薬師の過保護か」
「過保護じゃないです。適正量です」
湖の底に潜った。水深三メートルほどの浅い場所に、岩の隙間がある。身体をすり込ませると、水が引いた。地下空洞。
洞窟の天井から水が滴っている。地面は湿った岩。そして、足元を清水が流れている。水脈だ。オアシスに水を供給している地下の川。
「きれい……」ハルが息を呑んだ。「壁が光ってます。星の苔だ。深星の森と同じ」
苔の光で洞窟内が淡く照らされている。暗くはない。むしろ幻想的だ。水脈の水面に苔の光が映って、天井にも床にも星がある。
「プラネタリウムの中を歩いてるみたい」
「ここは旅人しか入れない場所だ。この景色は旅人だけの特権だ」
「師匠、こういう時だけ旅人であることを誇りますよね」
「いつも誇っている。口に出さないだけだ」
水脈に沿って歩く。通路は狭いが、一人が余裕で歩ける幅がある。ところどころ分岐がある。見聞録で水の流れの方向を読み、上流に向かって進む。
◇
三十分歩いた。分岐を五回越えた。見聞録がなければ迷子になっていただろう。
「師匠。この水脈、どこまで続いてるんですか」
「旅日記によると、ナハルからオルテリアまで繋がっている。地上を歩けば二日かかる距離が、水脈を通れば半日で着く」
「ショートカットルート! すごい!」
「ただし旅人限定だ。他のプレイヤーは地上を歩くしかない」
「旅人だけが使える近道かあ。これがフォーラムに載ったら大騒ぎですね」
「載せるつもりはない。旅人クラスの者が自分で見つければいい」
「師匠のスタンス、一貫してますね」
水脈の途中に、広い空間が開けた。地下湖だ。天井が高く、苔の光が反射して、水面が星空のように輝いている。
地下湖の中央に、小さな島がある。島に石碑が立っていた。
「石碑だ。見聞録で読む」
【「星巡りの旅人たちへ。この場所は休息の地である。旅に疲れた時、ここで水を飲み、苔の星を見上げ、再び歩き出しなさい。──最後の星巡り、ラシード」】
「ラシード。星巡りの旅人の一人だな。塔の旅日記にも名前があった」
「最後の星巡り、ですか。リーリアちゃんが言ってた、この大陸から旅人がいなくなった時代の──最後の一人」
「ああ。ラシードは最後まで歩き続けた旅人だ。そして、後から来る旅人のために、記録を残した。塔の旅日記も、この石碑も」
石碑の下に、アイテムが置かれていた。
【星巡りの靴(装備品)を発見しました】
【効果:装備すると移動速度+15%。旅人クラス限定。さらに、新大陸のフィールドでは足跡が星の光を残す】
「移動速度+15%! 旅人限定の靴!」
「足跡が星の光を残す──星珊瑚の浜で足跡が光ったのと同じ効果か。装備で常時発動するなら、どこを歩いても足跡が光る」
「師匠が歩くと、道が光るんですね。文字通り、道を照らす旅人だ」
「大げさな言い方をするな」
「大げさじゃないですよ。──師匠がここまで歩いてきた道は、全部光ってます。比喩じゃなくて、本当に」
靴を装備した。足元が淡く光る。一歩踏み出すと、星の光の足跡が地面に残った。
「きれいだ。こんな装備があるとはな」
「ラシードさんが……最後の旅人が、次の旅人のために残してくれた靴ですね」
「ああ。先人の遺産だ。大事に使う」
テンがブーツの上で光った。新しい靴の上が、居心地いいらしい。