軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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オーク。肥えて醜く、特殊な能力など持たない。ただ頑丈で、ただ闘志溢れるだけの妖精種。知能も低く、うろうろと野山を彷徨って、狩猟採集で命を繋ぐだけの生き物だ。

グレンデルは、その殻を破った。

筋の一本、血管の一本が浮き上がるまで鍛えた。

猪突猛進で平押しだけの軍勢に足りていない、奇襲も遊撃も対空も個人で補った。

フィジカルを活かすために、攻防一体の鎖という高難易度の武器を習得した。

知識を身につけ、オークの身ながら多くの見聞を得た。

他種を支配下に置き、また別の種と協働することで数すら補った。

そして、誰よりもオークらしい力も持っていた。

だが、ここで死ぬ。

なぜだろう。俺も、悔しい。

グレンデルの目論見を打ち破った側だというのに、こいつの努力が報いられないのが、悔しくてならない。

「そう、だな。オークだからなのかもしれねえな」

この猛将が、オークでさえなければ。せめて人間にでも生まれていれば、もっと報われた未来があったのかもしれない。

考えても仕方ねえ話ではあるが。

グレンデルの拳を、世界樹の繊維がガントレットのように包んでいく。

あまり悠長にはしていられないな。

「後悔してるか?」

『いえ。オークに生まれたことが、私の誇りです』

どれだけ後悔しても、芯の部分は揺るがない。死を前にしても、それは変わらない。

俺もグレンデルも、頬を緩めた。

『せっかく生まれたというのに、滅びる定めとは……。寂しいものですね』

グレンデルの首を、胸を世界樹が覆っていく。これ以上見守っていたら、完全に世界樹に飲み込まれちまうな。

哀しいが……。

ツヴァイハンダーを大きく横に振りかぶる。

「そうだ、寂しいな。お前はここで終わりだ。だが……オークは滅びねえよ」

『もしや、背負って頂けるのですか……?』

どうやら、猪の顔にも、驚愕の表情というものはあるらしい。

「お前は根性見せたよ。だから、この戦いが終わって、生きている奴くらいはな」

『有り難い……!』

刃が首を断った。乾いた感触を手に残して。

大きな頭がくるくると回り、地に落ちる。

切断面から、切り離された大事なパーツを探すように、無数のツタが伸び始める。

頭に血が上った。こめかみの血管が脈を打つ。

「英雄の死を、愚弄してんじゃねぇよ!」

怒りに任せ、一刀両断。なお蠢く悪意の苗に、火が放たれた。祈りを捧げるように、トウカが詠唱を紡いでいく。

大きく肩で息をしながら、焼けていくグレンデルの亡骸を見下ろした。

許せるか、こんなもの。

睨み上げた世界樹の近くで、炎が散った。

遠くで、スイたちが戦っている。

「ナガさん。あっちも決着が近そうですねー」

いつの間にか大量の猫を連れているヒルネが言った。なぜか、片手でシャルルの首根っこを掴んでいる。逃げようとしてたか?

「俺には見えねえな」

遠すぎるせいか、片目が潰されているせいか、ぼやけている。障壁の淡い光と、炎弾の赤しか見えねえ。

「配信開きますよ」

ヒルネがスマートウォッチからホログラムを展開する。こいつ、なんだかんだ現代っ子なんだよな。細々した部分をテクノロジーで補うように、脳の回路が繋がっている。

スイを追うドローンカメラが、世界樹近くの戦闘を映し出す。

無数の糸を張るアラクネが、半透明な障壁に取り囲まれていた。さらに、障壁の上には隼人が立ち、刀を突きつけている。

逃げるための糸は柚子が即座に断ち切り、防御用に吐き出し続ける糸は、すぐさまスイに焼かれていた。

ほぼ詰みだ。

『世界樹が近い。僕はね、君らの事情を斟酌しない。死んで貰うよ』

隼人が突き出した刃を、アラクネは必死に首を傾けて避ける。障壁を砕きながら飛び込んで、第二撃。切っ先がアラクネの頬に突き刺さった。

ゼロ距離で刀と爪牙が切り結ぶ。

口を大きく開き苦境に喘ぐアラクネ。余裕を崩さない隼人。

この交戦距離なら、負けることはあり得ない。相性の差がでかすぎる。

『うん? 世界樹を落とすのに成功したか?』

聞き馴染みのない声が配信に割り込んだ。

スイの動きに合わせ、カメラがその主を捉える。

――異様な姿だった。

ぱっと見た印象は、赤と緑の派手な道化服に身を包み、金色のマントをたなびかせる男。

だが、その右半身は萎びた老人のもので、左半身は溌剌とした若者のそれだった。まるでちぐはぐな二人の人間を縫い合わせたような姿だった。

両手には縦笛と金の杯を持っている。

『オベロン様……! 成功いたしました。ドワーフ共が隔離した世界樹を、正当な流れの中にお戻しいたしました!』

アラクネが安堵と歓喜の声を上げた。

オベロンはそんなアラクネに目を向けることもなく、世界樹に向かって冷たい声で言う。

『苗は……まだか。種でいい、蒔け』

世界樹の枝葉から、黒い粒が噴き上がった。砂嵐のようなノイズ音が響く。

その中の1つが、アラクネに近づいた。カメラにハッキリと姿が映る。

握りこぶしほどの大きさ。ハエによく似た体。頭部だけ、人間の幼児に似たものがついている。

ピクシーだ。手足に、胡桃に似た種子を抱えていた。

『お……オベロン、様?』

アラクネが狼狽える。頬の傷に、ピクシーが種をねじ込んだ。アラクネは凍り付いたように動きを止める。

オベロンはマントを翻すと、その場から姿を消した。

――なにが、起きるんだ。

反応を許さない立て続けの展開。だが、これだけは分かる。

俺は仲間達を振り返り、叫んだ。

「全員固まれ!」

黒雲となったピクシーの群れが、悪意の種子を抱えて突っ込んでくる。