軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

204

「親父……」

男が細い声を漏らした。掠れ、絞まった声だ。

総長の息子さんか。

話を聞いた感じでは、事故があったのは相当前のようだが……まだ足は治っていないみたいだな。顔にも苦労が窺える。積年の思いは塊になり、簡単に言葉に変えられないだろう。

総長はちらりと顔を見ると、再び目を閉じた。

仕方ねえな。

俺は息子さんの肩を軽く叩いた。

「よお。悪いな、あのジジイ疲れてんだ。ついさっきまで、亜神を斬ってたんだ」

「あ、ああ。どうも……」

「刀も取り上げてる。そこのゴブリン――オドアは言葉が通じるし、お前の親父よりよっぽど理性的だ。薩摩クランの宿舎でゆっくりしてるといい。目を覚ましたら、話をするといいさ」

息子さんは戸惑った様子で頷いた。

「探索者と違って忙しいかもしれねえけどよ。時間を掛けるといいぞ。寝顔でも眺めているうちに、言葉が見つかるかもしれねえからな」

再会しました、親父の頑張りを知りました、和解しました。

そんなハッピーエンドは簡単に訪れない。んなこと、見る前から分かってんだ。

ただ、息子さんがわざわざ会いに来るってことは、ハッピーエンドを目指す気持ちがあるってことだろ。

冷静で忍耐強く、我を出してこない――そして、総長を止められる力を持つオドアがいれば、ますます安心ってな。

……なんで、ゴブリンが人間より冷静なんだ?

頭を軽く振って、気づいてはいけない疑問を振り払うと、俺は彼らの背中を押して送り出した。

「ねぇねぇ、ナガさん。これどうしますー?」

ヒルネが連れているドローンのコンテナから、十数匹の猫が顔を覗かせていた。

「うわ、これ全部ケットシーか?」

コンテナを覗くと、一斉に猫パンチが飛んでくる。やめろ。

だいたい30匹くらい入ってるな。

「これだけじゃないです。まだまだいます」

嘘だろオイ。つーかこいつら、現時点では普通の猫と知能も変わらんだろ。ほっとけば逃げ出して野良になっちまうんじゃねえか?

「とりあえず、どこでもいいから屋内に閉じ込めとけ。誰かに車出して貰って、近くの街からペット用品買って回ろう」

「分かりました~」

ヒルネは元気よく手を上げた。

長期間の戦闘明けでも、やるべきことを把握して実行できる。仲間達も、いつの間にかベテランの風格がついてきた気がする。

「あ、大変だろうが、できるだけ広範囲から集めるんだ。まずは一週間分くらいでいい。追加はまた後日確保するぞ」

「地元の人が困っちゃいますもんね」

「賢いな」

支持を集めることで、身動きが取りやすくなっている。民主主義の国で、人々の好感度というのはめちゃくちゃデカい。

モンスターの大量連れ出しに対して、行政が否定的な対応をしてこない――良くも悪くも静観しているのは、恐らく俺らの好感度が高いからだ。

本当は制止したいに決まっている。

だが、地元警察だけでは対応しきれない戦力を有し、日本中の注目を浴び、行動を支持されて実際に支援者が集まってるんだ。

だからこそ、意味なく周りに迷惑を掛けてはいけない。

――なるほどな。これが社会か。

「……若いの。そろそろ後列が来る」

「ああ、そうか。薩摩クランには、モンスターの治療施設……特にアラクネの見張りを頼みたいが、いけるか?」

「仕事が多いな。だが、その大仕事をこなせるのがクランだわな」

小松は鞘に収めた刀を地面に突き、杖のように寄りかかった。おい。

「侍の魂みたいなモンじゃねえのか?」

「あん? ンなもん、刀で殺し合いしてねえ時代の考え方だろ。武器は消耗品だぞ。今回の戦いでどんだけ斬ったと思ってやがる。変に使い回せば大事なときに折れる。こいつもスクラップ屋に送る」

「妙なところ合理的なんだな」

「アスリートと同じよ。世界一速く100メートル走りたい、なんざ馬鹿げた考えだが、練習も道具も食事も、合理を極めた奴が勝つ。わはは」

改めて、この地の奴らはちょっと変わっている。肩をすくめた。

軽傷者と殿の部隊が来たことで、あたりは一気に騒がしさを増した。

「寝るな、まだ終わってねえぞ! 寝るなよ!」

小松が檄を飛ばし、軽傷者達はぞろぞろと移動していく。

「ナガ! 協会本部から連絡きた!」

ユエを抱えたスイがスマートウォッチのホログラムを見せてきた。字が小さくて読めん。片目負傷した疲労困憊おじさんだぞ。

「読めねえが……文句言うなら殺すぞって伝えといてくれ」

これが社会だ!

スイは呆れた顔をした。

「言うわけないでしょ。モンスターの治療も出来るように、治癒魔法を使える探索者に広く依頼を飛ばしてくれてるみたい」

「助かる! つーかあのケチな協会がよく予算下ろしたな」

「お母さんの会社が支払うって表明したみたい。複数の企業が乗っかる見込みらしいけど」

「朱さんか。また御礼することが増えたな」

今後、ダンジョン関連の成果で俺達に勝る者はいなくなるだろう。

隼人みたいな単身で強い奴とも協力し、国内最大の薩摩クランと深い関係にあり、関東最大の牡羊の会は傘下に入った。

そして聖剣の勇者山里さんと仲良しで、複数のモンスターの王となり、深層に拠点を持っている。

ダンジョン関連の産業をやるなら、絶対に目を逸らせない存在になった。

朱さんが率先して投資したことによって、背を追うように複数の企業が投資してくることだろう。

「好機だ、スイ。遺体の回収に、世界樹残骸の始末、ピクシー残党の討伐も残ってる。行政を味方に付けるぞ。具体的な動きを強要し、前例を作らせる!」

「悪い顔してるけど。何するつもり?」

「そりゃあ、配信に決まってる」

俺達は、ダンジョン配信者だろ?