軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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俺がゴリラと呼んでいたモンスターは、ムシキと呼ばれているらしい。

森に溶け込む気があるのかと疑いたくなる、鮮やかな水色の体毛。体長は8メートルほどで、腕が異様に長い。

あと、首が伸びる。

理解不能だ。

誰も理解できていないが、とにかく首が4メートルくらい伸びて嚙みついてくる。

そんな気持ち悪すぎるゴリラことムシキだが、見物しに行ったところ、7匹のラプトルに囲まれ激しい戦いを繰り広げていた。

普通にばったり出会ったらヤバい相手だが、この階層だと、なぜか見るたびにラプトルの群れと戦ってるんだよな。

「ナガ、どうするの?」

お、ムシキがラプトルを掴んで振り回し始めたな。

「そりゃ、無視一択だ」

「あのラプトルの群れがワーウルフでした、なんてことはないよな……?」

「山里、流石に考えすぎだろ」

3匹のラプトルがムシキに食らいつき、鮮血が散る。ムシキは両腕を振り回して暴れ、振り払った。

「ナガさん、ちょっと待ってください」

そこまで見届け、別方向の探索をしようと向きを変えた俺を、ヒルネが呼び止める。

「あれ、もしかして世界樹の苗じゃないですかー?」

振り払われたラプトルに、掴まれていた個体がハンマーのように叩きつけられた。同時に2匹がぐしゃぐしゃになる。

暴力の化身のように暴れるムシキに、さっきつけられたはずの傷が見えない。

「純粋に再生力が高い可能性はございませんか?」

トウカが疑問を呈する。

だが、そんなに再生力が高かったら、この階層を俺は単身突破できていないはずなんだよな。

「僕が知っているのより、力も強そうだ」

粘着性の火球に包まれたムシキは、首を伸ばしてラプトルの一匹を食いちぎった。

咬合力も明らかに増している、と。

こりゃ、世界樹の苗に寄生されているっぽいな。

「ロボとやり合う前にパワーアップの機会が得られるなら挑むか?」

「俺じゃ出来ることはないぞ」

「シャベルマンを借りる。いいな?」

山里はそうだろうな。純粋なロングソードの戦士だと、ムシキの毛皮を突破できずに殴り殺されるのがオチだ。

「ラプトルのブレス自体は効いてるみたい。私は魔法で援護する」

「スイが固定砲台。山里たちはスイの護衛だ。俺と隼人、ヒルネで隙を作る。フィニッシャーはトウカに任せた」

ぱぱっと作戦をまとめ、ムシキとラプトルの戦いに絡める位置に移動する。

ラプトルが全滅するのは時間の問題だ。戦闘が終わった瞬間に、少しくらいは消耗しているムシキにぶつかっていきたい。

全員にトウカが支援魔法をかけた。ラプトルをボスとして戦ったときと同じものだが、効果が段違いな気がする。

こんなときにまで樹上から襲ってくるヤクルスを斬り捨て、戦闘が終わる瞬間を見計らった。

最後の1匹になったラプトルの首が、チョップのような一撃でへし折られる。

瞬間。バネで弾かれたように、俺たちは飛び出した。

駆ける俺の背を追い抜くように、火球がムシキの顔面にぶち当たる。炸裂と同時、ムシキの顔面に 纏(まと) わりつくように、激しく黒煙を噴き出した。

煙幕か。シンプルながら効果が高い!

顔をこするムシキ。がら空きの足の指に、俺と隼人の斬撃がブッ刺さる。両足の小指が飛んだ。

それだけで500ミリのペットボトルくらいありそうなそれをキャッチし、断面を口に当てる。ずるりと細長い何かが口に入って来る感触。

「当たりだ! 世界樹の苗だ!」

よろめいたムシキは、がくんと地面に膝をついた。そのまま首を長く伸ばす。焼け焦げたゴリラの頭が、空の上から俺たちを見下ろした。

次の瞬間、怒りに満ちていたその顔が青ざめる。

「たぶん、弱点だよね~」

膝をついたことで、手が届く場所に下りてきた急所。

ムシキの股間に、ヒルネがナイフを突き立てた。

「ごぁぁぁぁぁぁぁ!?」

吠えるムシキ。その体が動く前に。

「ぽちっとな」

ボッ! と小さな破裂音がした。ワスプナイフの高圧ガスが吹き込まれ、ムシキの急所が破裂したのだ。

ムシキはひっくり返り、のたうち回る。

同じオスとして同情する。想像すらしたくない痛み。だが、悪いが殺し合いなんでな。

「ナイスだ、ヒルネ!」

こうして痛がっちゃいるが、致命的なダメージには程遠い。

本来なら、関節部だったり太い血管を切ったりしてダメージを蓄積させるんだが、世界樹の苗が傷を塞ぐなら、あまり意味はねぇな。

倒れたムシキの顔面に、シャベルマンが飛び掛かった。

鼻の穴に深々とシャベルを捻じ込み、おまけとばかりに蹴り込む。ゴリラの太い指だともう取れねえな!

噛みつきを回避し、シャベルマンは転がりながら 藪(やぶ) に逃げ込む。

バトンタッチするように、俺が顔の近くに躍り出た。

「よお、やろうぜ」

ムシキが俺に伸ばした手の指を、バットのように振るったツヴァイハンダ―で弾いて流す!

嫌がるように体を転がして立ち上がったところで、再び顔面に火球が炸裂。良いところに入ったのか、ムシキは目を押さえて吠えた。

「図体がデカかろうが、力が強かろうが、ロボと比べりゃだいぶ楽だなおい」

駆け寄っての縦一閃。ツヴァイハンダーの切っ先が、塞がっただけの股間の傷を抉る。

さらに隼人の斬撃が、アキレス腱を綺麗に切断した。

再度地面に転がされたムシキ。その眼前にいたのは。

「お待ちしておりました」

トウカの背後に炎が噴き出す。

ガコン。工事現場でしか聞かない、鈍く大きな音がした。

ムシキの頭部が、文字通り消し飛んだ。ばちばちと飛び散る肉片の真ん中に、ランスのように伸びた鉄の杭を構えるトウカが立っている。

「おお、一撃」

なんつー火力だよ。

ゆっくりと筒に収納されていく杭。どうやら連発は出来ないようだが、そんなことはどうでもいいくらい破壊力があるな。

「上位の探索者は全パーティー採用したいくらいのパワーだね」

流石の隼人も苦笑いしている。

頭部を破壊されたムシキは、体をびくびくと 痙攣(けいれん) させるばかりで、再生する様子もない。

「あー、じゃあまあ、食うか?」

「一人で食べなよ」

スイの言葉に全員が頷く。

俺だって変な寄生虫いるもん、皆に食わせたりしねえよ。

「とりあえず、サンプルには隼人が斬り飛ばした方の足指で十分か」

俺がそう言うと、保存シートにくるんだそれをシャベルマンが持っていた。いつの間に。

やるべきことは済んでいるようだ。

ムシキのうなじを削り、 脊柱(せきちゅう) を露出させる。関節部に切り込みを入れると、意を決して食らいついた。

「んんんん!?」

今まで感じたことのない量の、世界樹の苗が口の中に殺到する。

小さなものが大量に、自ら口に入り込んで来る未知の感覚。こみ上げてくる吐き気を気合で抑えた。

数秒間だったのか、数十秒間だったのか。曖昧な時間間隔の中、ようやくそれは終わった。

血なまぐさい死体から口を放す。

「おえ」

「ナガ。何か変わった?」

「わかんねえ……」

手放していたツヴァイハンダーを拾う。

「軽い?」

妙な手応え。

試しに片手で振ってみれば、まるで竹の棒のようにやすやすと扱える。

「なんだこれ」

力が増している?

体重はさして変わらないのか、重さに体が引っ張られる感覚こそある。だが、これまででは考えられないほど、肉体の出力が上がっている。

「そう。ついに、人間やめたんだね」

スイが溜息をついた。やめろよ。