軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

〈汚染された頂〉

星花の里の事件は、フォーラムに瞬時に広がった。

【緊急】新大陸に闇のモンスターが出現。深淵の影響か【情報求む】

──「闇のモンスター!? 新大陸にも!?」

──「星花の里の畑が枯れて、黒い花が咲いたらしい」

──「トワが倒したって。──見聞録が効かないモンスターの弱点を見つけて、倒してたぞ」

──「見つけてって……見聞録なしで!?」

──「七千時間は伊達じゃないってよ。──本人がそう言った」

──「かっこよすぎるだろ」

──「闇と星のハイブリッドモンスター。既存の属性が全部効かない。新しい攻略法が必要だ」

──「タマキさんの浄化薬で一時的に封印したらしいが……根本解決には深淵に行く必要があるとか」

──「深淵って、まだ実装されてないんじゃないっけ」

──「されてないが、闇は来てる。運営、頼む急いでくれ」

プレイヤーたちの間に、焦りが広がり始めていた。新大陸の楽しい探索に、闇がはびこっている。

しかし、トワだけは唯一焦らなかった。

「闇は千年前からある。急に広がったわけじゃない。今できることをやるぞ」

「今できることって……?」タマキが聞いた。

「星の欠片を集める。東の星峰に登る。星の試練を突破する。それが、深淵に行くための最短ルートだ」

「師匠。──闇のモンスターが東の星峰にもいる可能性はありますか」ハルが聞いた。

「ある。むしろ、いると考えた方がいい。根が地上に出てきている以上、山の中にも闇が潜んでいる可能性が高い」

「それでも──登るんですよね」

「登る。【闇】がいるからこそ、早く欠片を集める必要がある」

東の星峰。標高七千メートル。BCOの最高峰。

麓のベースキャンプを作った。ここまでは他のプレイヤーも到達している。──だが、ここから先は未踏。

「標高三千メートルのベースキャンプ。──ここから先は、高山デバフが常時かかる」

【高山デバフ:全ステータス-10%。HP自然回復停止。毎分MP消費】

「思った以上に、きついですね……」

「タマキの高山病対策薬で、デバフを軽減できる。効果時間は?」

「星氷の羽根で改良しました。──二時間持ちます」

「二時間。頂上まで片道四時間。途中で一回、薬を追加する必要がある」

「予備を含めて、全員分用意しました!」

「さすがだ」

「トワさんに褒められると──薬を百本でも作れる気がします」

「百本は作りすぎだ」

登山を開始した。メンバーはトワ、セレス、ルーナ、ゼクス、アストレア、タマキ、ハル。七人。

リーリアはオルテリアで待機している。【闇】のことが心配らしい。

標高三千メートルのベースキャンプを出発した直後──足元で、何かが光った。

「ん……これは?」

地面に──小さな虫がいた。甲虫。星の光を帯びた、手のひらに乗るサイズの虫。

「この虫──」タマキが目を丸くした。「昨日の! 星花の里で元に戻った虫じゃないですか!?」

間違いない。あの時、【記憶干渉】で【闇】を剥がして元に戻した虫だ。

てくてくと畑を歩いて行ったはずの虫が、なぜか東の星峰のベースキャンプにいる。

「お前……まさか、ここまで来たのか」

虫がトワの足をよじ登り始めた。靴の上を、ブーツの縁を、足を。

「のぼってくる」セレスがトワの肩から見下ろした。

「追い出すか?」

「まって。──このこ、なにかつたえようとしてる」

虫が、すねの辺りで止まった。触覚をぴくぴく動かしている。──そして、光った。

甲殻の星の光が、二回点滅した。

「光った──?」

「二回。──虫の知らせ、ですかね」ハルが呟いた。

「虫の知らせ……」

トワが見聞録で虫を解析した。──星属性の甲虫。だが普通の甲虫とは違う反応がある。闇から元に戻ったことで──何かが、変わっている。

【星甲虫(名称不明)──特殊状態:「浄化覚醒」】

【闇の浄化を経験したことで、闇を感知する能力が覚醒しています】

【この甲虫は周囲の闇の存在を事前に察知し、光の点滅で警告します】

「闇を──感知する?」

「闇の探知機か。見聞録では読めない闇の存在を、この虫が先に察知してくれる」

「師匠! それめちゃくちゃ便利じゃないですか! 見聞録が効かない闇のモンスターが、この山にいるかもしれないのに!」

「ああ。【闇】に対しては、見聞録の代わりになるな」

虫がトワのすねからブーツの上部に移動し、ちょこんと座った。ここにいる、と言わんばかりに。

「……居着くつもりか」

虫が触覚をぴこぴこ動かした。肯定らしい。

「トワ。このこ、なまえつけてあげたら?」セレスが言った。

「虫に、名前を──?」

「シロにもなまえつけた。このこにも、つけてあげて」

「……テン」

「テン?」

「光が点滅するから──テン」

「師匠のネーミングセンス……」ハルが遠い目をした。

「シロに続いて……テンか」ゼクスが呆れた。

「安直すぎません?」タマキが苦笑いした。

「テンでいいだろう。覚えやすい」

テンが光った。一回。名前を呼ばれて、嬉しいのかもしれない。

【星甲虫「テン」に名前をつけました】

【テンがパーティの補助メンバーに加わりました】

【テンの能力:「虫の知らせ」──闇の存在を30メートル先まで事前感知。光の点滅回数で脅威度を通知(1回:微弱、2回:中程度、3回:危険、4回以上:極大)】

「明滅回数で脅威度がわかる──」

「一回が微弱、四回以上が極大。シンプルでわかりやすいな」

「見聞録のセンサーが効かない【闇】を、虫が先に教えてくれる。これは大きいな」

テンがトワのブーツの上で、触覚をぴこぴこさせている。小さい。手のひらに乗るサイズだが──この虫が、【闇】との戦いの切り札になるかもしれない。

「セレスはかたにのる。ルーナはかげにいる。テンはブーツにすわる。──トワ、いきものだらけ」

「俺は動物園か?」

「どうぶつえん、じゃない。──なかまえん」

「仲間園。──新しい日本語だな」

「にほんご? ちがう。ルーナ語」

標高四千メートル。

テンが──光った。二回。

「二回。──中程度の闇が近い」

全員が身構えた。三十秒後──前方の岩陰から、【闇】に汚染されたモンスターが現れた。

「来た、テンの警告通り!」

「虫の知らせ、本当に機能してるんですね!」

「だが、あれは……星氷鷲? いや違うな、あいつは……」

星氷鷲ではない。──黒い翼を持つ、鷲。持っていたはずの、星の光がなくなっている。

【 闇氷鷲(やみひょうわし) Lv?? HP:???】

「【闇】の──鷲!」

「星氷鷲が、【闇】に汚染されたやつですね!」

星花の里の蟲と同じ。星属性のモンスターが闇に侵蝕されている。──だが、こいつは蟲とは桁違いに大きい。速い。そして──

闇氷鷲が翼を羽ばたかせた。黒い吹雪が吹き荒れた。氷と闇の複合攻撃。温度が一気に下がる。

【闇氷鷲の攻撃:「暗黒吹雪」──全員にHP-20,000+凍結デバフ】

「全員にHP20,000デバフ! しかも、凍結──!?」

「師匠、大丈夫ですか!?」

「俺には……影響がないらしい。セレスとルーナのおかげだろう。だが……」

他のパーティーメンバーのHPは極端に減り、更に足から凍りつつある。

「タマキ、解凍できるか!?」

「はい、やります!」

タマキが解凍薬を全員に投げた。凍結が解除される。

「師匠──! あいつ、見聞録で読めますか!?」

「いや、読めない。あの鷲も闇の存在だ。目で見るしかない」

トワは鷲の動きを観察した。──速い。星氷鷲の倍の速度で飛んでいる。闇のエネルギーが身体能力を強化している。

だが、パターンはある。闇に汚染されていても、元は星氷鷲だ。急降下の後に着地硬直があるはず。

闇氷鷲が急降下してきた。──トワが横に跳ぶ。だが硬直がない。着地した瞬間に翼を使って再び飛び上がった。

「硬直が……ない!? 師匠、闇のエネルギーで、硬直をキャンセルしてます!」

「パターンが変わってるぞ──!」ゼクスも叫んだ。

見聞録が効かない。パターンも変わっている。弱点の法則が、【闇】に汚染されたモンスターには通じない。

「師匠、私が囮役をつとめます! 隙を作るので、その間に……!」

「ああ! ルーナ――夜を当てろ。効果が薄くても、一瞬でも動きが鈍れば……!」

「やる……!」

ルーナの夜が闇氷鷲に触れた。やはり通用しないが、全くきいていないわけじゃない。

一瞬だけ、翼の動きが鈍った。〇・三秒。

「見えた──!」

〇・三秒の隙。──トワが夜銀の剣を振った。翼の付け根──星と闇の境界面を斬る。北の峰の鷲と同じ場所。甲殻はないが、羽根の構造は同じはず。

もう一度夜を展開させると……当たった。──だが、浅い。闇が深すぎて、境界面が奥にある。

「浅い──もう一撃──!」

闇氷鷲が反撃。翼で叩きつけてきた。

【トワ HP:360/360 → 48/360】

「トワさん、HPが……!!」

「大丈夫だ、防御は私が引き受ける!」

アストレアが飛び出し、トワの盾役をつとめる。

「タマキ、回復は後でいい! ルーナ、もう一回だ!」

「──わかった!」

ルーナの夜。〇・三秒の隙。──今度はゼクスが反対側から短剣を打ち込んだ。トワとゼクスの同時攻撃。両翼の境界面を──同時に斬る。

闇氷鷲の翼から……【闇】が剥がれた。

「セレス!」

「まかせて!」

セレスが月光を当てた。剥がれた闇をルーナが飲み、残った星の光をセレスが受け止める。

闇氷鷲の身体から──闇が消えていく。黒い翼が──星の光を取り戻していく。

【闇氷鷲──闇の浄化に成功しました】

【星氷鷲に戻りました──非敵対状態】

鷲が闇を失い、元の星氷鷲に戻った。翼を広げて空に飛んでいった。攻撃してこない。元のモンスターに。

「殺さずに……浄化したな」アストレアが呟いた。

「殺す必要がなかった。闇を剥がせば、元に戻る。ルーナの時も、蟲の時も、同じだ」

「でも師匠……HP48まで削られてましたよ」ハルが青い顔をしている。

「大丈夫だ、タマキがいる」

「はい、もう全快ですね!」

【トワ HP:48/360 → 360/360】

「しかし、アストレアさんがいなければ死んでましたよ。──無茶しすぎです、トワさん」

「無茶はしていない。仲間がカバーしてくれると、わかっていた」

「わかっていた──って、それは、信用してくれてるんですか?」

「ああ、信用している。ここにいる全員のことを。もちろん、タマキ、お前も……お前の回復が来ないと思ったことは、一度もない」

「……はい。任せてください。どんな無茶をしても、わたしが治します」

トワは足下のテンに目を落とした。

見聞録では読めない闇のモンスターを、テンが三十メートル手前で察知した。おかげで全員が準備万端の状態で迎え撃てた。この効果は大きいだろう。

「しかし、それにしてもテンはすごいな。虫一匹で、こんなに変わるのか」

「見聞録とテンで、闇と星の両方をカバーできる。セラフ戦の時とは段違いだな」

以降、テンの警告に従って進軍した。テンが光らなければ安全。光ったら、回数に応じて準備を変える。一回なら軽く、二回なら全員武器を構え、三回なら防御体勢。

四回は──まだ光っていない。

標高五千メートル。六千メートル。テンが二回、三回と明滅を繰り返す中、【闇】のモンスターを確実に浄化しながら登っていく。

そして──標高六千八百メートル。

テンが、光った。

一回。二回。三回。四回。──五回。六回。七回。

止まらない。十回を超えてもまだ光り続けている。

「点滅が止まらない……こんな回数は、初めてだな」

「師匠、四回以上が極大ですよね。十回以上は──」

「想定外だ。──この先に、尋常じゃないものがいる」

テンの甲殻が光り続けている。小さな虫の身体を使って、警報を発し続けている。

「テン。──ありがとう。わかった。──覚悟して行く」

テンが光を止めた。伝えることは伝えた。──あとは、仲間を信じて。