軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

〈黒い花〉

ナハルに戻ると、ログインしていたたハルとアストレアが待っていた。

「師匠! 大変です!」

「どうした?」

「オルテリアのリーリアから連絡がありました。東の星峰に向かう街道に、見たことのないモンスターが出現したって」

「見たことのない──?」

「星属性じゃないんです。──リーリアが言うには、黒いモンスターだって」

黒いモンスター。嫌な予感がした。

「詳しく聞かせろ」

「オルテリアの東にある中継集落……『星花の里』。そこの畑が、一夜で枯れたそうです。畑の跡に……黒い花が咲いていたって」

「黒い花……」

「NPCの住人が怯えてるみたいです。見たことのない花で、触ると冷たいとか、何とか……」

冷たい。──【闇】の冷たさ。

トワは、走った。

『星花の里』──オルテリアの東、東の星峰に向かう街道沿いの小さな集落。

着いた時、集落は騒然としていた。NPCの住人たちが畑を取り囲んでいる。そして──

畑に、黒い花が咲いていた。

星の光を帯びた作物が全て枯れて、その跡に真っ黒な花が咲いている。花弁が光を吸い込んでいる。周囲の空気が──冷たい。

「やはり……この花は」

トワが見聞録を起動した。──解析結果。

【不明な植物体。属性:不明(「闇」に類似)】

【周囲の星属性エネルギーを吸収して成長している】

【警告:この植物は深淵の根から養分を得ている可能性があります】

「【深淵】の根──! 海底の壁画に描いてあったやつだ」

「ここにも、【闇】が来てるのでしょうか……」タマキが顔を強張らせた。

「来ている。海底だけじゃなかった。陸にも、根が地下を通って──地上にまで顔を出し始めている」

黒い花の周囲に──モンスターがいた。

【 闇花(やみはな) の 蟲(むし) Lv?? HP:??? ×5体】

レベルもHPも表示されない。見聞録でも読めない。これは──【闇】のモンスターだ。

「見聞録が、効かない。間違いない……闇側の存在だ」

蟲──昆虫型のモンスター。黒い甲殻。星の光を帯びていない。BCOの世界にあってはならない属性のモンスター。

「師匠! 星属性じゃありませんが……これ、ソルシアの【闇】と同じですか!?」

「同じだ、同じ【闇】属性。光も影も効かない。──ルーナ」

「ん……呼んだ?」

ルーナがトワの影から飛び出した。

「夜の力で、消せるか」

「やってみる」

ルーナの夜が展開された。半径五十メートル。──闇花の蟲が、夜に包まれた。

蟲が──動きを止めた。夜に反応している。……だが、ソルシアの闇とは違う反応だった。夜に包まれても──消えない。弱くもならない。

「消えない──!? ルーナちゃんの夜が効かないのですか!?」

「……おかしい。夜は【闇】を飲み込むはずなのに……この【闇】は、夜に馴染んでいる。飲み込めない」

星属性が混ざっている。ソルシアの純粋な【闇】ではなく、星の力を吸収した【闇】。星と【闇】のハイブリッド。ルーナの夜は純粋な【闇】には効くが──星の闇には、効果が薄い。

「新種の闇か──!」ゼクスが舌打ちした。

「属性の掛け合わせだ。【闇】が星のエネルギーを吸って変質している。ルーナの夜だけじゃ足りない」

「じゃあ、どうするんだトワ」

トワは影銀形態でも夜銀形態でもなく、白銀のまま剣を構えた。

「弱点を探す。──見聞録が効かなくても、目で見る」

蟲の動きを観察する。三秒、五秒──見えた。

甲殻の隙間に──星の光が一瞬だけ漏れる場所がある。闇に覆われているが、中に星の光が閉じ込められている。星と闇が混ざっている──その境界面が、最も脆い。

「甲殻の……右の付け根。星と闇の境界面、そこが脆い」

「見聞録なしで、弱点を──!?」

「目で見た。──七千時間は伊達じゃない」

踏み込んだ。白銀の剣で──甲殻の右の付け根を突いた。

亀裂が走った。甲殻が割れ、中から──星の光と闇が同時に漏れ出す。

「今──! ルーナ、【闇】だけを食え! セレス、星の光を受け止めろ!」

「わかった!」

ルーナの夜が、漏れ出した闇の部分だけを飲み込んだ。セレスの月光が、残った星の光を受け止め、中和した。

闇と星が分離された瞬間、蟲が崩壊した。

【闇花の蟲──討伐】

「倒した──!」

「まだだ。まだ一体……残り四体だ」

同じ手順で、一体ずつ処理していく。甲殻の境界面を見つけ、白銀で割り、ルーナとセレスが闇と星を分離する。

だが、一体ごとに、【闇】の濃度が上がっていた。最後の一体は甲殻が完全に【闇】で覆われて、星の光がほとんど見えない。

「最後の一体……弱点が見えない。【闇】が濃すぎる」

「師匠、これはいったいどうしたら……!」

「待て。──別のアプローチだ」

トワは、【記憶干渉】を使った。

蟲に手を触れる。闇に触れる。──冷たい。だが、怯まない。

記憶干渉の第三段階。──蟲の「元の記憶」を読む。この蟲は、元は星属性の普通のモンスターだった。【闇】に汚染される前の記憶が──残っている。

【記憶干渉:対象の本来の属性記憶を復元中──】

蟲の【闇】が揺らいだ。本来の星属性の記憶が──【闇】を内側から押し返し始めた。

「元に戻りかけている! 今だ!」

セレスが月光を当て、ルーナが闇を食い、トワが白銀で境界面を叩いた。三段連携。

最後の蟲が倒れた。だが……倒れた蟲の体内から、星の光が残った。小さな虫が……闇のない本来の姿で、地面に転がっている。

「死んでない。闇を剥がしたら、元の虫に戻ったな」

「殺さずに……闇だけを除去したんですか」タマキが驚いた。

「【記憶干渉】で元の属性を思い出させた。──ルーナの時と同じ原理だ」

「モンスターにも……名前を呼ぶように、記憶を思い出させるんですね……」

元に戻った虫が、てくてくと畑の跡を歩いて行った。

だが、黒い花はまだ残っている。花の根が──地中に深く伸びている。

「花は、モンスターとは違う。【闇】の根そのものだ。──【記憶干渉】では除去できない」

「じゃあ、引っこ抜くか?」

「やめろ。根を無理に引くと、【深淵】が反応する可能性がある。大聖堂のセラフの時と同じだ」

「じゃあ──放置するのか、この花を」

「今は、封印する。タマキ、浄化薬で花の周囲を囲めるか。成長を止めるだけでいい」

「やってみます──!」

タマキが浄化薬を花の周囲に撒いた。薬の効果で、花の成長が止まった。枯れてはいないが、広がりもしない。一時的な封印。

「これで、当面は大丈夫だな。もちろん、根本的な解決にはならないが……」

「根本的な解決は……【深淵】の根を断つことか。つまり、【深淵】に行くこと」

「ああ、できるだけ急ぐ必要が出てきた」

黒い花が、新大陸にも現れた。【深淵】の根が世界中に伸びている。ソルシアの第一の穴。ルミナリアの大聖堂。そして──新大陸の星花の里。

トワは忌ま忌ましげに、BCOにはびこる【闇】を睨み付けた。