作品タイトル不明
〈北の星峰〉
北の星峰。標高五千メートル。
登山ルートは、険しかった。岩場を登り、雪を踏み、崖を越える。BCOのVR体感は容赦なく、薄い空気を再現してくる。
「息が……きつい、です……!」タマキが膝に手をついた。
「標高四千メートルを超えると、『高山病』のデバフが入る。タマキ、対策薬は作れるか」
「作りました! でも、効果が一時間で切れるんです!」
「一時間あれば頂上まで行ける。──ペースを上げるぞ」
高山のモンスターも強い。
【 星氷鷲(せいひょうわし) Lv94 HP:120,000】
氷と星の複合属性。翼から氷の結晶を飛ばしてくる。標高が高いほど強くなるモンスター。
「氷属性が混ざってる──星属性単体とは、違う敵です!」
「複合属性……弱点はどこだ」
見聞録で解析。──弱点は胸の星の光点。だが飛行中は胸に攻撃が届かない。
「地上に引きずり下ろす必要がある。──ゼクス、足元に影は」
「この高度だと日光が強すぎて影が薄い。……ルーナ、協力してくれ」
「……やる。夜を作る──でも、この高さだと範囲が狭い」
ルーナが半径二十メートルの夜を展開。──その瞬間、星氷鷲が夜に反応した。
星のモンスターは、夜に引き寄せられる。
「引き寄せられてる──!? 夜空に向かって、モンスターが飛んでる!」
「星と夜は……近い属性なのか。ルーナの夜が、星のモンスターを呼び寄せている」
「これは使えるぞ。ルーナの夜で誘き寄せて、地上に降りたところを叩く」
星氷鷲が夜の範囲に飛び込んできた。──夜に包まれた瞬間、翼が重くなる。高度が下がる。
「今だ──!」
トワが跳んだ。岩壁を蹴って、空中で落ちてくる星氷鷲の胸に夜銀の剣を突き刺した。
【弱点攻撃:87,000】
一撃で大ダメージ。二撃目をゼクスが影から打ち込み、三撃目をアストレアが聖剣で突く。
【星氷鷲──討伐】
【ドロップ:星氷の羽根(素材)】
「ルーナの夜で誘き寄せるパターン、新大陸の空中モンスター全般に使えるな」
「ルーナ、すごい。おとりさくせん」
「おとりっていうか……わたし、ただ夜を作っただけだけど……」
「ルーナのよるが、ほしを、よぶ。つきとほしは、なかよしだから」
「月と星が仲良し……そういえば、夜空には月と星が一緒に光ってるもんね」
「セレスとルーナは──ほしのモンスターの、なかまみたいなもの」
「仲間じゃないよ。わたしたち、モンスターとは違うもん」
「でも、ちかい。だから、よるにひかれる。ルーナも、セレスも」
◇
標高五千メートル。頂上。
登頂した瞬間──全員の画面にシステムメッセージが。
【北の星峰──登頂しました】
【称号「北峰を踏みし者」を獲得しました】
頂上には──祭壇があった。石の台座。中央に──光る結晶。
【星の欠片(北)を発見しました】
結晶に手を触れた。──温かい。星の光が手のひらに染み込んでいく。
【星の欠片(北)を入手しました。──残り:東の星峰、南の星峰】
「一つ目──!」
頂上からの景色は、絶景だった。
新大陸アストラムが一望できる。砂漠。森。海。街。──そしてまだ歩いていない場所が、果てしなく広がっている。東に聳える、さらに高い山──東の星峰。標高七千メートル。BCOの最高峰。
「あれが、次の目標か」
「七千メートル。──北の五千メートルでもきつかったのに」タマキが遠い目をした。
「高山病対策の薬を改良しないとな」
「もう考えてます。──星氷の羽根の素材で、持続時間を延ばせるかもしれません」
セレスが頂上の岩に座って、遠くを見ていた。
「トワ。たかい」
「ああ……高いな」
「たかいところからみると、せかいが、ひろいってわかる。あるいても、あるいても、おわらない。でも、おわらないのが、いい」
「ああ──終わらないのが、いい」
頂上の空に、双子星が輝いていた。昼間なのに見える。標高五千メートルの空は──星に近い。
「あと二つ。──東と南」
「東が七千メートル、南が四千メートル。──南が一番楽だが」
「東に先に行く」
「一番きつい方から行くんですか。でも……師匠らしいですね」
「一番きつい場所に、一番見たいものがあるんだ」
「師匠が、見たいものって?」
「七千メートルの頂上から見る景色だ。──BCOの最高峰から見える世界。それを、見たい」
下山を始めた。次の目標は、東の星峰……七千メートル。
新大陸の踏破率──24.1%。まだ四分の一も歩いていない。
東の星峰が、自分たちを待っている。