作品タイトル不明
212
人生ってなんなんだろうな。いや、マジで。
ついこの前まで、亜神と呼ばれる存在とバチバチに殺し合って、訳の分からないうちに国を割るような騒ぎになっていたはずだ。だというのに――。
ホログラム越しに、エプロンをつけたオッサンが額に汗を浮かべながら言う。
『ええと、大変申し上げにくいのですが、不採用ということで……』
「待てやオラ。なんでだよ!」
『そういうところです! 配信でも存じてます! 永野さん、あなたは致命的に接客業に向いてません!!』
ぶつり、と通話が切れた。逃げやがった!
苛立ちをぶつけるように、自分の膝を殴りつける。いってぇ。
きゅっきゅっとスリッパを鳴らしながら、ユエがリビングに入ってきた。呆れた顔で言う。
「まだ諦めてないのか、王。今さらアルバイトなんてしてどうなる」
「お前は王様だったんだろ。庶民の気持ちが分かるかよ」
「自分とて王だろうに」
「違う。違うんだ。王だなんだと呼ばれちゃいるが……俺は国に税金を納めなきゃならねえんだよ」
冬の風物詩、納税である。
去年までの俺は非課税も非課税、半分死人みたいな扱いだったが、今年は違う。めちゃくちゃ稼いでしまった。
だというのに、遠征費用だの妖精種の保護だの、様々な理由で金がバンバン飛び出した。恐ろしいことに、そのうち2割しか経費として認めて貰えなかったのだ。
どうやったのか知らんが、スイやトウカは申告した大半が経費として通ったらしい。差別である。ヒルネから確定申告の話が全く出てこないのが少し怖い。ちゃんとやってんのか?
「まずい。マジで金がねえ」
好き放題暴れる俺を拘束するためのやり口かもな。
キャッシュが足りてない個人事業主なんてのは、経費の申告が認められなかっただけで、簡単に罪人になっちまう。
「手っ取り早く金を用意しなきゃ……金のあるやつ……」
唸っていると、頭の中にとある人物の顔が思い浮かんだ。丁度良さそうなのがいる。すぐさま電話をかけた。
『今度はなんだァ……』
メガネだ。こいつは悪人だ。悪人ということは金持ちだ。古今東西、そういう風に決まっている。
「金、貸してくれ」
『じゃァな』
「待ってくれ。本当にマズいんだ。税金が」
『こちとらァ、拠点運営にだいぶ身銭切ってるゥ。これ以上出せる金はねェ。あと、シャベル担いだ不審者が勝手に拠点の飯食うの、どうにかしろォ!!』
「野生個体だ。気にすんな」
どうせアホみたいな大所帯になってるんだ。細かいことは気にしないで欲しい。
『ナガァ、てめェも野生個体みたいなモンだろォ。ダンジョンにでも逃げ込めば良いんじゃねェか?』
「追徴課税怖すぎる。つーか割と酒税払ってんだから、その分くらい控除しろやクソが」
『ともかく、出せる金はねェ。自分でなんとかしろや。大人だろうがァ』
「ぐう」
どうにかぐうの音が出た。
ダンジョン探索は金になるが、成果物に対しての入金が遅い。長いと二ヶ月くらい平気でかかる。終わってやがる。
通話を切られ、床にひっくり返った。
「山里は絶対他人に金貸さないだろうしな。参った」
「スイやトウカに借りれば良いではないか」
「上から目線で説教垂れてるオッサンが女子高生から金借りるのは、情け無すぎてレ・ミゼラブルだろ。教会の燭台でも盗むか?」
「下らんことを言うな。配信の視聴者から借りてはどうだ?」
「得体の知れない相手に借りを作りたくねぇ」
「駄々こねよって。ちゃんと対価になるものを用意して、正当なサービスを提供すれば良いではないか」
思わず考え込む。確かにそうだ。
「ダンジョン探索の講習会でも開けば良いのではないか? 即金で支払って貰えば良い」
「天才か? 亀の甲すぎる」
「殺す」
両手を振り回し殴りかかってくるユエの頭を片手で押さえた。空振りパンチが扇風機みたいだ。
頭の中で流れを組み立てていく。
信用できない飛び込みの参加者を連れて、ダンジョン内で野営はしたくねえな。
初心者は日帰りにして、中級者は15層の拠点周辺で実習。上級者はエルフの里を拠点に、深層の探索実習みたいな形が良さそうだ。
ついでに深層で収集すれば、幾らかの小遣い稼ぎにもなる。
パーティーのグループチャットに連絡を回したところ、スイからは「良いんじゃない?」とシンプルな返事が来た。トウカからも「頑張ってください」と遠回しに不参加の返事。唯一ヒルネからは「楽しそうなので行きますね~」と来た。
興味深そうに覗いていたユエが言う。
「良かったではないか。女の子がいるだけで参加者が増える」
「現代社会に詳しすぎだろ。そこまで考えてなかったわ」
ユエは呆れた顔をした。最近は俺に向ける表情のデフォルトが呆れ顔になっている気がする。
ともあれ、ヒルネの参加はありがたい。
集団が大きくなったときに、一番最初に出てくる問題が斥候の不足だ。拾わなきゃいけない情報が増えるからな。
早速配信で告知をした。
初心者は参加費5000円で、中級者2万、上級者は5万。かなり強気で価格設定をしたつもりだったが、想定よりも遙かに多く参加希望のコメントがあった。
「おいおい、これ一撃で納税完了するんじゃねえのか?」
「そう上手くはいかないのが人生だぞ、王よ」
アーカイブからコメントの流れを見返しながら、ユエが意味深なことを言う。
「どういうことだよ」
「人を集めて企画する経験はないであろう。まぁ、やってみればわかる」