軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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鍋をかるく火にかけ、手を突っ込んだら熱いなと感じるくらいの温度にする。

蜃(しん) が砂を噛んでいる貝なのかは知らんが、一応砂抜きとしてお湯に入れておく。

貝の砂抜きは面倒だからな。風呂より少し熱いくらいのお湯に入れておけば、完璧とはいかないが、すぐに砂を吐かせられる。

その間に適当に摘んできた草をまな板に。

「ねえ、ナガ。それ食べられるの?」

「知らん」

「えぇ……」

俺が採って来たのは、岩の隙間に生えていた、人間の手みたいな形をした草だ。

触れると握るような動きをしてきたから、恐らくは食虫植物。

「栄養が少ない環境っぽいから、動物を捕獲することでなんとか栄養を補っているんだろうな」

「気持ち悪いね」

「そうだな」

だが刻めば見た目はただの草だ。

だいたいの生物は、取れるエネルギー量に応じて能力を増やしていく。

飛ぶだの、速く走るだの、毒だのもそうだ。

それなりのコストを支払って能力を得るからこそ、複数の長所を掛け持ちする生物は少ない。

人間が高い知能を手に入れた半面、鍛えなければ筋肉が衰える生き物になってしまったようにな。

「動いて捕食する能力を持っているってことは、毒を作り出す余裕はねえはずだ。こんな環境で動いて毒まで使ってちゃ、エネルギー収支がとれなくなる。だから、食える」

「毒がなくても食べられないものってあるんだよ?」

ひとかけら味見をしてみる。

アスパラの固い部分みてえだ。味もだいたいそんな感じ。ほんのりとだが青臭さと、パセリみたいな清涼感があるか?

「まぁ平気だろ」

蜃の砂抜きを終わらせ、貝の表面をざっと拭く。

鍋に多めのオリーブオイルとにんにく、貝と謎の草。あと、ノリで単独行動中にとっておいた蛇ヤクルスの皮を剥がし、ぶつ切りにして、まとめてぶちこむ。

「えぇ。蛇……」

「皮を剥がしたら魚とそんな変わらんだろ」

味はどっちかといえば鶏肉寄りだが。

つーか爬虫類にせよ両生類にせよ、野生の生き物を食ったときに「近い味は?」と質問されたら、答えがだいたい鶏肉になるのは何でだろうな?

やっぱ進化の過程として近いのか?

ガラガラと音を立てながら表面に焼き色がつくまで炒めたら、酒をどぷどぷ流し込む。塩コショウは勢いでどーんだ。あとは適当に 蓋(ふた) になる板を置いて、ぐつぐつという音がしなくなるまで放置する。

「ナガってなんだかんだ料理するよね。もっとこう、丸焼きだけみたいな食べ方しそうなのに」

スイの偏見に思わず笑ってしまう。

「人生の大半は料理してねえからな。遊びみたいなもんだ」

子どもの頃は親に食わせてもらい。大学生になったら多少は自炊した。

大人になってからは、乾麺だとか納豆ご飯だとか、とにかく安いものだけで生きていた気がする。

一人暮らしって、なんとなくコンビニ飯のイメージがあるが、そうじゃないんだよな。

コンビニで買ったうどんに、コンビニで買った麵つゆかけて、コンビニで買った卵を落として食う。10%くらいの自炊で、カスみたいな栄養で、1食200円くらいで済ませるようになっちまったんだ。

それからダンジョンで、まさにスイの言うような食生活。

ほんとに、短かった大学生活を振り返りながらの料理だな。

「いい匂いだ……」

しんみりとしている俺の隣に、シャベルマンが腰を下ろした。

めちゃくちゃ低音の、ダンディな声だ。そんな色っぽいバリトン、洋画の吹き替えくらいでしか聞いたことねえぞ。お前こんな声だったのかよ。

「そろそろ出来る。適当に食ったら、〆にパスタ入れてワンパンパスタにするぞ」

ワンパンパスタは、1つのフライパンで作るパスタってことだな。

このアクアパッツァもどきに水を足してパスタを茹でれば、ボンゴレっぽい良い感じのパスタになるだろ。たぶん。

蓋を開ければ、貝の出汁が効いたいい香りがふわっと上がる。予想通りの出来栄えだ。

「すごいな。多少の食材と調理器具があれば、現地調達でこれだけの食事を作れるなんてね」

「毒さえなければなんでも食えるだろ」

「いやぁ、それはちょっと」

隼人がなんかほざいている。

「山里は貝ばっか食うな。野菜も食え」

「野菜じゃないだろこれ!?」

「野菜だ」

謎の草を山里の口にねじこんだ。目を白黒させながら 咀嚼(そしゃく) し、ごくりと飲みこむ。

「あれ、意外と美味いな」

「そうだったのか」

「不味いかもって思ってたから最初に俺に食わせたのか!?」

俺は生で味見したんだから良いだろうが。

山里が元気に騒いでいることで、安全が確保されたと思ったのか、他のメンバーもようやく謎の草に手を伸ばし始めた。

「ダンジョンでの食事とは思えないくらい美味しいですね」

器用にフォークで殻から身を外しながらトウカが言う。そうだろうよ。

ヒルネは蛇肉を手に、もっもっと口を動かしている。小骨刺さらないように気をつけろよ。

〆のパスタを茹で始めたところで、隼人のスマートウォッチが通知を鳴らした。

「柚子からだね――」

隼人の喉がごくりと上下する。ぶるりと体を動かしたのは武者震いか。

「――本隊を特定したみたいだ」

「きたか」

口元が歪むのが自分でもわかった。

なんだろうな。戦いたかったわけでもねえが、ロボに会いに行くためだけに、こんだけ長旅させられたんだ。

苦労に比例して、楽しみになっていたのかもしれねえな。

マップを開く。新たなピンが立てられたその場所は。

「おいおい、真下じゃねえか」

俺たちが飯を食っている、この岩の台地の真下。

柚子の配信を開き、動画でも確認をする。

どうやら岩を抉るように洞窟が出来ているらしい。

洞窟の入り口は、人工物のようにスパッと切られた正方形の穴になっている。

石造りの灯篭のようなものも設置してある。

一瞬、ロボが設備を整えたのかと疑ったが、表面に生えたツタやコケを見るに、だいぶ昔に作られたもののようだった。

もしかすっと、下の方の階層も昔は上層のように人工的な姿をしていたのかもしれない。それがどんどん植物に飲み込まれて、今の姿になったのかもしれねえな。

そんなことはさておきだ。

「ダンジョン内のダンジョンってとこか。良いじゃねえか、魔王城の攻略みてえなもんだ」

「どうやら見張り番もいそうだね」

樹冠に潜伏している柚子のカメラには、ちょうど交代するリザードマンらしき姿が映っている。

2体のリザードマンが見張りをし、外には水色ゴリラのムシキが1体。

小回りが効く姿と、大型モンスターが現れたときに止められる姿で、見張りを分担しているっぽいな。

「飯食って少し休んだら襲撃するか。せっかく頭上取らせてもらってんだ。危険は承知で降下するぞ。俺のドローンが一番荷物が少ないはずだ。トウカは俺のを使え」

「かしこまりました」

一応、荷物の重量を見ながら積み替えもしておくか。

山里も非常に不本意そうな顔で頷く。

「近くに柚子がいるんだ。空中戦闘を支援してもらえばいいだろ」

「それもそうか」

「だね。伝えておくよ」

隼人がさっそく連絡をいれてくれた。

俺たちの食事がちょうど終わったタイミングで、柚子がふわりと浮かび上がって来る。

「合流した」

「よくやったね、柚子」

兄妹の微笑ましい会話だ。

久しぶりに会った柚子が、山積みに捨ててある貝殻を見る。

「なにあれ?」

「永野さんが、この辺りで拾った貝でアクアパッツァみたいなものを作ってくれたんだ」

柚子が口をへの字にした。

「むかつく」

良いじゃねえかよ。どうせお前、現地調達の飯食わねえんだから。

「今度は一緒に食べようね」

スイが声をかけると、柚子は口をもにょもにょと動かしたあと、俺を指さして叫んだ。

「やっぱりむかつく!」

なんで俺なんだよ。

俺だけ降下支援しないとかだったらマジで蹴り飛ばすからな。

「ま、いいか。茶番はここまでだ。荷物積みかえて、降下するぞ」

「はーい」

元気に答えたヒルネが、物資の仕分けを始めた。シャベルマンは後から積んだ戦利品を下にして、大量のシャベルを上に積み替えている。

10分もかからずに支度を終え、水を一口含んで喉を潤す。

ドローンから垂らしたロープを結んで、股の下に4本束をくぐらせ、左手の手首に端っこを巻き付けて準備完了だ。

やや不安定だが、右手には抜身のツヴァイハンダーを持っておく。

崖際から振り返れば、全員が準備を完了していた。

「崖下に降下、即座に洞窟に入る。先頭は俺とヒルネ。最後尾は隼人とトウカだ。外から追って来る見張りは、隼人とトウカで処理してくれ。行くぞ」

宙に身を躍らせた。

浮遊感とともに、ゆっくりと空が遠ざかっていく。

「ナガ」

「なんだ?」

俺の少し上にいるスイを見上げた。スイは笑う。

「今言うのもおかしいけど、綺麗だね」

上下左右、その全てが絶景だ。

これから向かうのが命懸けの闘争とは思えないくらい、ゆっくりと風景が変わっていく。

「そうだな」

それが変な感じがして、俺も思わず笑ってしまった。