作品タイトル不明
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「親父……」
男が細い声を漏らした。掠れ、絞まった声だ。
総長の息子さんか。
話を聞いた感じでは、事故があったのは相当前のようだが……まだ足は治っていないみたいだな。顔にも苦労が窺える。積年の思いは塊になり、簡単に言葉に変えられないだろう。
総長はちらりと顔を見ると、再び目を閉じた。
仕方ねえな。
俺は息子さんの肩を軽く叩いた。
「よお。悪いな、あのジジイ疲れてんだ。ついさっきまで、亜神を斬ってたんだ」
「あ、ああ。どうも……」
「刀も取り上げてる。そこのゴブリン――オドアは言葉が通じるし、お前の親父よりよっぽど理性的だ。薩摩クランの宿舎でゆっくりしてるといい。目を覚ましたら、話をするといいさ」
息子さんは戸惑った様子で頷いた。
「探索者と違って忙しいかもしれねえけどよ。時間を掛けるといいぞ。寝顔でも眺めているうちに、言葉が見つかるかもしれねえからな」
再会しました、親父の頑張りを知りました、和解しました。
そんなハッピーエンドは簡単に訪れない。んなこと、見る前から分かってんだ。
ただ、息子さんがわざわざ会いに来るってことは、ハッピーエンドを目指す気持ちがあるってことだろ。
冷静で忍耐強く、我を出してこない――そして、総長を止められる力を持つオドアがいれば、ますます安心ってな。
……なんで、ゴブリンが人間より冷静なんだ?
頭を軽く振って、気づいてはいけない疑問を振り払うと、俺は彼らの背中を押して送り出した。
「ねぇねぇ、ナガさん。これどうしますー?」
ヒルネが連れているドローンのコンテナから、十数匹の猫が顔を覗かせていた。
「うわ、これ全部ケットシーか?」
コンテナを覗くと、一斉に猫パンチが飛んでくる。やめろ。
だいたい30匹くらい入ってるな。
「これだけじゃないです。まだまだいます」
嘘だろオイ。つーかこいつら、現時点では普通の猫と知能も変わらんだろ。ほっとけば逃げ出して野良になっちまうんじゃねえか?
「とりあえず、どこでもいいから屋内に閉じ込めとけ。誰かに車出して貰って、近くの街からペット用品買って回ろう」
「分かりました~」
ヒルネは元気よく手を上げた。
長期間の戦闘明けでも、やるべきことを把握して実行できる。仲間達も、いつの間にかベテランの風格がついてきた気がする。
「あ、大変だろうが、できるだけ広範囲から集めるんだ。まずは一週間分くらいでいい。追加はまた後日確保するぞ」
「地元の人が困っちゃいますもんね」
「賢いな」
支持を集めることで、身動きが取りやすくなっている。民主主義の国で、人々の好感度というのはめちゃくちゃデカい。
モンスターの大量連れ出しに対して、行政が否定的な対応をしてこない――良くも悪くも静観しているのは、恐らく俺らの好感度が高いからだ。
本当は制止したいに決まっている。
だが、地元警察だけでは対応しきれない戦力を有し、日本中の注目を浴び、行動を支持されて実際に支援者が集まってるんだ。
だからこそ、意味なく周りに迷惑を掛けてはいけない。
――なるほどな。これが社会か。
「……若いの。そろそろ後列が来る」
「ああ、そうか。薩摩クランには、モンスターの治療施設……特にアラクネの見張りを頼みたいが、いけるか?」
「仕事が多いな。だが、その大仕事をこなせるのがクランだわな」
小松は鞘に収めた刀を地面に突き、杖のように寄りかかった。おい。
「侍の魂みたいなモンじゃねえのか?」
「あん? ンなもん、刀で殺し合いしてねえ時代の考え方だろ。武器は消耗品だぞ。今回の戦いでどんだけ斬ったと思ってやがる。変に使い回せば大事なときに折れる。こいつもスクラップ屋に送る」
「妙なところ合理的なんだな」
「アスリートと同じよ。世界一速く100メートル走りたい、なんざ馬鹿げた考えだが、練習も道具も食事も、合理を極めた奴が勝つ。わはは」
改めて、この地の奴らはちょっと変わっている。肩をすくめた。
軽傷者と殿の部隊が来たことで、あたりは一気に騒がしさを増した。
「寝るな、まだ終わってねえぞ! 寝るなよ!」
小松が檄を飛ばし、軽傷者達はぞろぞろと移動していく。
「ナガ! 協会本部から連絡きた!」
ユエを抱えたスイがスマートウォッチのホログラムを見せてきた。字が小さくて読めん。片目負傷した疲労困憊おじさんだぞ。
「読めねえが……文句言うなら殺すぞって伝えといてくれ」
これが社会だ!
スイは呆れた顔をした。
「言うわけないでしょ。モンスターの治療も出来るように、治癒魔法を使える探索者に広く依頼を飛ばしてくれてるみたい」
「助かる! つーかあのケチな協会がよく予算下ろしたな」
「お母さんの会社が支払うって表明したみたい。複数の企業が乗っかる見込みらしいけど」
「朱さんか。また御礼することが増えたな」
今後、ダンジョン関連の成果で俺達に勝る者はいなくなるだろう。
隼人みたいな単身で強い奴とも協力し、国内最大の薩摩クランと深い関係にあり、関東最大の牡羊の会は傘下に入った。
そして聖剣の勇者山里さんと仲良しで、複数のモンスターの王となり、深層に拠点を持っている。
ダンジョン関連の産業をやるなら、絶対に目を逸らせない存在になった。
朱さんが率先して投資したことによって、背を追うように複数の企業が投資してくることだろう。
「好機だ、スイ。遺体の回収に、世界樹残骸の始末、ピクシー残党の討伐も残ってる。行政を味方に付けるぞ。具体的な動きを強要し、前例を作らせる!」
「悪い顔してるけど。何するつもり?」
「そりゃあ、配信に決まってる」
俺達は、ダンジョン配信者だろ?