軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第六百十九話 久々の目覚め

その女は、穏やかになっていた。

力を失い、封じられ、しかしそれでも周囲のフォローと、何よりも敬愛して崇拝すべき主自身が自分をどこまでも慕い、『主従ではなく親子』としての関係性を望み、それをなかなか受け入れることはできなかったが、その強い情に女は心を揺さぶられる毎日だった。

いつしか女もその情にほだされるだけでなく、普通の生活、汗水流して生活費を稼ぎ、時には笑い合ったり、怒ったり、そんなありふれた日々に幸福を感じてもいた。

そう、こんな日々がいつまでも続くようにと願うこともあり、女は本当に穏やかになった……はずだった……

「ふふふ、この感覚……永い眠りから覚めたようなこの感じ……ふふふ、漲る魔力に私自身が興奮しているようだ……」

だが、女のルーツは暗黒戦乙女。

力を取り戻したと同時にかつての自分も取り戻す。

「ちょ、待て待て待て待て、どーなってんだァ?」

「お母さん……なんか、真っ黒いオーラみたいのがお母さんから……お母さん?」

「……たしか、天空世界で封じられたはずだよね、あの人の力は」

「うわ、なつかし……大戦期はあんな感じの力と……でもなんでぇ?」

眠っていた力を解放し、邪悪な笑みを浮かべるその女……暗黒戦乙女のヤミディレに、アース、クロン、そしてスレイヤもエスピも反応に困っていた。

敵ではなく味方でありながらも恐ろしいと感じてしまうその力……

『あやつに施されていた封印が、何の前触れもなく途切れた……あちらの島で感じるのは天空族の……おそらくは、『レセプター魔法』で魔力を取り込んで強化しているようだが……まぁ、どちらにせよそれでこやつの封印が解けてしまった以上……もはや、多くの者たちに同情してしまうな』

その様子をトレイナも「あらら」と言った様子で苦笑。

――どういうこと? ヤミディレの身から溢れるあの……

「うるさい」

同じく、ヤミディレにかつての力がよみがえったことに、巨大鯨も驚き戸惑うも、次の瞬間にはヤミディレは己が抉った鯨の目の穴に両手を翳す。

「濡れたボディで、しかも体内に流し込まれてどの程度貴様も、そして『中』の連中も耐えられるか?」

――ッ!? まっ、待っ――――

「ギガスパーク!」

――ッッッッッ!!!!!??????

「ギガスパーク!」

――ちょ、まっ―――

「ギガスパーク!」

既に鯨はエスピやスレイヤの合わせた攻撃も受けたりしていたため、ダメージはもともと相当あった。

そんな中で、目玉を抉られた穴に直接、雷の大魔法を体内に流し込む。

「ふむ……久々の魔法だが、まだ多少のキレの悪さはあるか……」

その、どんな強者でも絶命は免れないと思えるほどの容赦ない非道な行為を、ヤミディレは躊躇うことなく実行した。

「わわわわ、お、お母さん、ちょ、やりすぎです! わ、鯨さん、完全に沈黙して痙攣して……あー、そういえば、お母さん! あの鯨さんの中には『人』が居たのです! 深海の人たちの仲間で……その人たち―――」

「フフフフフ、クロン様はお優しい。しかし、仰っていることの意味が分かりませんよ。あの中に人?」

「ウソではありません! 現に私たちはあの中で―――」

「クロン様、何も気にする必要はありません」

こんなとんでもない攻撃をすれば、逃げ場のない鯨の体内にいる者たちはどうなってしまうのか?

自分たちの敵だった相手に対する被害を気にするクロンに対し、ヤミディレは笑顔でクロンの肩に手を置き……

「中に誰もいませんよ?」

「え、え~? い、いえ、居ますよ~」

中に誰も居ないから気にする必要はない。気にするな。中に居るものなど気にするな。

そんなことを笑顔でクロンを圧し、クロンも呆気に取られてしまっていた。

「ま、魔法……うわ、マジでヤミディレ復活しちゃってる? なんで? ……なあ、あんたは分かる?」

『さあな、色々なことが重なったのだろうが……いずれにせよ、鯨の中は阿鼻叫喚だな……『あやつ』も気の毒に……いや、これまでの悪ふざけの業が返ってきただけかもしれんが……』

「あやつ? あの犬とか猪とか、他の深海兵たちか?」

『いや、そやつらではなく……』

どうしてこうなったのかアースも分からないでいた。

するとその傍らでトレイナは、どこか哀れむような表情で、中にいる「ある人物」を少しだけ想ったりもしていた。

「エグイね……あの人」

「まんま、昔のヤミディレだよ……魔法も魔眼も使えてない頃は、本当にただのお母さんって感じだったのにね……」

「んあ~……復活しちゃったのん……いつも怖いけど、今度からはさらにチョーおっかないのん!」

エスピもスレイヤも、アースが攫われたときは鯨に対して狂気のような表情で暴れていたので、アースやクロンからすれば人のことを言えないのだが、それでもヤミディレに対してゾッとしたようだ。

「さて……アース・ラガン!」

「お、おう!」

「貴様には色々と聞きたいことがある……なぜ貴様が居ながらクロン様までこんな鯨に攫われていたとか、その攫われた時に互いの気持ちが近づくはずだというのに、何故まだクロン様の膜を破って純潔を奪っていないとか、そういうのもあるが……とにかく、ちょっと私は用事ができたので、少しだけあの島に行ってくる!」

「……え、あ、え?」

「その間は、もう何者にもクロン様を触れさせるな? 貴様は触れて種を仕込め。拒否は許さん? 今の私ならば言葉だけの脅しでは済まさんぞ?」

「ッッ?!」

「あと、ついでに……貴様の傍らにいる、見えないけど居らっしゃる存在についても口を割らせてくれる」

「ちょ、あ、そ、それ、ドサクサになにを!」

狂気に染まったヤミディレにいきなり名前を呼ばれ、アースも思わず背筋を伸ばして姿勢を正してしまう。

そして有無も言わせぬその要求に、今では六覇と対等に戦えるアースでも何も言えないでいた。

「お母さん、一体……」

「クロン様、お許しを。しかし、どういうわけかこうして力も戻ったわけですので……今後クロン様の邪魔になりそうな者、さらにはクロン様に危害を加えようとした者……それらは、組織の頭を潰すことで色々と解消しようと思いまして」

「え? それは一体……」

「少々離れますが、その間にはアース・ラガンと存分にイチャイチャしてください。まぁ、すぐに終わらせ……………いいえ、時間をかけて嬲りたかったりもしますので、やはり少々お時間いただきます」

いずれにせよ、もはやこれまでの鬱憤やら全てを発散させる気満々なヤミディレは、笑みと圧でクロンをアースに預け……

「ジテーンシャカゴツーキシティサイクール……短距離移動魔法マムチャリ!!」

そのまま自身の空間転移魔法の渦に飲み込まれて姿を消した。

そして、移動したその先では……

心優しいクロンの前では決してできないことを、できない表情で、ヤミディレは――――

「あ~……いってぇ……もう来ねーよな? ひははははは……マジで急に艦内に雷が駆け抜けるんだから、パナイたまったもんじゃねー」

一方で、容赦なく鯨の体内に雷の大呪文を連発で流されたことで、その中で暴れていたパリピは腰を下ろして壁に寄りかかりながらボヤいて……

「ったく……まぁ、邪魔な半魚人や古臭い獣の畜生どもの邪魔がほとんどなくなったから、この鯨の探検をパナイしやすくなったんだけど……どうにかして、鯨の意思を消して、自由に操縦できるような潜水艇にしたいんだが……誰か起こして鯨の構造吐かせるかねぇ? この鯨を戦艦としてボスに献上デキりゃ、またパナイ面白くなりそうなんだけどね~」

ちゃっかりと、それに伴う戦果を得ようしていた。

ただし……

「……ん~、まだパナイ痺れる……なんで、犬コロや河童たちと戦ってた時よりダメージあるんだか……」

巻き添えをくらったことで、これまたちゃっかりダメージを受けてしまっていた。