軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第五百九十九話 夜はまだ終わらない

「へぇ……建設現場で……」

「はい! 働いている皆さんに私たちが作ったお昼ご飯を振舞っているのです!」

ナンゴークの島へと繋ぐ橋の建設現場。

夜遅くになれば本来は人も少ないのだが……

「おい、ブロぉ! あのさっきのデッカイ亀とか大丈夫だったのか!?」

「姐さんやクロンちゃんは無事なんだろうなぁ!」

「もし、クロンちゃんに何かあったら、俺らぁ労働者連合軍が全員で加勢するぜ!」

「おうよ、アース・ラガンが天空世界へ乗り込んだときみたいになぁ!」

「ヒルアぁ、オメーちゃんとクロンちゃんと姐さん守ったかぁ?」

今夜ばかりはゲンブ絡みのトラブルがあったりで、かなりの人数が残っていた。

「おうよ、安心しろ。色々片付いたからよぉ。妹分や師範たちは無事だ。二人は先に休んでる。おめーらにも、心配かけたな!」

「当たり前なのん! 僕の大活躍を皆にも見せたかったのん!」

ブロとヒルアが真っ先に労働者たちの下へ駆けつけ、事情を説明。

アースたちはここで出たらまた大騒ぎになるだろうからと、今夜はもう姿を出さず、紹介はまた改めてした方が良いという考えだった。

ただ、そんなブロたちの様子を窺いながら、アースは自然と笑みが零れた。

「なーんか……人気あるじゃねえか、クロン」

「うふふふ、そうですか? アース程じゃないと思いますが」

クロンは人間ではない。

本来、異業種に対してはあまり良い顔をしない人間の方が沢山いるというのはアースの考えだった。

だが、今ブロと話している労働者たちの顔は、本当にクロンやヤミディレを案じて、「必要なら自分たちも戦うぞ?」と鼻息荒くしている。ましてや喋るカバであるヒルアを普通に受け入れている。

その様子がなんだか嬉しくて、思わずアースは笑った。

さらに……

「ん? ドアの前に何か置いてあるぞ?」

「え? 本当です……これは……ぷれぜんと? プレゼントと書いてあります! 皆さんから! あらあらあら!」

「へぇ~、おいおい、そんなもんまで……大人気じゃねえか!」

ドアの前に置いてあった『プレゼント。労働者一同』と書いてあった袋を見て、その人気ぶりにアースは感心するしかなかった。

「当たり前だ、アース・ラガン。クロン様の女神の美しさと可憐さ、同じ空間に居るだけで男は問答無用で崇拝するレベル。それが甲斐甲斐しく下々の者たちのために手作りの食事を振舞われ、配膳したり、言葉を送られたりしているのだからな。しかし、クロン様に貢物とは感心だ。明日のランチは少しライスの量をおまけでもしてやるか……」

そして、ヤミディレはどこか誇らしげに、自慢するようにドヤ顔である。

それもまたおかしく、そして何よりも……

「そうだな……クロンも……そして、ヤミディレも……母娘で人気者ってことだな」

「うむ! とうぜ……ふぁ!? い、いや、母娘とは何を!? わ、私は決して――――」

「えへへへ、そうなのです、アース! みなさん、私にも、そしてお母さんにもとっっっても気さくに接してくれて、お母さんも皆さんに慕われているのです~!」

クロンだけではない。ヤミディレも人気ある。

アースがそう言うと、クロンも満面の笑みでヤミディレの腕に抱き着いて誇らしげに胸を張った。

そんなアースの発言やクロンにアタフタするヤミディレを見て……

「ほんと……うん……いいね、何だか今のヤミディレ」

「ふっ……僕がダディから聞いていた暗黒戦乙女のイメージはどこへやら」

過去の因縁あるエスピや、天空世界の裏切り者としてその逸話だけは聞かされ続けてきたガアルも一緒に笑った。

そんなやりとりをしながら、とりあえず、細かい話や挨拶などは明日からにして、今日はもうゆっくり寝よう。

疲労の限界に達したアースたちをクロンたちは部屋へと案内する。

そのとき、ヤミディレは……

「ここだ。ここが私とクロン様の部屋……エスピ、スレイヤ、さらに他の者たち……お前たちは別の部屋を案内する。空気読め。クロン様ビッグチャンス到来ですぞ!」

「おーっ……ん?」

とりあえず、これでゆっくり休めると、流れで相槌したアースだったが、そこでピタリと止まった。

「……あ、相部屋? え? お、俺、お前の部屋で寝ていいんじゃ……」

「うむ。だから、私とクロン様の相部屋で寝て良くて、そして私は今日は部屋には戻らぬので、遠慮なくナニをしてくれても、いくらでも声を出そうと、気にせず使え!」

「いやいやいやいやいやいやいや!」

そこまで深く考えてなかったアースは慌てた。ヤミディレとクロンが相部屋というのは別におかしなことではないのだ。

しかし、ここでアースとクロンが同じ部屋で寝る。

流石にそれは……

「ちょ、ヤミディレ、まずくない!? お兄ちゃんの教育上まだ――」

「まだ? ヒイロもマアムもこれぐらいの年齢でヤッて孕んで子を産んで結婚しているのだろう。むしろ遅いぐらいだ」

「いや、そ、そうだけど……」

「そろそろ、アース・ラガンも多少無理やりであってもクロン様をさっさと選ぶべきだからな。あと子作りも」

「いやいやシノブちゃんもいるから私としては……いや、まあ、いくらなんでもお兄ちゃんも流石に今日いきなりはないだろうけど……お兄ちゃん、くれぐれも~だよ? 疲れてるんだから、今日はゆっくり休むんだよ?」

だが、ヤミディレは強くガードしてその部屋にクロンとアース以外は入れなかった。

「わわわわ、いいな……アース様と二人きりで相部屋……えっちなことしちゃうのかな? ……いいなぁ」

「おい、アミクス。お前、最近隠さなくなったか? 少しは慎みを……」

「まあ、お兄さんも今日の今日でいきなりということはないというのはそうだろうけど……」

「ふむ……僕も少し胸がズキリと……いやいや、何でもない」

ヤミディレのガードに他の者たちもあまり粘らずに折れ、気づけばアースとクロンだけが残され……

「……いや、いやいやいやいや! 流石にこれはまずいというか!」

「でも、このお部屋では二人ぐらいしか……」

「そ、それなら俺がスレイヤと同じ部屋で、ブロとでもいいし―――」

「……アースは私と同じ部屋ではお嫌ですか?」

「い、いや、そういうわけでは……い、いや、何か間違いがあったら……」

「……間違えちゃいますか?」

「間違えねえけども!」

「む~……なら、いいじゃないですか。アースもお疲れでしょうけど……もう少しだけでも一緒にお話ししたいなと……」

流石に年頃の男女で一夜を過ごすのはまずいと思ったアースだが、クロンの純粋な圧に押されたことや、確かに今のこの状態で間違えることもないかと、あまり抵抗せずに観念した。

「ったく……ちょっとわがままになったか? クロン」

「えへへへ、そうですか?」

「でも、生活自体は……なんつーか、豪華絢爛ってわけでもなさそうだな。なんか高級そうなものがあるわけでもないし」

「ソレは当然です。私たちは働いている身なのですから」

「あれ? テーブルの上に置いてあるのは……果物か?」

「あ、はい。さくらんぼです。訓練用と言いますか……あ、なんでもないです。よろしければどうぞ~」

「?」

部屋に足を踏み入れるアース。

中はそこまで広い部屋ではなかった。

ベッド二つと生活に必要な家具や雑貨以外は見当たらない簡素なもの。

カクレテールではまさに籠の中のお姫様のように大事に大事に豪華に贅沢に育てられていたはずのクロンが、ここではこれほど質素で、しかも働きながら暮らしているのかと思うと、アースも色々と感慨深かった。

「しっかし、お前らがカリー屋をやっているとはなぁ……ヤミディレがカリーに精通しているのも知らなかったぜ」

「はい! 私もブロもヒーちゃんもすぐに好きになって、そして現場の皆さんに振舞ったら、みんな本当に笑顔で嬉しそうに食べてくれて……最近では離れた現場へ配達したり、夜も食べたいと言っていただいたり、家族へのお土産に持って帰りたいという方もいて、大繁盛なのです!」

胸を張って「えっへん」と誇らしげなクロン。

アースも最初は驚いたが、そもそも魔王軍の大魔王がカリーのスペシャリストなわけであり、その信奉者とも言えるヤミディレもカリーに精通しているのは不思議ではなかった。

「だから、私も驚いたのです。鑑賞会でアースがいきなりカリーを作ったり……それに、扱っているスパイスの種類がほとんど私たちと同じなんです! すごいです!」

「あ、ああ……ま、そりゃそうかも……」

「でも、一つだけ……コーヒーだけは分かりませんでした。だから、アースの鑑賞会を見た後、すぐにコーヒーを発注したんです。あのときはお母さんと大興奮でした」

「そっかそっか」

「今では私も天職と感じ、いつかお母さんと私と、そしてアースと結婚して家族でカリー屋さんでもやりたいな~って思ってて……でも、アースがカリーとか気に入ってくれるかな~って思ってたら、まさかそのアースがカリーのスペシャリストで、もうそれが分かった時の私はすっごくすっごくすっごく嬉しかったのです!」

「は、はは、そ、そっか……お、おお、そっか」

アースが鑑賞会でカリーを披露したとき、どれだけ自分が驚いたり興奮して嬉しかったのかと語るクロン。

その中でさらり「結婚してカリー屋」とも言ってしまっており、とはいえアースはここはあえてツッコミ入れずに笑って流す。

「つか、ヤミディレのこと……ちゃんとお母さん……って、呼んでんだな」

「はい。最初はちょっと照れてしまいましたけど、一度呼んだらもう……お母さんも最初は聞いてないフリとかしてましたけど、最近では普通に反応してくれるんですよ」

「くははははははは、すげえ進歩じゃねえか。ただ、まだあいつはお前に敬語使ってたけどな。いや、お前も『です』や『ます』を誰にでもだけど」

「はい。早く私のことを呼び捨てで敬語もなしにして欲しいんですけど……むふふふ、近いうちに必ず!」

「おう」

「アースも、イロイロありすぎです。私もこの数日間ドキドキしっぱなしでした。あの鑑賞会でアースの今をいっぱい知れて……パリピには感謝ですね」

「あいつに感謝はやめろ。ただ、お前の言う通り俺も、色々あり過ぎたよ。明日改めて紹介するけど、エスピとスレイヤのこともな」

「はい!」

話が弾み、本当ならもっと話しても、それどころか恐らく話題が尽きることはないだろう。

「……わり、本当はもっと話をって……だが、流石に俺ももう眠い……」

「……そうですよね。すみません、助けに来てもらって……その上でわがままで……」

「いいって……明日もっと話そうぜ」

「はい」

ただ、戦いの気が抜けて流石にアースももう限界。

案の定、今は疲れの方が強く、クロンと二人だからと言って変な気が起きるわけでも……

「じゃあ、こっちのベッド借りるぞ~」

「あっ、そっちは……」

「………………あ……」

「そっちはお母さんのではなく、いつも私が……いえ、いいんですけど……」

「あっ、ワリィ! こっちがクロンの……クロンの……ッ……」

「アース?」

とりあえず、二つあるうちの片方のベッドに顔からダイブして、そのまま寝ようとしたアースだったが……

(……やばい……なんか……すっげぇ……良い匂いがする……)

そこは、いつもクロンが使っているベッドであった。

いつもカリーばかり作っているというのに、その香りは、甘く、そして母性のように優しくアースを包み込み、まるでクロンに抱きしめられているのと遜色ない感じがして、アースは寝るはずがドキドキしてしまった。

さらに……

「ん? なんかベッドに……」

「あっ!? だ、ダメです、アース! そこは漁ったら!」

ふいに手がベッドのシーツの中の何かに触れた。

気になってそれを取り出そうとすると、クロンは大慌て。

だが、クロンが止める前にアースはソレを取り出してしまい……

「本? …………理想の夫婦性生活……え?」

「あ、あうぅ……」

それはクロンがヤミディレに捨てられてもコッソリ何度も持ち帰る教本……

「ッ、あ、いや、何も見てないけど分かんねーけどクロンの本か、あはははは、返す返す。何の本かこれっぽっちも全然わからねーけど返す」

誤魔化しながら慌ててクロンに本を渡すアースだが、全く誤魔化し切れていないのは丸分かりであり、クロンは少し顔を赤らめて唇を尖らせる。

「も、もう、アースぅ~……む~……」

「う、うっ……」

その少し拗ねたクロンの姿……包まれているベッドのクロンの香り……部屋に二人きり……理想の夫婦性生活などといういかがわしいタイトルの本を手に持っているクロン……

その全てが……

(や、やべえ……なんか、ドキドキしてきたというか……な、なんか、眠かったはずなのに目が冴えてきて……)

疲れたし、妙な気分など起こるはずもなく間違いなど起きない……?

少なくとも、疲れを忘れ、妙な気分が芽生えてしまうアースだった。

夜はまだ終わらない。

『……余は無の境地……』

トレイナは目の前で何が起ころうと我関せず無の境地で見て見ぬふりをする態度。自分は石ころという認識で口を挟まず部屋の一部と化して座禅を組んでいた。