軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第四百九十二話 手のひらクルクル世界

生まれて初めて心を解放してゆっくりと眠れるのかもしれない。

無防備にぐっすりとアースに抱き着いて寝ているエスピの姿が世界に流れる。

「ふ……ふふふ……よかった、エスピお姉ちゃん。ふふふ、坊ちゃまも流石ですねぇ。あんなエスピお姉ちゃん初めて見ましたよ」

エスピの心の壁を取っ払ったアースの姿に、サディスも感情があふれて涙目になって微笑んでいた。

「うむ、流石はアース……そう、アースは……うん……うん……小さい子供にも好かれるのだなぁ……うん。いや、アースが優しいだけで、うん、そう、だから……」

「あ、あはは……」

「………………アマエ……」

「……おい、アマエよ……奴は別に、その……だな……」

「アマエ~、も、もぉ~」

フィアンセイ、フー、リヴァル、マチョウやツクシを始め、その場に居た者たちは顔を引きつらせていた。

二人でくっついて寝て、朝起きて、とても美しい朝日を二人で眺めているアースとエスピとは真逆に、カクレテールでは……

「ぷんだ……ぷんだ……プンダ……プンダ……プンダ」

これほど小さい顔なのに、これほどまで膨らむものなのか? と思わず思ってしまうほど頬をプクーと膨らませてサンドバックを叩くアマエ。

「お兄ちゃんのごはんたべたことない! 外でくっついて寝たことない! う~~~~ぷんだ!」

大好きな兄が自分の知らない女の子と仲良くしていることに嫉妬してご立腹のアマエに、誰もが「仕方ないな~」と思いつつも、それでもエスピを誰も悪く言うことなどできるはずもなかった。

「でも、あのエスピって子、良かったかな。心から信頼できる、安心できる人が、今までずっと傍にいなかったところ、アース君に出会ったんだから」

ツクシの言う通り、皆が「良かった」と頷いている。

「そっすね……私らが昔……マチョウさんに守ってもらって、傍に居てくれたみたいに……ってことだから、アマエ~! 贅沢だぞ~、私らにはマチョウさんもいるのに、あんちゃんまで独り占めしたいとか~」

「うう~~~~」

「むしろ、こういうときに自分と同じように心細かった女の子が救われて、あんちゃん良くやった! ってむしろ褒めてあげるぐらいの女の子じゃないと、あんちゃんに嫌われるぞ~~?」

「むぅ~~~うう……」

そしてカルイはケラケラ笑いながら、ふてくされて八つ当たりしているアマエの頭をポンポン叩いて宥める。

笑いながら言っているようで、カルイの言葉はアマエにもしっかりと届いていたようで、アマエは唸りながらも言い返さず、ただシュンとなった。

ただ、それに追い打ちをかけるように……

『あーあ、髪が長ぇから……ほら、これやるからちょっと束ねとけよ』

『……え? え? こ、こんなの……こんなの私に渡してどうするの? 助けてくれて、ごはんくれて……一緒に寝てくれて……これまで……』

『大げさだよ! そんな大したもんじゃねーし、俺が持ってても仕方ねーから、ただあげるだけだよ。プレゼントだよプレゼント』

『……プレゼント……』

朝の冷たい風が、エスピの長い髪をバタバタさせて、それに見かねたアースがポケットに入っていた白いリボンをエスピにあげる。

「お兄ちゃんからプレゼント……むぅぅぅう~~」

「あ、あはは~、どんまいどんまい、これも大きな心でだよ~、アマエ~」

「むぅ~~~~!」

最初は戸惑っていたエスピだが、アースからもらった白いリボンを受け取り……

『……ど、どう? マアムみたいにかわいいかな?』

『くはははは、マアムよりかわいいんじゃねーのか?』

照れながらそう告げるエスピに、アースは笑い……

「ああああああああああああああ!! あの、あ、あの、エスピお姉ちゃんのリボン……あ、あ、あれって……」

「え? ……そ、そういえば! た、たしかに、や、やけにボロボロのリボンをつけているなとは思ったが、ひょ、ひょっとして、コレが……」

「え!? じゃあ、七勇者のエスピはこの時にアースからもらったリボンを……それこそ、十数年以上もずっとずっと……」

「このことは……父たちは知っているのか? アースが七勇者のエスピにとってそれほどの存在だったと……」

そして、エスピの身に着けていたリボンの真実にサディスたちは衝撃を受けて……

『あ……ありがとう……お兄ちゃん……』

『ッ、くははは! おう!』

「ふみゅうううう!!!! ぷんだああああ!」

アマエが最大級のプンダを炸裂させた。

「ちょええええ!? え、いや、エスピがある日いきなり身に着けていたリボン……あ、あれ、アースがあげたものだったのか!?」

「この間、海で再会した時もまだ着けてたし……うそ、ええ!? あのリボン、過去に行ったアースがエスピにあげて、ちょ、こんなすごいことを私たちはずっと知らなかったの?!」

「いや……こんなの分かるわけねえだろ!? つうか、お兄ちゃんだとぉ!? お、俺も、俺も一度もエスピから呼ばれたことないのに……」

「わ、私もお姉ちゃんとか一度も……そ、それなのに、アースは出会ってすぐにお兄ちゃんって……」

「しかも……お、俺、エスピの頭を撫でたらいつもぶっとばされて……あ、あれ、照れ隠しだと思ってたのに……」

「そういえば、あの子……アースに撫でられてメチャクチャ嬉しそうじゃないの……」

エスピの涙に続いて、自分たちの知らなかったエスピに関する情報がボロボロと出てくることに声が止まらないヒイロとマアム。

共にあれだけ死線を潜り抜けてきた仲間だったというのに、そのことを全く知らなかったことにショックを受け……

「ふははははは、どうやら貴様らが知らないのは、息子のことだけではなかったようだなぁ。むしろ、貴様らは何を知っているのだ?」

「「ほぐあ!?」」

そして、容赦ないハクキの言葉が二人を更に抉った。

同じ七勇者ですら見たことのないエスピの涙が世界に広まった。

そして、そんなエスピの姿にまた心揺さぶられ……帝国では……

「いや~、なんか……よかったよなぁ、あの子。七勇者のエスピ」

「うん、アースくんも優しいし!」

「まっ、最初アースに会いに来た七勇者のエスピの様子から、二人には何かあると思ってたけどな」

「ああ。こういう繋がりが二人にはあったんだな」

「おやおや、皆、昨日まで七勇者のエスピがウザイとか言ってなかったか? 品がないなぁ。まぁ、僕は最初から悪い印象を抱いてなかったから君たちとは違うけどねぇ」

「は? 何言ってんだ。俺は最初からエスピとアースには何かあるって思ってたさ」

昨日まで抱いていたエスピへの印象などすっかり忘れているほどに……

「うわぁ、か、かわいい~! リボンをあんなに嬉しそうにしちゃって~」

「ほんと、なーに、あれ~! もう、よしよしってナデナデしたい~!」

「っていうかさ、アースくんに会いに来た大人のエスピちゃん、あの時まだリボン着けてたよね!」

「すごい! これって十年以上も前の話だからその時からずっとこのリボンを大事にしてたんだ!」

「俺、七勇者のエスピのファンになったかも!」

「うんうん、あんな可愛くて強くいんだもんね~」

「懐かれてるアース君、羨ましいなぁ!」

「エスピたんとアマエたん……どうしてあいつばかり!」

というか、ファンになるほどにエスピに感情移入していく帝国民たちであった。

そして……

『さて、お前も大丈夫そうだし……ここから連合軍の所へちゃんと帰れるか? 俺ももう行かなくちゃいけないしな』

『えっ!?』

「「「「「ッッ!!??」」」」」

アースが告げたその言葉に、リボンに嬉しそうにしていたエスピの表情が一瞬で固まり、帝国民たちも「は?」となった。

『い、いくの……ど、どこへ?』

『あ。いや、俺もそのな、帰らなくちゃいけないというか……』

『……一緒に……連合軍に行こうよ! お、お兄ちゃん強いし……一緒に……いっ、しょに……』

『いや、それ絶対無理!』

初めてできた心許せる人。情を通わせた人。

それなのにここでお別れ?

そんなの嫌だというエスピの気持ちがヒシヒシと伝わり……

「ざけんなよ、アース! あいつ何考えてんだよ!」

「こんな状態のエスピちゃんを置いて帰るとか、それでも人の心があるの!?」

「なんて酷いやつなんだよ、あいつは!」

「もうしばらく一緒に居てやれよ!」

「ったく、あいつはだからダメなんだよ」

そんなアースに帝国民から大ブーイングが発生した。

一方で、ベトレイアル王国では……

「そ、そうか、アース・ラガンはこの時代の人間だし……」

「そうだよな……確かにいつまでもいるわけにはだけど……」

「でも……でも……」

エスピと同じように、アースが「帰る」と言葉を口にした瞬間、微笑ましそうにしていた様子が一変し、皆が浮かない顔をする。

だが、それは当たり前のことである。

アース・ラガンはその時代の人間ではなく、自分たちが今いる現代の人間である。

すなわち、このまま過去にいつまでもいるわけにはいかないというのは、当たり前のことだと理解した。

が……

「で、でも、エスピ様のあの表情……あのリボンをどれだけ……だから、だから……」

「うん、せめて……せめてもう少し……」

自分たちの知らなかった、エスピが背負っていたことや、考え方。

そしてあの涙や、リボン一つで嬉しそうにする子供らしい感情をようやく見せるようになったエスピが……

「頼む、アース・ラガン! もう少し……もう少しだけ、エスピ様の傍にいてあげてくれ!」

「エスピ様が長年愛用されていたあのリボン……こんな裏話があったなんて……それだけエスピ様は嬉しかったんだ!」

「お願いします、アース・ラガン! どうか……どうかエスピ様を!」

空に映っているものは、過去の時代での話であり、エスピがその時代から現代まで生きていることからも、あまりベトレイアル国民の叫びは意味のあるものではないのだが、ただ彼らは純粋にアースが「帰る」という言葉を口にした瞬間に見せたエスピの表情や反応に、胸が引き裂かれそうになり、「どうかもう少しだけ傍に」と皆が願った。

すると、彼らがそう願ったからか……

―――ピーーーーーーーーーー【充電シテクダサイ】

アースが過去へ渡ったアイテムである時計が突如耳鳴りと共に喋り出し、それを取り出したアースが時計を弄ると、時計はもうウンともスンとも言わなくなった。

『ま、まさか……こ、壊れた……?』

そのアースの呟きに全世界の息が止まり……

『お、俺、帰れないじゃねーかよーーーーー!!??』

「「「「「え……うぇええええええええええ!!!???」」」」」

世界が一斉に……

――ちょっ、坊ちゃま!? 坊ちゃま、どど、どうなるのです!?

――アースが、かか、帰ってこれな……アース、どういうことだ!?

――ん~? お母さん……アースが帰ってこれないということは……ええ!? そ、それは困ります!?

――な、なんということだ……

――ちょ、アース、どど、どうなってんだ?!

――うそ……でしょ? うそでしょおおおおお!?

――アーくんが!? ………きゅ~……ばたん

アースが帰れないという言葉に、アースを想うものたちが一斉に悲鳴を上げた。

そんな中で……

「……ず~~~~~ん」

エルフの集落では、さっきまで大騒ぎしていたエスピがここに来て重たい空気を発して落ち込んでいた。

「エスピ……ど、どうした?」

「……お兄ちゃん……」

すると、エスピはものすごく複雑そうな表情で……

「わ、私のこのリボン………………元はパリピが渡したものだったの?」

「…………あ……」

自身の十数年以上も持ち続けていた一番の宝物でもあり、そしてずっと心の支えにしていたリボン。

アースといつか再会するために、どんなにつらくても歯を食いしばり、その度にこのリボンに支えられてきたエスピ。

まさかそのリボンがパリピの手から渡ってきていたものだったという事実をエスピも今日初めて知り、微妙にショックを受けていたのだった。