軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

215

得物がぶつかり合う金属音。新米三人組が、同数のコボルトと切り結んでいる。

「殺すなよ。少しずつ下がれ」

「は、はい!!」

彼らに出した課題は、同数のコボルトと近接格闘しながら15メートル後退すること。短時間の研修で出来るのは、それくらいになる。

探索者の大多数がこのザマだとしたら、公的な研修制度をもっと充実させるべきだ。俺が個人で小銭稼ぎしてる場合じゃねえ。

時折、隙を晒したり脚をもつれさせる奴がいれば、背後からツヴァイハンダーを差し込んで攻撃を弾いてやった。

こいつらのフワフワ感を見ていて、ふと思い出したんだよな。

俺と初めて出会ったとき、スイがトレイン相手に生き延びていたのは、偶然や奇跡なんかじゃない。

正面からの殺意に晒されながら、足下が悪い中で、それでも下がり続けたからだ。下がるのが上手い奴は死なない。

というか、下がるのって地味に高等技能なんだよな。

当たり前だが、正面に対して衝撃力を発揮するなら前進した方が良い。下がろうとすると押し込まれて体勢を崩しやすいんだ。

それを成し遂げるためには、前のめりに体重をかけながら、隙を突くように素早くバックステップを繰り返さなきゃいけねえ。

「押し負けんな、踏ん張りながら下がれ」

「どうやって!?」

へろへろと逃げようとした若者の背中を押すと、焦った声を上げた。手元が乱れる。

俺は咄嗟に、若者の顔面を貫こうとした粗末な槍を、手のひらで受け止めた。痛ってぇ。

貫かれた状態で握り締める。ざりざりと粗い刃が骨を削る感触がした。

――肉で受ける癖がついてんな。俺自身も矯正していく必要がある。

「ヒルネ、手本見せてやれ」

「あんまり経験ないです」

「器用だし出来るだろ」

槍を押し返しながらコボルトに返してやると、戸惑った顔をした。素早くヒルネが割り込んで、挑発するようにコボルトの眼前でナイフを打ち合わせる。

怒りに犬歯を剥いたコボルトが槍を連続で突いた。ヒルネは下から跳ね上げるように防御しながら、一歩ずつ下がっていく。

無我夢中で前進したコボルトは、あっという間に俺たちの集団の内側まで引き込まれた。横から回し蹴りをブチ込んで、初期位置まで吹っ飛ばしてやる。

「やっぱ上手いのな。運動神経か?」

「よく見ることじゃないですか? 踏み込んで一拍おいてから攻撃するモンスターいないですよ。みんな、ドンってしたらブンです。だから、ドンに合わせてカッてやって、後ろに下がるんです」

太○の達人じゃねえんだぞ。新米全員が顔に疑問符浮かべてるじゃねえか。

「要するに、相手の脚の動きを含めて全体を見て、攻撃されるタイミングと、相手が攻撃できないタイミングを見極めろってことだ。慣れだ、慣れ。余裕あるときに、実力的に対処可能な相手と遊んどけ」

生で動きの差を見たことで実力差を痛感したのか、新米たちは素直に頷いた。

全員分の指導を終え、金を集める。個人間の送金が分からずマゴマゴしていると、ヒルネがぱぱっと決済してくれた。

なんだよ、シェイク送金機能って。一瞬だけ流行った連絡先交換のやり方、こんなところで復活してたのかよ。

ついていけねえ……。

彼らには再びの指導を約束し、解散させた。

だいぶ問題点が見えてきた。というか、俺の感覚と協会の方針のズレかもしれねえ。

多分なんだが、そもそも協会は単身でゴリゴリ下層へ潜っていく奴らを育成しようとしていない。

ちゃんと法律を遵守し、配信に映って問題のない行動をとり、入会金と供託金をしっかり払って、趣味の範囲で人類に益のあるモノを持ち帰る民間人を欲しているだけだ。

高い能力と向上心に、探究心を兼ね備えた奴らは、資本主義と人気商売の競争をしていく中で勝手に生えてくる。それのサポートさえすればいい。みたいな空気があるな。

生存能力や戦闘力に関しては、設備投資やルート構築、マップ機能なんかを駆使することで、外的にサポートする。

強大な敵は自衛隊だったり上位の探索者が倒し、下位の探索者が掃除するように成果物を拾い集める。

そんな感じで、ダンジョン産の資源を集める方針かもしれない。知らねえけど。

生身の強さみたいなものを信用していないやり方だ。

好きか嫌いかで言えば嫌いだが、合理的ではある。だが……。

「最近のダンジョンはデータがアテにならねえ。ああいうのが潜ってたら、不意の事故で大量に死ぬと思うんだがなぁ」

「相変わらず斥候職ぜんぜんいませんでした~。あれじゃ、敵の接近にも気づけないですよ。めっちゃ頑張ってるのに、まだ地味扱いされてるの納得できないです!」

ヒルネが拳を振り上げる。

ヒルネの配信も視聴者が多いはずなのに、斥候希望は少ないらしい。藪に潜り物陰に潜み、単独で行動範囲を広げる仕事だ。リスクが高いのに目立たないからな……。

ユエが難しい顔で口を開く。

「斥候含めた底上げは急務かもしれん。王を慕って集まった者達だ。いざいざというときは、彼らが兵だぞ」

「うわ、それめっちゃ嫌だな。ああいうのに命懸けさせたくねえぞ」

「ダンジョンが上からも繋がれば、誰もが戦う時代になるぞ」

「あんま考えたくなかったやつ、思い出させんなって」

そうなんだよな。

地球が地下階層になるかもしれない問題、全く解決していない。

ダンジョンからの解放が間に合うならいいが、そうならない可能性だってある。いざというときの備えはあった方が良い。

ただ、全員を俺たちで指導できるわけじゃあない。

「底上げを意識するならば、この後に教える連中は、指導者としても育てた方が良いであろうな」

俺はユエの言葉に頷いた。まだ血が流れ続けている手で、タオルを強く握り止血する。回復魔法使える奴がいたら治してもらおう……。