作品タイトル不明
〈星珊瑚の浜〉
リーリアの案内で、南の海岸線に向かった。
オルテリアから南東。深星の森を抜け、丘を越えると、潮の匂いが風に乗ってきた。木々の隙間から、青い海が覗く。
丘の上に出た瞬間、全員が足を止めた。
浜辺が、光っていた。
白い砂浜に、珊瑚が無数に打ち上げられている。その珊瑚たちが、淡い虹色の光を放っている。浜辺全体がきらきらと輝いている。
【星珊瑚の浜に到達しました】
【アストラム踏破率:33.2%】
「これが、星珊瑚……生きてます。珊瑚が光ってるのは、生きているからでしょう」
タマキが膝をついて珊瑚を拾い上げた。
「星珊瑚は生きた宝石って呼ばれてるの。海の星の力が凝縮して珊瑚になったもの。割ると、中から星の粉が出る。でも、割らない方がいいよ。生きたまま使った方が、ずっと価値があるから」
リーリアが説明した。
「生きたまま使うと、何ができる?」
「アクセサリ。身につけると、星属性の耐性がゆっくり上がっていく。時間をかけて育てるタイプの装備素材」
トワが見聞録で星珊瑚を解析した。
【星珊瑚(生体):アクセサリ素材。装着すると1日ごとに星属性耐性が+1%ずつ上昇(上限+30%)。育成に30日必要】
「三十日で星属性耐性+30%か。即効性はないが、長期で見れば強力だ」
「三十日! MMOらしいな、時間をかけて育てる装備か」ゼクスが珊瑚を手に取った。
「師匠。これ、大量に持ち帰ってプレイヤーに配れば、新大陸の攻略が劇的に楽になりませんか」ハルが目を輝かせた。
「配れる。星珊瑚は浜辺にいくらでもある。希少品じゃない、誰でも拾える」
「じゃあ、フォーラムに場所を!」
「いや……場所は書かないが、ヒントは出す。『南の海岸線を歩け』とだけ」
「また師匠のスタイルですね。自分の足で見つけろ、と」
「自分で見つけた方が、嬉しいだろう」
「それはそうですけど……不親切って言われません?」
「言われている。フォーラムで」
「自覚あるんだ……」
◇
浜辺を歩いていると、先客がいた。航海士のダリオと、そのチーム。海から上がったばかりのようで、装備がびしょ濡れだ。
「おっ、トワ! 偶然だな!」
「お前は、海にばかりいるな」
「航海士だからな。陸はお前に任せてる。で、いいもの見つけたぞ」
ダリオが興奮気味に地図を広げた。海図の南西に、赤い丸がつけてある。
「海底に、都市がある」
「都市?」
「海底星殿とは別だ。もっとでかい。城壁があって、建物が何十棟も並んでて、中にNPCらしき反応がある。潜水時間が足りなくて中には入れなかったが、外壁に文字が刻んであった」
「何と書いてあった?」
「読めなかった。俺たちの見聞録じゃ」
「旅人の文字か」
「たぶん。お前なら読めるんじゃないか」
海底都市、NPCがいる可能性だ。旅人の文字というのも、気になる。
「案内してくれるか」
「もちろん、ただし潜水時間の問題がある。タマキさんに頼みたいことがあるんだが」
「なんですか?」タマキが顔を出した。
「潜水装備の持続時間を延ばす薬、作れないか。今は四十五分が限界なんだが、海底都市の探索には最低九十分は欲しい」
「九十分……。星珊瑚の成分を使えば、水中呼吸の効率を上げられるかもしれません。ちょっと調合を試させてください」
タマキが浜辺に座り込んで、即席の調合を始めた。星珊瑚の欠片、星の粉、星の雫(海底星殿で入手した希少素材)を組み合わせる。
十分後。
【タマキが新レシピ「星海の呼吸薬」を開発しました】
【効果:潜水装備の持続時間を+60分延長。合計105分の水中行動が可能】
「百五分! これはでかいぞ!」ダリオが拳を突き上げた。
「星珊瑚が鍵でした。生きた珊瑚の呼吸機能を薬に取り込めば、水中での酸素効率が倍になります」
「タマキさん……天才か?」
「天才じゃないです。マーサさんの基礎と、エリーさんのパンから学んだ応用と、リーリアちゃんに教わった星の知識を組み合わせただけです」
「それを、天才と言うんだが……」ゼクスが呆れ気味に言った。
「ゼクスさんに褒められるのは、なんだか複雑な気持ちです」
「褒めてないが」
「褒めましてたよ、ゼクスさん」ハルが横から突っ込んだ。
「黙れ」取り付く島もないゼクス。
ダリオの航海士チームに呼吸薬を配った。ダリオがトワに手を差し出す。
「取引だ。呼吸薬のお礼に、海底都市の座標と、南西の海域の海図を全部渡す。それと、お前を海底都市に案内する」
「取引を受けよう。海底都市は、いつ行く?」
「明後日。準備がある。珊瑚の浜をベースキャンプにしよう」
「了解だ」
「わたしも付いてく。海底都市について、少しだけ知識があるから」
「ああ。頼んだぞ、リーリア」
「任せて」
トワたちはリーリアとダリオと握手を交わした。
NPCたちとの協力関係が、さらに深まった。