軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第六百十八話 最恐復活

ディクテイタの拳が、肉弾戦を得意として屈強すぎる肉体を持つドクシングルを撃ち抜く。

胃液を吐き出し、腰が曲がり、息詰まるほどの苦悶の表情をドクシングルは浮かべながらも、その目だけはすぐに目の前のディクテイタを射抜く。

「ドメスティックバイオレンス……じゃねえ! ドメスティックウォーズだコラァ!!」

倒れそうになる体を必死に堪え、巨大ハンマーを振ってディクテイタの頭部を打つ。

しかし、先ほどまでその頭部を潰していたディクテイタだったが、今度はそれを頭で受け返した。

「ッ!? かっ、かってぇ……」

その頭部が先ほどとは比べ物にならないほど頑丈になっていることに、ドクシングルは驚愕。

「ば、ばかな、ドクシングルのあの超絶の怪力を!」

「ドクの姐御のパワーが……あのマッチョの姐御が!」

「ばかな、ドクシングル様の剛腕が!」

「ドクシングルさんのあのムキムキパワーが……」

当然、その異常事態にはマルハーゲンたちも激しく動揺。

「っ、てぇ、ムキムキとかマッチョを強調すんじゃねぇ、こちとら乙女だっつーのにィ! んで、このオラ嗚呼嗚呼嗚呼!!」

しかし、ドクシングルは驚きながらも再び攻撃を仕掛ける。一度でダメなら何度でもだと、ハンマーを勢いよく振り回す。

釘を打ち付けるよりもさらに勢いよく、ディクテイタの脳天を轟音響かせながら叩く。

「ワシらも援護するぞ!」

「ワーってるよ、ダーリン!」

「アミクス、弓で!」

「うん、ラル先生ッ!」

そして、ドクシングルだけに戦わせないよう、マルハーゲン、ショジョヴィーチ、アミクス、ラルウァイフは魔法を、弓を放って援護射撃する。

しかし……

「うざったい、下等種族ども! 天の極み、真・天空王の高み、思い知れ! ギガウィンドウォールッ!!」

その全てを振り払い、吹き飛ばすかのような大竜巻の障壁がディクテイタを覆う。

近づけないどころか、飛び道具すらも届かない。

その状況下に一同は歯ぎしりしながら、この事態に動揺する。

「ちょ、な、なんなんだよ、こいつ! 傷は再生するは、大魔法をこんなに連発するわ……ヤベーぞ! どんだけ魔力が……」

「そんな……あの人、アース様と戦った時はこんなには……」

「いや、それだけではない……小生が見たところ……魔力が尽きていないどころか……減っていない……」

そう、熟練の魔法使いであるラルウァイフが感じたのは、ディクテイタが異常な魔力量を持っているというよりは、減っていないという印象。

すると……

「分かったか……下等種族ども。これぞ、王にのみ許された大魔法……エンジェらキングダムエナジー」

巨大な竜巻の中でディクテイタは一同を見下すように告げた。

「我らが天空族の世界……天空世界は、大気中の魔力を常に取り入れて上空を漂う、魔力永久機関……我はその循環する膨大な魔力を得て、肉体の力を向上させ、常に魔力を補給した状態で戦うことができるのだ」

「「「「「ッッッ!!!???」」」」」

「もっとも、通常ではその膨大な魔力による負荷に肉体が耐え切れずに、以前の我ならば数秒で全身が崩壊して死んでいただろう……しかし、深海族の技術によって得た再生能力があればノーリスクで使うことができる! 超速再生、向上した身体能力、さらには尽きない魔力……すなわち、無敵! 強靭! 最強! 我こそは至高にして最高、真・天空王なり!」

以前は、使えたが使いこなすことはできなかった奥の手のような技。重大なリスクを伴う上に、そもそも使いこなすことはできなかった自爆技。

しかしそれも今では何も気にすることなく使うことができる、反則技。

「な、なんということじゃ……つまり、それは……アースくんの、ブレイクスルーに加えて魔呼吸―――」

「「「「ソレとは全然違うも―――ん!」」」」

「いや……まさにソレじゃろ」

そう、まさにアースのブレイクスルーと魔呼吸の合わせ技である。アミクスと三姉妹はイメージ的に否定はしたかったが、原理は同じようなものだった。

「へっ、いいや、ちげーだろ、マルハゲ!」

「ドクシングルッ!?」

「よーするに、トレーニングで身に着けたわけじゃねえ力ってことだろーが、エラそうにすんじゃねぇ! 努力と根性ねー力を誇ってんじゃねえぇ!! ぐらああああああ!」

同じように、それを否定するかのようにドクシングルが突進。

ディクテイタの周囲を覆う竜巻を無視し、その体を風の刃で斬り裂きながらも突き進んで、強引に中に入ろうとする。

「努力? 根性? 下等な種らしい……これは、選ばれた力!」

「どわァあ!? ガっ……」

「まぁ、あの下等な小僧の力と違うのは事実……」

だが、強引に竜巻の中に入ったところで、今のディクテイタはパワーもスピードも桁違いに強い。

カウンター気味の拳を再びドクシングルに叩き込む。

「ドクシングルさん……ううう、そう、アース様とは違う! アース様の方がもっと素敵でかっこよくて、そしてそして……すっごく熱いんだから! スパイラルアローッッ!!」

アミクスたちも援護の手を止めない。

しかし、それらは全て弾かれ、仮に一部届いたとしても、ディクテイタの再生能力の前には無意味。

「効かぬ……効かぬ、効かぬ、効かぬ、効かぬ! 効かぬというとるじゃろがああああああああああああああああああああああああああああああぐひゃがひゅひゃひゃひゃ!!」

ついには、ディクテイタは急に奇声を上げ、狂ったように笑って表情を歪めながら漲らせた魔力を無差別に放って荒れる。

「な、なんだァ、くそ、きゅ、急に豹変しやがって……」

「姐御、大丈夫か!」

「ああ……だけど、けっこう痛ぇ……つか……」

そして、ディクテイタの身に纏う魔力がさらに増大。

その量はもはや人智を超えており、それゆえにディクテイタ自身が正気を保てぬほど……

「もっとだァ! もっと、高ぶるぅぅ、高ぶれぇ、嗚呼、嗚呼嗚呼ア! 我こそぉぉ~~、ワシが王じゃァァあああ!」

それでもまだ足りぬと、ディクテイタは更に魔力を集めようとする。

「ぐ、ダディ、やめ……やめろ、ダディ! 体が、精神が……そ、それに、それほど、魔力を集めたら……天空世界も堕ちる!」

荒れ狂うディクテイタと共に、ナンゴークも壊れていく。

その見るに堪えない光景に、血塗れで倒れるガアルは悲痛な声を上げる。

しかし……

――構わん。貴様ならできる……さあ、もっとやれ

そのとき、どこまでも冷たく禍々しい女の声が響き……

「天空世界の魔力を全て吸い取ろうと構わん。今の貴様ならそれほどの魔力を受け止めることも可能……すなわち、無敵だ。やれ! 魔瞳術・プラシーボキアイダ」

「ガ―――――――ッ!!!!!」

そして、その女は荒れ狂うディクテイタの傍らに唐突に出現した。

「あ、あの人は、昨日の!」

「ちい、あのアマァ!」

それは、ディクテイタに「もっとやれ」と命じ、さらにはその暁光眼の力で強制させる。

この状況下で、オツまで現れたのだった。

「わちしたちでは、第一世代の血を引くエルフの小娘に暴れられると厄介だ……しかし、お前ならば問題なし。さァ、ヤレ、天空王よ」

「ヶぁ、あが、ガァ、ガぁが!」

「無敵だ、至高だ、全ての生物が貴様に歓喜しよう! 魔瞳術・モアキアイダー!」

「あひゃ、そう、ワシ、無敵ィイイいい、ぎひゃあああああああ!」

「そうだ、そしてそのまま海を穢す開発中の橋ごとこの島を消し去れ……あのエルフの娘だけを残して、それ以外を消せ!」

そしてオツは、急激に壊れていくディクテイタに容赦なく、さらに力を上げさせようとする。

「やめろぉ! 本当にダディが、こ、これ以上はもう戻れなく……以前の薬物の時よりもさらに……ダディ、やめろぉ!」

「あひゃ、消えろぉぉお、そして寄越せぇえええ、ワシの紋章眼……ひぎゃああああはははははは!」

ディクテイタが錯乱しながらも、全身に無尽蔵に流れてくる天空世界からのエネルギーを止めない。

本来なら肉体だけでなく、負荷によって精神崩壊もしていた。

だが……

「あひゃ……はあ、はあ……これだ……これこそが、極……」

「ッ、だ、ダディ……」

「これぞ、王の究極地点……いや、もはや私は王を超えた……」

オツの力もあり、ディクテイタは持ち直したのだ。

激しく息を切らせながらも徐々に落ち着きながら、高まった己を確認し……

「我こそ、天空神……もはや我に比肩するものなし……脆弱なる下等生物たちよ……光栄に思い、そして平伏すがよい。この絶対的な力を前に」

ディクテイタは巨大な魔力の玉を作り出していく。

「それでよい。そして、わちしに忠実となれ……さあ、やれい!」

そしてその力にオツは笑みを浮かべ、一方でアミクスたちは……

「あ、ああ、ど、どうしよう、あ、あれ……アレは……」

「まずい! 紛れもなく、テラ級……あんなもの、この島が消失……ぐっ、急いで転移魔法で――――」

「ヤベぇ、わっちでもアレは無理!」

「く、なんということじゃ……」

「ちくしょう……ダーリン……あたいら……」

流石に規格外すぎると、顔を青ざめ、絶望していた。

だが、このとき、誰も分かっていなかった。

ディクテイタも、そしてオツすらも完全なる計算外の事態が起ころうとしていた。

それは、ディクテイタが、そしてオツが調子に乗って天空世界のエネルギーを後先考えずに吸い取り続けたことが原因だ。

天空世界のエネルギーは完全に尽きるまでには至らないものの、あらゆる機能がストップする事態にまで陥り、天空世界はただいま混乱中。

そしてそれが……

「なんだ? ナンゴークの波動、天と海が荒れ狂い……いや、それよりも……」

ナンゴーク近海の海で、鯨と一戦交えている一同たちの中で……

「ふふ、ははは……何がどうなっているかは知らんが……」

ガアルが瀕死になり、そして天空世界のあらゆる機能がストップしていく中で、その二つと連動して施されていた、「とある女」の力を封じていたもの……

「魔封じが……取れた……魔力が……魔眼が……ふははははははは、……戻ったぞ!」

その戒めが解け、暗黒の翼を持った、天空世界史上最恐最悪最凶最厄の、暗黒戦乙女が復活してしまった。

「ふふふ、魔力探知も復活し……だいぶ変貌したようだが、あのハゲのカスと、ヒステリックな痛い女か……目障りだ。久々に力も戻ったことだし、今までのうっ憤を晴らす意味で、二人まとめて私が解体してくれる」

そのオツとは比べ物にならない邪悪、冷酷、そして威圧に満ちた狂気の笑みに……

「あ、あのぉ、お母さん……きゅ、急に、ど、どうしたんですか? お顔コワいです」

娘もちょっと引いていた。