軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第六百十二話 脱出目前

「ひはははは……三下の畜生がァ!」

悪魔が笑う

犬が吠える。

「ワオオオオン! がふっ!?」

鼻血を吹き出し、顔に痛々しい青痣を作り、それでもハチコは怒りを牙と爪に宿して振り回す。

しかし、悪魔は揺らがない。

女の顔を殴り蹴る。そこに躊躇いはない。むしろその邪悪な笑みがさらに鋭くなっていく。

「ぐっ……この男、こちらの動きを完全に……」

「テメエみたいな直情的なパナイ単細胞ノータリンバカがパターンを読まれることに驚いてる方が問題だぜぇ?」

「ほざけぇ、知将気取りのクズの講釈などに惑わされるか! ならば、その先読みですら対応できぬ速度で貴様を―――」

ハチコの動きを先読みし、その先に拳や足で合わせてのカウンター。

ハチコに刻まれる傷の数が増えていくが、それに怯むことなく獣のごとく荒々しくパリピを切り刻もうと吠え続ける。

それに対し、パリピは……

「死ね」

容赦なくカウンターでハチコの命を取ろうとしていた。

だが、

「かーっぱっぱっぱ!」

「ぶぅぅぅ!」

突如、パリピの背後から迫る二つの凶刃。

「おっとぉ」

「お、お前たち!」

その刃を体を翻して回避するパリピ。

現れたその二人にハチコも驚きの顔を浮かべる。

「ひははは、パナイヒデーなぁ……後ろから不意打ちかよ。ミクラの生臭坊主が泣いちゃうぜぇ?」

刃を回避したパリピは呆れたように笑う。

そこには……

「ふぅ……あの二人は逃がしたかっぱ……すまんかっぱ。すぐに追いかけようと思ったが……」

「こんなクズが居たなら、優先順位が変わるぶぅ。ハチコ、ここは……」

アースにやられて気を失っていた、ファイブジョーとエイトカイだった。

「うむ……すまん。やはり体が鈍っている……本来は一騎打ちといきたいところだが……」

「分かっぱ。だが、殺さず捕えなければならないアース・ラガンたちと違い、こいつには一切の手心は無用かっぱ」

「そうだぶぅ。こいつは……殺して構わんぶぅ」

劣勢だったハチコに、加勢に現れた二人。

これで三対一。

が、

「しゃらくせぇなぁ、老害獣ども。何匹集まろうと、獣ごときじゃ対応できねえ地獄で終わらせてやるよ」

パリピは一切揺るぐことなく、更なる恐怖を披露する。

「マジカルノーズプラグ」

それにあたり、パリピは何かを取り出し、それを即座に鼻に―――それは、鼻栓。

一方で……

「河童と猪を倒すとはやるカニ。しかし、ここから先は通さないカニ。我こそかつてはゴクウと伝説の合戦を繰り広げ―――」

「大魔ジョルトッ!」

「ぷぎゃっ!?」

脱出へ向けて走るアース、クロン、ヒルア。

立ちはだかる名もなき異形たちをアースが瞬殺していた。

「きゃあァ~! アース、すごいのです! 私、アースへの好きとドキドキが止まりません~」

「んァ~、すごいのん! さっすがおにーちゃんなのん! 僕のウルトラ必殺技を出すまでもなかったのん!」

アースの姿に毎度のこと目を輝かせて蕩けるクロンに、相手が倒れた瞬間に強気に出るヒルアは、もはや浮かれていた。

「しっかし、色んな奴が出て来るもんだな……んで、魔族の連中とはまた違う。それにけっこーツエーしな」

「え? でも、一発ではないですか。ブロとかが使う言葉で言うと……ワンパンというものなのです!」

「結果的にはな。ただ、あいつらは俺らを殺さず捕らえるつもりで戦ってるみたいだし、それで向こうも心構えが変わるしな」

そう、結果的にはアースは苦戦せずに倒しているように見える。

しかし、それは力の差が天地程離れているというわけではないということも分かっている。

アースもそこまで己惚れない。

そんな己惚れないアースにクロンはまた心を奪われ距離を詰めていく。

「んふふ……お母さんが既に美味しいカリーを満足せず、更に美味しくするために追及するみたいな、アースはストイックというものなのです。そう……あのカクレテールでガンバしていたときもそうでした」

アースが己惚れないのは、それは常に傍で自分を指導してくれる存在故にだ。

だが、そのことを知らないクロンから見れば、アースは努力の塊に見えるのだろう。

そして、そんなアースが死に物狂いで努力していたカクレテールの頃の思い出が過り、クロンは懐かしくなって笑みが零れた。

「カクレテール……みんな……どうしているでしょうか」

思わず口にした故郷の名。クロンは郷愁に浸った。

「お母さんがいて、ツクシがいて、カルイがいて、アマエがいて、マチョウがいて、そしてたくさんたくさんの皆さんがいて……そこにサディスとアースが加わったのです」

「僕もなのん、クロンちゃん! 住んだことないけど、でも僕もなのん!」

「ええ、ヒーちゃんも私たちカクレテールの家族です。だって、一緒にお母さんを取り戻すために戦ったんですから」

アースも思い出す。

カクレテールでの旅立ちから色んな事がありすぎて、もうずいぶん昔のように感じる。

しかしそれでも、その時の日々は今でもよく覚えている。

「カクレテールか……そーいや、アマエ以外とはまともにサヨナラもできなかったんだよな」

アースも思い出す。

そして、よくよく考えれば帝国を飛び出してから今日に至るまで、現代も過去も含めて色んな地へ行ったが、カクレテールほど長く滞在した地は無かった。

「ヨーセイだって」

「ん?」

「ヨーセイだって……ヨーセイも何も悪くはないのです……同じカクレテールの家族なのです」

クロンの言葉にアースも気づいた。

ヨーセイも、そしてヨーセイを慕った乙女たちもあのカクレテールの住民。

アースは正直ヨーセイのことは嫌いだが、クロンはそうではない。

「あの頃、教会に住んでいた私にヨーセイは毎日会いに来てくれましたね……」

「そーだよな……そういや、あいつも当然俺よりもっと前……ってか、もっと小さいころから知ってるわけだもんな」

「そうですね……今はちょっと困った人になってしまいましたが、昔はあんな人ではなかったと思いますけど……」

そう、ヤミディレに連れられて物心つく頃からクロンはカクレテールに居た。ならば、幼少期からヨーセイのことも知っているのは当然のこと。

ましてや、ヨーセイはヤミディレに……

「まぁ、あいつもお前と、その、ほら、あれ、なんつーか、俺が来る前までは、お前のなんというか、候補的な、アレ。それにほら、あいつ、その、お、お前のこと、その、な、好きだったけど、お前は~その~」

「はい、ヨーセイは私と結婚すると思われていたようですが……それは申し訳ないのですが、私は『恋』を知ってからアース以外の人とは絶対にありえないと思っていますので……」

「…………」

「昔は、私は大会で優勝した方ならどなたでも……と言う感じで、今思えば何も分かっていなかったです。恐ろしいです。でも、アースと出会ってから、触れるのも、キスするのも、赤ちゃん作るためのことも、ぜ~~~んぶアース以外とではないとありえないと思ってます」

「…………」

アース、少し照れる。もう十分すぎるほどクロンの想いも分かっているのだが、あまりにも直球すぎていつも反応に困る。

『おい、定期的にイチャつかんと気が済まんのか、童とこの色ボケ小娘は』

と、そんな二人にトレイナは目を細める。

ただ、そんなふうに恋を語りながら、クロンはまたふと……

「そう……ヨーセイのことを慕っていた『あの五人の子』たちも、そうなのかもしれません」

「……あー……あのヨーセイガールズか」

「はい、ガールズです」

ヨーセイに恋をしていた5人のことも思い出した。

色々とあったが、あの娘たちもまたどういう経緯にせよヨーセイに恋をしていたことを。

「そういや、ヨーセイがいなくなって、あいつらどーしてんだろうな」

「はい……今ヨーセイがこちらに居るとなると……心配です」

アースは特に気にしていなかったが、ただでさえ心優しく、その上でアースと出会うよりもっと前からヨーセイやガールズたちのことを知っていたクロンだからこそ気にかけていた。

「おっ、そろそろだな」

「え?」

そんなことを話している間に、アースたちがとある一角に到着した。

丸い扉。

そこを潜り抜ければ小部屋があり、いくつもの光る凹凸が部屋の壁にびっしりと埋め尽くされている。

「この中から脱出できるのでしょうか?」

「んあ? おにーちゃん、ここでいいのん?」

「……たぶん」

一見、それはもはや何をする部屋なのか分からず、異形の文字が並び、怪しい光がチカチカして不気味なもの。

しかし……

『ふむ……ふむ……ふむ。なるほど、大体わかった。その扉を閉じよ。あとはスイッチを押せばこの部屋自体が切り離され―――むっ』

トレイナは瞬時に部屋の構造と仕掛けを理解。

だが、その時ふとトレイナが部屋の外を気にする様子で振り返った。

「?」

急に後ろを振り向くトレイナ。アースも誰かが来たのではないかとレーダーを展開するが、その様子はない。

しかし、トレイナは何かに気づいた様子で……

『この魔力の流れからして発動する魔法は……むぅ……酷いことをする……。童、早くハッチを閉じよ! 気を失うぞ』

「え?」

と、目を細めて、何かを哀れむような表情をしていた。

三人に囲まれ、一斉攻撃をされるパリピ。

迫りくる、ハチコ、ファイブジョー、エイトカイ。

それに対し、鼻栓したパリピが禍々しい魔力を身に纏い―――

「古代地獄魔法・シュールストレミングミタイノ」

「「「ッ!!??」」」

何かを発動。

しかし、その翳した手からは何も出ない。何も見えない。

「なっ……んだ?」

「何をしたかっぱ?」

「ぶぅ?」

一瞬身構えたハチコたちだが、何が起こったか分からず一瞬呆ける。

が、それもほんの一瞬。

「ッ?! ぶっお、ご、お、うおお、おごぉ、ごええ」

「んがっ、あっ、がはっ」

「ぶうう!? おえ、うええ」

次の瞬間には、三人の伝説の怪物が、三人同時に悶絶したようにその場でのた打ち回り、激しく嘔吐したのだった。