作品タイトル不明
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ゴブリンをソロで討伐したことがない中級者が6人。蓮と康太もこのグループだ。彼らを先頭にしながら、すぐ後ろをついて歩く。手の傷は上級者グループにいた魔法使いに治してもらった。
「ナガさん。ちょっと違和感残ってそうですね?」
偵察から戻ってきたヒルネが言う。一目で分かるか。
微妙に皮が突っ張るというか、動かしづらさが残っていた。これまで受けてきた治療魔法が、並のものではなかったと思い知る。
「ほんのちょっとな。支障はねえ」
「なるほど~。あ、ゴブリンのグループ発見しました! 位置をマップに打っておきます!」
「仕事が早いな」
さて、まずは中級者たちの戦いを見守らなければいけない。
多摩地域……というより、関東エリアのゴブリンは今まで通り人を襲う。鹿児島のゴブリンとは氏族が違うようだ。
俺らの支配下に入ったのは、あくまで鹿児島地下に住むケル氏族のゴブリン集団。関東エリアには、オドアとはまた別系統のゴブリンが住んでおり、自由に人を襲っている……ということらしい。
まぁ、そりゃそうだ。
例えばリザードマンのカルカだって、氏族の王として君臨しているが――例えば北米地下のリザードマンまでカルカの命令に従うかって言われりゃ、イメージつかねえしな。
ここらのゴブリンもしばきまわして、マザー個体を見つけた方がいいかもしれない。
ゲゲと喧しい声を上げながら、ゴブリンの集団が近づいてくる。数は7で少し大所帯、装備は石斧だ。槍より厄介だな。
緊張した様子の蓮たちに声を掛ける。
「良い具合にほぐしてやる。連携すんな、そして連携させるな。タイマンに持ち込め」
返事を待たずに、彼らの頭上を飛び越えて前に出た。
突進に合わせ、ゴブリンが一斉に飛び掛かってくる。俺は右足を前に伸ばし、体勢を低く――踏ん張りを利かせ急停止した。
バックステップし、振り下ろされる石斧を避ける。まつげに風を感じた。
空振りしたゴブリンの背中を、別のゴブリンが飛び越える。間断なき二連撃が落ちてきた。
「これで結構死ぬんだよな。ゴブリンの群れは、対処できた意識の隙間を突いてくる。まぁ、慣れたらそれを待つようになるんだが」
飛び掛かってきたゴブリンの手首を片手で掴んだ。振り回して一度壁に叩き付けてから、後ろに放り投げる。
「誰かタイマンしとけ!」
「じゃあ俺が!!」
蓮(バカ) が元気に叫んだ。あいつ、雰囲気作りの素質はあるよな。
次に突っ込んできた奴の石斧を、柄の部分で受ける。大きな十字の鍔で手首を絡め取り、柔道の大腰の容量で放り投げた。
どんどん投げていき、全員にタイマン状態を作らせた。ラストの一匹は思いっきり腹パンして沈める。人間怖いって覚えさせておこう。
一生懸命チャンバラしている中級たち。たまに鍔迫り合いから噛み付きに持ち込まれ、躱そうとして倒れている奴とかもいる。適当に引き剥がしてやって仕切り直させた。
「どりゃああああ!!」
蓮が大声を出しながら切り掛かる。ゴブリンは一歩前進し、額で剣の根元を受け止める。
力が入らない角度、攻撃の入り口だと、剣なんてのは簡単に頭蓋骨で止まっちまう。動きを封じられた蓮のこめかみを狙い、ゴブリンが石斧を振り上げた。
小さな影が飛び込む。ユエがゴブリンの手首を肘の内側で絡め、斧の勢いを殺した。合気道のように、ゴブリンを横に投げ飛ばす。
ふん、と鼻を鳴らした。
「気を付けよ。人間と同じように、妖精共も人間の動きを見ている」
「う、す……」
蓮は目を白黒させた。
背後で見物していた探索者たちから歓声が上がる。
「すげえ!」
「ちゃんと強いじゃん!」
「やっぱ配信で見た通りだな!」
「あの体術、どこで習えるんだ? ダンジョン内に道場とかねえよな?」
「探せばありそうじゃないか。知的生物の集落や都市があるんだぞ?」
ユエは頬を赤くしながら、俺の背後に隠れた。
「照れてんのか?」
「違う。鬱陶しい!」
「ほぉ?」
面白いから放っておくか。全員がゴブリンを倒すのを見届けてから、一言添える。
「今回はゴブリンからの採取はナシだ」
「なぜですか?」
康太が訊いた。
「妖精種とは手を組めることが分かったからな。ドワーフから精霊の宿った金属の精錬方法が伝えられる日も近いだろう。それまでに、妖精種の死体から資源を得るやり方を変えていきたい」
「なるほど……。確かに、まぁそうかもしれません」
「お前らが個々の探索でやる分には止めねえ。というか、俺が止める筋合いはねえよ。ただ、俺と潜ってるときにはナシだ」
市場価値を決めるのは需要じゃねえ。どちらかと言えば、供給が大事だ。
供給があるなら、需要を減らしてもどっかで代用資源より安くなるタイミングが来る。そのときに、誰一人安いエネルギー資源に手を付けない……なんて理想を語れるほど、人類は理性的でも豊かでもない。
今、俺らはひっそりと岐路に立っているんじゃねえかな。
ダンジョンを巡り、徹底的に他種と殺し合うか、それとも手を結ぶか。あるいは、利用価値を無慈悲に研究して家畜化するか、だ。
俺が望む方に進むためには、妖精種の死体利用を減らす。
なんとなく納得してくれた空気を感じながら、俺はさらに下層への移動を開始した。