軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第六百三十四話 誇れる

「うおおおお、働く男たち! 肉体労働! それゆえの男臭さ、汗の匂い、そしてちょっとヒョロいけど気の強そうな目ぇした奴ら……うおおおお、ハーレムッ! 選び放題、ここが婚活と見つけたり! だが、やはり推しはあの青髪の半魔族!」

建設現場で働く屈強な男たちを「ヒョロい」と言いながらも、目を輝かせて鼻息荒くするドクシングル。

その強靭な筋肉の体をクネクネと乙女のようにくねらせている。

だが、今は……

「おい、どういうことだよ……帝国が? 襲撃!? おい、ドクシングル!」

「はっ!? や、やばい……わっちとしたことが、ついトリップしちまってたぜ……えっと、なんだっけ? 多夫一妻は、このナンゴークでは認めてくれるよう、ショジョヴィーチとマルハーゲンに依頼する……ってことでいいのか?」

「全然ちげーよぉ! 帝国のことだよ!」

「……どわ、そ、そうだった! レンラクキのクソガキがぁあ~~~」

突如アースたちに知らされた帝国が襲撃を受ける話。

多数の男たちに発情していたドクシングルをどうにかしてアースは問い詰めた。

そしてドクシングルもようやくハッとして、イラついたように頭を掻き毟りながら……

「どーやら、ハクキの大将が、仲間引き連れて帝国を滅ぼそうってことでよ……で、わっちにも集合の連絡があったんだよ。明日の夜」

「あ、明日ぁ!?」

その情報に衝撃を受けたのはアースだけではない。

「う、そ……ハクキが、い、いきなり……」

「なぜこんな急に……」

「どういうことだ? この十数年水面下で潜んでいたあやつが、このような突発的になぜ? らしくないぞ?」

エスピも、スレイヤも、それこそかつては対等な仲間だったヤミディレすらも驚いていた。

「だが、その情報は間違いなさそうだぞ、アース・ラガン君。ドクシングルがその連絡を受ける瞬間に、ワシらはその場にいた」

「小生も聞いた」

「私もだよぉ、アース様ぁ!」

マルハーゲン、さらにはラルウァイフやアミクスも血相を変えた表情で頷く。

つまり、ハクキたちが明日の夜に帝国を襲撃するというのは本当のことなのだろう。

「……アースの……故郷が」

クロンが心配そうにアースの表情を伺う。

アースも驚きと同時に、まだ頭の中を整理できないでいた。

「アースくん……君は……どうするのじゃ?」

そして、かつて帝国の兵だったマルハーゲンが複雑そうな表情を浮かべながらアースに問う。

そう、ハクキが帝国を襲撃する。

それを知って、アースはどうするのか?

だが、

「お兄ちゃん、帝国にはヒイロとマアムがいるし、ソルジャもライヴァールも……あ、ベンリナーフはいないけど……でも、帝国は軍も戦士も含めていまだに世界最強の国なんだから、自分たちに任せればいいよ」

「そうだね、関係ないよ、お兄さん。無理にお兄さんが関わる話でもないさ」

と、アースが見たことがないくらい冷酷な声を発するエスピとスレイヤ。

アースも思わずゾクっとした。

そして二人は……

「帝国の連中が今までお兄ちゃんに何をしたのか、何を言ったのか、ソレわかってる?」

「僕たちは忘れないよ。あの御前試合で、帝国の連中がお兄さんに喚いた言葉……顔……忘れない……お兄さんの涙……絶対に忘れない」

あのアースの運命を変えた御前試合。

そこでの出来事をエスピもスレイヤも知っている。

未来を変えてしまわないために、二人はそのときのことを見ても、何もすることもできなかった。

本当なら、あの時あの場に行ってアースを抱きしめ、アースを中傷する者たちをその手でぶちのめしたいぐらいだった。

そしてその時の怒りは今なお収まっていない。

「帝国はヒイロたちに任せておけばいいよ」

「お兄さんが介入する必要はないよ」

二人は完全に私怨で、帝国のことが大嫌いだったのだ。

そんな二人を見て、これまで衝撃の情報に頭が整理できず、自分がどうすべきなのかも答えを出せなかったアースは……

「くくく……」

「「?」」

「くははははははははははははは!」

何故か笑った。

「お、お兄ちゃん?」

「お兄さん?」

一体どうしたのかとエスピたちキョトンとした顔を浮かべると、

「俺を誹謗中傷した奴ら……オーガにやられてざまぁ見ろ……今更俺を評価して助けてくれって言ったって、もう遅い……」

「お兄ちゃん?」

「エスピ……スレイヤ……お前たち二人が大好きなお兄ちゃんはさ……そーんな器の小さいお兄ちゃんなのか?」

「「ッッッ!!!???」」

アースはどこか吹っ切れたかのような表情で笑った。

「別に俺はいまさら帝国を救うヒーローだの勇者だのになって称えられたいわけじゃねえし、謝られたいわけでも和解したいとかも思ってない……だけど……どう考えてもヤベー奴らが暴れる……そのことを知った……だけど、襲われるのは帝国のムカつく嫌いな奴らだから放っておく……それはあまりにもカッコわりーだろ?」

「お兄ちゃん……」

「エスピ。お前は望んでなったわけでもないけど、肩書は勇者なんだし……スレイヤだって、カンケーないから放っておこうは……なんか、ちっちぇーぞ?」

「ッ!?」

もちろん、エスピとスレイヤとて分かっている。だが、二人は力なき者たちよりも何よりもアースが大切であり、だからこそ帝国に対してはキツイ態度で当たってしまう。

そんな二人の心情もアースも分かっているので、叱責するわけではなく、ただ笑って自分より背の高い妹と弟の頭を撫でた。

そして何よりも……

「そして、俺がそんな小さいことをグチグチネチネチこだわってると……俺をここまで強くし、導いてくれた人だって……そんな心も器も小さいやつを誇りに思っちゃくれねーだろ?」

そう言って、アースは「何もない空間」を見て笑った。

「誇れるお兄ちゃんであり、誇れる弟子であるために……俺の答えはもう決まってるさ」

だが、そこに「誰」がいるのかをエスピとスレイヤもハッとなって気づき、そして少し拗ねたように二人は頬を膨らませた。

「んもぉ、しょうがないなぁ、お兄ちゃんはやっぱりお兄ちゃんだから……まあ、私だって帝国ザマーミロと思いつつも、もし帝都にサディスちゃんとか居たら、流石に見過ごせないもんね」

「まったくだよ……まぁ……それでこそ、僕のお兄さんだよ」

アースがそう言うなら仕方がない。

拗ねた二人もすぐに笑顔を浮かべる。

そして二人は撫でられていたアースの手を掴み、そのまま両サイドからアースをハグした。

「ま、お兄ちゃんがそう言うなら、仕方ないかー! ま、別にいいよ。そもそも、お兄ちゃんと私のコンビならハクキなんてちょちょいのちょいなんだしね!」

「わかったよ、お兄さん。考えようによってはいい機会だしね。僕とお兄さんのコンビこそ世界最強だということを、鬼や世界の連中に見せつけてやろうよ」

ぎゅ~っとアースを両サイドから抱きしめて、自分とアースこそが最強と宣言した。

そんな二人の笑顔と宣言を受け、アースは今度は少し冗談交じりで、

「くはははははは、とはいえアレだけやらかして家出したところに、サラッと戻るのも気が引けるから……ここは一つ、ラガーンマンになって正体を隠していくか!」

「いや、お兄ちゃん、ラガーンマンの正体は全人類知ってるからね」

「ぬっ、そうか……だが、こ~、あんまり俺が行って問題解決した後……なんかそこで帝国の奴らと和解だとか、掌返しの感謝されるのもむず痒いし……こうなったら、新たなヒーローとして何か更に変装するかな!」

「いいと思うよ、お兄さん。なら、こういうのはどうだろうか? まず、黒のオープンフィンガーグローブ、そして包帯も巻いて、腰本にシルバーチェーンを巻いて、首には髑髏の装飾を施した十字架のシルバーネックレス、そしてフードのついた黒い上着を羽織る……上着は袖を通さず、肩に羽織るだけなのがポイントだよ?」

「おー、何となくカッコよさそうじゃねえか、スレイヤ!」

「お兄ちゃんもスレイヤ君も、それはやめて! 14歳病丸出しだから!」

と、緊張感のない……いや、自信に満ちて、自分たちが揃えば怖いものなどないという絶対的な信頼感のある、アースたちだけの独特な空間がそこに構築されていたのだ。

どこか、他人には踏み込めないような、彼らだけの世界。

しかし、そこに勇気を持って踏み込むものがいた。

それは……

「むぅ、弟さんと妹さんに負けません! アースとの絆もコンビプレーも、私は経験豊富なのですから!」

「「「………」」」

アースは行く。当然、エスピとスレイヤは行く。三人(四人)で行こうと思っていたところに、プクッと頬を膨らませたクロンが、両手の塞がっているアースの正面からハグしてきた。

「えあ、え、え、ク、クロンッ!?」

「私も行きます、アースッ!」

「は!?」

「「え、ほんき!?」」

「クロン様ッ!!??」

そして、クロンは迷いなく、まるで一緒に遊びに連れて行けと駄々こねる子供のようにアースにそう告げた。