軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第四百九十四話 七勇者と六覇の反応

「ヒイロ! 本当にあんたじゃないでしょうね!?」

「んなわけねーだろうが!」

「じゃあ、なんであの子が競馬を……しかも、馬券の買い方まで知ってんのよ!? あんた、ギャンブルの話を『あいつ』から聞いて、それをアースに教えたんじゃないの!?」

「俺だって驚いてんだよ! ってか、俺も馬券の買い方は……『あいつ』に教えてもらったことはあるけど、その話をアースにしたことねえよ」

「でも、あの子、一等の馬を当てるだけじゃなくて、3連とか言ってたわよ!?」

「ああ……フカインパクトという謎の馬の存在は有名だから、単勝で的中させるなら分かるんだが……3連か……って、ちょっと待て! それじゃああの時代、一時だけ噂になった……」

「ああああ! 歴代最高の大穴的中って……アースのこと!?」

「うお、おお……なんてこった……流石にビギナーズラックってわけじゃねーよな? 競馬とか、サディスはそういうこと教えねーよな?」

「それは絶対にないわ。そもそもアースがギャンブルしたなんて知ったら……サディスは発狂するわよ」

「だよなぁ~……それに、港町では地道に働くことをやっていたあいつが、なんでここに来て競馬を……未来の情報があるがゆえ……か?」

ヒイロとマアムは、そもそもなぜアースが競馬をやって、しかも的中させているのか?

「……やっぱ、ヒイロ! あんたが教えたんじゃないの!?」

「だーかーら、んなわけねーだろうが! 俺は魔法も剣もひっくるめて、アースに教えられたことなんて何一つねぇんだからよ!」

「……………………そうよね……私もだし……」

「う、うおおおお、言わせんなよぉ、クソぉ、おおお……ううう」

その疑問から離れられず、結果的に今まで通り自分たちは何も知らず、その上で何もしてこなかったと突き付けられるだけだった。

そんな中で……

「ふふふ、ふはははは……ふははははははははははははは!」

ハクキは笑った。

「ハクキ……お前また……ぐっ……」

「むぅ……ぬっ……うう~……」

唐突に笑いだすハクキ。そのことに思わず「何がおかしい」と問おうとした二人は、ただ悔しそうに唇を噛みしめる。

なぜなら、どうせハクキは全部を話さないことと、また「貴様らは本当に何も知らんのだな」と嘲笑われるのが目に見えているからだ。

すると……

「まったく……どうやら……自分の技だけでなく……カリーだけでなく……そういう一面まで教えられているか……どうやら……吾輩が思っている以上に、あの御方もまたアース・ラガンに心を許し……そういう一面も教え、見せられるか……」

ハクキは目を細めながら、何か懐かしむように……

「ちょっと奴が羨ましいな……」

「「?」」

アースを羨むように空を見つめていた。

そして、

「吾輩が万が一アース・ラガンに負けて子分になったときの手土産として……『あの野生馬となった一族』を今のうちに探させておくか……力づくで捕まえるのは不可能でも……ふふふ、魔界でもコレが流れているのであれば……アース・ラガンから何かを感じ取ることができれば――――」

「わぁ! アースがお金持ちになりました! すごいです! お馬さんの競争の順位を当てるみたいですが、見事に当てました! 走っているところを見れないのは残念でしたが、いつか私も競馬というものにアースと一緒に行ってみたいです!」

競馬で大勝したアースの姿に飛び跳ねて賞賛するクロン。だが、彼女はすぐに気づいた。

「それに、いつかエスピにもご挨拶を……あれ? お母さん? どうしたのです、お母さん?」

それは、飛び跳ねて喜ぶクロンとは対照的に、ヤミディレはやけに神妙な……いや、どちらかというと切なそうな表情で空を見上げていたからだ。

「神は全知全能で絶対でありながら……時折、お茶目なところもあった……それが余計に私たちを惹き寄せて……」

「お母さん?」

「もう二度と……そう思っていたが……こんな形で……姿は見えなくともその存在を感じさせて……うっ……」

「お母さん!?」

色々と込み上げてきて、つい感傷的になり、そして目の前にいるクロンの存在が余計にヤミディレに切ない思いにさせた。

瞳から溢れて頬を伝うもの。

クロンが慌ててヤミディレに寄り添うと、ヤミディレはその存在を確かめるように、そして愛おしそうにクロンの頬を撫でた。

もう二度と失ってなるものか。

そう胸に誓いながら。

「クロン様。競馬場はクロン様の教育上あまりよくない気もしますが……馬の乗り方を私は教えられますよ? レースで使う騎乗テクも」

「え? あ、そういえば、お母さんはペガサスの乗り方すごく上手でした!」

「ええ。馬でアースラガンと二人乗りで草原でランデブーすることも……クロン様なら、ダービーで名を馳せることも―――」

心配させたクロンに安心させるように微笑むヤミディレ。

クロンはヤミディレの唐突な涙が気になりながらも、その提案にまた「お~」と唸る。

「んあ!? ちょっと待つのん! 馬に乗る必要なんてないのん! クロンちゃんには僕がいるのん! 浮気はひどいのん! お兄さんとのラブラブな二人乗りは、草原じゃなくて僕が空でしてあげるからいいのん!」

「あ、そうなのです。私にはヒーちゃんがいます! では、ヒーちゃんでレースに出ましょう!」

「カカカカ、いーじゃねえか、ヒルア。妹分が凄腕のジョッキーになってレースに出るようになったら、俺は毎回妹分に賭けて大儲けよ!」

「ふふふ、そんな肥えたカバよりも由緒正しいサラブレッドが……いや、そのカバも冥獄竜王の子ということで血統は死ぬほど優秀だが……と、あのフカインパクトは戦後どうなったのだろうか……人間どもに処分されたか、それとも野生化したか……」

冗談交じりなようでかなり本気で「騎乗テク」を教えるというヤミディレに興味津々なクロンに、思わず焦って身を乗り出すヒルアとケラケラ笑うブロ。

そんな雰囲気の中、ヤミディレはまた少しだけ昔を懐かしむように遠くを見るような目で空を眺めた。

「婿殿。ちょいと、わらわを後ろから抱きしめて欲しい」

アースの膝の上でリラックスしていたノジャが唐突に呟いた。

「は!? なんで――――」

「後生なのじゃ……今……このひとときだけで良いのじゃ……」

いつものように「ふざけんな」と言おうとしたアースだが、このときノジャはいつもの変態な笑みではなく、弱々しい少女のような表情でアースに懇願した。

「ノジャちゃん……どうしちゃったの?」

「……ノジャ……」

アミクスたちもノジャの雰囲気に首を傾げる。

その妙な雰囲気に、いつもなら排除に乗り出すエスピたちもうまく声をかけられないでいる。

「んなこと言われても……」

アースもただ扱いに困ったので戸惑っている。

「照れ屋め……いいも~ん、なのじゃ。わらわが勝手にくっつくからいいのじゃ」

「お、おおう、こら!」

「つ~~~ん、なのじゃ」

すると、それでも了承しないアースに溜息吐きながら、ノジャはアースと対面するように正面から両手両足をアースの背に回すように密着した。

「はぁ~……ぬくい……なのじゃ……あの時代では考えられないぐらい……てぇてぇなのじゃ……」

「あ、あぁ~?」

「大魔王様……」

「ッ?!」

アースに甘えながら、ふと大魔王という言葉を口にして、一瞬アースはビックっと震える。

すると、ノジャは……

「大魔王様……わらわは……こんな弱くなった……あなた様の下でただ血を求めて暴れていた将であったわらわが……あなた様が今の脆いわらわを見たら……あなた様はどう思われるか……ここまで変わり果てたわらわを……」

『どうも何も、貴様は根本的に何も変わっていないであろう』

(秒でご本人からツッコミ入ったー!?)

珍しく殊勝な雰囲気を醸し出していたノジャをバッサリのトレイナに、アースは思わず噴き出してしまった。

ただ、そんな中で……

「はは~ん、それはそれとして……帝国ダービーが来たということは……な~、お嬢♪」

「ん? あっ……そっか……」

コジローはニタニタ笑みを浮かべ、そしてエスピもハッとした。

そう、何故ならば―――

王へ、国へ、そして自分たちへの怒りや悲しみが多く、暗い表情が続いていたベトレイアル王国だが、今はただ微笑んでいた。

『どーぞ、ほら食えよ』

『はわ~……へ? あう、え……』

目の前に並ぶのはたくさんのケーキ。

それに目を輝かせて口を開けて圧倒されてしまっているエスピに、アースは頭を撫でながらそう言った。

『お、お兄ちゃん……た、食べていいんですか?』

『食べなさい。ほーら、遠慮するなよ」

『わ、わかった……あ、やわらかい……ふわふわ……う~……あむっ! んんんんんんん! う~……甘いぃ~、おいひい!」

プルプル震えながらフォークでケーキを切って、恐る恐る口の中に入れる。

次の瞬間、エスピの全身がビクッと跳ねて、その表情に花が咲いた。

「もう……なんか……涙が出ちゃう……」

「ああ……ああ……あんなに美味しそうに……よかったなぁ~エスピ様……」

「くそぉ! おれ……ケーキ屋なのに……エスピ様に一度も……くそぉ!」

「ねえ、お母さん……僕のこのケーキとっておいて、エスピ様にあげたらよろこぶかな~?」

「……そうね。きっと……きっと喜んでくださるわ」

ただただ、子供のように嬉しそうに、見ているだけで頬っぺた落ちそうになるような満面の笑顔を見せてケーキを頬張るエスピに、べトレイアル王国の民たちは微笑みながらも涙を流していた。

そして、パリピは当然……

『ケーキは食べたことなかったのか?」

『うん! 顎を鍛えるために硬いお肉とか、お薬の入った飲み物ばっかだった』

『そ、そうか……あっ、店員さん。他のも追加で……好きなだけ食べなさい!』

当たり前だが割愛しない。「ぐすっ」とちょっと涙を拭いながら店員に追加注文するアース。

―――ほげええええええええ!?

宮殿で老人たちが顔を真っ青にして叫ぶ中、王都では怒号が再び響き渡る。

「ぐっ、国王ぅううう! くそおお!」

「うう、なんという……くそぉ、アース・ラガン! もう、そのケーキ代はこの時代で俺らが払う! 払うから!」

「お願いよ、アース・ラガンくん! エスピ様に、もうお腹がパンパンになるほどケーキを食べさせてあげて!」

もう、好きなだけ、いくらでも食べてください。

国王へ怒鳴りながら、泣きながら、そう願う民たち。

『私が今までで食べたものの中で二番目においしい』

『はは、大げさな……って、二番?』

『うん。一番はお兄ちゃんが作ってくれたカリー!』

どうか……

『……ぐす……ありがとう……お兄ちゃん……私、生まれてから今が一番幸せ……』

「「「「エスピしゃまぁぁああ~~~!!!!!」」」」

この笑顔をもっと守って……と

すると、その時だった。

『景気イイねぇ、お兄さん。オイラ~羨ましくなっちゃうじゃない』

『『ッ!?』』

『オイラも馬券買ったんだよ、さっきのレース。そしたら大ハズレよ~……いや~、馬って~のは難しいじゃな~い』

ついに、二人の前にあの男が現れた。

全身を外套で覆い、頭には天蓋。

そしてその腰元は袋に包まれた棒状の何かを長いのと短いのを二本携えている。

その姿だけを見ても、世界中の多くの者たちは……

――いきなり話しかけて、誰?

となっただろう。

しかし、一部では……

――ちょ……ちょっと待てぇええええええ! なんで?! なん、聞いてねえぞ! 馬券の買い方とか、フカインパクトスゲーとか、そういう話はあいつから一度聞いたことあったけど、これは聞いてねぇぇ! 本物? 偽物か!?

――待った待った待った待った! え、本物!? だって、エスピいるのよ? エスピ行方不明の時、あいつは一言もエスピのこと話してなかったのに、え? 本当はエスピと会ってどこにいるか知ってた!? え、アースとも会ってた!? 流石に無いわよね!? ジャポーネの似た人!?

――バカな……あいつ、だというのか? いや、エスピもいるのだ、ありえん! 行方不明中のエスピと会ったなど、あいつは我らに一言も言っていなかった。つまり、アレはジャポーネ人の格好をしているし、しゃべり方も似ているかもしれないが、本物のあいつでは―――

――ライヴァール……たのむ……頼むから……ちょっと落ち着こう……つまり、もう我々も黙って見よう……この先どうなるかとかそういうのは予想せず、黙って見よう……

顔を隠していても、関係なかった。

ヒイロ、マアム、ライヴァール、ソルジャ、彼らは流石に秒で気づいた。

まず、真っ先に七勇者が反応し、仲間が十数年前に自分たちにすら打ち明けずに飲み込んでいた秘密を知ってしまうことになる。

そして、六覇も――――

一方で、結果的にこの現れた男の存在に、べトレイアル王国の民たちはアースに続く感謝を男に対して抱くのである。