軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第六百十一話 本領発揮

「妖気剣・連鎖牙突!」

「狂凶葬爪曲!」

犬の牙と悪魔の爪が交差する。

限られたスペースしかない艦内の通路の壁に亀裂を走らせ駆け抜けながら、互いに相手を裂かんとする容赦ない攻防が繰り広げられる。

「三牙月!」

「爪牙槍!」

互いに接近での裂き合いだけでなく、中距離からの飛び道具も駆使し、互いに息つく暇もない。

だが、その攻防の中、片方が徐々にスピードとキレを増していく。

「ひはははは、どんどん速くなってるね~、準備運動が終わったぐらい?」

「…………」

「ひはははは、無視すんなよなぁ、雌犬――」

戦争や命がけの戦闘に関しては互いにブランクはあるものの、ハチコたちはパリピの比ではない。

それこそ、長い間海の底で夢の世界に浸っていたハチコたちはそれこそ途方もない時間、戦いから離れていた。

だが、その戦いの勘と体の動きが戻れば、その力はかつて魔界の猛者たちと存分に渡り合うほどの力であり、本来パリピもヘラヘラ笑って相手できるような存在ではない。

「犬瞬走牙」

「あうち」

ハチコの矛が繰り出す刃が、徐々にパリピの肉体に僅かながら斬り傷を刻み込んでいく。

「貴様ともう会話はせん。間も与えん。このまま削いでいく! 貴様の言葉も闇魔法も完封する! 惨めに死ね!」

そして、ハチコはパリピとの戦い方は分かっている。

その戦い方は、パリピの言葉に耳を傾けず、魔法を使わせない純粋な一騎打ち。

「嚙み砕く! 回転刃牙!」

それも、飛びぬけた身体能力とスピードを駆使して四方から刻んでパリピに捉えさせない動きでパリピの表皮を削いでいく。

「ちょこまかとパナイメンドクセーなぁ~……しかし、そんなパナイ走り回って大丈夫かねぇ~?」

一方で致命傷は無いものの、肌に刻まれる傷が増えていくも、パリピは余裕で笑っている。

その言葉、笑み、全てがハチコを不快にさせたが、それを相手にしなかった。

「一秒でも速く死ね」

そう、ハチコは戦闘においてパリピとの会話は油断や罠に直結するものであることを分かっており、そしてその魔法のバリエーションも脅威だということを分かっている。

「ひははは、そんばパナイ鼻息荒くするなぁ~。そんな重くて融通の利かないところを、深海行き遅れプリンセス同様に、人間の男からドン引きされて逃げられてんだろぉ?」

「獰猛犬牙」

何よりも、卑怯で外道な行いも躊躇わずにやり、そこに戦士や武士などの誇りや矜持も持ち合わせていない。

だからこそ、純粋な力押しで押し切ることが、ハチコにとってはもっとも有効な戦い方であった。

「ひははは、つまんねーの。パナイ懐かしの相手の話ぐらいには少しぐらい乗らねーか?」

「 犬切斬(けんせつざん) !」

「っとぉ、だーから、少しぐらい昔話をする気はねーのかって……」

「犬切斬乱舞!」

パリピの言葉は全て無視。

ただ、パリピを刻んで殺すことだけに集中する。

(所詮この男は他の六覇とは違う。己が体を張って戦うよりも、人を使い、罠を張り、策を弄し、それを後ろで笑って見ているような男……知将を気取るような男など、最前線で何ができるッ! 鑑賞会で映っていた、天空世界で暴れたように人間の雑魚ならどうにかなるかもしれんが、今、誰と戦っていると思っている! 未熟だったアース・ラガンにすら卑怯な毒攻撃であしらい、しかしそれでも負けたような男! そして今はもう、卑怯な策も魔法を使う隙すらも与えん!)

ソレに集中さえすればパリピを討ち取れるはずだとハチコは自信があった。

(ん~……毒が回ってるはずなんだが、やっぱ作り物で改造されてる生物……毒の耐性はあるってか……ひははは……で、後はダンマリを貫いてクールにオレを倒そうってか? パナイつまんねーなぁ~)

一方で、そんなハチコにパリピは「つまらない」と感じていた。

「ゴクウとは違う方向で単細胞バカのくせに仕事に徹するなんてパナイつまらねえ。是が非でもワンワンとパナイ泣かせてみてーなぁ!」

なら、面白くするだけだとパリピが邪悪な笑みを浮かべる。

「外道、その首貰ったぁ!」

次の瞬間、ハチコの刃が背後からパリピの首を刎ねようとする……が、

「ひははは、単細胞! 行動がパナイバレバレだぜぇ! 激毒手ッ!」

その一閃を見抜いたパリピが、体を反転させて迎撃の貫手をハチコの胴体目掛けて繰り出す……が、パリピの貫手が貫いたのは、ハチコの残像だった。

「遅い。そして、首が嫌なら、心臓を貰う!」

そして、本物のハチコはさらにパリピの背後に。そのまま矛を背中越しにパリピの心臓を一突き――――

「ひははははははは、しゃらくせぇなぁ!」

「げぶっ?!」

一突き、しようとした瞬間、ハチコの想定外のスピードからのパリピの裏拳がハチコの顔面を捉えた。

その頃……

「……あの女……追って来ねーな……どうした?」

前を走るアースは、自分たちに激しい怒りを抱きながら追いかけてきていたハチコの気配が途絶えていることを不思議に感じていた。

「俺のレーダーの範囲外に出ちまった。ひょっとして、さっきの二人を倒したことでかなり警戒されたかな?」

「あら、そうなのですか? では、あの女性、今は私たちを追いかけていないと?」

「んぁ、そ、そうなのん! 本当なのん? あの、おっかないおねーちゃん来ないのん? それは残念なのん。今度こそ僕の超ウルトラハイパー必殺技を見せるチャンスだったのにん」

ハチコが追いかけてこないことを、クロンもヒルアもホッとしたように胸を撫でおろすが、アースにとっては返って不気味だった。

単細胞にガッと追いかけられて襲われる方が色々と対処のしようがあったが、こうして自分が感知できる範囲外で何をやっているか分からなくなると気になってくる。

『ふっ……心配はいらん……気にすることもなく、むしろかえって哀れだと思えばよい』

そんな気が気じゃないアースに対し、傍らのトレイナは苦笑しながらそう告げた。

『心配ないって……それじゃあ、あの女、諦めるのはやめたのか?』

『いや、そうではないさ。ただ……少々最悪な障害にあっているというべきか……』

アースが感知できないものも、トレイナなら分かる。

『単純な肉弾戦ならば圧倒できるとでも思ったのだろう……まだ、今より遥かに未熟だった頃の童に風穴を開けられた程度ならばどうにかできると……』

『トレイナ?』

『その時点で既に奴の術中にハマってしまっている。たかが狡いだけの男なはずがないであろう……』

トレイナは何が今起こっているかをちゃんと把握しているからこそ、苦笑し、むしろハチコを哀れむような表情を浮かべている。

「つっ、な、なに……!」

殴り飛ばされながらも何とか体勢をを整えて身構えるハチコだが、その表情は動揺していた。

本日二度目の殴打。しかも、最初の不意打ちと違い、今のは完全に自分がパリピを翻弄し、裏をかいての決定的な一撃を叩き込むところであった。

しかし、それをパリピは力ずくで無理やり自分を迎撃したのだ。

その単純な力、そして予期せぬカウンターにハチコはまるで対応できなかった。

「ひははは、ま、もう大体わかった……パナイ分かったよ、テメエの動きも力もな」

「……ぬっ……」

その言葉に思わず激昂する言葉を飲み込むハチコ。

パリピのペースに乗ってはダメだと自分に言い聞かせながら軽く深呼吸し、再び静かに立って矛を構え、そして勢いよく加速する。

「ほざけ! まぐれは通用せん。超速野生の動きで振り切ってくれる!」

パリピの周囲前後左右、上にまでハチコが駆け巡る。

そのスピードは多数の残像を残すほどに。

スピードならばハチコの方が圧倒的にパリピより上であり、その動きにパリピの目はついて来れないはずだとハチコは思っていた。

「今度こそ、斬るッ!」

だが、パリピの死角を突くように再び接近した瞬間、パリピが振り返って目が合う。

「底が浅ぇ……ブランクが長すぎだぜ」

「ッ!?」

ハチコが突き立てようとした矛を、振り向きざまにパリピが手刀で矛の側面を叩いて捌く。

「っ、ばかな! まぐれなど、――――連鎖牙突!」

「ひはははははは、それさっき見た。ほれ、よっと、あらよっと」

「ッ!?」

息を突かせぬ高速の連続突きならどうだと、ハチコは荒々しい突きを繰り出すが、パリピはその全てを両手の手刀で叩き落していく。

「ばかな、み、見切っていると?」

「ちげーよ、分かるんだよ。テメエがパナイバカだから」

「ッ、何をぉ! ならば、弾けぬ会心の一撃で貴様を断つッ!」

「そして、バカだから状況を理解できず、自分の手元すら分かってねぇ」

邪悪な笑みを浮かべるパリピに背筋が寒くなるハチコだが、それを振り払うように再び吠え、そして今度は連続攻撃ではなく、渾身の力を込めた一撃を繰り出さんと、全身の全体重を込めた一撃でパリピに突進する。

だが……

「その身を砕け散れ、砕牙突ッ! ……ッ!?」

突進し、矛を突き出した瞬間にハチコはハッとした。

ハチコの矛の刃はアースに砕かれ、しかしその刃は魔力と似た独特の力で象って作り上げたもの。

しかし、矛の「柄」の部分は違う。

そして、柄の部分がハチコの気づかぬうちに変色して腐っていた。

「オレの毒はお前には効かないみたいだけど……ひははは、オレの毒は物をも腐らせる。自分の相棒が腐ってることすら気づかねえパナイバカだからダメなんだよ」

「ッ?!」

「それで調子こいてオレを斬りまくってたから、もうその武器にはオレの返り血がべっとり、ひははははは!」

爪だけではない。血液すらも、いやその他全てが毒でもあるパリピ。

その毒が利かないと思っていたハチコは、自分以外のものがその毒に蝕まれていると気づかなかった。

何度もパリピの返り血を浴び、そして手刀で叩かれていたハチコの矛は、次のパリピの手刀に耐えきれず、へし折れてしまった。

「そ、そんな、ばかな――――」

「バカはテメエだってパナイ言ってんじゃ~ん!」

「ッ!?」

その事態に驚愕したハチコの頭部をパリピは鷲掴みにし、そのまま後頭部から勢いよく床に叩きつけた。

「が、かはっ、ぐっ、貴様ぁ!」

「ひははは、頭打って少しは頭良くなったかぁ?」

「ぐっ……落ち着け……こんな奴のペースに乗ってはならん」

痛みと驚きで衝撃を受けるハチコだが、意識は飛ばさず、パリピの手を強引に振り払って距離を取る。

頭が割れて血が流れるが、自分に冷静になるように言い聞かせる。

武器は失ってもまだ自分はやれると。

「犬拳の型」

そして、腰を低くし、獲物を狙う野生の空気、そして鋭い鉤爪のように手を構える。

「ワオオオオンッ!」

今度こそスピードで振り切ると意気込んで、パリピの周囲を走るハチコ。

だが、パリピは肩を竦め……

「おー、速い速い。あー、速い速い。で?」

「ッ!?」

呆れたように笑いながら、次の瞬間にはハチコが襲い掛かろうと死角から迫った瞬間、パリピは体を反転させてハチコを正面から迎えようとした。

「パナイバカだからさぁ、動きや思考がパナイ丸分かりなんだよ。野生の動き? つまりは何の深みもないパナイノータリンの動きだろぉ? そんなもん、経験と感覚でいくらでもパナイ読めるってもんさぁ」

「ば、かな、ありえん!」

動きの先読み。ゾッとしながらも「ありえない」と認めないハチコは急ストップからの方向転換で再びパリピから距離を取ろうとする。

だが、その表情は明らかに動揺していた。

「ひははは、そーさぁ、ありえねーんだよ……パナイありえねーんだよ……ボスの所為で……アース・ラガンの所為で世間の連中が勘違いしてるけど……」

「ッ?!」

ハチコが「よし、今度こそ」と意気込んでパリピに接近しようとした直前に、パリピの視線がハチコを捉えた。

本来、パリピの動体視力では自分を捉えられないと思っていたハチコは再び戦慄する。

「六覇ってのはよぉ、あの御方が選んだ六人だぜぇ?」

「しまっ、なっ!?」

そして、ゾッとして動きが一瞬止まってしまったハチコを、パリピは逃さなかった。

手を伸ばし、ハチコの足首を掴んでそのまま床に再び叩きつける。

「ぐが、ガっ、あ!」

頭部は両手で抑えて衝撃を防ぐも、背中から強打するハチコ。苦痛に顔を歪めながらも顔を上げてパリピを睨もうとした瞬間、パリピの爪先が眼前に迫り……

「トゥーキックう~!」

「がぼぉぉ!?」

鼻を潰す爪先蹴りが容赦なく叩き込まれた。

「が、がああ、あが、ぐ、がぁ!?」

鼻血を吹き出し、激痛にのた打ち回るハチコ。

その苦しみ悶える姿に悪魔は残酷な笑みを浮かべて……

「策も魔法も使わなくても、オレもしっかりパナイツエーのよ」

アースには敗れたものの、いよいよ本領発揮となった。