軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第四百九十三話 今どこに! ダービーだ!

アースが元の時代に帰れない。

世界中が騒然とし、この後どうなるかと思われたとき……

――帰れない。そのアイテムが動かなくなって、彼はそのアイテムを手渡された時のことを思い出した

それは、パリピのナレーション。

慌てふためていた者たちが固唾を飲んで見守る中、パリピは続ける。

――現代で出会ったエスピは彼に言った……『シソノータミを目指してほしい』と

その言葉に世界はハッとし、そして……

「まさか、アースは……現代に戻るためにここから……シソノータミを目指すというのか!?」

「そういうことか……とはいえ、エスピがどうしてアースを過去へ送ったのかの理由は分からないが、いずれにせよ……」

ソルジャとライヴァールも少しだけホッとした。

このままアースが現代に戻ってこれずに過去で途方に暮れている……という展開ではなく、次への行動が明確になったからだ。

『しかし、決して簡単ではないゾウ。あの時代、シソノータミは人類と魔王軍の領土争いに巻き込まれていた地域……そこまで海を渡っていかねばならぬゾウ……』

そして本日も魔水晶でリアルタイムに繋げながら、魔界からも元六覇のライファントもリモートで鑑賞会に参加していた。

「ああ、アース一人で果たして……って、あああ!」

「ぬっ、ソルジャ?」

『どうしたゾウ?』

簡単ではない道のりを思ったとき、ソルジャはあることを思い出した。

その反応に、ライヴァールもライファント、さらには宮殿の臣下たちもギョッとする中、ソルジャは……

「そ、そういえば……一時、エスピが我々連合軍とはずっと別行動というか、行方が分からなくなっていた時があったような……」

ソルジャの言葉にライヴァールは数秒の間を置いてハッとした。

「あっ……た、たしかに……で、では、まさか?!」

そして彼らは、そして世界は再び歴史で語られなかった真実を知ることになる。

『ねえってば、無視しないでよ……ねぇ……私……何かしちゃった? ……きらい……になっちゃった?』

『え?! あ、いや……』

『ごめん、なさい……ごめんなさい……だめなのなおすから……なおすからぁ……』

黙って考え込んでいるアースの腕にしがみつき、泣きそうな顔で訳も分からずにくっついて離れないエスピ。

世界は思った。

歴史の流れがどうとかは置いておいて、果たしてこの顔を見てもう一度エスピに向かって、「連合軍に帰れ」と言えるものなのだろうか?

『あ~、わり……色々と考えてて……まぁ、あれだ……じゃぁ……ちょっとだけ一緒に行くか?』

『うん!!!! お兄ちゃん、私、お手伝いいっぱいする……肩とかももんであげるから!』

そして、エスピがリボンを貰った時よりも何倍もの、それこそもはやただの子供の満面の笑みで頷いた。

それを見せられた世界中の人々は思った。

守ってあげてくれ、この笑顔―――

と。

『さて、エスピ。これから俺たちは異大陸を目指す……だから、ここの戦争にももう……』

『うん、どーでもいい! 戦争どうでもいい! お兄ちゃんと一緒に行くから、もう知らない!』

当然、それを知らなかった仲間たちからすれば……

「い、いや、エスピ、よくないぞ! せ、戦争はどうでもよくないぞ! いや、う~む、こんな表情を見せられたら確かにそう思いたくもなるが……」

「なんと……あの時代……エスピが一時不在だった時……エスピはアースと一緒に行動をしていたということか……」

『うーむ、あの時代か……というと、一時おぬしらがハクキ軍に惨敗したあたりか……?』

「ああ、確かそうだったはず。ハクキに負け、そしてその後にヒイロがゴウダを討った……そう、そのあたりはエスピが不在だった……」

「ああ、俺もよく覚えている……もっとも俺たちの戦が過熱していた頃だったからな」

『そうか。しかしそれならば……ノジャあたりならもっと詳しいと思うが……ううむ……しかし、そんな話は聞いていないゾウ……ヤミディレとパリピはどうか……しかし、鑑賞会で出てきたヤミディレとパリピの様子からは、アース・ラガンとは初対面のような感じだったゾウ』

当時エスピが別行動をしていたとき、一体そこで何をしていたのか、ソルジャたちは教えてもらうことができなかった。

だからこそ、まさかヒイロとマアムの息子が未来から来て、エスピと行動をしていたなどと誰も分かるはずがなかった。

「そういうことであれば、それほど大きなことがなかったとも言える」

と、そこでライヴァールが……

「当時エスピとアースがどう動いていたかは分からないが、それでもそのことによって俺たち連合軍も、そして魔王軍でも大きな報告もなかったとのことだし、流石に大きなことがあれば俺たちがまったく知らなかったということはありえない。ということは……過去の時代でアースはエスピ以外の七勇者や、ましてや六覇の連中と関わるようなことまではなかったということだろう」

過去を振り返り、そしてライファントの話も聞いたうえでそうまとめた。

その話に、ソルジャとライファントは……

「ああ。そういうことに……そう……いう……ことに……ん?」

『うむ、ライヴァールの言う通り、流石にそこまで……そこまでは……ん?』

ライヴァールに同意しようとした二人だが、途端に固まった。

そして……

「「「「「あっ……………」」」」」

三人の会話を傍で聞いていた臣下の者たちも同じ顔をして口を開けて固まった。

それはなぜか?

(あれ? ん? あれ? 今……ララ、ライヴァール?)

(ちょ、ちょっと待つゾウ……ライヴァールよ、お、おぬし、今……い、言わなくてもいいようなことを……)

((((ライヴァール様!? い、今、何か余計なことをおっしゃらなかったか?!))))

つまり、そういうことなのである。

しかし、気づいたところでもう遅い。

『お兄ちゃん、お金ないの?』

『え? あ、えっと……』

そのとき、旅のルートを決めたはずのアースだったが、そこで自分がほとんどお金を持っていないことに気づいた。

「あ、そ、そうか、アースはあの道具屋で金を使いきり……船で渡航するには金が必要と……」

「……………」

『……………』

「「「「「…………………」」」」」

その状況に「そういえば」と気づいたライヴァールだったが、ソルジャやライファント、そして臣下たちは別のことで不安が絶えなかった。

だが、このままでは怖いと思ったソルジャが勇気を出して確かめる。

「あ~……ライヴァールよ……アースはお金を持っていないようだが、この後どうするだろうか?」

「ん?」

『ちょ、待つゾウ、ソルジャ! そ、それは!』

(((((陛下は確認されようと……今日のライヴァール様も昨日や一昨日と同じかどうかを……)))))

魔水晶の向こう側で慌てるライファントに、緊張の面持ちの臣下たち。

すると、ライヴァールは……

「ふっ、それは聞くまでもないだろう。アースが強盗や密航などする男でもない。とはいえ、ハンター登録もできない。しかし、昨日の鑑賞会でアースが漁港で肉体労働をしていたのを皆も見たはずだ」

「「「「「………………………」」」」

「漁港で働いて賃金を稼…………むっ!?」

そして、ライヴァールは気づいた。この質問の意図に。だからこそ……

「いや、漁港とは限らない。いずれにせよ、アースは地道に働いて賃金を稼ぐことを知ったのだ、何かしら働いて賃金を得るのだろう! そう、働くのだ! いや、ひょっとしたら金を拾うのかもしれない! 親切な者や親しくなったものに連れて行ってもらうのかもしれない! それともやはり、密航するのかもしれないし、超法規的措置として盗賊やら何やらを倒して金を得るなどをするのかもしれない!」

((((あ、ライヴァール様……最終手段に出られた……))))

ライヴァールの最終手段。とにかく思いついたものを全部言う……だった。

その結果……

『最終レース、帝国ダービー……5番フカインパクト、8番アウトティライミ、11番セブンセンスの3レンタンで……』

『あい、3連単ね』

―――パーーーパパパーーパパパパーーー♪

世界に鳴り響くファンファーレ。

『さぁ、帝国ダービー。フルゲートで18頭のレースが始まります。サラブレッドの頂点に立つのはどの馬になるか……今、各馬一斉にスタートしました! アウトティライミ好スタート! おっと、一頭出遅れております。フカインパクト、スタートに失敗しております。パシファイアーを装着し、騎手のタケトヨも覆面を被るという正体不明のコンビ、しかしスタートに失敗して大きく出遅れました』

そして、響き渡る実況中継。

その音声をカフェが併設されている場所で、エスピと向かい合って座っているアースの手には馬券。

「「「「「ぶっほおぉおおおお!!??」」」」」

一斉に噴いた。

ソルジャの質問の答え、ギャンブル。

そして、当然世界中が噴き、その上で……

「……そ……それは予想できんな……」

「な、なんと……アース……ぎゃ、ギャンブルだと!?」

『……ん? ……ちょ……んんんん? おい、聞き間違いか!? い、今、さらりとフカインパクトと聞こえたゾウ!?』

「ん? どうした、ライファント……フカインパクト? ああ、あの頃か……」

「うむ、突如彗星のごとく現れた伝説の馬……謎の覆面ジョッキーと共に圧倒的な強さで帝国ダービーを制したと、少し話題になっていたな。確か歴代史上最高額の万馬券も出たとか……」

『な……フ、フカインパクト……が……ど、どうなっているゾウ!?』

その驚きは世界に拡散され……

「坊ちゃまあああああああ、ななな、何をしているのですかぁああああ!? 今どこに! ぼ、坊ちゃまが、よよ、よりにもよって、ギャンブル!? ギャンブルを!? 賭け事を!? なんということを……坊ちゃまに悪影響を……『傍に居るアレは何を』……おのれぇ! 今どこに! もう許せませんよ、私は! 坊ちゃま、今どこに!?」

カクレテールではサディスが激しく取り乱す。

『先頭は相変わらずアウトティライミ、続いてセブンセンス! さぁ、ここから直線に入ります! 場内が激しく熱狂しております! 最後の直線勝負、後続馬も続いて激しい鞭が入ります! しかし、先頭はアウトティライミ、セブンセンスの一騎打ち!』

そして、フィアンセイたちも、まさかアースがギャンブルに手を出すとは予想もしていなかっただけに口元を引きつらせた。

「よ、良いのか? アース、い、いくら金が無いからと言って、い、いや、競馬は公営競技であるので違法ではないが……し、しかし、いいのか? いいのか!? 騎士として軍馬に跨ったり、上流階級として乗馬をしたりと我らも馬には関りがあったが、ギャンブルは違うであろう!?」

「うわぁ……僕なんて、お父さんに『ギャンブルだけは絶対に手を出してはダメだ、身の破滅だ』って、ほんと強く言われたからねぇ。まぁ、僕たちはお小遣いに困ってなかったからそういうのに興味を持たなかったかもだけど……」

「ああ、俺も父からは強く言われた。かつて、『ギャンブルで色々とやらかした男』が仲間にいたので、絶対にそうなってはならないと……って、そもそもあいつは金が無いからと何故に競馬という選択肢になるのだ!? あいつは本当にどこにいる?! どこに向かっているのだ!?」

そう、いかに国の公的機関が運営する競馬競技とはいえ、やはりギャンブルとなると印象が悪くなる。

『おおおーっと、ここから後方から迫りくるのは漆黒の風! いや、なんだコレは! 最後尾からぐんぐん追い上げてくるのは……は、走っているというよりまるで、飛んでいる! この飛び込んできた黒い風は……フカインパクト! 今、集団を抜き……先頭の二頭を……おっと、なんと鞍上のタケトヨ騎手は鞭を叩いておりません! しかし、伸びる伸びる!』

だが、そんな中で……

「……フカインパクト……そう聞こえたが……」

それは、初日から同じように観賞会に参加しているバサラだった。

「ええ、そのようですね。師匠はご存じですか? 我らも生まれる前のことと、競馬にあまり関心がなかったので詳しくはありませんが、謎の伝説の馬として帝国競馬史にその名を刻み込んでおりますが……」

「ほぉ~……ぐふふ……ぐわーっはっはっはっはっは! そうかそうか~……そうか……戦争では色々と背負って……あやつもしんどいまま逝ったと思ったが……ちゃんと相棒と息抜きをしておったか……そうか……そうか……」

「?」

「それより弟子ども、競馬に関心がないと言うでない。ましてやダービーじゃぞ? 『ダービー馬の馬主になることは、魔王や勇者になることよりも難しい』……という格言を知らんのか?」

「は、はい〜?」

フィアンセイの言葉に、バサラは目を細め、どこか切なそうに……

『そしてもはや大勢は変わらない! この速さ、この強さ、風が吹き荒れる! なんだ、この馬は! フカインパクト、今、一着でゴールイン! 帝国産馬ではなく、外国産馬でのダービー制覇! そして、これまでの記録を塗り替える、レースレコードを記録! まさにその名の通り、我々の心にとてつもないインパクトを刻み込んでくれました! 鞍上のタケトヨ騎手が今、小さくガッツポーズしております』

しかし、笑みを絶やさずに空を見つめていた。

そして、フカインパクトの名に深い衝撃を与えられた者は、まだ他にも世界各地に存在していた。