軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第六百十三話 本当の恐怖

「クロン、その窪みをポチっと押せばいい……らしい」

「ポチッ、ですか? 分かりました……ポチっとなです」

「んあ!? な、なんか、ふわっとするのん!」

謎の小部屋に入り、輝く窪みを推した瞬間、それがまるで合図になっていたかのように部屋が揺れる。そして、まるで投げ出されるかのように体が浮かびかける。

部屋の窓から外を見る。

すると……

「わわ、アース、私たち……何だか、この部屋だけ切り離されて……」

「ああ。見ろよ……あのデッケー鯨の……たぶんヒレの一部だな、ココは」

「わぁ、離れていくのん! っていうか、あんなおっきな鯨の中に僕たちいたのん? っていうか、この部屋って鯨の一部なのん!?」

一目では端から端まで視界に入れることすらできないほど巨大な物体。

巨大な海の中でもその巨体さは異質。

人智を超えている。

「すげ……喰われた瞬間にも思ったが、昨日のゴドラやゲンブってやつよりデケーな……」

「でも、私とアースとヒーちゃんは問題なく脱出できたのです! そう、私たちならばどんな壁も底でもちょちょいのちょいなのです!」

そう、クロンの言う通り、結果的には多少のバトルはあったものの三人無傷で問題なく脱出できた。

最初は深海族や伝説の戦士たちに囲まれてどうなるかと思ったが、アースもホッと胸を撫で下ろした。

「とりあえず、早いところ地上へ戻らねえとな」

「ん~、心配かけちゃいましたね~……あ、カリーのお届けもできてません!」

今のアースたちにとっては、もはや深海族たちよりも、配達に出たまま行方不明になった自分たちを心配しているであろう家族たちへの対応の方が悩ましかったりした。

『まだもう少しある……童、油断するな……』

だが、そのときトレイナが気を抜くアースを窘める。

そして……

「なんだぁ? 鯨が……赤く光ったりを繰り返して……点滅している?」

『艦内からの逃亡……救命艇の使用……連中が警報を鳴らしたのだろう。だが、構うな。このまま一気に浮上させよ。どうせ奴らもソナーでこちらの位置をすぐに把握する。その前に深海域から離脱せよ』

「とにかく離脱……つっても、どうすれば……」

『……その青いスイッチを押せ。さすればこの艇のスクリューが回転し、そちらのレバーで―――む? これは……』

「え? どうした?」

『流石に早いな、気づいたか』

そのとき、トレイナの指示に従って早く鯨から逃げるために動こうとしたが、そこでトレイナがまた何かを感じ取った様子で、どこか笑顔が引きつっている。

アースも気になって外を見ると……

――逃がさないわ……オツのためにも

「ッ!?」

鯨が突如ギロリと視線をこちらに向けた。

その目には明らかな意思が籠っていた。

「あのお魚さん、いえ、クジラさんですか? こちらを見ました!」

「んあぁ? ちょっと待つのん! アレ、生きているみたいなのん!」

クロンとヒルアも気づいて驚きの声を上げる。

それは、アースも同じ。

自分たちが捕らえられたのは「巨大なクジラの形をした潜水艦』だと思っていた。

しかし……

『アレは半分生物だ』

「え……」

『巨大な生物に改造を施した……改造鯨……実はなかなかにエグイものであるのだ』

ただの潜水艦ではなく、生命体。

そして意思を宿している。

その意志は……

――イリエシマ様と再び会うため……手段は選ばないわ。六覇級のアース・ラガンなら無茶をしても死なない……まずはその救命艇を停止させるわ……

仲間を想う心から、自らの意思でアースたちを捕えようとする。艦内にいたハチコたちと同様に。

「うお、なんかやろうとしてくるぞ、あれ! まさか攻撃してくる気じゃねーだろうな?」

「あら、そうなのですか? 話し合いはできませんか?」

「んあ、まずいのん! この中だとおにーちゃんは何もできないし、海に放り出されたら僕たちやばいのん!」

そう、ここは深海。

そしてアースたちは救命艇の中。

この中にいる以上、外部から攻撃されてもアースはどうしようもない。

しかし……

『あー、まぁ、心配いらん……童、その赤いスイッチを押せ』

そもそもこの事態そのものはトレイナにとっても最初から予想通りである。

鯨の潜水艦から離れても追手や外部からの攻撃が来ることは。

―― 魚雷発射(ぎょらいはっしゃ)

鯨から、何かが勢いよく放たれる。

それは、海の中から放たれる砲弾。

「うわ、撃ってきやがった! つっ、あ、赤いボタン、でいいのか? そりゃ!」

『うむ、 囮魚雷(デコイ) 発射』

とにかくアースはトレイナの指示通りのものを押す。

次の瞬間、自分たちの乗る救命艇からも何かが飛び出した。

すると、クジラから放たれた砲弾は突如方向転換し、救命艇ではなく、救命艇から放たれた何かに向かって着弾し、爆発を起こした。

「うおお、すげ、何だこの威力!? くらってたら普通にヤバかったか?」

「きゃあ、あう、体ぶつけました……」

「んあー!? すごいのん、めちゃんこすごい威力なのん!? コントロール下手くそだけどすごいのん!?」

自分たちには当たらなかった。しかし、暗い深海が眩しくなるほどの強烈な閃光と威力にアースたちは動揺を抑えきれない。

一方で……

―― 囮魚雷(デコイ) を……いえ、そもそも何故アース・ラガンたちは救命艇の使い方を……?

鯨もまた、意思があるゆえにその表情が驚いている表情だということがアースたちにも分かった。

――第一世代とも親密なアース・ラガン……不思議ではないか……いずれにせよ逃がさないわ……まったく……六覇の外道といい、どうして人の恋路を邪魔して協力しないのかしら……

だが、やることは変わらないとすぐに切り替え、鯨が勢いよくアースたちの乗る救命艇へ向かってきた。

「うお、今度は体ごと来やがった! まずい、また喰われるぞ!」

明らかにサイズが違うゆえ、速度も違う。

鯨から離れようとするも、鯨はすぐに追いついてくる。

『くそ、どうすりゃいい、トレイナ?』

アースはこの状況でどうすればいいかとトレイナに尋ねる。

だが、トレイナはまるで慌てていない。

それどころか苦笑して……

『まぁ、この事態の対処法もある……のだが、全て必要なくなった』

「え?」

『先ほど余は言ったであろう? 「流石に早いな、気づいたか」……と』

「……?」

トレイナが先ほど言った言葉。それは、アースはてっきり鯨のことを言っているのかと思っていた。

だが、そうではなかった。

もともと鯨に気づかれることはトレイナにとって想定内のことのため、特に驚くこともなかった。

トレイナがその言葉を口にしたのは『少し想定が外れた』ことがあったからである。

それは……

「ッ!? こ、これは? この感じは……」

アースもその時ようやく気付いた。

『これほどの大魔力……気づくのがもう数秒遅いな……感知がまだまだ甘いぞ? 童。釣りの修行でもまたやらんとなぁ」

この海の底で、突如感じた巨大な大魔力。

深海族たちではない。

トレイナ、そしてアースが感じた強烈な力。

「な、なんだというのです? アース……わわ!?」

「んあぁ!? 引っ張られるのん!」

そして、その魔力はアースたちの救命艇を無理やり魔力で引っ張る。

――急加速? 急浮上ボタンを押したと? 逃がさないわ。たとえ海上に出たとしても……マーマン部隊、マーメイド部隊、戦闘準備を

突如急加速して上へと救命艇ごと引っ張られるアースたち。

鯨もその後を勢いよく追いかけてくる。

だが、追い付かせない。

そして……

「あ~……そういうことかよ」

『そういうことだ』

アースはこの時点でようやく全てを察した。

魔法を使って、深海にいた自分たちを無理やり引っ張る規格外の大魔力。

「ダレ? ワタシタチカラ黙ッテオニイチャンヲサラッタノハ誰?」

「言訳無用。僕ノオニイサンをサラッタ罪、一秒デモ早ク滅殺スル」

「クロン様ァクロン様ァクロン様ァ……誰ダ誰ダ誰ダ……誰ガクロン様ヲサラッタァ!」

引っ張られて海上へ急浮上した救命艇。それは勢い止まることなく、そのまま海上どころか空まで引っ張られる。

そしてそこには……

「わ~……」

「あら~」

「んあァああ?! なんか、鯨よりもおっかないのがいるのん!?」

大切な家族が攫われたことに完全にブチ切れて暗黒面を出している三人。

肩組んで空に浮かんでいる弟妹と、黒い翼の母が、この世の誰よりも怒り狂った形相で救命艇を、そして追いかけてくる超巨大なクジラも―――

「「「判決、解体!」」」

本気で殺してしまいそうな殺意を全面に剥き出しにして、その三人がアースたちには今日出会った深海族や伝説の戦士たちの誰よりも恐ろしかった。