軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第六百六話 あっちもこっちも

一触触発だった場面もとりあえず落ち着いた。

そして、ドクシングルがそのまま建設現場で大活躍し、労働者たちはさらにアミクスに祈りを捧げ、いつもは皆の声を一身に受けていたクロンが少しだけ拗ねて……

「んふふふ~、アースと一緒に配達です~♥」

「お、おお、そ、そうだな」

「アース、もうちょっとくっついてくれないと落ちちゃいますよ~? しっかりと捕まってもらいませんと~」

「……こ、こう……か?」

「♥」

拗ねていたのだが、その表情はすぐにご機嫌になった。

「どうなのん、クロンちゃん!」

「はい~、ヒーちゃんのお背中で、アースとくっついて二人乗りなのです~」

「んあ~、二人はラブラブなのん! イチャイチャなのん! ヒューヒューなのん!」

それは、離れた作業現場へのカリーの配達。

いつもヒルアに乗って配達するクロン。今日はアースと一緒に配達するんだと引かなかった。

ヒルアに跨って、アースを背もたれにしてアースに包まれるように二人乗りするクロンは口元がユルユルになっていた。

「すっかりご機嫌になってくれたようだな……」

「ええ、ケンカもなくよかったですし、望みも叶っちゃいましたので」

「望み?」

苦笑しながら思わずアースがそう呟く。

胸元に体重を預けてくるクロンの温もりやら柔らかさやら甘ったるい香りに包まれながらも理性を保ち、なるべくドキドキを悟られないようにそう口にした。

するとクロンもアースに体を預けながら数秒考える様子を見せながらもすぐに頷いた。

「はい。私、こうやってヒーちゃんに乗って、心地よい風を浴びながらの配達が好きで……いつかアースとくっついてこういうことしたいな~って思ってたので、望み叶っちゃったのです♪」

「そ、それは大変よろしゅう……」

先ほどまでは少しだけむくれていたクロンもすっかりご機嫌で鼻歌混じり。

アースにとってはドキドキで照れてしまう状況ではあるが、拒否することもできず、クロンにされるがままであった。

「ずっと……いつまでも……こういう毎日を過ごしたいです」

「え?」

後ろからアースの両手を引っ張り、クロンの首に回すように密着させ、自然と口にしたクロンの言葉。

反射的に聞き返したアースだが、聞き返すまでもなくそのクロンの呟きの意味ぐらい理解できないほど鈍くはない。

「お母さんと、アースと……そして家族みんなで……朝みたいに皆でカリーの準備をしているの……すごく楽しかったです」

確かに楽しかった。それはアースも同じだった。

エスピとヤミディレが過去のわだかまりを感じさせない雰囲気で、戦争や種族の壁など何も感じさせない、穏やかな日常の一幕。

「好きな人と結ばれて……家族を作って……みんな楽しそうに……ショジョヴィーチさんたちは私の理想です。そんな理想の家庭を築けている人たちは……この世でどれほどいるのでしょうか?」

「さ……さぁ。だけど、結婚して家庭を作るとか、世の中の大半が―――」

「だからこそ……世の中の大半の人が手に入れられているものを……お母さんは……そして、昨晩のあのオツという人は……」

「え?」

先ほどまで浮かれていたはずのクロンから少し切なそうな声が漏れ、アースも思わずハッとする。

「お母さんは……たとえ、好きな人と結ばれることができなかったのだとしても、その分を私が幸せにするのです。孫だってちゃんと作るのです。でも……あの、オツという人は……」

「クロン……」

「アースが駆け付けてくれて、私はやっぱりアースが大好きで、こうしていっしょにいるだけでもすごい幸せで……だけど、そんな私と比べてあの人は――――」

クロンはオツの全てを知っているわけではないし、深海族の背景についても知らない。

深海族が何を目的に動いているのかも。

ただ、オツがクロンと同じ暁光眼を持っていたことから、何か感じるモノがあったのかもしれない。

クロンの言葉を聞きながら、アースも少し考えた。

「ゴクウと話したとき……『たとえ偽物だろうとしても、それでも構わないと縋ってしまう気持ちは否定できない』……そう思った」

オツたちのやろうとしていること。

かつて失った愛すべき者たちに『限りなく本物に近い存在』をこの世に生み出そうとしている。

倫理やら問題もあるだろう。どんなに本物に近くても、所詮は偽物だということもある。何より、トレイナという幽霊と干渉できるアースからすれば、『本物の魂が泣く』という意見すら出る。

しかし、それでもオツたちの気持ちを全否定できないというのもまた事実だった。

「だからもしあいつらが、俺らから何も奪おうとしなかったり、傷つけようとしないのであれば……そういう気持ちもあったんだがな。だけど昨日みたいに、俺の周りの誰かに手を出そうとするのなら――――」

だから、アースは立ち位置はハッキリしていた。

しかし、昨日のようにクロンや自分の周囲にその危害が及ぶのであれば――――

『……ん? ……ッ?! 童、今すぐこの空域から離脱せよ!』

「え?」

『来るぞッ! これは……』

そのとき、ずっと静観していたトレイナが声を上げた。

何事かとビクッとしながらもアースは即座にレーダーを展開。

すると……

「あっ……」

『確認は後だ! 今すぐ離脱せよ!』

アースもすぐに気づいた。

真下に広がる海。

その底から巨大な何かが近づいてくる。

その巨大さに驚いたこと。

その巨大なものが真っすぐ接近していること。

そして何よりも……

「ヒルアッ! 今すぐ――――」

「んあ?」

「アース?」

気づいたとしても逃げ場がない。

それは、昨晩のゴドラや巨大化したゲンブ――――――

「ココから――――ッ!?」

「んあああああ!?」

「え!? え!?」

―――よりも、更にデカい。

まるで島のような巨大な真っ黒い物体。

海の底から突如顔を出し、そして……

「さ……さかな?」

ソレは超巨大な口をいっぱいに開き、アース、クロン、そしてヒルアをパクっと飲み込んで、そのまま再び巨大なしぶきと共に海へと潜ってしまった。

―――そして、その頃……

「………………」

魔界の中心にある都にて、一人のオーガが仰向けになって倒れていた。

全身傷だらけの血だらけで青痣まみれ。

どう見ても瀕死の重傷なのだが、その倒れて気を失っているオーガの表情は笑みに満ちていた。

「まったく……手間をかけさせるゾウ……」

そんなオーガを見下ろすのは、多少の傷は見え隠れするものの全身から溢れんばかりの覇気をむき出しにし、相手を射殺すほどの覇気に満ちた形相をした怪物。

「総司令様! お怪我が……」

「まさか総司令様自らが……」

一つの死闘が幕を下ろした。

立っているのは、現・魔界の最高位に君臨する伝説の存在。

元・六覇のライファントである。

「気にする必要ないゾウ。こ奴相手では兵に無駄な犠牲が出る……小生らクラスでなければな……」

そのライファントがため息を吐きながら、たった今自分が引導を渡した鬼を見下ろす。

瀕死間違いなしの状態で気を失いながらも、その表情は未だにゾッとする笑みを浮かべている。

「総司令、今すぐにこやつの首を刎ねましょう!」

「そうです、そもそも生死問わず大物犯罪者。裁判も不要。むしろ今この場で殺さねば――――」

その気味悪さ、その危険さから、ライファントの配下の兵たちはすぐに処刑すべきと声を上げる。

その考えは当然であるとライファントも理解する。

が……

「殺せれば……殺すことができればどれだけ簡単なことか……」

途端に憂鬱な顔をして頭を押さえるライファント。

その言葉の意味がよく分かっていない配下の兵たち。

するとライファントは次の瞬間、目を大きく見開き、一足飛びで素早く飛び、倒れているオーガにその巨大な足を振り下ろし……

「獣王闊歩!」

顔面を踏み潰す。

大地が割れて亀裂が大きく走るほどの大衝撃に魔界が揺れる。

見ている者たちですらゾッとするほどの所業。

そんなことをされたら、誰であろうとペシャンコになることであろう。

誰であろうと――――

「すっご……え!?」

「ちょっ!?」

顔を青ざめさせた配下の兵たちが目を疑う。

大地が割れるほどのライファントの踏み潰し攻撃を顔面に受けた無防備なオーガ。

誰もが顔を潰されて死は免れないと思ったほど。

だが、そのオーガの顔は怪我は余計に酷くなってはいるものの、原形を保っているのだ。

それどころか……

「か~……いったいわぁ……おやっさん……こんなえげつない目覚まし堪忍やで?」

「……やはり……勝てはするが、殺せぬゾウ……」

「「「「えっッ!!!???」」」」

そのオーガは死ぬどころか、目を覚ましたのである。

もう戦えぬほどの瀕死なのは明らか。しかし、それでも死なない。

「勝てる? 何言うとんのや、おやっさん……ド突き合いは、生涯最後に立っていた方の勝ち……だから、ワイも勝ってへんけど、負けとらんでぇ?」

それどころかオーガは起き上がる。

「おやっさんにも、ソルジャやらなんやら他の連中にも……ワイは勝ってへんけど、まだ負けとらん……生涯無敗のワイに向かって、簡単に勝った言うのはやめて欲しいわぁ~」

黒い瞳と前髪全てを後ろへ持っていく髪型をした黒髪の大男。

全身を黒一色の衣装を纏い、比較的若い容姿の男。

そして傷だらけの瀕死でありながら、その瞳のギラつきは一切揺らいでいない。

「十数年……行方知れず……それが唐突に現れては一騎打ちを要望……昔と何も変わっていないゾウ……そんなお前は……お前たちは何をしようとしているゾウ?」

その姿に何か思うところがあるのか切なそうな様子のライファントに対し、問われた男は迷わず答える。

「変わっとらんよ。ワイは、ハクキのボスを王にする。そして、王となって世界の頂点に君臨したハクキのボスをいつか超えたる。それがワイの野望――――」

「象鼻鞭ッ!」

「かぺっ!?」

が、その全てを答える前に、疾風が走って男の首がありえない方向に曲がる。

「が……かはッ……あ……」

「くだらぬゾウ。昔と変わらぬということは成長もしていないということだゾウ。殺せなかろうとも、戦闘不能にすること、さらには『死にたい』と思わせるぐらい徹底的にやってやることも……いくらでもやりようがあるゾウ」

「おごぉ、お、おぉお、おぉ!?」

「腕試しのつもりだろうが、小生の前に立つのは……己惚れも甚だしいゾウ」

繰り出される乱れ打ちの攻撃に、男の四肢が無残に破壊され、物理的に立てぬ状態になって男は顔面から地面に平伏す。

しかし……

「とはいえ……それでもまだ笑うゾウ……」

血に平伏しながらも男はまだ笑みを絶やさぬままであった。

「やれやれだゾウ……今のままでは何度やっても負ける気はしない……が、何をやっても立ち上がる相手というのもゾッとするゾウ……」

再び何度目か分からない溜息を吐くライファントは、憂鬱そうに呟いた。

「総司令……」

「全身を魔法封じの鎖と術式を組み込んで、地の奥底に幽閉しておくゾウ。殺せぬが、動けぬように―――」

そして、倒れた男を拘束しようとした、その時だった。

『あ~、ようやく繋がってる感じ~? もしも~し、もすもーす』

「……ぬ?」

倒れている男から、違う誰かの声が聞こえた。

「そ、総司令―――」

「しっ。……これは……魔水晶?」

何事かと思うも、ライファントはすぐに男をひっくり返し、衣服の中を漁り、魔水晶を見つけ出した。

『おじさん聞こえる~? 僕だよ~、レンラクキだけど聞いてる~? 聞いてない~? それとも実は死んじゃってる~? おじさんが死んでたらそれはそれで死に方に興味津々なんだけど~、うん、ハクキ親分~、おじさん死んだみたいだからもう放っておこう』

「ッ!? ハクキ!?」

『……は?』

そして、魔水晶から聞こえる妙な軽口。

ライファントは眉を潜める。

「レンラクキ……聞かぬ名だゾウ。新入りか? だが……ハクキがそこに居るゾウ?」

『は? なに? 人違いでした? ごめんなさ……あ、ハクキ親分? いるけど、何? エラそうに。てか、語尾がゾウとかなに? なにそのキャラづくり』

魔水晶の向こうから聞こえてきた声の主が口にした名前。

それは決してライファントには聞き捨てならぬ名前。

『あっ、ちょっとハクキ親分、どうし、わ……』

そして、それは魔水晶の向こうでも同じだったようで……

『ふふふ……意外な所に繋がったようだな……久しいな、ライファントよ』

『ハクキッ!?』

直接ではないものの、二つの伝説が再会した。