軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第六百八話 コンビ

深海の兵たちは目を疑った。

決して相手を舐めていたわけではない。

むしろ、不意打ちに加えて数で取り囲み、自分たちのエリアに引き込んでの態勢は最大限の警戒と言える。

何よりも鑑賞会で見せたアース・ラガンの強さは、世界最強クラスの七勇者や六覇と同等以上。

そして自分たちもよく知るゴクウとも目にも止まらぬ攻防を繰り広げたほどの相手だ。

アース・ラガンが強いことは誰だって分かっている。

だが、それでも……

「ギョギョギョッ!?」

「ばかな……あの『ハチコ様』の斬撃を見切るどころか……武器破壊まで!?」

やはり、驚かずにはいられないことが目の前で起こった。

「わァ! すごいです! 流石はアースです!」

「んあァ、おにーちゃんすごいのん!」

アースの味方であるクロンとヒルアですら驚いているのだ。

この場で驚いていないのは、ただ一人だけ。

『相変わらずの直情的……変わっていないな、忠剣士ハチコ……裏をかかぬ限り、ゴクウよりも速くない限り、何の工夫もなく、今の童を正面から捉えることができるものがこの世に何人いるか……』

相手は絵本にも神話にもなるほどの伝説の戦士。

かつては英雄ピーチボーイと共に魔界の鬼たちと死闘を繰り広げた豪傑。

トレイナとてその名も力もよく知っている。

しかし、知っているからこその安心でもあった。

『よし、童! 次は―――――』

『――――押忍ッ!』

トレイナにとって、もはやアース・ラガンをそれほどまでの領域の存在として評価していたのだ。

「我が矛を見切り、そして拳で砕くとは……あのゴクウの動きについていっただけあり、流石に良い目をしているか……だが!」

一方で武器を破壊された犬耳女こと忠剣士ハチコは、驚きつつもむしろ逆に落ち着いていた。

動揺ではなく、むしろ相手がいかに警戒すべき相手だったかを思い出した様子で気を引き締めなおしたのだ。

武器を破壊されたとて、戦意は何一つ折れていない。

ハチコは折れた矛を握りしめたまま唸る。

「妖気剣!」

その身から溢れる力が光となり、その光が矛に纏わりついて、光の刃を作り出した。

「残念ながら私の必殺の矛は、刃が折れたところで何も支障は――――」

「クロン、ヒルア、俺に捕まれぇ!」

だが、アースはそんなものを見ていなかった。

「わ、あ、アース?」

「クロン、ちょっと手ぇ貸してくれ」

「――――え?」

いや、ハチコがやっていることには気づいてはいるが、相手にする気はなかった。

アースは呆けているクロンとヒルアを自分に引き寄せて、密着し……

「さあ、全員ふっとんでもらおうか! 大魔螺旋・リミットコントロールッ!」

「大魔螺旋……てッ、ちょ、ば、待て、貴様! ここは海の中で、しかも深海――――」

以下に広々としている空間とはいえ、既に海に潜っている潜水艦。

こんな所で、大魔螺旋を使って艦内から破壊する気なのかと思ったハチコや深海兵たちは顔を青くする。

しかし、アースは止まらない。

大魔螺旋を放ち、周囲の深海兵やハチコを寄せ付けず、そして吹き飛ばす巨大な渦を室内に放つ。

「バカな! まずい、全員伏せろ! 破損に備え―――ぐっっ!?」

この潜水艦自体も深海の圧力にも耐えられるほどの遥か先の文明の力が備わっている。

その作りは頑丈であり、たとえ艦内で大きな戦闘があろうとも簡単に壊れるようなものではない。

しかし、これまでの鑑賞会で見せたアースの大魔螺旋、何よりも昨晩のあの巨大な怪物ゴドラすらも破壊した力を見てしまったからこそ、ハチコも深海兵たちも最悪の事態が頭を過った。

そして……

「うわあああ、う、渦に吹き飛ばされ……」

「ヤバい、身動きが!?」

「ツ、た、大変だ、壁に、天井に亀裂がッ!?」

大魔螺旋により吹き飛ばされる深海兵たち。

そして、その大魔螺旋の渦が天井を、壁を、破り……

「ば、バカな、アース・ラガン! 今すぐやめよ! これでは、貴様らも死ぬぞッ!?」

ハチコが思わず叫ぶ。

そう、こんな所で潜水艦が大破すれば、自分たちどころかアースたちまで死ぬ。

むしろ深海に耐性のある深海族の方が生き延びる可能性の方が高いかもしれない。とはいえ、自分たちもタダでは済まない。

だが、そんな声を聞かずアースは手を止めない。

「ぐっ、何という阿呆だ! ぐっ、まずい、海水が入ってくる! このままでは私まで、こ、こんなことが――――」

今すぐハチコもアースを止めたいが、大魔螺旋の強烈な渦が壁となって遮られ、そして自分も吹き飛ばされないようにと堪えることで精一杯。

そしてそのまま、潜水艦に亀裂が走り、勢いよく海水が入り込み、その場にいた全員が―――――

「へへへ、ばーか」

「あらぁ、皆さん、すっかり引っかかったようですね……」

という、「幻」を見せられたハチコや深海兵たちはのたうち回っていた。

「あいつら、すっかりクロンの暁光眼が頭から抜けていたな。ま、最初の『小規模の大魔螺旋』がブラインドになって、クロンの暁光眼が発動したことも分からなかっただろうからな~」

床のそこら中でのたうち回っている深海兵やハチコたちを笑いながら、アースとクロンとヒルアはトコトコとその場を抜けて部屋の外へと出ていった。

「ビックリしました。急にアースがこんな作戦を耳打ちしてくるんですから」

そう、アースが最初に放った大魔螺旋は、ちゃんと威力や範囲をこの部屋の中に留める程度にコントロールしたものであった。

そしてその渦の中で、アースはクロンに暁光眼で幻術の指示。

そのことに気づかない面々はまんまとクロンの幻術にハメられてしまったのだった。

『ふふふ……奴らとてオツの関係で暁光眼の脅威も対処法も分かっていただろう……だが、いつ発動したかもわからなければ、そして何よりも童の大魔螺旋であればこの潜水艦を内部から破壊できるかもしれないと奴らも思っていたこともあり、まんまと冷静さを欠かせることもできた』

結果、アース、クロン、ヒルアは無傷で部屋から脱出したのだった。

「んあー、すごいのんすごいのん! 流石はおにーちゃんとクロンちゃんなのん! 二人は息もピッタリで最強なのん! ラブラブなのん!」

「うふふふ、昨日から引き続きで、またまたアースと私の連携でどうにかなっちゃいましたね! えへへへ、私、アースとならやはり何でもできる気がします!」

まだ助かったわけでは全然なく、変わらずここは敵の腹の中。

しかし決して弱くはないはずの面々に囲まれた状況を無傷で離脱できたのだ。

クロンとヒルアは興奮収まらずハシャイで艦内の通路を駆ける。

だが……

「へへ、確かに俺とクロンは良いコンビかもな……でも、残念ながら最強じゃないけどな」

「え? む、むう、どういうことです、アースッ!」

「実は俺とクロン以上の世界最強コンビが存在してな、その領域にはまだまだ……」

「むむむむ、それは聞き捨てなりません! 誰と誰のコンビなのです? 決めました! 私はそのコンビを超えて、アースと世界最強のコンビになってみせるのです!」

「へへへ、それはちょっと難しいかもな~」

「いいえ、今ので私の野望の一つが増えました!」

プンプンと鼻息荒くしてむくれるクロンに苦笑しながら、アースは先を走る。

「おっ、そこの角を右に曲がるぞ」

「え? 右……なのですか?」

「んあ? おにーちゃん、何で分かるのん? おにーちゃん、ここが分かるのん?」

分かれ道で何の迷いもなく道を示すアースに驚くクロンとヒルア。

もちろん、アースとてここは初めてである。

しかし、微塵も疑うことはない。

『次は左だ……階段がある。艦内の兵もいるが、この速度で走っていれば鉢合わせすることはない』

その指示を疑ったこともない。

『これだけデカい船だ。万が一に備えての救命艇があるはずだ。そこまで辿り着けばよい』

『押忍』

『また、先ほどのハチコだが、ある程度の時間を置けば奴も正気に戻って追いかけてくるだろう。奴は嗅覚が鋭い。この艦内であればどこに隠れようともすぐに見つけられるだろうから、気を抜くな』

『押忍』

既に初見で潜水艦内の構造を大体把握したトレイナ。

冷静に……冷静に……

『……ふ、ふん……』

だが、その表情は今のアースの言葉―――

――余と童の方が最強に決まっているだろう?

それは、ハクキの傍らにいるかもしれないカグヤ、そのタッグに勝てるのかなとアースがぼやいたときに、トレイナの方から言った言葉だった。

その言葉を今度はアースの口から出され、それによって感じたことをトレイナは極力感じたことを顔に出さないように、あえて淡々と振舞った。

何度も「余は照れたりなどせん」と心の中で自分に言い聞かせて。

だが……

『……ん?』

そんな話をしていたからか、そう簡単に事態は解決してくれない。

「うおっ、何だぁ? 急にスゲー音……何かが壊れる音が向こうから聞こえてくるぞ?」

「わ、わわ、なんでしょう?」

「んあー!? なんか、揺れてるのん!?」

通路を走っていたアースたちの耳に何かを破壊する音と振動が響いてきた。

通路の壁の向こう側から。

そしてそれは一度ではなく、二度三度と響き、その音がどんどん大きくなっている。

『ッ!? こちらに近づいて……童ッ!」

「マジカルレーダー……人? 二人? 誰かがこっちに!」

レーダーを展開してアースも把握。

二人組の何者かが壁の向こうから、壁を壊しながらこちらへ近づいてきている気配。

アースはクロンとヒルアとすぐにその場から離脱しようとするが……

「かっぱっぱっぱ……犬が先走りしたかっぱ」

「ぶぅ~、ぶ~……だから、お昼ご飯食べ終わるまで待ってほしかったぶぅ……あのお弁当すごい美味しかったぶぅ……うぷっ、急に動いたから吐き気ぶぅ……」

もう、ソレは最大限のショートカットをして飛び出してきた。

「かっぱっぱっぱ、ここにいたかっぱ!」

「ぶぅ!」

それは、先ほどの深海兵たちの中にいなかった二人。

「アース・ラガン……クロン……確保するかっぱ!」

一人は全身緑色の肌をした、鳥の嘴のような口をした、でっぷりとした肥満体形の亜人。

「大人しくしてほしいぶぅ」

そしてもう一人は、全身を獣の体毛に覆われた、シュっとした細身で、オークのような鼻の形と鋭い牙を生やした獣人。

『……こやつら……こやつらまで居たか!』

その二人の突然の登場に、トレイナも少し驚いた様子だった。