作品タイトル不明
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週末の昼。井の頭入口まで来た俺は、ようやく言葉の意味を理解した。
建物内に収まらなかった探索者の列が、道路まで溢れて伸びている。ウソだろおい。大規模遠征とかいうレベルじゃねぇぞ。
「あっちゃあ、すっごい数ですね〜。クランの大規模遠征みたいです!」
「いくらなんでも多すぎる。コメントより明らかに増えてるだろ」
「まぁ、他のSNSでもトレンドに入ってましたからね〜」
さらりと、とんでもないことを言われた。
なんで探索者にモノ教えるだけでトレンド入りしてんだよ。つーか、多摩支部の管轄エリアに、こんなに多くの探索者がいるって本当かよ。
ユエがやれやれと首を振った。
「無計画に人を呼ぶとこうなる。自分の影響力を理解していないのだな」
「分かってたなら教えてくれよ」
「痛い目を見た方が良い。勢いでなんでもかんでも、どうにかしてきたツケだ」
「ぐう」
人には得手不得手がある。何かと思い知らされるな。
列の最後尾にいた若い男女が俺たちに気がついた。芸能人でも見たように目を輝かせ、「ナガだ!!」と大きな声を上げる。一気に大量の視線が向けられた。
チャラついた男の頭を引っ叩く。
「ナガだ、じゃねえよ。俺とお前は友達じゃねえ」
次々と向けられるスマートウォッチ。カメラ機能で撮影しているんだろうが、麻酔針撃たれそうで少しひやひやする。
列から離れた三人組の男性が、にこやかに寄ってきた。全員三〇代くらいで、日焼けして体力がありそうだ。ただ、ダンジョン探索をなんだと思っているのか、スーツとコートを身につけている。
「初めまして! ウェブメディアのデイリーNPPDCと申します!」
「すごい人集りが出来ています。今回の企画を立ち上げられた理由などお聞かせ願えますか!?」
思わず舌打ちが漏れた。ダル過ぎる。
参加者のフリをしてメディア関係者も混ざっていやがったか。これは、探索者以外の野次馬もかなり入り込んでいそうだ。
「趣旨はダンジョン内で話す。これだけの人数、さっさと捌かないと周りの迷惑だろ。邪魔すんな。あと、メディアは着いてきても構わんが、命の保証はしねえ。その格好でダンジョンから生きて帰れると思うなら好きにしろ」
向けられたカメラとマイクを手で払いのけた。
「ふわぁ、迷惑の種は自分なんですけどね~」
「ヒルネ……」
なんか俺への対応がどんどん悪くなっている気がする。ツッコミに遠慮がない。優しくしてくれ、やっちまった自覚はあんだよ。
列の横を進みながら、目に付いた奴の肩を叩いていく。
「おい、お前は帰れ」
ぴたぴたのジャージを着た、マイルドヤンキーみたいな若者だ。眉間に皺を寄せ、威嚇するような表情をしてから、慌てた様子で顔を戻した。反射的にオラついたが、ちゃんと相手を見られるようだ。
「なんすか。動きやすい格好ですし、武器は鉄パイプすけど、魔法使えます」
「魔法使いならなおさらだ。化学繊維に引火したら、ダンジョン内じゃ簡単に消せねえぞ。その服なら溶けた繊維がへばりついてネチネチ燃える」
「あーーーー……。っす。すぐに買い直してきたらいいっすか?」
「資格あんだな? 間に合わせろよ」
若者は脇目もふらず、建物の中へと走り出す。井の頭入り口内にある、探索者向けの商業施設に行ったのだろう。
思わず溜息が出た。
「なんつーか……やっぱ探索ってナメられがちなのか? 散々死人が出るところ流れてるよな?」
ヒルネが頭の後ろで手を組みながら、ふらふらと歩く。
「あんな感じですよ。ふつーです。海にライフジャケット着て遊びに行くひとなんていないじゃないですか」
「それにしてもだろ……」
命が軽いのか重いのかわっかんねえな。やっぱ、我が身に刃が刺さって初めて理解出来るもんなのか?
一旦全員ぶん殴って、半殺しにした方が実感持てるかもしれねえな。
「王よ、顔がひどいが……田辺巡査部長にあまり迷惑をかけるなよ」
「田辺ね。最近会ってねえな。会わないに限るんだけどな」
下らない話をしつつも、装備不十分な奴や、爪が長い奴なんかを追い払っていった。列がどんどん短くなり、建物の中に収まるくらいにまで減る。
「わざわざ岐阜から来たのに!」とか騒いでいる奴もいた。長旅ご苦労。冷たくなるよりマシだろうが。
ちょっと侮りすぎだ。
俺の配信を見ている視聴者でもこのザマか。
出会ったばかりのスイたちですら注目されていたというのが、ハッキリ理解できる。戦闘力とか華やかさ以前の問題だ。
不思議だ。冒険者の方が、頭も悪ければ性格も終わってた。先々のことなんて考えられない奴ばっかりだったのに、危機感はしっかりしていた気がする。
アレかもな。
協会のルール化、マップ機能による探索ルートの固定化、拠点と出入り口を多数の探索者が往復する。
この積み重ねによって、浅い層だけうろちょろしてる探索者は、本当の命の危険に晒されることが減ったのかもしれねえ。
少しだけやり方を工夫しなけりゃいけない。
戦い方、潜り方、生き延び方ではなく……死に方から教えるべきだ。