作品タイトル不明
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元から世界樹に住み着いていたのか、それともオベロンとかいうやつが撒いたのか。いや、それとも世界樹が生み出して放つものなのか。いずれにせよ、すでにピクシーは湧いてしまった。
人すら喰らう蝗害のようなもの。出てきてしまえば、決して人の手で滅ぼすことは叶わない。
どうしても滅ぼしたければ、核やサーモバリックのような範囲攻撃で吹き飛ばすしかないだろう。その土地を焼け野原にするのを代償に。
そんな相手に、原始的な武器を手に戦う、疲弊した軍団が勝てるはずもない。
世界樹に近い方から、悲鳴が聞こえてきた。アラクネ、オークがピクシーに襲われている。次々と世界樹の種を植え付けられているのだろう。
配信では、アラクネの王がグレンデルの最期に似た姿に変異していた。瀕死だったグレンデルと違い、糸と枝葉を織り交ぜた繭のようなものを作り、三人がかりの猛攻に耐えている。
「なぁ、ドルメン」
『どうした』
「出入り口は、あそこだけか?」
俺が指さしたのは、世界樹の奥だ。
『いや、他にもあったが……敵に塞がれた。すぐには開通せんな』
最悪だな。撤退戦しながら掘り返すか、迂回するか。もしくは、正面突破するしかなくなった。
「とりあえず、可能な限り建物に収容していこう。出入り口が限られていれば、ピクシーとやり合える。ヒルネ、トウカ、誘導を頼んだ。ブランカ、ユエを頼む。シャベルマンは前線から無事なやつらを切り離して、護送してくれ」
ドワーフと薩摩クランには何も要求しない。こいつらにはこいつらの心情があり、しかも指揮権が生きている。邪魔さえしなけや構わねえ。
「うちは突破口を開こうか。起きろ、東郷」
小松が東郷の首の裏を叩いた。活でも入れたのか、ゆっくりと目を開く。
「戦は……終わったかの……?」
「いや、あのデケえお化けの樹を斬らなきゃならんらしい。ゴブリンの比にならねえ、地元の危機みたいだわ」
「まだ死に場所はあったか。助かるのう」
正面から、高波のように妖精種たちが押し寄せてくるのが見えた。
敵も味方も関係ない。とにかく、降り注ぐピクシーの洪水から逃げ惑っている。
「俺はあの樹を討つ。行動開始!」
一斉に、戦場に流れが生まれた。
『こちらに逃げてください! こちらです! 建物の中で迎撃しましょう!』
魔法で拡声された、トウカの声が高らかに響く。2色の障壁が、交通看板のように避難経路を宙に表示していた。
無数のモンスターが、示された生きる希望めがけて殺到する。
抜き身のツヴァイハンダーを、旗手のように掲げた。
『寄らば斬る! 俺が道を拓く! 邪魔すんなよ!』
俺を避けるような流れが生まれた。集団が割れた道の先には、ピクシーの集団と、既に世界樹に寄生された奴らだけがいる。
「続け! 続けぇ! 最後の大戦だ!」
「死ぬならここぞ!」
「寄生された仲間は斬れよ!」
俺が拓いた道を、薩摩クランが埋めていく。
『追うぞ。王に安らぎを献上する最後の機会かもしれぬ』
『老いぼればかりが名を持っていても仕方あるまい。全員で失うか、全員で名を得るかだ』
『犬どもは着いてくるでないぞ!』
擲弾筒に似た、小型の砲を抱えたドワーフ達が後ろに続いた。
対空砲火が地下を照らす。弾ける魔法が花火のようだ。
目の前に飛び込んで来たピクシーを鷲掴みにして、走りながら地面に叩き付けた。蚊柱のような密度のピクシーたちに飛び込んで、がむしゃらに剣を振り回す。
サクサクっと軽い音が聞こえた。複数箇所に釘を刺されたような痛み。
ピクシーは貫通力に特化した空気針の魔法を使う。機動力で掻き回しながら、少しずつこちらの体力を削ってくるんだ。
「それがどうしたッ!」
死を呼ぶ黒雲を通り抜ける。顔にへばりついてきた奴を、食いちぎって吐き出した。
正面に立ちはだかるのは、逃げ遅れたオーク達。
全身を樹皮に覆われ、そこら中から蠢く枝を生やしている。
運のない奴らだ。
全員がうつろな目をして、どうにか残った肉に酸素を送ろうと、口をはくはくと動かしている。陸に打ち上げられた魚みたいだ。
触覚のように頭部から伸びたツタが俺を指す。全ての寄生済みオークが、一斉に俺目掛けて駆け寄ってきた。
――まるでゾンビ映画だな。
ちょろちょろ五月蠅いピクシーを裏拳で潰してから、両手でツヴァイハンダーを構える。
先頭を一刀両断。横から組み付いてきたやつを蹴り飛ばした。次の奴はアゴを柄でカチ上げて、肩で弾き飛ばす。
その次は――五体がかりの飛び掛かり。無理だ、捌ききれねえ。
「来ぉぉぉおおい!」
叫びながら丹田に力を込めた。
両腕を広げ、五体のオークと正面衝突する。背骨が砕けそうな衝撃に耐え、ぐっと抱き留めた。数メートル後ろに押し戻される。靴底のゴムが焦げる匂いが鼻の奥を刺した。
がさがさと耳障りな音とともに、ツタが俺の体を包もうとする。溺れたやつのように暴れ、無理矢理に腕と顔を突き出した。力任せに振り払う。
「モテモテってやつだな、若いの」
そのうちの一体を小松が引き剥がした。片手で頭頂部を握り、流れるような動きで首を落とす。そのまま遠くへぶん投げた。
オーク以上に集まってきた隊士たちが、次々と組み討ちを始める。
「斬ったら飛ばせよ! 繋がるぞ!」
「応!」
「造作もない!」
一人の隊士に、世界樹の種を抱えたピクシーが取憑いた。即座に掴んで握り潰すが、直後、動きが止まる。
張りつかれた首から、ゆっくりとツタが広がっていく。
「御免」
隣にいた隊士が首を刎ねた。
小松は世界樹に向かってアゴをしゃくる。
「進め。立ち止まりそうなら、儂らを使え」
目の下に大きな隈を作り、やつれ、汚れきった姿だ。それでも小松は笑う。
「この地獄を前に、見えてきた気がするんだわ。ハッピーエンドってやつが」