軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第五百六十三話 その衝撃は雷霆の如し

「ノジャァ~、今ここで過去の分も含めて決着つけるんだっつーのぉ!」

「はん」

憤怒に駆られて飛び出すセイレーンに対し、前のめりになるノジャ。

直前までふざけたことから変態なことから真面目なことまでコロコロと表情を変えてきたが、今この瞬間だけは戦に悦びを感じているかのような表情。

そして……

「私の歌を聞けーっつうのぉぉぉ! 超音波振—————」

「動くこと雷霆の如し!」

「ッ!? カハッ!?」

セイレーンは、何かの技を繰り出そうとしていた。

口を開け、ノジャに対して何か攻撃をしかけようとしていた。

だが、次の瞬間、セイレーンの喉に深々とノジャの小さな掌打が撃ち込まれていた。

「そっちが音速ならこっちは雷速なのじゃ♪ そして、おぬしの技は知り尽くしている。喉をやられてウマく歌えるのじゃ?」

「かはっ、が、の、が……」

まさに目にも止まらぬ一撃に、盛り上がりだしていた民衆も先ほどのアースとゴクウとの攻防の時のように、またもや目を丸くして言葉を失った。

それはゴクウも……

「なっ、なんだァ、あの技は! は、はえーっ!?」

過去見たことのないノジャの技だった。

「ッ……ゴクウも、そしてあのセイレーンってのもノジャのあの技を知らねーのか……そういや、昔は使えなかったっぽいし……」

『ああ、余も先日初めて見たからな』

ゴクウとセイレーンの反応からノジャの新技を見るのは初めてなのだと察したアース。それにトレイナも頷く。

しかし、いかに初見とはいえ、それでも相手は伝説の二人。

「俺様でもあの速さはかなり骨が折れる……が、セイレーン、たぶんそれ、飛んでくる場所に目印の何かが飛んでるから、それで分かるぞォ!」

「ぐっ? あ、うう、わ、ごほごほっごほっ(何言ってるか分からないっつーのぉ!) ごほごほっ、れも、おひうばひょ(でも、確かに落ちる場所は予測できるはずだっつーの)」

ノジャの技を見て驚きながらもその性質を一瞬で理解した様子の二人。

その二人の反応にトレイナも頷く。

『ノジャの雷は、まさに雷になって狙った場所に自分事着弾する技……その狙いを定めるために先行放電を放っているので、感覚を剥き出しにすれば静電気のようなものを肌に感じて察知はできるだろう……察知さえできれば、カウンターで叩ける……ノジャ自身は速すぎて一度攻撃に転じたら方向転換やキャンセルができないだろうからな……だが―――』

トレイナの解説の通り、続くノジャの攻撃は―――

「雷霆の如し!」

「せいっ!」

セイレーンは身を捩って回避した。

「おっ……」

「ほうなんろもくらわないっつーの(そう何度も食らわない。そして、もう少しで喉の調子も回復する。回避を続け、回復したら一気に―――)」

「雷霆の如し!」

「はっい!」

まぐれではない。

セイレーンは一度くらっただけで二度目にはしっかりとノジャの技に対応した。

対応できるものであると理解し、セイレーンはグッと拳を握って、反撃可能になるまでどうするかを決める。

一方で、その攻防にトレイナは……

『同じ技をそう何度も単純にくらわない……ということなのだが……しかし、それでネタ切れするほどノジャも甘くはあるまい』

ノジャがこれで終わりではないと信じていた。

その通りで、ノジャはセイレーンを嘲笑うかのように……

「知り難きこと陰の如く。併せて雷霆の如く!」

「ふぼっ!?」

続けて避けられてたはずの打撃が、今度は当たった。

ノジャの掌打がセイレーンの脇腹に突き刺さる。

「な、なんだァ? い、いま、さっきまでと違って――――」

そして、これは傍目から見ていたゴクウも予想外だったようで再び取り乱す。

すると……

「あほ~なのじゃ。先行放電察知という欠点をわらわが自分で認識も克服もしてないとでも?」

「ッ!?」

「魔力の濃度や自分の存在を極限まで薄くすることで、相手に察知されないようにする技……陰の如し……これと併せたり、時にはワザと先行放電で相手をかく乱させたりで色々とできる……さて、ノンキに歌っている暇はあるのじゃ?」

ノジャは二人の予想を更に上回る戦法を持っていたのだった。

流石にこの展開にアースも口元が引きつり、思わずトレイナに尋ねてしまう。

「な、なあ……なんか、セイレーンがガチでくらってるけど……あのセイレーンの強さって……やっぱゴクウと……」

『まともに戦えばゴクウの方が強いかもしれんが、だからと言ってそれほど差があるわけでもなく、確かに奴らはかつて何度も六覇面々とも渡り合うほどの者たちだった。まあ、単純にセイレーンとノジャでは相性が悪いというのもあるのかもしれんが……』

「で、でも、なんかノジャの方が強くね? つーか、俺も先日以外で今日初めてまともに見たけど、あいつ……風林火山どころかして、もっととんでもないことに……」

そう、そもそもアースはノジャとかつて戦ったときは、トレイナの協力もあっての戦略を駆使したに過ぎない。

また、過去の戦いでノジャはアースを殺すつもりではなく「面白そうなので遊んでみる」という気持ちで油断していただけである。

もし、ノジャがまともに殺す気で本気で戦えば――――

『ああ……そして奴は実際に、かつての時代よりも更に強くなっている。たとえ戦争に敗れ、戦のない世の中になったとはいえ、それでも奴なりに己を高めることをやめなかったからだろう……』

「強く……自分を高めるために……」

『そうだ。既に戦闘スタイルとして完成していた風林火山を、それで満足することなく更に進化させる……一定のレベルに到達したものが更に強くなること……これがどれほど困難なことか貴様ならば分かるであろう……童』

トレイナの言葉にアースは少しだけノジャに感心した。

「ノジャ……あいつもあいつなりに、この十数年色々と高い意識をもって頑張ってきたんだな……」

普段の発言や態度からは分かりづらいが、その裏では血の滲むような努力を人知れずにしてきたのだ。

その本来濃密であるはずの鍛錬の日々を、ノジャは決して人には曝け出さず、感じさせず、それどころか努力を誇るようなこともしない。

そう思うと、アースはノジャに対する印象が少し変わったような気がした。

ただしノジャ本人は……

(ぐへへへへへ、いつか再会するラガーンマンこと婿殿が逃げてもすぐ捕まえられるように身に着けた雷速……そしていつでもベッドに気づかれずに忍び込めるように身に着けた隠遁術……伊達ではないのじゃ!)

と、実は身に着けた理由は非常に不純なものであったのだが、世界の誰もがそれを知らず、そして気づくことは無かった。

「ふはははは、どうしたのじゃ、セイレーン! 頭下げて謝罪し、わらわと婿殿の結婚を祝福するのであれば、ゆるしてやってもいいのじゃ!」

「そういう妄想に付き合っている場合じゃないっつーのぉ! ッ、喉が戻った! 音響―――」

「動くこと、雷霆の如し!!」

「ッ!? がはっ……くっ、怒ったんだっつーのぉ! 超音波乱――――」

「所詮、音速! 雷速とどっちが速いと?」

「ッ!? あっつ、う、ノジャッ!」

それは、傍目から見ても明らかなぐらい、ノジャはセイレーンを圧倒していた。

「強いわね、ハニー。よく大戦時にアレと戦えたわね」

「あ……ああ」

シノブの言う通り、アースは震えた。

もしあの時代、ノジャが本気で自分を殺すつもりだったら? トレイナのサポートが無ければ?

ゴウダの時のように相性が噛み合う相手とも違う。

相手によって臨機応変に戦闘スタイルを変えられるノジャに改めてアースは戦慄した。

「ツエーな……ノジャはやっぱり」

「ッ!?」

と、素直にアースが感嘆の声を漏らした。

するとその呟きを地獄耳のようにノジャの獣耳がピクンと反応した。

「ぬわははは、婿殿ぉ~、ぷりちーなわらわの活躍を見て欲情してもいいのじゃ~❤ あとで好きなだけこの、お尻を好きにさせて、あ・げ・る・のじゃァ~❤」

「ちょまっ!?」

「うひひひひ、またあの凄いのでホジホジっとしてもいいのじゃ~」

「「「「ッッ!!?? また!!??」」」」

せっかく世界が「お漏らしノジャ」を改め「やはり六覇のノジャは強い」と認識改めそうな雰囲気になりかけたところ、いやらしく嬉しそうに笑いながら、ノジャはアースにその小さな尻をプリプリと振ってみせた。

「やめろぉぉおおおおお、ええい、セイレーン、ゴクウ、何やってんだ、さっさとそいつをぶっ倒せぇ!」

前言撤回するかのようにアースは混乱して声を上げる。

だが、その内容にノジャは今度はムッとする。

「むむむ? 婿殿ぉ~、いくら婿殿が素直になれない駄々っ子でもぉ、わらわもカチンとくるのじゃ~」

「え? ちょっ、わ、お、おま!?」

次の瞬間、ノジャの尾が一本伸び、アースの身体をグルグル巻きにして拘束した。

「ちょ、ハニー!?」

「ノジャ、て、テメエ、何をッ!?」

味方として助けに来たはずのアースを拘束するノジャ。

そして、アースを拘束したまま、いやらしい笑みをさらに変態的に涎まで垂らし……

「いけない婿殿にはお仕置きが必要なのじゃ~」

「ッ!? は!? おま―――」

「ちょっ、ノジャ! ハニーに何を―――きゃっ!?」

「お前もうるさいのじゃ~」

慌てるシノブも余っている尾で拘束するノジャ。

そしてそのままアースに近づき……

「まず~、この邪魔な仮面を取って~、そのまま~ぐひひひひ」

と、アースの仮面を剥ごうし、しかもその唇は明らかに窄めてキスをしようと―――

「ちょ、な、どういう展開だっつーのぉ!」

「うおおお、アース! やめろぉ、ノジャァ! アースにはフィアンセイが―――」

まさかの展開にセイレーンもゴクウも混乱。

民たちも展開がまるで分からず、しかし自分たちの視界の中で妖しい幼女がヒーローを捕らえていやらしいキスをしようとしている光景にパニックに。

――このままではラガーンマンが……アース・ラガンが喰われる!?

誰もがそう思いかけた、その時だった!

「そんなのダメーーー、ノジャちゃんのバカー!」

「ほげーっ!?」

「「「「「…………え?」」」」」

スパーンとノジャの後頭部を叩き、ノジャの所業を止める新手がそこに出現。

「「「「「ちょっっっ!!!???」」」」」

出現したのは、謎の美少女。

「危なかった~、ノジャちゃんのえっちー!」

まるで妖精のような容姿と少女らしくプクッと頬を膨らませた可愛らしさで、一瞬で世界中の心を掴み……かけようとしたその時、世界は少女の顔よりも、もっととんでもないものを視界に入れてしまった。

アースたちがいるジャポーネの民たちも、そしてゴクウも、そしてセイレーンも、誰もがノジャ出現の時に続いて口を大きく開けて固まった。

「んもぉ~、ラガーンマンは正義のヒーローだからみんなの前で仮面を取っちゃダメなんだからね! ぷんぷん!」

――ばよいんばよいんばよいんばよいん♪

「……え……いや……なんで……」

「あ……えへ……えへへへへ、アース様……き、来ちゃいました♪」

――バインボインボインボインボイン!!!!!

そして、世界の時が止まった。