軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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地下35層を抜け、36層へ。

斥候であり、かつ前衛を張れる俺の出力が大幅に上がったことで、探索は一気に加速した。

ぱっぱと遊撃に出て、さっさと倒して戻って来る。なんてことが出来るようになったからな。

この辺りの階層なら知識面で隼人がカバーして、危険そうなものはヒルネが発見する、という形でパーティー全体の対応力も上がっている。

先行してハヌマーンの眷属を倒し、パーティーのところに戻る。なにやらワイワイと楽しそうだ。

「おう、どうした?」

「なんかブロッコリー生えてる」

スイが指さした先には、俺くらいの高さのブロッコリーが生えていた。

普通のブロッコリーは真っすぐに伸びた細長い草の先端が、よく食べる 蕾(つぼみ) の部分になっている。だが、このダンジョンブロッコリーは、まるで低木のように、蕾の部分だけでそびえ立っていた。

「あー。これが例の解毒薬になる草だわ」

「これが!?」

「マジで野菜食ってなかったから、食べた方が良いんじゃないかと思って食ったんだよな。そしたら、毒の出血が止まったから、なんか効果はあると思うぞ」

「ふーん」

トウカがブロッコリーをひと房もぎ取って、ドローンに積む。

「何か新薬の開発に役立つかもしれませんし、持っていきましょう。出血毒と心臓の痛みという話ですから、もしかすると、血液を凝固させやすくする働きがあるかもしれませんね」

「あーーー」

俺らは納得と感嘆の合いの子みたいな声をあげた。

出血毒の中には、血液が固まる作用を妨害して、出血させ続けるものもあるからな。それを無理やり固めて治す、と。

で、副作用は血栓ができて、血管が詰まったり破裂するっつーことか。

こいつの方が猛毒なんじゃないか?

「あ、と。永野さん。柚子から連絡が来てたよ」

隼人がスマートウォッチを見せながら言う。

「どうやらワーウルフの追跡を開始したみたいだね」

「無事に見つけ出せたか」

「上層の探索者が監視を続けてくれていたみたいだ」

「頼りになる奴らだ」

向こうはロボの本隊まで最短ルートで移動できる。そう考えると、俺たちも少し急ぐか?

「この辺もロボの痕跡ねえし、階段探してくるわ」

簡単に見つかるだろうな、という不思議な確信があった。

水色ゴリラのムシキから世界樹の苗を取り込んでから、なんとなく気配を感じる。

世界樹そのものが、ダンジョンの奥底で待っているのかもしれねえな。

俺に早く自分のもとに辿り着けと言わんばかりに、階段の位置を教えてくれているような気がする。

あんまり、取り込みすぎるものじゃねえかもな。

いや。もはや手遅れなのかもしれない。

今更捨てることもできない。どのみち、ロボとの戦には必要な力だ。

1時間もかからない強行偵察で、あっさりと階段は見つかった。見つかってしまった。

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地下39層までは簡単だった。かつての俺からすれば、考えられないスピード感だ。

俺自身の強化という部分も大きいが、その他のメンバーが足手まといになることもない。

人数が増え、組み合わせの幅が広がったことで、それぞれが役割を果たしやすくなっているのかもしれねえな。

そして、地下40層。

この階層から環境が無茶苦茶になる。思わず科学の敗北を感じてしまうような状態だな。

まず、1つの階層の中に無数の地形が存在するようになる。

俺たちの現在地が、巨大な岩の柱の上。地球だとテーブルマウンテンと呼ばれていたような地形だな。

野球場くらいの面積があり、垂直な岩壁の高さは400メートルくらいあるだろう。

ひんやりと冷え込み、薄く霧がかかっている。

足元を見れば、 夥(おびただ) しい数の六角形の岩で構成されているようだ。

なんつったか。柱状節理だったか。火山岩が冷えて固まるときに、こんな風に亀裂が走るらしい。

そんな岩の溝から、小さな植物がちらほらと顔を覗かせている。

「下は……ジャングル?」

スイが岩に這いつくばるようにして、遠い地上を覗き込む。

「あ、そっちはジャングルなんだ! 反対側は砂漠だったよ!」

偵察に出ていたヒルネが戻って来た。

まったいらな地形で偵察もなにもないが、視界が悪いからな。

「これどうしたもんかね。次の階段は下みたいだが。一回戻って別の階段を探すのが早いか?」

どこから来た水なのやら。岩壁の途中には、ところどころに噴き出す滝が見える。

万が一降りている最中に水に触れようものなら、あっという間に弾き飛ばされるだろうな。

「ドローンに掴まって降りる方法もございますが、私を支え切れるかが怪しいですね……」

「あー、まあ、物資もあれば採取したものも積んでるしな」

トウカの言葉にお茶を濁しながら答えた。

「それやると、危ないかも」

スイが見ている方向では、隼人がモーニングスターを振り回し、プテラノドンのようなモンスターを叩き落している。

飛行型のモンスターまで出てくるとなりゃ、安全に降りるのは厳しそうだな。

山里がとても嫌そうな顔をしながら、ロングソードを抜く。

「危険な降下作戦って、1人2人は落とされるのがお決まりってもんだろ。俺はそういう役回りだってわかってんだよ」

こちらにも飛んできた翼竜の羽を的確に切り裂き、迎撃する。

腕は良いんだが、言っていることになぜだか納得してしまう。

「お前、ゾンビ映画なら確実に死ぬタイプだよな」

「やめてくれ。ゾンビ映画よりハードなリアルに遭遇している最中だ」

逆にこいつ、地上にいたら人狼ゲームで死んでそうだな。こっちに来て良かったじゃねえか。

「しかし、どんどん霧が濃くなるな……」

じわじわと白くなっていく視界。

ぎゃあぎゃあと騒いでいた翼竜たちも、いつの間にか遠ざかっている。

隼人が戻ってきて合流した。

「なんだい? これ」

「特に害はなかったはずだ。もうちょい下の階層で見たことがある」

隣に立つスイの姿すら見えなくなるほど霧が濃くなった。そのとき。

ゆるりと風が吹いた。

押し流され、消える霧の中から、巨大な影が姿を現す。

全長50メートルはありそうな、巨大な竜。

黄金に輝く鱗。太い4本の足でがっしりと地面を掴み、威嚇するように翼を広げる。

額と顎に2本ずつのねじくれた角が生えており、凶悪な牙が並ぶ口元には、赤い炎がちらついている。

「ふぁ、ファフニール……」

山里が呆然とした表情で呟いた。

これ、既に発見されたことのあるモンスターだったんだな。

「死んだね」

隼人はそんなことを言いながら、モーニングスターを回し始める。

「落ち着け。幻みたいなもんだ。実体はねえよ」

やる気満々でパイルバンカーを構えているトウカの腕に触れ、下ろさせた。

「え、え?」

「俺は 蜃(しん) って呼んでる。要は、 蜃気楼(しんきろう) を見せるモンスターが出した幻なんだよ。どっちかっつーとホログラムって言うのが正解かもしれねえな」

ファフニールと呼ばれた巨竜の足元に無造作に歩いていき、地面を探す。

案の定、ファフニールは攻撃するような仕草こそしてくるものの、直接当ててこない。脅かすような動きばかりで、おかしなことになっている。

「あった、これだ」

岩の割れ目に挟まっている、 掌(てのひら) サイズの大きな二枚貝を取り出した。

よく見たら大量に落ちてんな。色が岩と保護色になってるから気づかなかった。

ぽこぽこと岩から抜いていく。ちょっとだけ楽しい。

俺が定位置から外したせいか、ファフニールの幻影は姿を大きくゆがませ、崩壊した。

「な?」

「な、って……。これ、ハマグリみたいだね」

「味もほぼハマグリだったな」

本当はナイフとかで開くんだろうが、力任せにバリっと剥がす。中身の見た目もほぼハマグリだ。

「びっくりした~」

ヒルネも一緒に蜃を剥く。

「あれ? なんかこれ、ちっちゃい竜入ってません?」

ヒルネが持っているのは、特に大ぶりな貝だ。

開かれた中を覗くと、貝紐のような部分の先に、竜のような頭部がある。

トウカがヒルネからそれを受け取り、まじまじと眺めてから返した。

「この貝が成長すると竜になるのかもしれませんね。もしかすると、竜の卵のような姿なのかもしれません」

「なるほど~」

竜の卵か。そりゃいいな。

「じゃあ、喰うか」

「えぇ……」

どのルートをとるにせよ、しばらく飯を食う時間はない。

食えるときにしっかり食っておかねえとな。