軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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自衛隊によるダンジョン攻略は、想像を遙かに超える機敏さで進んだ。

偵察用のドローンを先行して飛ばし、曲がり角も分岐路もクリアリングしていく。安全が確保されればすぐに進んで通路を確保。ピクシーが潜んでいれば、セミオートのショットガンとポリカーボネートの盾を装備した隊員が突入し、一気に蹴散らした。

地下に作られたドワーフの坑道という地形が、ピクシーの逃げ場を奪っている。自衛隊は有利に立ち回れていた。

「楽なモンだ……」

あっという間に辿り着いた地下都市を前に、小松が悔しさの滲む声で呟いた。

小松は全身が筋肉痛なのか、湿布のメンソール臭が凄まじい。それでも流石の健脚ぶりで、自衛隊のうしろをひょいひょいと歩いていた。

「やっぱ銃は強いな。持ち込める火力に制限があるっつっても、剣や弓の比じゃねぇな」

俺も肩をすくめた。

自衛隊じゃ世界樹を倒せないと大見得を切ったはいいが、軍人と戦うのはノーサンキューだ。勝ち目がねえ。

小松の握りこぶしが目に入る。小さく震えていた。

「悔しいか?」

「当たり前だ。最初から自衛隊が投入されていれば……!」

「まぁ、そうだよな」

小松以外にも、同行している隊士たちが殺気立っているような気がした。

仕方ねえよな。今更だし、目の前の隊員達に罪はねえが、怒りはこみ上げちまうよな。

これを口にすれば火に油を注ぐから言わねえが……東京都の人狼事件では、自衛隊の展開が早かった。国がダンジョンに慣れたことや法整備が進んだこともあるが、やっぱり見捨てられた感が拭えない。

「現場に罪はねぇ。戦う相手じゃねえぞ」

「……わかってんだわ」

俺は小松の背中を叩いた。腹の底に溜まった重たい空気を吐き出し、歩き出す。

地下都市は酷い有様だった。崩落が広がり、その大部分が瓦礫に埋もれてしまっている。記憶通りの姿をしているのは、逆に世界樹があった周辺だけ。

先に世界樹がすっぽ抜けて落ちてきたから、それ以上崩れるものが残っていなかったのだろう。

「これが……亜神のサイズ感……」

俺の前にいた自衛隊員が絶句した。

巨大な世界樹の残骸に、誰もが目を奪われていた。巨大な根や枝がうねった状態で固まり、戦った当時の躍動感が伝わってくる。

「我ながら、よく勝てたなぁ」

「例のハンマー、ちゃんと回収しておけよ」

「そりゃ、まぁ」

のんびりと話す俺らを振り返った隊員の顔が引き攣っていた。

地上と大穴で繋がったおかげか、それとも戦の炎が消えたおかげか、空気がひんやりと冷たい。

ぶんぶん飛び回るピクシーを撃つ銃声が散発的に鳴る中で、手分けして遺体を回収していく。幸いにも、ほとんどが腐敗していなかった。

瀕死の生存者がピクシーにやられたらしく、ちらほらと樹木化した妖精達が瓦礫から這い出てくる。

自衛隊員がどれだけ銃弾を叩き込んでも小揺るぎもしないそれらを、薩摩クラン隊士は軽々と両断していた。

「……相性もある、か」

小松が苦笑する。俺も思わず笑ってしまった。

「良かったじゃねえか。やっぱ戦ってきた意味はあんだよ、色んな意味でな」

捜索できる範囲全ての遺体と遺品を、自衛隊の輸送用ドローンに積み込んだ。

最後に、可能な限り回収した世界樹の種を、俺が打ち壊した切り株の抉れた部分に放り込む。口を開けた灯油のポリタンクを上から投げ込んで、火を付けた。

轟々と真っ赤な炎と黒い煙が立ち上る。

何かに使えるかもしれないと思うと勿体ないが、繊維の1本でも線虫みたいな挙動をする世界樹だ。燃やせるモンは全部燃やしちまった方が良い。

ドワーフ王の戦槌を発見し、持ち上げようとした。が、重い。どれだけ力を込めても、ちょっと柄の方が持ち上がるだけだ。

世界樹の苗が衰弱しているせいで、力が普通の人間相応になっちまっている。

舌打ちをし、改めて柄を握りなおした。

体の中で丸い形をとっている気配のひとつに意識を向け、全身に行き渡らせる。オークの力だ。

ようやく持ち上がった戦槌を肩に担いだ。

「よっしゃ、帰るぞ」

「王よ。あれを見よ」

付き添いで来ていたユエが、俺の袖を引っ張る。彼女が指さしたのは、世界樹表面に浮かび上がっていたドワーフ王の顔だった。

かつては苦悶と怒りに歪んでいたはずのそれが、穏やかに眠るような顔つきに変わっている。

「……ちゃんと死んだ、か」

「良かったではないか。決着がついて、肩の荷が下りたのではないか?」

「そうだな。だいたい全て、決着がついたか」

右手で十三式対熊戦槌を持ち、左手でユエを抱え上げた。

ドワーフ王が死んだ。それはつまり、どこかでまた新たな王が生まれることを意味する。

石から生まれ、知恵も無く彷徨って食われるだけの種族だった彼らが、知恵と言葉を取り戻す日も近い。

地上に戻された遺体は、合同葬儀を執り行った後、希望する家族がいれば家族のもとへ帰らせることとなった。

引き取り手がいない一部は、薩摩クランが提携している菩提寺で弔われることに。

妖精種の遺体の取り扱いについては、それぞれに委ねることにした。

地下での戦いから三週間が経った。

あらゆることが落ち着きつつある。

「なぁ、ドルメン。これマジで貰って良いのか?」

ダンジョン入り口前。俺はドワーフとコボルトの見送りに来ていた。

エリザベスカラーを首と手につけられたコボルトの群れは、ダンジョンに早く戻りたいのか、階段をうろちょろしている。ドワーフ達が宥めるように、捕まえたり撫でたりしていた。

戦場跡地である地下都市に戻るというドルメンに、ドワーフ王の戦槌を見せる。

『そのように在るべきだ。その戦槌は、最前線を駆ける者に相応しい。壊れるまで使い込んでやるといい』

熱風を浴びてすっかりヒゲが短くなったドワーフ達が、陽気に笑った。

「そうか、悪いな」

ちょっと助かる。正直、亜神クラスと戦うなら火力が不安になってきたところだ。

『何もかも片付いたら、メガネという男が運営している集落とやらに行くつもりだ。埋められた諸々を掘り返すのはもちろん、世界樹を焼いていく者も必要だろう。任せてくれ』

ドルメン達は治りかけの傷特有の生臭さを漂わせながら、それでも溌剌とした様子だった。

失う物の多い戦いだったが、未来がある。

「楽しみにしてるぞ。メガネって奴は、どんな無茶でも叶える力がある。存分に頼ると良いさ」

『ありがたい』

固く握手を交わすと、彼らはダンジョンの中へと潜っていった。

下り階段を降りていく背中は、探索者のそれとほとんど変わらない。

やることだらけの後始末のうち、ようやく1個に区切りがついた安心感から、大きく背伸びをした。

あと残っているのは……変な奴ら全員を引き取って、メガネか山里に押しつけるだけだな。楽勝だろ。