軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第六百七話 問答無用

「ハクキ……貴様……」

『ふっ……かつての同志であり戦友に対し、随分と不快そうな様子だな……もう、敵としか思ってはくれぬか……』

直接会っているわけではない。

しかし、魔水晶を通じてのその会話に、その場にいた魔兵たちは腰を抜かしそうになる。

「お、おい、今……総司令……ハクキと……」

「ハクキ大将軍……い、いや、現・世界最高額賞金首のハクキ……」

かつては自分たちを率いた大将軍であり、伝説にすらなっているハクキの名と言葉は、それだけで圧倒的な力があり、半端な兵たちでは立っているだけでやっとであった。

「ハクキ……十数年経ち……再び動き出し、貴様は何を企んでいるゾウ? アース・ラガンとも因縁があるようだが、それ以前に貴様は――――」

『待て、久々ではあるが……ライファント。大前提だけを確認させよ』

「……なに?」

かつての仲間であり同志であり戦友でもあるライファントとハクキ。

今の世では立場上、対立する両者。

だが、それを踏まえてハクキは……

『少し世界を揺らそうと思ってな……手始めに吾輩は帝国を滅ぼそうと思う』

「……は?」

『ライファント……立ち位置をハッキリさせようではないか。敵となるか、再び吾輩と共に肩を並べて今度こそ人類を――――』

「な、きさ、ま、待つゾウ! な……なんという戯けたことを言っているゾウッ!」

アッサリと軽く、しかしそれでいて『本気』を感じさせることを告げるハクキ。

ライファントも兵たちも激しく動揺を見せる。

「小生らはもう負けた! ヒイロたちの手で、大魔王様が討たれたその時に……そのとき、ヒイロたちは小生らを根絶やしにすることもできたが、それはされなかった! それどころかヒイロたちは和睦を……そ、それを……ようやく終わったこの戦乱の世を再び―――」

『問答する気はない。知りたいのは立ち位置だけ。そして、帝国の結末はハッキリしている』

「な、に……」

『帝国の援軍に駆け付けたいのであれば好きにすればよい。ソルジャにも教えてやればよい。お前ともノジャともこうなる想定はしていた……まぁ、ヤミディレは予想外で、パリピは何を考えているか分からんがな』

武人として、敗北を受け入れたライファントはヒイロたちと手を取り、人と魔族の新たな世界を共に作るために尽力した。

かつての宿敵であったヒイロたちも、今では同じ時代を生き抜き、そして同じ志を抱いた同志となっていた。

「ハクキ……貴様もアース・ラガンの鑑賞会を経て察したはずだゾウ。どういう理屈か知らんが……大魔王様は――――」

『それが何の関係がある?』

「な、……なに?」

一方でハクキは?

『一つ勘違いをしているぞ、ライファント。吾輩がまさか、大魔王様の敵討ちやその無念を晴らすこと、遺志を受け継いで自分たちで人類を根絶やしに……などと、吾輩の行動を大魔王様を理由に使っているのではないかと』

「ち、違うと……?」

『貴様よりも遥か昔からあの御方と吾輩は長い。あの御方ならば……好きに生きよ……そう言うであろう。だからこそ、吾輩が動くのはあくまで吾輩の意思……吾輩が吾輩の意思で動く以上、あの御方とて吾輩の行動を咎めはせぬさ……霊体の姿となろうとも……』

ハクキもまた、己の想いで動いている。

「ハクキ……」

『というわけだ。そして、ここから先はくだらぬ舌戦を繰り広げる気はない。覚悟を決めて殺し合おうではないか』

「ハクキッ!」

だからこそ、ハクキの立ち位置はハッキリしていた。

立ちはだかるのであれば、かつての仲間であろうと蹴散らすのみ。

迷いもない。

『何よりも……どうせ『前座』だからな。ふはははははははははは!』

その言葉を最後に、魔水晶からの通信は完全に途絶えた。

音の途絶えた魔水晶を握りしめ、ライファントは苦悶に満ちた顔を浮かべたまま、魔界の空を仰いだ。

「そ、総司令……」

「いかがいたしましょう……帝国を滅ぼすとのことでしたが……」

「……七勇者や連合軍が黙ってないでしょうし……だが、もしハクキが帝国を滅ぼすならそれはそれで……」

やはり戦いは避けられない。

そして自分たちは魔族。

いかに友好条約を結んでいるとはいえ、かつて戦争で負けたために大人しく人類の提案を飲むしかなかっただけで、人と魔族は過去のわだかまりや種族の壁を乗り越えて仲良しこよしになれているというわけではない

だからこそ、「そういう考え」を持つ魔族もハクキたち以外にも出てきても不思議ではない。

だが……

「セコイことを言うなゾウ。人類は……我ら魔族と手を取り合い、共に世界の平和を守る同志である! であるならば、その和を乱そうとする者こそが敵ッ! 討つべき敵はハクキなりッ!」

「「「「「ッッ!!??」」」」」

ライファントは武人として、そしてもはや共に十数年間想いを共有してきたヒイロたちとの絆は決して安いものではなくなってきている。

「今すぐ呼び出せる兵を集めよ! ピッグゴリたち、かつての百獣たちも呼び出せ! ハクキ率いる鬼天烈共と全面戦争だゾウ!」

「「「「「応ッッ!!」」」」」

だからこそ、ライファントはハクキと戦うことに心の痛みはあれど、人類の味方をすることに迷いはなかった。

そして、その頃……

「……なあ、俺たち……食われたよな?」

「……たぶん……海から山よりも大きいお魚が飛び出して……」

「んあ! 僕たちをパクっとしたのん! これ、どういうことなのん!」

ポカーンとした様子で並ぶアース、クロン、そしてヒルア。

いま自分たちの視界に映る光景に戸惑っていた。

「ここ……魚の腹の中じゃねえのか? 何かの基地か?」

「どうしてお魚さんの中に……こんな……」

「んあー! 一体何なのん! ここは! そして、この『ヒト』たちは何なのん!?」

そこは、壁も天井も床すらもある巨大な広々とした人工的な空間。

魚に食われたと思っていたアースたちにとってはそれだけでも驚きだというのに、さらに……

「大人しくしろ、アース・ラガン。そして、クロンと言ったな? 決して妙なことはせぬことだ。この、我らの『要塞潜水艦・ヤマノクジラ』から逃げ場はない……何よりもこの数、小細工を弄して乗り越えられるものではないからな」

アースたちの周囲をグルリと取り囲むように、半人半漁、半人半獣、多種多様の姿をした異形の者たちが、剣や槍や三つ又の矛を構えて立っている。

前後左右だけでなく、斜め上の壁沿いの通路にもズラリと武装した者たちがアースとクロンとヒルアに対して構えている。

そんな集団の中で、犬耳をして仰々しい矛を携えた若い女が、鋭い目で命令するかのようにアースたちに告げた。

「誰だ、お前ら! ここは――――」

「質問はこちらがする。ダマレ。斬るぞ」

そして、どうにも友好的な関係を築こうとしている気がゼロである、ムッとする連中であるということだけはアースも分かった。

『……ふん……相変わらず主以外に対する躾がなっていない……いや、その主も居ないからこそ余計に……か』

そんな犬耳女を、傍らのトレイナは呆れたように呟いた。

『トレイナ……知り合い? 魔族ではなさそうだし、なんとなくだけどゴクウや昨晩の連中系の?』

『ああ。それと同じだ』

『そうか……ゴクウや昨日のゲンブってのは、とりあえず会話は成立しそうだったけど、とりあえずこいつの話も黙って聞いておくか? なんかムカつくけど――――』

『無理だ』

相手が昨晩のオツ、そしてゴクウたちと繋がりのある者たちだということはアースも察した。

そしてこの状況だし、多少失礼な相手だろうと話はとりあえず聞くべきだろうか? と思ったアースだったが、意外にもトレイナは否定。

『こ奴らの思惑は目に見えている。恐らくは隙を見て貴様らの意識を奪い、動きを封じ、昨晩のヨーセイたちのように都合の良い人形にでもする気だろう』

『ッ!? に、人形?』

『目的は分からぬが、貴様を操り人形にできれば如何様にでも使い道はあるからな……いずれにせよ、話を聞いたところで仕方がない。それよりも隙を作って逃げ出す方がいい』

『逃げ出すって……この状況……』

『今すぐだ』

『は!? い、今って……』

『向こうも色々と考え、準備し、作戦もあるのだろう。が、周囲を取り囲むマーマンたちは誰もが体中が強張り緊張気味……経験不足や、あまりにも久々すぎる実戦なのだろう……数が多いだけで、全員が咄嗟には動き出せまい。むしろ、今この場でこの数の前で暴れた方が、混乱に乗じて逃げ出せよう』

『い、いや、逃げ出すって、そもそもここがどこかも分かんねーし……』

『心配いらぬ。コレの内部に入ったのは初めてだが……見渡してみて、空気の流れ、厚み、艦内の部屋の数や位置……大体の全体的な構造はもうほぼほぼ理解できた。混乱に乗じ、むしろコレのメインとなる部分に貴様が到達し、コレを貴様が掌握せよ』

トレイナからの意外な指示。

それは、会話は不要で暴れて逃げて、そしてこの何かもよく分からないモノを乗っ取れというのである。

『おいおいおいおい、ちょっとメチャクチャすぎねーか? 大丈夫か? あんたにしては随分と荒い作戦でスマートじゃねえが……』

あまりにも吹っ飛んだ発言に、アースは思わず卒倒してしまいそうになる。

だが、トレイナは……

『まあ、余も本来ならもう少し綿密に詰めて状況把握と安全性と成功率を上げるために慎重になるところだが、……貴様なら、これぐらい大雑把でもどうにかできよう』

『おっ!』

深海の連中も、まさか何か話をする前にアースがいきなり暴れ出すとまでは思っていない。

抑止力として取り囲んでいる雑兵たちだが、経験不足か久々の実戦だからか、緊張して体が硬くなっていることをトレイナも見逃さない。

向こうのペースに合わせることなく、雑兵の緊張が取れる前に動いた方が良いだろうというトレイナの判断。

普通ならもう少し作戦を詰めるところだが、アースならばこれぐらいの指示であとはどうにかできるとトレイナは考えた。

そしてそれは……

『へへへ、そうかい。ま、あんたは言うなら、俺ならどうにかできちゃうんだろうな』

『ふっ』

アースなら問題ないという信頼ゆえ、これだけ大雑把でも大丈夫とトレイナが思ってくれている。

もうそれだけでアースに迷いはなかった。

「さて、アース・ラガンといったな。話をする前に、念のため両手足を拘束させてもらおう。改めて言うが、妙な動きをすれば貴様も、そしてその娘も醜いカバも――――」

だから、犬耳女が都合の良いことを言おうとしているが、何も聞く耳を持つ必要はなく、アースは……

「うるせぇ、バーカ!」

「ッ!?」

遠慮することなく言ってやった。

「ちょ、アースッ!」

「おにーちゃん!?」

突然のアースの挑発にクロンもヒルアもギョッとする。

周囲を取り囲む雑兵たちも動揺。

「きさ、…… 某(それがし) に向かっ……おのれぇ! 侮辱! 手足を斬り落とす!」

「お――――」

次の瞬間、犬耳女の姿が目の前から消えた。

いや、消えたのではなく、目にも止まらぬ高速のスピードで―――

「それができねーから、不意打ちしてきたんだろ?」

「……え……」

薙ぎ払うように真横に振りかぶった矛で―――

「大魔スマッシュッ!」

アースの足を斬ろうとしていた。

が、その角度、軌道、タイミング、全てをアースは読み切る。

迫りくる刃に対して、低空から繰り出すアッパー気味のパンチで……

「なっ……ん……だと……」

犬耳女の矛の刀身を、拳で砕いたのだった。