軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

《Lv1の聖王》

カレンとの対話から三日後。カレンの友好度が10/10に達した時──隠しクエストが発生した。

【隠しクエスト発生:「旅人の帰還」】

【条件:聖王カレンの友好度MAX+聖都の記憶封印全解除】

【内容:カレンを「旅人の扉」に案内せよ】

「旅人の扉──? ルミナリアにもあるのか」

「大聖堂の地下だ。わたしが千年前に封じた」

カレンが立ち上がった。

「王になる時、旅人の資格を扉に預けた。──それを、取り戻しに行こう」

大聖堂の地下。長い階段を降りた先に──古い扉があった。グランの扉と同じ木の扉。だが表面に光の紋章が刻まれている。

カレンが紋章に手を触れた。

【聖王の権限を「旅人の扉」に返還しますか?】

【※この操作は不可逆です。聖王の称号・権限・聖属性ボーナスが全て失われます】

「不可逆か。──迷いはない」

カレンの手が光った。聖王の権限が──扉に流れ込んでいく。紋章が輝き、扉が──開いた。

扉の向こうに、老人のNPCが立っていた。グランとよく似た雰囲気の、穏やかな顔。

「おかえり、旅人。──千年ぶりだな」

「ああ……遅くなった」

「遅くなんかないさ。帰ってきたなら、それでいい。──さあ、杖を受け取りなさい」

老人が旅人の杖を差し出した。初期装備の旅人の杖。カレンが受け取った瞬間──

【NPCステータス「聖王カレン」の職業がリセットされました】

【旅人カレン Lv1 HP:120 MP:40──パーティ参加が可能になりました】

同時に──新しいクエストが表示された。

【隠しクエスト発生:「深淵への手がかり」】

【第一段階:カレンをLv70まで育成せよ】

【第二段階:聖光の地下墓所に到達せよ(入場条件:カレンの同行が必須)】

【※聖光の地下墓所には、深淵に関する重要な情報が眠っています】

「聖光の地下墓所──?」ハルが言った。

「私が千年前に封じた禁域だ。大聖堂のさらに下──聖都の最深部にある。【堕ちた旅人】が【深淵】に行く前に使っていた研究室が、そこにある」

「【堕ちた旅人】の研究室──【深淵】の手がかりがあるのか」

「あるはずだ。【堕ちた旅人】は【深淵】への行き方を、あの研究室で突き止めた。手記も残しているはず。──だが、入口は聖王の血脈に反応する封印で閉じている。私が触れないと開かない」

「だから、カレンの同行が必要なのか」

「だが……今の私はLv1だ。地下墓所のモンスターは推定Lv93以上。このまま行けば──」

「即死するな」トワが即答した。

「一撃もらったら終わりだ。最低でもLv70──HPがある程度ないと、かすっただけで死ぬ。ただ、Lv70まで上げると、【初心の心得】のCT短縮が効かなくなる。もしも転職しないのであれば、旅人でレベルを上げるメリットはほとんどないが……」

「私は前衛で戦うわけではない。見聞録と案内ができるHPがあれば十分だ」

ステータス目当てということであれば、問題なさそうだ。トワは頷いた。

「なら、カレンをまずLv70まで上げる」

「師匠、旅人の職業のまま、レベルって上げられるんですか?」

「普通はできない。ずっとLv1でロックされるからこそ、すぐ転職される職業が旅人だ。しかし――」

トワはスキルセット画面を表示した。

「旅人がLv1でロックされる原因は、【初心の心得】があるからだ。このスキルはLvが低いほどCT短縮、Lv1で全CTほぼゼロという効果を持つ。初心者プレイヤーの典型的な補助スキルだな」

「それが……旅人のLvとどう関係あるんでしょうか」

「テキストには書かれていないが、旅人のLvが上げられないのは、この【初心の心得】のせいだ。【初心の心得】をセットしていると、一切の経験値が入らない。逆に言えば、【初心の心得】をスキルセットから外せば、旅人クラスであっても、Lvが上げられる」

旅人という職業を知り尽くしているトワと、盲点だったと言わんばかりに固まるハル。

「つまり……理論上は、最大レベルの旅人も作れるってことですか!?」

「やる意味は全くないがな。さっきも言った通り、レベルを上げると【初心の心得】の恩恵がなくなる。どうせ旅人をやるのなら、Lv1の方が絶対いいが……」

「大丈夫だ。私は、ただHPがあればいいのだろう? 戦闘スキルは、必要ない」

カレンがスキルセットから【初心の心得】を外した。

「分かった。ならこれからカレンのレベルを上げて、それから地下墓所に行こう」

「了解した。しかしだな……本当に、私のレベル上げに付き合ってくれるのか?」

「もちろん、それもまた俺たちの旅だ」

「ありがとう……心優しい、旅人よ」

【元聖王カレンがパーティに参加しました】

「師匠……すごいです、NPCってパーティーに入れられるのですね」

「そうか? 既にセレスやルーナも入っているだろ?」

「いえ、ですが……どっちかっていうと、カレンさんは人間よりの存在ですし……」

「それもそうだが、見ろ……Lv1だ……」

ゼクスがカレンのステータスを二度見した。

「王をやめて旅人に戻ったら──ステータスもリセットされたらしい」カレンが自分のステータス画面を見て苦笑している。

「HP120って──トワさんの初期値と同じですよ」ハルが指摘した。

「俺のHPは360だ。セレスの守護の祝福で三倍になっている」

「わたしにはセレスがいない。──素のHP120で戦うのか」

「カレンさんにも、ルーナちゃんの夜帳の衣がありますから、闇耐性は高いですよ」タマキがフォローした。

「闇耐性が高くても、光の国のモンスターは光属性だ。──光耐性がないと、スープがないと即死する」

「スープならありますよ。──はい、光砂のスープ」

タマキがスープを差し出した。カレンが受け取って飲んだ。

【光砂のスープを使用しました。光耐性+30%】

「道具通がないから30%止まりか。──トワが俺にかけてくれれば、60%になるのか?」

「ああ。俺が渡せば倍になる」

「なるほど。──旅人のスキル構成、千年で随分変わったな。わたしの時代には道具通なんてなかった」

「千年も経てば、アップデートの一つや二つある」ゼクスが言った。

「アップデートか。──千年分のパッチノートを読みたいものだ」

「カレンさん、メタ発言は禁止ですよ」タマキが笑った。

聖光の森に出た。カレンのレベル上げを兼ねた探索。

白狼の群れがカレンを見て、威嚇した。いつもはシロがいれば大人しいのだが、カレンに対しては毛を逆立てている。

「嫌われているな」カレンが自虐気味に笑った。

「ずっと森のモンスターに『侵入者を排除しろ』と命令していた男だからな。覚えているんだろう」

ゼクスが言った。

「つまり……私の自業自得、因果応報か」

シロがカレンと白狼の間に入った。白狼たちに向かって低く唸った。仲間だ、と言うように。

白狼たちが渋々、威嚇をやめた。シロの顔で通してもらった形だ。

「シロに借りができたな」

「犬に借りを作る元聖王」ゼクスが呟いた。

「犬ではない。光の白狼だ」

「カレンさん、それわたしの台詞です」ハルが言った。

その時、光蠍が砂の中から飛び出した。Lv92。

「カレン、やれるか」

「やってみる」

カレンが杖を構えたが、長いブランクで身体が動かない。光蠍のビームが飛んできて──

「ぐはぁっ!?」

【カレン HP:120 → 3】

「一撃で瀕死──!?」目を見張るゼクス。

「即死かと思ったが、意外と固いんだな……」と、トワ。

「固有スキル【聖王の加護】だ……この国で生きる者からのダメージを、大幅にカットできるのだ……」

「それで、これかよ……」

「今は文句を言っている場合じゃ――タマキ!」

「はい、回復します!」

タマキの回復が飛ぶ。HPが120に戻る。──直後にまたビームが飛んでくる。

【カレン HP:120 → 8】

「おいおい、また瀕死だぞ!」

「タマキ!」

「回復──! って、わたし回復botじゃないんですけど!」

「すまない……私の身体が──」

カレンが回避しようとして足がもつれ、転んだ。砂漠の白い砂に顔から突っ込んだ。

「……ぶふっ」

「カレンさん! 大丈夫ですか!」

「大丈夫だ。──口の中が砂だらけだが」

トワが光蠍を三連斬で仕留めた。

【光蠍を討伐しました。経験値をカレンに分配しました】

「経験値分配って──そっか、トワさんは経験値が入らないんですね」

「ああ、【初心の心得】を入れているからな。俺の経験値は全て、他のプレイヤーに回る」

「至れり尽くせりだな。──初心者支援か」

「初心者ではないだろう。千年前は世界最強の旅人だったんだから」

「千年前の話だ。今は顔から砂に突っ込むLv1だよ……はっはっは」

セレスがカレンの頭の上の砂を払ってやった。

「カレン。すなだらけ」

「……ありがとう」

「パンあげる。げんきだして」

「お前の万能薬はパンなのか」

「パンはばんのーやく。セレスのてっそく」

「お前の鉄則は毎回増えるな」

二時間のレベル上げで、カレンは何とかLv40になった。

「Lv40か。──千年前はLv1のままで全踏破したが」

「旅人は本来Lv1で完結するクラスだ。Lvが上がっても大きくは変わらない」

「そうだった。──旅人の強さはLvではなく、スキルと経験だ」

「カレンさんのスキルは?」

「【見聞録】と【万象の構え】はある。──だが精度まだまだ、リハビリが要る」

「見聞録、持ってるんですか!?」ハルが食いついた。

「持っているが──解析速度がトワの半分以下だ。読めるには読めるが、遅い」

俺の見聞録を手本にして、感覚を取り戻せ。ブランクがあっても、身体が覚えているはずだ」

「武器屋のガルドと同じか。──手が覚えている、というやつ」

「ああ。お前の手も、覚えているはずだ」

カレンが杖を握り直した。旅人の杖。千年前と同じ形の杖。

「……ああ。──覚えているさ、この感触を」

ひっそりと森の中でレベルを上げていた、そんな時。

カレンがコツコツレベル上げをしていると──ギャラリーが増えていた。

「あれ、カレンさんじゃないか?」

「トワさんがモンスターを倒して、経験値をカレンさんに流してるぞ」

「元聖王のレベル上げを見学できるとか、レアすぎる」

トワが光蠍を三連斬で仕留め、光蛇を弓で射抜き、陽炎の巨人をルーナの夜で実体化させて槍で突く。その横をカレンがよろよろと走っている。

レベリングは、まだ少しの間続くだろう。

もちろんこの夜、フォーラムではカレンのレベル上げが話題になった。

──「カレンさんLv40になったぞ」

──「え、NPCってレベル上げできんの?」

──「王さまがレベリングってシュール過ぎる」

──「てか、レベル上げ、遅くない?」

──「千年のブランクでモンスターに顔面から突っ込んでるらしい」

──「元聖王が砂まみれは草」

──「だれがレベル上げを手伝ってるんだ?」

──「トワさんだったよ。正確には、トワさんたち、だけど」

──「トワに経験値分配してもらってるの、なんかいいな。先輩旅人が後輩旅人を育ててる感じ」

──「旅人の先輩後輩って、トワが先輩なのか、千年前のカレンが先輩なのか」

──「プレイ時間的にはトワが先輩。年齢的にはカレンが先輩。──難しいな」