軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

209

わずか二日。

俺達がダンジョンから凱旋し配信をした日から、自衛隊の災害派遣が決定されるまでの期間だ。

なんかよく分らねえが、知事が入院したらしい。変なことが起きてるな?

この短い時間で、薩摩クラン拠点はかなり様変わりしていた。

まず、出入りしている人の数が増えた。各所で忙しなく市民が動き回り、物資や料理を運んだりしている。

拠点すぐ近くの空き地には簡易な倉庫が建てられ、トラックやフォークリフトが動き回っていた。

ざっと眺めただけで、数百人が集まってくれていた。

複数の病院や動物病院が協力し、負傷した探索者やモンスターの治療もしてくれている。ついでとばかりに、研究者達まで顔を出していた。

モンスターの生態や体内の構造には未知の部分が多い。研究者の参戦は、正直嬉しい。今のところ、簡単な外科処置以外は魔法で治すしかねえからな。

ダンジョン入り口前に設営されたプレハブ内で、達磨ストーブに手をかざす。無いよりはマシだが、寒いもんは寒いな。

「うぅ、薄着は体が冷える」

ユエがしゃがみ、出来るだけストーブの恩恵を受けるように縮こまる。来たときは日光を浴びないように全身ぐるぐる巻きだったのが、世界樹の影響が薄まったことにより、普通にアウターを羽織れるようになっていた。

すっかり元気になったようで何よりだ。

「結局、お前さんの言う消耗ってなんなんだ?」

「王も理解が深まってきたようだからな、そろそろ言って分かることだろう。要するに、精霊が疲弊してやる気を失った状態だ」

「ほーん。なんか、魔法生物とかアンデッドがどうだかとか言ってたよな。あのへん、全く理解してねえんだ」

スケルトンには聖剣が効くが、ユエには聖剣は効かなかった。その辺の違いが、未だにあんまり分かっていない。

「話していないものは知りようがない」

ユエはふふっと息を漏らした。

小さな手の甲がピンク色だ。温めすぎじゃないか?

「ノーライフキングというのは、王の一種だ。それ以前の種族は関係がない。ダンジョンでの王を戴く集団が、王だけ残して一人残らず死んだ後に、王本人まで死ぬと誕生する」

「なんとなく、アンデッドの王として理解しやすいモンだな」

「そうであろうな」

ユエの国の民は、最後の一人までユエを守ろうと戦い、命を落としたんだったか。ガチで一人残らず戦ったんだな。

「ノーライフキングを動かすのは、王権に宿る精霊だ。それに対し、アンデッドは魔法で動く死体だ」

「精霊と魔法に違いがあんのか?」

イマイチ分からん。精霊があれこれすんのが魔法だよな?

ユエは呆れたように溜息をついた。おい。

「複雑なものを、単純なものに例えてやろう。王権の精霊が銃で、魔法は発射された弾丸だ。ノーライフキングは全身に銃を纏っている存在。アンデッドは撃ち出された弾が当たり、吹っ飛ばされて転がっているだけの状態だ」

「分かるような分からねえような」

本体と、切り離された結果。みたいなふわっとした認識だけ出来た。

聖剣は魔法を打ち払うが、魔法を行使する本体である精霊を打ち払うわけじゃないから、ユエには効果が無い。って感じか。

「まぁ、おいおい理解は深まっていくことであろう。精霊は力を行使すれば、消耗する。魔法を無闇矢鱈と連発できないのと同じだ」

「あぁ、魔力だとか言われる概念な。精霊の元気ゲージみてぇなもんだったのか」

「それくらいのイメージが出来ていればよい」

ユエは褒めるような目で俺を見ながら、ゆっくり頷いた。なんか先生みたいだ。

「ってことはだ。ユエの場合は、王権の精霊がついているワケだろ? 王権を集めりゃ強化されんのか?」

「もちろん。出力も持久力も上がる」

「なるほどなぁ……」

たぶんユエは、俺達と戦ったときに還らぬ城を破壊され、王権を支える「民」を全て失ったのだろう。まさに言葉通りの流浪の王になった。

それで消耗した力の回復が著しく遅い。

それで良いと思っているんだろうな。

ユエは諦めた者特有の、穏やかな顔をしている。子どもの外見に似つかわしくない表情だ。

巨木の森という俺らにとって有利なフィールドで戦い、それでも百単位の犠牲を生み出した難敵ノーライフキング。

ユエは賢い。自分が本気を出したときの脅威度を知っているからこそ、アンデッド軍の再建を望まない。非力なまま本気で戦いに貢献することで、丁寧に居場所を守っている。

――そろそろ、信用していることを俺も示すべきだろうかね。

妖精種たちを味方として地上に引き入れているんだ。付き合いの長くなってきたユエが、いつまでも外様感覚でいるのは違ぇよな。

「また還らぬ城使えるくらいに、戦力整え直していくぞ。うちのチームを支える王の一人として、期待してる」

俺はユエの肩をぽんと叩き、パイプ椅子から立ち上がった。

ユエは目を丸くして俺を見上げる。

「さて、自衛隊が来たようだな。遺体回収は願ったりだが……世界樹に余計な手出しをさせるワケにはいかねえ。特に種だな。ウチで全部押さえるために、動ける奴らかき集めるぞ」

スマートウォッチの通知を見ながら言うと、ユエは無言で頷いた。

「ここでの苦労もあと少しだ。やりきるぞ」