軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

194

「で、どこをどう壊すつもり? あんたのバカみたいな大剣でも、世界樹からすれば蚊の針みたいなものでしょ」

柚子が眉間にしわを寄せた。

非現実的な規模の敵を前にして、難しい顔をしている。それでも「無理」とは口にしないあたり、よく出来た子だ。

「大木を倒すってんなら、ただ叩けば良いってモンじゃねえな。くさび形に切り込みを入れて、反対側からブッ叩くべきだ」

でっかい樹を切断して倒すというのは現実的じゃない。力学的に負荷をかけて、へし折るイメージで刃を入れていくべきだ。

あれだけ太い幹だもんな。生半可な切り口では倒れるどころか、小揺るぎもしないだろう。

「儂が抉るかのう……」

東郷総長の刀には血も脂も付いていない。研いだばかりのように輝く刀身は、周囲の景色を映す鏡みたいだ。

「じゃあ、そこ爆破してみるよ」

「私が運ぶことになりそう」

話がトントン拍子に進んでいく。

「倒すなら横向きだな。総長、スイ、柚子は左側へ。俺は右から叩く」

あとは世界樹をへし折るだけの衝撃力を、どうやって生み出すかだ。

アゴに指を当てた俺の前に、どんと音を立てて巨大な戦槌が置かれた。

頭の部分がリボルバー拳銃に良く似ているそれは、十三式対熊戦槌だ。今まさに世界樹と化したあのドワーフ王が、ウェンカムイを撃退した武器。

『この武器は、矮小な存在の逆襲だ。神格に至った者を、地道な技術の研鑽と、繰り返されるトライアンドエラーによって打ち払った、我らの誇り』

ドルメンの言葉に、周囲のドワーフ達全員が力強く頷いた。

ヴリトラを筆頭に、亜神なんてのは理不尽の結晶みたいな存在だ。それをドワーフの身でぶっ飛ばすために、彼らが選んだのは、地道な試行錯誤という道だった。

血と汗。濃く、重たい三文字がこのハンマーには詰まっている。

『使ってくれ。其方はこれを振るうに値する』

「お前が使うべきじゃないのか?」

『いいや。王の器じゃない』

ドルメンはどこか清々しい表情で断った。

『所詮は将。将には将の分というものがある。これは、妖精たちの希望を背負い、我らに背中を見せてくれる者が振るうべき槌だ。どちらが欠けてもならん』

俺は鼻を鳴らし、柄を掴んだ。

この場に集う妖精種の誰も、異を唱えなかった。

まず、熱い。赤く光る炭を掴んだようだ。しかし苦痛は感じない。

そして重たい。俺自身より間違いなく重たく、迂闊な扱いをすれば、俺の方が振り回されてしまいそうだ。

立てた状態で胸元まである、長い柄を両手でしっかりと握り、体に寄せながら持ち上げた。

――なんだ、これは。

不意に覚えた違和感。槌から気配のようなものが感じられる。

これは、王権だろうか。

「……なるほど。王に集う精霊が、このハンマーに宿ってんのか」

王の器でなければ振るえない、と言われるわけだ。

きっと、このハンマーは亜神との戦いで、常に最前線にいた。仲間を率いて、理不尽を打ち破る最先鋒だった。

だからこそ、そう在ることを望む精霊達が宿ったってことなのだろう。

じゃあ、望み通りにさせてやらねえとな。

求人票通りの待遇をくれてやるよ。ウチはホワイトなパーティーなんだ。

「使い方みたいなもんは?」

『ハンマーは、振って殴るものだ。こっちが敵にぶつける方でな、ええと持ち方は……』

「んなこた知ってるわ。見りゃ分かる」

バカにしてんのか。そんな相手に大事なもん預けんな。

『精霊たちが、回転弾倉に力を溜めてくれておる。一回の戦いで撃てるのは五発までだ。叩き付けるたびに、弾倉は自動で回る』

「だいたい分かった」

普通のハンマー同様、力一杯ぶん回して殴りつけるだけ。5回までなら高威力を発揮する、と。最高じゃねえか。物事、単純であればあるほど良いんだ。

俺は右手で戦槌を掲げた。重みに震えそうになる筋肉を引き締める。

「準備はいいか? 死ぬ覚悟と、生きる覚悟は出来たか?」

「応!」

『当然!』

ゆっくりと傾け、世界樹に向けた。

全員の視線が世界樹に突き刺さる。

手段も、人手も揃った。

意思すらもが、一本の槍として束ねられている。

これ以上ない好機だ。

「俺がいる場所が最前線だ。俺がいる場所が目標地点であり、俺がいる場所が最も危険な場所だ。ついてこい!」

重量物を体に巻き付けるように、体を一回転させてから走り出した。横向きに遠心力が加わった戦槌を、縦回転に変えて、体の横でくるくると回しながら駆ける。

『あの槌が御旗ぞ!』

『御旗じゃ、御旗じゃ』

「届けろ、若いのを世界樹に届けるんだ!」

幾重もの死線を、殺し合いを乗り越えて、なお戦意を滾らせる奴らが俺を追う。

人間が、妖精が。激流となって世界樹に襲いかかる。

「飛ぶよ!」

「いいよ!」

柚子とスイが、総長を引っ掴んで宙に浮いた。その風に乗るように、オドアも浮き上る。

スイがオドアの手を掴んだ。

炎の散弾を撒き散らしながら、無数のピクシーが待ち受ける空へと飛んで行く。

「永野さん」

「隼人はこっちか」

愉快さを隠しきれない声音で言いながら、隼人が横に並んだ。

「8回。それだけなら、空中で移動させられるよ」

「天狗飛び、だっけか」

「そうそう。だから、正面の根っこは気にしなくて大丈夫じゃないかな。数次第だけどさ」

地面から無数に聳える木の根。最も大きな、送電塔のごとき根がしなり、横薙ぎに殴りつけてくる。

くん、と視点がブレた。少し遅れて、強烈なGを感じる。

いつの間にか体は宙に浮き、足の下を風が通り抜けた。

破砕機のように暴力的な音と、砂埃を巻き上げながら、根は背後へと流れていく。

「まず1回目!」

隼人が叫んだ。