軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第五百五十六話 伝説の片鱗

カクレテールでフィアンセイやサディスたちは頭を抱えた。

「いやいや、緊急速報とはどういうことだ?! ジャポーネの国王が攫われて、そしたらシノブが現れて、それで国王はクズで、っというかシノブが実は王族の血縁者だったり、そしたら何だか分からぬ猿のような男が暴れて、ゴクウとか名乗って、そしたらラガーンマンが登場して……ダメだ、情報量が多すぎるぞ!」

「え~っと、カクレテールから急に姿を消した彼女がジャポーネに戻ったというのは分かったというか、無事だったことに安堵しましたが、何が起こっているのです? し、しかも、ラガーンマンというか、坊ちゃままで!」

今日もこの連日と同じ鑑賞会が始まる。

この時代のエスピとスレイヤと再会したアースは一体どうなったのか……と、いうのを世界中が心待ちしていたというのに、本日の鑑賞会はナレーションによると予定変更で、現在リアルタイムで起こっているジャポーネの様子を報道するとのこと。

話が急すぎて、そして何よりも入ってくる情報全てが軽いものではなかったのだ。

さらに……

「それにしても、シノブちゃんの伯父さんって、随分と醜いというか……シノブちゃんが全然に似てなくて良かった~」

「なんつーか、昔のこの島の王様もあんな感じだったっすね~。外の世界にもいるんすね~、ああいうの」

ツクシやカルイ達の言葉に、他の者たちも半笑いになる。

かつて、腐った体制を打倒して自由を勝ち取った歴史のあるカクレテールの民たちにとって、外の世界の腐った権力者の姿にどこか懐かしいものを感じた。

「とにかく、ラガーンマンあらわれた。だからシノブおねえちゃんだいじょうぶ!」

いずれにせよ、状況的にシノブが何やらピンチではあった様子だが、そこに正義の味方であるラガーンマンが出現した。

ラガーンマンが現れたのなら大丈夫と、アマエは「むふー」と自信満々に胸張って断言した。

しかし……

「いや……それはそれとして……あのゴクウという者……何者だ?」

注目すべきは、シノブやウマシカ国王や、ましてやラガーンマンだけではない。

マチョウが鋭い目で空に映るゴクウを睨んでそう呟くと、リヴァルやフーも頷いた。

「うむ……ゴクウなどとふざけた名を名乗っているが……只者ではない……いや、それどころか、あの肉体……あまりにも自然体の上に美しさすら感じる……」

「僕たち人間とは明らかに違う……自然でありながら、それでいて……」

普段、筋トレや剣の素振りなどで肉体を鍛えてきた男たち。

そのある意味で「不自然」に鍛えられた筋肉と違い、ゴクウから感じるのは自然体。

その正体に興味がわかないわけがないのである。

すると……

「グワハハハハハハハ……懐かしいバカ猿が出てきたものじゃ……ゲンブといい、どいつもこいつも表舞台に出てきおって」

「「「「「師匠ッ!!??」」」」」

この連日と同じように鑑賞会のために浜辺に来たバサラが、来て早々豪快に笑っている。

「師匠、あの野人のような男をご存じで……ゴクウなどと明らかな偽名を名乗っておりますが……というか、目元……どうされたのです?」

「ん~? これか? 昨日、亀でも食おうかと思ったら、乱入してきた雉に突かれて、そのまま逃げられてしまったわい……やれやれ、ワシがオナゴと戦うのが嫌だと知っていてああしたなぁ?」

バサラの目尻にまるで剣で抉られたかのような傷があった。そこまで大きくはないが、無敵のはずのバサラに傷がついているということに皆が衝撃を受けた。

もっともその衝撃も……

「まぁ、それはさておき……絵本とはどういうことじゃ?」

「え? ああ、我々の世界で幼い子向けのおとぎ話の絵本の登場人物ですよ。鬼と戦ったピーチボーイのお供だったり、かつて修行僧と共に世界の果てまで旅をしたとか――――」

「ああ、それなら本人じゃよ」

「はい……うぇ?!」

この一言で意識がそっちに持っていかれてしまった。

「え、フィアンセイちゃん、絵本ってどういうこと? 外の世界にそういうのあるの?」

この鎖国国家には広まっていない絵本。しかし、外の世界では、ある意味では一般常識なほど有名なもの。

それこそ、『女勇者カグヤ』の絵本クラスの世界的に有名な絵本であり、それを読んだことのない子供などいないぐらいだ。

しかし、絵本ゆえ、ただの作り話。

少なくとも、フィアンセイもサディスもリヴァルもフーもそう思っていた。

しかし……

「し、師匠、な、なな、何を……だって、アレは絵本の――――」

「その絵本がどうのというのはワシも知らんが、少なくともピーチボーイの仲間だったゴクウはあやつじゃ。あとは……ミクラと一緒に旅したり、蟹ともめたりしとったな……」

「ッ!?」

そんなバカな……と言いそうになった言葉をフィアンセイは飲み込んでハッとした。

そもそも、バサラ自体が本当は絵本の登場人物なのである。

つまり……

「えーっと、ちょっと……待っ……つまり、あのゴクウは本物で、それこそ師匠と同じ伝説の存在で……」

「なぜそれがジャポーネの国王を攫い……」

「しかも、そこにアースがラガーンマンになって現れ、対峙しているのだ!? 六覇や七勇者といい、アースの遭遇率はどうなっているのだ!?」

「それで……なんで……何でこれを世界中に放映しているの?!」

気になりだしたらキリがない。

しかしそれでも一つだけ分かるものがあった。

それは、フーが口にした「何でこれを世界中に放映しているの?」の答えだ。

「ヌワハハハハ、さあのう。しかし、これも全てはあの愉快な男が絡んでいるのじゃろう? つまり……」

「「「「「……あ~…………」」」」」

それは、楽しそうだから……だ。

「まっ、いずれにせよ、もし小僧とあのバカ猿が遊ぶのであれば……なかなか興味深い。それに、カルイよ」

「はい?」

「おぬしはよく見ておくことじゃな。あのバカ猿の素のスピードは……おぬしより速い」

「ッ!?」

一部を除いて、ゴクウが「本物」であるということを世界中のほとんどの者たちが分からないのではあるが、それでも突如空に映し出された謎の誘拐犯と、今が旬でもあるラガーンマンの対峙に世界中が興味を持って注目をする。

そのことを知らない本人たちは……

「さあ、ゴクウよ。ウマシカ国王を離すのだ」

「ははは、俺様が嫌だと言ったらどうする?」

「決まっている、我が正義の鉄拳が貴様に突き刺さろう」

「ほほう、おもしれぇ~」

笑みを浮かべて一触即発の空気を出し……

(とりあえず数分ぐらいテキトーにヤリ合って、頃合いを見てゴクウが王を連れて逃げる……だよな)

(うはー、ラガーンマンと遊べるぅ~、マジで自慢になるぅ~、サイン欲しい~、やっぱカッケー!)

心の中では決してそんなことはないのである。

ただ、それでも……

『童……』

『おう?』

『……体感して来い……』

『?』

トレイナは真剣な顔で背中を押し出す。

(トレイナは真剣だ……体感……か……とりあえず……これからだな)

アースが構える。左腕を揺らして振り子の動き。

「おおおお、アレは!」

「スゲー、アース・ラガンの、大魔フリッカーだぞォ!」

「すげえ、本物だぁ!」

今となっては有名になり過ぎたアースの技は、構えるだけで歓声が起こる。

「おお~~! いいねぇ~、だが……俺様に当てられるかなぁ?」

ゴクウもワクワクした笑みを浮かべる。

その顔面目掛けて……

「大魔フリッカーッ!」

「!」

アースが軽快なフットワークをしながら左で牽制する。

鞭のようにしなる素早い拳が空気を弾く。

が……

「うほ、鋭ぉ~♪」

「!?」

アースの初撃がゴクウの顔面を叩いた……かと思ったら、予想外の事態が起こった。

「え?」

アースの拳が、ゴクウの顔面を「すり抜けた」のだ。

(俺は当てたはず……何でだ? 距離を間違たわけでもねえ……一体……)

何が起こったのか、アースも今の一瞬では分からなかった。

確かめるためにも、更にギアを上げての左を連打で再び繰り出す。

しかし……

「はっはー、どうしたぁ、ラガーンマンッ!」

「ッ、な、なに!?」

アースの鋭い左の連打の全てが、ゴクウの身体をすり抜けて通過したのだ。

「な、なんだぁ!? おい、あの猿の男……」

「ラガーンマンのパンチがすり抜けたぞ!?」

「残像? 分身の術!? それとも透明の術かなにかか!?」

「ハニーッ! ……じゃなかった、ラガーンマン!」

アースの拳が全てすり抜けて空振りになる。

(まただ……しかし、分身の術とやらじゃねえ……ゴクウは確かに目の前にいる。何をやった? 本当にすり抜けの魔法? もうちょい確かめてやる!)

ゴクウが何をしているのか見極めるため、今度は正面からではなく、アースはフットワークのスピードも更にあげ、ゴクウの周りをサークル上に警戒に移動しながら左を連打する。

「大魔ラッシュッ!」

しかし……

「おお、速い速い鋭い鋭いうまいうまい」

「ッ!?」

「いんや~、見惚れちまうほど綺麗なフォームで打つよなぁ~。鑑賞会の時からスゲーって思ってたけど、生で見るとよく伝わってくるぜ。本当に何千何万と打ち込んできた職人のパンチってな♪ 間近で見れてマジでラッキーだぜ」

四方からほぼ同時に繰り出す拳の弾幕に、ゴクウは嬉しそうに眺めたままパンチが身体をすり抜けていった。

忍術にも精通しているジャポーネの民たちは何かの術を使っているのではとどよめき出す。

だが、アースは……

(おいおい……いやいや、マジかよ、こいつ……マジで……種も仕掛けもない……)

ラガーンマンの仮面の下で、何が起こっているのかを理解して戦慄する。

ゴクウがニコニコ笑いながらとんでもないことをしているということを。

(術でも魔法でもねえ……こいつ、俺が拳を打った瞬間だけ身体をずらして避けて、避けてからそのまま元の場所、元の姿勢に戻っている……それだけだ! ただ、その戻りがあまりにも高速すぎるから、普通に見ている分には攻撃がすり抜けているように感じるんだ……!)

アースも気づくのに数発の時間がかかった。

それはつまり、アース程の動体視力を以てしても初見では気づかないほどの速さであるということだ。

「大魔フリッカージャブッ!!!」

「おぉ~、まだ見せてくれる!」

相手が避けているのに、避けている動きを見えない……それを笑いながらされるのだ……

(こいつ……笑顔でサラっとヤバいことしてくれるじゃねえか……伝説の住人ってのは攻撃しないでも、避ける動きだけで既にヤバいと相手に分からせる……やってくれるぜ。トレイナが体感しろって言ったのは、これか? まあいいよ……それならそれで……)

これはあくまで茶番。しかしそれでもゴクウの裏表ない悪気のない行為が、アースに沸々とある想いを芽生えさせた。

(決めた、一発だけ当てよう)

それは、プライドだ。

(集中! 集中の海に入って、こいつの動きを先読みしろ!)

(おっ、仮面の奥の目の色が少し変わった……おほ♪)

アースがまた一つ踏み込む。

様子見ではなく、完全に当てに行くモードになり、その空気をゴクウも感じ取った。

「大魔フリッカーッ!」

「へへ、また少しスピード上げたか? でも、俺様には――――ッとぉ!?」

少しスピードをあげたぐらいでは当たらない。ゴクウはそう確信していたのだが、次の瞬間、ハッとなり、その場でしゃがみこんだ。

「おおっ、すり抜けの技を使わなかった!」

「ラガーンマンのパンチをしゃがんで避けた?!」

「でも、どうして急に!?」

これまでただその場に立ったままアースの拳を「すり抜け」しているように見せて避けていたゴクウが、慌てたようにその場でしゃがみこんだ。

それは……

「ははっ! にゃろう、おま、なんつー小細工!」

ゴクウが「やられた」と思わず顔を引きつらせる。

アースは何をしたか。

それは……

『ほほう、童……随分と姑息な、しかし大胆なことをする……そう、ゴクウの回避……すり抜けているように見せる回避を完成させる条件、それは避けた状態から元の態勢に戻るまでの『相手の攻撃の引き際』に合わせること……ゴクウは童の左ジャブの打ち終わりから、引き際の瞬間に元の姿勢に戻っていた……童はそれを見抜いたので……あえて、拳を突き出し、そこから引かず、拳を前にだした状態のままでストップしたか!』

そう、攻撃を連打するには打った拳を再び引いて、また突き出すという動作の繰り返し。

それゆえ、高速連打のパンチに必要なのはパンチを打つスピードだけでなく、パンチを引くスピードの方が重要でもある。

だからこそ、アースはあえて単発。拳を突き出してそこで終わりにした。

拳が戻った直後に元の姿勢に戻ろうとしたゴクウは、いつまでたってもアースの拳が元の位置に戻らないために、面食らって思わず身体をストップしてバランスを崩してしまい……

「大魔チョッピングライト!」

「うわおぉ!?」

その身体がストップした状態の所にアースは打ち下ろしの右を放ち、慌ててゴクウは後方に飛び退いて回避した。

「お、おお……おま……そ、そうきたかぁ~」

「へっ、すばしっこい奴だぜ」

結果的にアースのパンチは当たらなかった。しかし、ゴクウは予想外の事態に顔を引きつらせた。

(マジか……俺様の回避のからくりに数発で気づき、その上でこんな方法で俺様を慌てさせる奴なんて初めて……はは……自分を隙だらけにするやり方だから、二度目は使えねえだろうけど……でも、久々にブルっときた!)

だが、同時にゴクウは先ほどまでのキラキラした憧れの笑顔から、今の事態に別の意味で楽しそうに笑った。

「そりゃそうか……バサラに認められたり、六覇を倒してる男だもんな……スゲ!」

「今のも簡単に避けるとは、流石は伝説のゴクウ」

「おいおい、伝説はお互い様じゃねえか!」

そして、ここから二人のギアが更に上がっていく。