軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第九十二話 カットされましたが二冠馬です

「あけましておめでとうぅぅぅぅぅ!!今年も勝つぞ俺は!!!!」

うっさい。

新年一発目からマジでうるさい。

「じーちゃーん!」

「ゆきー!」

「さむーい!」

「でもはしるー!」

「ぼくのほうがはやーい!」

当歳……いや、今日から一歳になった馬たちが朝っぱらから元気いっぱいに騒いでいる。

いや、お前らその元気、少し俺に分けてくれないか?

「爺さああああああああああん!!おはよう!!」

見ているだけで疲れそうな勢いで、サニーボーイが走ってきた。

「おう、あけましておめでとう」

「爺さん!夢にデカい山をなすび咥えながら走ってる馬が出てきたんだけど目出度いかな!?」

「……たぶん?」

サニーボーイ。

去年、皐月賞と菊花賞を勝ったGⅠ二勝馬。

ダービーは二着。

つまり、クラシック二冠馬である。

普通に考えると、めちゃくちゃすごい。

数十年前の桜井牧場なら、神棚作って祀るレベルだ。

だが、実物は相変わらずうるさい。

そして、その少し後ろから、いかにも“見てて疲れる”という顔で二歳馬や現役馬たちが眺めていた。

「サニー、朝からうるさい」

「GⅠ二個勝ったって、すごいんだよな?」

「すごいけど、うるさい」

「実績とうるささって比例するの?」

それは、わりとこの牧場では比例する。

古参の繁殖牝馬たちも、呆れ半分、感心半分でサニーを見ている。

「ま、よう頑張ったんじゃないかい」

「うるさいのだけは変わらないけどね」

「いや、むしろ前より増した気がする」

それでもサニーは嬉しそうだ。

「もっと敬え!皐月賞馬だぞ!菊花賞馬でもあるぞ!」

「わー」

「すごーい」

「うるさーい」

「二冠馬って、もっと静かなイメージだった」

「偏見だ!!」

偏見ではないと思う。

……いや、静かすぎるGⅠ馬も視界の端にいるのだが。

エクリプスである。

今日も一頭だけ、別の時間を生きてるみたいな顔で立っている。

こいつもGⅠを勝って帰ってきた。

なのだが――

「エクリプスにーちゃん!GⅠおめでとー!」

一歳馬が元気よく声をかける。

「すごかったー!」

「つよかったー!」

「かっこよかったー!」

エクリプスは、少しだけそちらを見た。

「……うん」

終わり。

以上である。

「終わり!?」

「返事みじかっ!?」

「でも返した」

「今日はちょっと機嫌いいのかな」

「いや、たぶんそれ以上言うことがないだけ」

二歳馬たちの分析がだいぶ冷静になってきている。

お前ら、ほんと成長したな。

エクリプスは、そのあとまた何事もなかったかのように地面を見て、ゆっくりと歩き出した。

歩く。

止まる。

また少し歩く。

遊んでいるわけじゃない。

たぶん、脚の置き方とか、身体の感覚とか、そういうのを一人で確認している。

こいつは本当に、放っておくとずっとそういうことをしている。

そして、その空気をぶった切るのが、やっぱりサニーだった。

「エクリプスー!!」

声がでかい。

エクリプスが、ものすごく嫌そうな顔でサニーを見る。

「何」

「朝日杯勝ったんだってな!おめでとう!」

「……」

周りの馬たちがひそひそ言う。

「あー、また始まった」

「サニーは諦めないな」

「エクリプスは譲らないな」

「どっちもめんどくさい」

「結論:爺さん大変そう」

最後のやつ、誰だ。

そう思うなら助けろよ。

「でもさ!!」

サニーは勢いを落とさない。

「俺はGⅠ二個勝ったからな!俺の方が速い!!」

サニーが得意げに胸を張る。

お前、祝いに行ったんじゃなかったのか。

エクリプスの目が、ほんの少しだけ動いた。

「へえ?」

お。

反応した。

エクリプスが、ちゃんとサニーを見た。

サニーもそれに気づいたのか、耳をぴんと立てる。

「お?」

「じゃあ、僕がGⅠ三個勝つまでは認めておいてあげる」

おお、会話が成立している。

驚きだ。

「おおお!じゃあ、俺をもっと尊敬していいぞ!」

たぶんそうじゃないけど、がんばれサニー。

「一年早く生まれただけ」

「なにおう!」

「今年、僕は三冠全部勝つ」

当たり前みたいに言うな。

「ついでに宝塚記念とジャパンカップと有馬記念も取る」

「欲張りすぎだろ!?」

サニーが即座に叫んだ。

いや、ほんとにそれ。

ついでで取るには重すぎるだろ、そのへん全部。

「鬼ローテだぞ!?」

「勝てばいい」

「そういう問題じゃない!!」

俺もそう思う。

というか、皐月賞とダービーと菊花賞を取りに行くのはわかる。

わかるが、そこに宝塚記念を挟むな。

ジャパンカップと有馬記念も当然みたいに入れるな。

お前はゲームのローテ表でも組んでるのか。

エクリプスは、淡々と続ける。

「皐月賞で二個目」

「俺は取ったぞ!」

「ダービーで三個」

「俺は取れなかったぞ……」

「宝塚記念で四個」

「そこ古馬混ざってるからな」

「菊花賞で五個」

「三冠馬だぜ!!」

「ジャパンカップで六個」

「おい」

「有馬記念で七個」

サニーが、ぽかんとした顔になった。

「……お前、かなり怖いな?」

「普通だけど」

「普通の馬はそういう数え方しないんだよ!」

その通りだ。

しかもサニー自身もすごく強いのに、引くレベルの数え方だ。

「そうすればサクライルドルフ越えられるでしょ?」

エクリプスのその言葉に、俺は思わず頭を抱えた。

「そういう問題じゃないんだよなぁ……」

ルドルフを越えるかどうかは、そんな単純な“GⅠの個数”だけの話ではない。

いや、GⅠ取ったらそりゃすごいんだけど。

でも、そういう算数じゃないんだよ。

ルドルフは、もっとこう。

ドヤ顔とか、わがままとか、りんごとか、ビールに煽られて怒るとか、そういう“全部込み”で最強なのだ。

サニーが、その横で首を傾げた。

「ルドルフって、そんなにすごかったのか?」

「お前、今さらそれ聞く?」

「いや、伝説って聞いてるけどさ!」

サニーは悪びれずに言った。

「でも俺、会ったことないし!」

「それはそう」

「クラウンご先祖様は何度も夢に出てくるけど!」

「出てくるの!?」

初耳だぞ。

何してんだ、クラウン。

「『金の銅像を建てろ』って!」

「無視しろ」

「いいのか!?」

「いい」

あいつ、マジで叱る。