軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

《聖王の涙》

記憶を取り戻した住人たちが、カレンの周りに集まってきた。

同時にシステムメッセージが全プレイヤーに表示された。

【──聖都ルクス復興イベント:記憶封印解除──完了】

【NPC記憶復元数:153/153──全住人の記憶が復元されました】

【聖都ルクスの信頼度:MAX】

【聖都の全施設が完全解放されます】

メッセージがまだ続く。

【新規施設解放:ガルドの鍛冶工房──聖光武器の鍛造が可能になりました】

【新規施設解放:リーナの宿屋──完全回復+経験値ボーナス付き宿泊】

【新規施設解放:フィオナの花園──精霊強化素材の栽培が可能になりました】

【新規施設解放:聖都市場──ルミナリア固有アイテムの売買が可能になりました】

【新規施設解放:エリーのパン工房──全プレイヤーがパン焼きミニゲームに参加可能】

「施設が一気に解放された──!」

「鍛冶工房! 聖属性の武器が作れるのか!?」

「宿泊で経験値ボーナス!? 神じゃん!」

「花園で精霊強化素材が──ルーナちゃんとかセレスちゃんを強化できるのか?」

「パン焼きミニゲーム──えっ、パン焼けるの?」

「エリーさんの工房でパン焼き体験!? やりたい!!」

プレイヤーたちが各施設に殺到し始めた。──だがその前に、カレンが広場の中央に立った。

「少し──聞いてくれ」

騒ぎが収まった。住人百五十三人と、三百人以上のプレイヤーが、カレンを見ている。

「わたしは……千年前に、お前たちの記憶を奪った。お前たちの名前を。過去を。それは、王として最も許されない行為だった。だから……王をやめる。私はもう、お前たちの上に立つ資格がない。……ただの旅人に、戻る」

住人たちがざわめいた。

「王をやめた!?」

「まあ、まあ。──カレン王って呼ばなくていいなら、楽だけどね」リーナが軽く言った。

「リーナ……もう少し空気を読んでくれ」

「千年も我慢していたんでしょう? これ以上我慢してどうするの。──おかえりなさい、カレン。それでいいじゃない」

エリーが一歩前に出た。

「カレン……王でもカレンでも、あなたはあなたよ。わたしのパンを美味しいって言ってくれた人。それだけは、変わらないわ」

ガルドが頷いた。

「俺の剣を褒めてくれたのはお前だ。王でも旅人でも、関係ねえよ。……それよりお前、千年間剣の手入れしてなかっただろう。あとで持ってこい、研いでやる」

「鍛冶師の最初の仕事が、私の剣の研ぎか」

「当然だ。王の剣は特別料金だぞ」

「王はやめたと言っただろう」

「旅人料金でいいか?」

「……頼む」

フィオナが花束を持ってきた。

「カレンさん! お花どうぞ! おかえりなさいのお花!」

「……ありがとう。フィオナ」

カレンが花束を受け取った。そして、泣いた。

「……泣いてるな」

「泣かせてやれ。──千年分だぞ」

「こっちまで目が痛い」

「ゲームで泣いてんの、俺だけじゃないよな?」

「お前だけじゃない。俺もだ」

「俺も」

その時──新しいシステムメッセージが表示された。

【隠し実績解除:「聖王の帰還」】

【聖都ルクスの記憶封印を完全に解除し、聖王カレンを大聖堂から解放した】

【報酬:称号「聖都の恩人」(全参加プレイヤーに付与)】

【報酬:聖光の祝福(全ステータス+5%・聖都滞在中永続)】

「実績解除きた!」

「全参加プレイヤーに称号──!?」

「友好度レイドに参加した人全員が対象か!」

「聖都の恩人……いい称号だ」

「全ステ5%バフ! 聖都にいるだけで!?」

「聖都に住むわ。引っ越すわ」

「引っ越し先がゲームの中って何だよ」

泣いているカレンの横で、プレイヤーたちが実績解除に沸いている。

「泣いてるところ悪いんですけど、カレンさん──鍛冶工房いつから使えますか!?」

「今泣いてるんだ。少し待ってくれ」

「あ、すみません」

「いや……いい。鍛冶工房はガルドに聞け」

「泣きながら対応してくれるのか……さすが元聖王だな……」

タマキが横でハンカチを差し出した。

「カレンさん。──はい、これ」

「……すまない。千年ぶりだったから──我慢の仕方も忘れた」

「我慢しなくていいですよ。泣きたい時に泣けるのは、元気な証拠です」

「薬師の君にそう言われると、安心するな」

聖都は大変なことになっていた。

鍛冶工房にプレイヤーの長蛇の列。ガルドが「一人ずつだ!並べ!」と怒鳴っている。

宿屋にチェックインの行列。リーナが「満室よ! 増築するから待って!」と叫んでいる。

花園にプレイヤーが殺到。フィオナが「お花踏まないでー!」と泣きそうになっている。

そして、パン工房。

「パン焼きミニゲーム、楽しい!」

「俺のパン焦げた」

「わたしのは生焼け……」

「エリーさんの指導が丁寧すぎて感動する」

「エリーさんに褒められた……嬉しい……」

NPCが記憶を取り戻したことで、聖都が「生きた街」に変わった。住人がそれぞれの仕事をし、プレイヤーと交流し、クエストが発生し、施設が稼働する。──VRMMOの理想郷だ。

フォーラムも活況を呈していた。

【速報】聖都ルクス完全復興! 全施設解放! 神アプデ!

──「鍛冶工房で聖光の剣を打ってもらった。ATK+800は破格」

──「宿屋の経験値ボーナスが地味にでかい。レベリングが捗る」

──「花園で精霊強化素材が取れる。これ、精霊持ちのプレイヤーには必須じゃないか」

──「パン焼きミニゲームが思ったより本格的で草」

──「エリーさんの親密度10にするとレシピ全解放されるらしい」

──「ガルドさんの親密度10で最上級武器鍛造が解放。これは聖都に通うしかない」

──「事実上、聖都がBCOの新しいエンドコンテンツの拠点になったな」

また、別のスレッド。

【感想】記憶封印解除イベントに参加してきた

──「NPCの名前を呼んだ時の表情変化、やばかった。プログラムとは思えない」

──「担当してた武器屋のガルドさんが、俺の顔見て『お前か。毎日来てくれてたな』って言った時、泣いた」

──「BCOのNPCはNPCじゃない。住人だ」

──「カレン王──カレンが泣いてるの見て、こっちまで泣いた。でもその横でセレスちゃんがパン食べてて笑った。感情が忙しい」

──「セレスちゃんは空気を読まないからな。そこが好きだが」

その夜。

カレンが管理システムの設定を変更した。「常に昼」から「昼夜サイクルあり」に。

ルーナの力ではなく、聖都の自然な夜が、千年ぶりに訪れた。

空に星が浮かんだ。セレスの銀月ではなく──ルミナリアの本来の月が昇った。

ルーナが影の外に出ていた。本物の夜なら、ルーナは自由に動ける。

「トワ、夜だよ! 本物の夜──!」

セレスとルーナが、夜空の下で並んで飛んでいる。月と夜。銀色と紺色。

プレイヤーたちも夜空を見上げていた。

「夜だ──聖都に、夜が来た!」

「星がきれい……」

「BCOの夜空、こんなにきれいだったっけ」

「昼しかない聖都しか知らなかったから──夜がこんなに良いものだとは」

「夜の聖都、雰囲気ありすぎる。窓に暖色の明かりが灯ってるの、最高だな」

「スクショ撮りまくってる」

住人たちも夜空を見上げていた。千年ぶりの星。

「おばあちゃん。──空に星が戻ったよ……」フィオナが空に向かって呟いた。

カレンが広場のベンチに座っていた。エリーのパンを齧りながら。

隣にヴィアが座った。いつの間にかオアシスから来ていた。

「やっと出てきたのか」ヴィアがお茶を啜りながら言った。

「……来てたのか」

「手紙を渡したと聞いてな。──受け取ったか」

「受け取った。──千年前に書いた手紙を、千年後に」

「遅いにも程がある。──郵便局に苦情を入れるべきだな」

「この国に郵便局はない」

「ないか。じゃあ、旅人に感謝するしかないな」

ヴィアがトワの方を見た。トワは少し離れた場所で、タマキと話している。夜空の下で。

「今回も良い旅人でしたね、トワさん」

「かなり作り込まれていたな……NPCが、本当に生きているみたいだ」

「みたいじゃなくて、本当に生きているのかも」

「だからこそ、歩きたくなるんだ。この国には、まだまだやり残したことがある」

「モンスター図鑑も、まだまだ空いてますからね」

「明日からまた歩いて行こう、少しずつ」

「はい……お供しますよ、どこまでもずっと」

「助かる。ありがとう、タマキ」

「どういたしまして」

二人で夜空を見上げた。

聖都に、千年ぶりの星が瞬いていた。