軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第五百五十七話 刹那の攻防

僅か一瞬の攻防ではあるが、それだけで互いにも、そして周囲にも二人が常人を遥かに超えた領域の力の持ち主であることが伝わった。

(そーいや、アースは真っ向勝負でゴウダを倒しただけじゃなく、ノジャの風林火山も的確な動きで回避してたしな……スピードもまだまだ上がありそうだ……ブレイクスルーもまだ使ってねえし……)

ゴクウもまた少し面食らわされたが、それは逆にゴクウの中でワクワクとなって笑みを浮かべていた。

(ただ、こっちが驚いてばかりだと癪だし、アースには俺様のスピードに驚いてもらおう!)

ゴクウもただの遊びや茶番や、ファンであるアースとのじゃれ合いだけではなく、少しは自分の力を見てもらおうという欲も出てきた。

そのため……

「んじゃぁ、今度はこっちも走るぜ、ラガーンマンッ!」

力強い踏み込みと共にゴクウが走り出す。

「うわあ、なんだ、あの男!」

「速いぞッ!」

「お、追いきれない!?」

戦士たちがどよめくほどの速度。

アースに正面衝突するかのように勢いよく駆け出したかと思ったら、力強い切り返しで一気にアースの背後に回り込み――――

「後ろをもらっ―――――ッ!?」

「いらっしゃい」

アースの背後を取ろうとしたゴクウだが、そのゴクウの動きにアースは同じ方向へ切り替えして正面からついていった。

「うそぉ!?」

「ほんとだ!」

そして、ゴクウがアースに振り下ろそうとしていた手刀に対し、アースが左の拳をぶつけてはじいた。

手刀に残るアースの拳の痺れを感じながら、ゴクウは戸惑った。

それは、完全にアースの反応を上回るほどのスピードで後ろを取ろうとしたはずが、アースはその自分の動きについてきたのだ。

「なら、もうちょい速く!」

今度は単純に後ろに回り込むだけではない。

右へ、左へ、左右に行ったり来たり、時にはアースの周囲を円状に走り、アースを翻弄する超スピードをゴクウは披露する。

走るだけで旋風が駆け巡る。

「はっはー、どうだ、ラガーンマン! 俺様のスピードについてこれかなぁ?」

「…………」

「さ~ら~に~!」

それどころか、ゴクウは先ほども披露した、空中の空気を蹴って、空をも縦横無尽に駆ける技を見せつける。

「秘技・猿飛!」

対してアースはファイティングポーズをした状態のまま動かない。

その様子に誰もが、アースはゴクウの動きについていけていないと捉えた……のだが―――

「ついていくのは難しそうだから――――」

「ッ!?」

次の瞬間、アースは始動。

迷いなく走り、跳び―――

「先回りさせてもらうぜ!」

「んなっ!?」

「大魔フリッカーッ!」

ゴクウが動く先にアースが先に到達し、アースのジャブでゴクウの腕を弾いて動きを止めた。

(ちょ、マジか!? 追いつかれた? 俺様が!? これぐらいのスピードになると、俺様にこれまで追いつける奴はいなかった……こいつ、まさか俺様より速いッ!?)

一回目、二回目の時よりも、今度は油断もなく自分の自慢の足と技を見せつけたゴクウ。

しかし、その動きにアースは着いてくるどころか、自分を追い抜いたように感じた。

予想外の事態に動揺するゴクウ。

すかさずアースは畳みかけるように拳を振るう。

「大魔フリッカーラッシュッ!」

「ッ!? ちっ、さ、せねえ!」

顔面を打ち抜こうとする不規則な軌道の拳だが、ゴクウの反応速度はちゃんと全てを見切って回避。

「今度はこっちぃ! 猿拳ッ!」

アースのフリッカーを全て回避し、打ち終わりと同時に今度はゴクウも攻撃を繰り出す。

鋭い爪を伸ばし、相手を引き裂くかのように薙ぎ払う爪を披露。

「大魔スウェーッ!」

だが、アースはその軌道を読んで上体反らしで回避。

「避けやがった……が、これなら!」

しかし、上体反らしをで回避できたものの、アースの両足は地に付いたまま。

この状態では次への行動を素早くできない。

ゴクウは笑みを浮かべて、上体反らしをしたアース目がけて上から拳を叩きつけようとした……が――

「その回避は失敗だぜ! 猿け―――」

「大魔カウンタースマッシュッ!」

「ッ!?」

それは、アースの撒き餌だった。

アースが上体反らしをすることで、次のゴクウの攻撃を上からに限定させ、まんまとその通りに攻撃しようとしてきたゴクウに対して、下からカウンターでアッパーを繰り出す。

「うぉっ、ば、あっぶねええ!」

「くはは、失敗」

その瞬間、ゴクウは攻撃を中断し、まるで瞬間移動のような速度で慌ててアースから距離を取るように飛び退いた。

(うはっ、おいおいおいおい、マジかァ~! あっぶねえ~冷や汗かいた……しっかし、どういうことだ? アースは俺様より遅いと思っていた……だけど、俺様の動きについてくるどころか、追い抜いた……何かカラクリがあんのか?)

思わぬスリルにゾクゾクしながらも、ゴクウはアースの動きに少し混乱した。

スピードなら歴史上においてもこの世の誰にも負けないという自信があっただけに。

『ふふふ……童はゴクウの体の動きから予測できるルートを最短で先回りしただけのこと。童の集中力や眼力からの先読みであれば可能。ゴクウはソレを童のスピードが自分と同等かそれ以上ではないかと錯覚した』

ゴクウが目に見えて動揺をした。

その姿に、トレイナは嬉しそうにほくそ笑んだ。

「今度はこっちだ……マジカルフットワークッ! からの~」

「おっ!」

「大魔ワンツー!」

今度は不規則な軌道のフリッカーではなく、身体を左右に振りながら繰り出す真っすぐのワンツー。

光速のハンドスピードから繰り出される左右の連打をゴクウも先ほどと同じように見切る。

(大丈夫……パンチのスピードはちゃんと見切れる……けど……本当はどうなんだ?)

一度落ち着き、改めてアースの拳の動きを目を見開いて観察し、その上でゴクウはアースのハンドスピードを目に刻み込む。

このスピードなら自分には当たらない。

全部問題なく回避できると。

だが、同時に心の片隅にアースの先ほどのカウンターが過る。

こうやってパンチを見せて、自分がそれを回避して攻撃しようとしているところに、カウンターを叩き込むように誘導しているのではないか? と。

一方でアースも……

(ほんっと、すばしっこく避けるなぁ……まるで猿……いや、猿か。たぶん本気出したらもっともっと速いんだろうな……それこそ、トレイナやバサラたちと戦ってた奴……ヨーイドンで走ったら追いつけないんだと思っとかねえとな……だけど!)

顔では平静を装っているが、内心ではちゃんとゴクウの目にも止まらぬスピードに驚いていた。

これまで、自分もその軽快なフットワークなどで敵を翻弄してきただけに、自分よりも遥かにスピードのある敵と戦うのは珍しいことだった。

しかし……

(よし、決めた! やっぱりアースは俺様よりは遅い!)

(ゴクウは俺より遥かに速い。が、やり方はある!)

考えがまとまり、ゴクウがまた攻撃に転じる。

「獲った! 猿剣ッ!」

アースのワンツーの打ち終わりと直後にアースの真横に移動して、無防備な顔面に手刀を突き出す。

「大魔スリッピングアウェーッ!」

「うおっ、コレも回避し―――」

それをアースは首捻りで受け流す。と、同時に―――

「んがっ!?」

ゴクウが次の瞬間、ゾッとした。

自分の顎にアースの右拳が触れているのだ。

―――……え? な………え?

それは、完全に視界の外の死角から繰り出された拳。

一瞬それがゴクウには何か分からなかった。

だが、このまま顎を打ち抜かれたら間違いなく自分は膝を着く。

そう直感したゴクウは考える前に、アースの右拳が完全に自分の顎を打ち抜くよりも速くにその場を離脱するように飛び退いた。

「ぷはああ、あああ、あっべええ、あっぶねえええ、なんだああ、いまのぉおおお!」

「……う、うそぉ……こ、これ、当たらないのか?」

全身からブワッと汗が噴き出るゴクウ。

激しく動揺して目を白黒させる。

それほどまでに今の一瞬は紙一重だったのだ。

(いやいやいやいや、今のどうやった? え? 俺様がアースのパンチを回避してがら空きになったところに攻撃しようとしたら、死角から……え?)

今の一瞬の攻防がまだ整理できていないゴクウ。

一方でアースも……

(完全に誘い込んだうえで放った、大魔ファントムパンチ……俺の右拳は確かにゴクウの顎に触れた……皮一枚……髪の毛一本ほどの毛先だが、確かに触れた……けど、拳を打ち抜くより早くに逃げられた……マジか? 俺のパンチが触れた状態から撃ち抜くよりもゴクウは速い? なんだそりゃ?!)

完全に自分の思惑通りに放ち、決まったと思ったパンチだっただけに、これを回避されたのはショックではあった。

『確かに、完璧な組み立てではあった……童は最初の攻防で、ゴクウはその常識外れのスピードと反射神経ゆえに、あらゆる攻撃を見てから避けることができると判断。しかしだからこそ、目に見えないものに対して意識が無防備だと考えた上で、攻撃を組み立てた』

そんなそれぞれ内心で動揺するゴクウとアースの攻防をトレイナは冷静に分析。

『これまで童はフリッカーの軌道もワンツーも、大振りのアッパーも、真っすぐだったり、下からだったりではあるが、全てのパンチをゴクウの『視界の中』での攻撃に留めていた。ここで少しフック気味に、しかもゴクウの手刀の軌道に隠すように、視界の外から、さらには意識の死角から放ったカウンター……大魔ファントムパンチ……流石のゴクウもゾッとしたであろう……あのゴクウの心を揺さぶった童を褒めるべきか……童のこれだけのシナリオから逃れたゴクウを称えるべきか……いずれにせよ……』

いずれにせよ、両者が互いの攻撃を全て回避したうえでの静寂に、これまで息を飲んで言葉を失っていた民衆たちが一斉に……

「うお、おおおおおおお! すげえええ! なな、なんちゅう攻防だ!」

「もう、全然ついていけなかった……なんてハイレベルな……」

「ド派手な魔法や術合戦とは違い、とんでもない見応えだ!」

「ぷはーっ、と、途中から息するのも忘れちまった!」

「あのゴクウってのもすげえ!」

「ああ、あのアース……じゃなかった、ラガーンマン相手にアレだけやってるんだからよぉ!」

民衆はあまりの目にも止まらぬ攻防に大盛り上がりだった。

その歓声を耳にしながら、トレイナはほくそ笑んで……

『アース・ラガンと戦えているゴクウがスゴイ……か。ふはははは……そうだな……童は強くなっている。ゴクウよ……はしゃいでるだけでは怪我では済まず、下手したら喰われるぞ? 貴様は誰の弟子と戦っていると思っている?』

誇らしげにドヤ顔を浮かべていた。

『そして童も気づいたな……ゴクウの癖を……』

そして、そんなトレイナの想いの通り、ゴクウの速度に面食らったアースも、少し笑みを浮かべて……

「確かにとんでもねー身体能力だな……ただ、大体分かってきた」

「ウキ?」

どこか自信に溢れた軽やかなステップを踏んだ。