軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第四百四十四話 あの場所こそ

『こう……だな……ああ……これか……』

一つの地獄に区切りをつけて、何かを掴んだアースは全身に魔力を漲らせて微笑んだ。

その様子を凝視しながら……

「あれ……そうだ……十数年前のあの最終決戦で『あいつ』が……大量に消費した魔力を回復させた……あの……」

「思い出した。そうよ……え? ちょっと待って……じゃあ、なおさら何でアースが?」

ヒイロもマアムも……

「全身のあらゆる神経を剥き出しにして、極限の集中と鋭敏な感覚を……そうか、そのためにあえて水抜きを……だが、あの御方のあの技法はそれだけでは会得できん。もっと重要な要素がある……」

そしてハクキすらも疑問を口にしていた。

答えが分からない疑問。

「医学的な検査魔法を使えば、全身の魔穴の『数』と『大雑把な位置』だけなら分かるが……全身の魔穴の『正確な位置』までは分からぬ……あの御方は言っていた……『寸分違わぬ正確な魔穴の位置が分かっていなければ、魔力の放出、取り込みの循環感覚を掴めぬ』……と。それは針先一つの誤差も許されない一点……だからこそ、魔王軍の兵士に対して魔穴の数を増やす処置は、あの御方の六道眼が必須で……だが、アース・ラガンには六道眼はない……他の三大魔眼を持っているわけでも……ましてや、紋章眼を持つヤミディレが師事しているわけでもなく……では、なぜだ? ヤミディレめ……数か月も一緒に住んでいて、なぜこんな大事な場面を貴様は立ち会っていないのだ!」

同時に、戦慄していた。

『っあ~……はぁ……生きててよかった』

そんな世界最強クラス三人を震えさせながらも、空に映るアースはここに来てそれまでのトレーニングに一区切りをつけて、今まで完全に断ち切っていた水分を取り、魔力だけでなく、干からびた体に命を取り戻していった。

そして、またアースは走り出した。

アース・ラガンは帝都で生まれ、帝都で育った。

帝国こそがアースの故郷のはず。

十年以上もずっと一緒に帝国で育った幼馴染にとって、アースのことは本来であれば誰よりも知っているはずだった。

しかし、御前試合からアースのことを全然分からなくなってしまった。

そして今もこうして、自分たちの知らないアースを見せられてしまう。

『何か一つのことを成し遂げたようだな』

『それは、今度の大会を楽しみにしていてくれよ』

『よかろう。見せてみろ! 貴様の望みどおり、自己流で任せた貴様の道の果てをな』

伝説の六覇であるヤミディレ相手に一歩も引かずに言葉を交わす。

水抜きのトレーニングを終えて、元の精悍な姿に戻ったアース。

いや、一つの地獄を乗り越えたアースは更に自信に溢れている。

そして、同時に普段の生活も活き活きしているように見える。

『おい、アースくん!』

『オラ、来たぞ! 今日からまた一緒にやるんだろ!』

『今日は学校休みだし、ちょっと早いけど……』

『ふあぁ……眠いんだな……』

朝早くからモトリアージュたちと一緒に街を走ってトレーニング。

『っしゃ、いくぞ、お前ら!』

『『『『おうっ!!!』』』』

もはやそれはカクレテールではおなじみの光景となったのか、街の人たちも走るアースたちに声をかけたりしている。

一緒にトレーニングし、一緒に汗を流し、一緒に刺激し合い……

「っ……ん……うっ……」

「あ……」

「…………」

そんなアースとモトリアージュたちの姿に、フィアンセイ、フー、そしてリヴァルは複雑な心境で眺めていた。

本来であれば、そのポジションにいたはずなのは……

『今度の大会、俺も出る。そして優勝するつもりだ。つまり、あのヨーセイが出るのなら、どこかで俺はヨーセイと戦う。そして、俺はあいつを叩きのめすことになる。でも、その拳にはお前らの気持ちも乗せてやるよ』

そして、四人がアースを慕うように、アースもまた四人のことを指導やら師弟やらという関係ではなく友情……いや、仲間として……

『こうして共に汗を流し、同じ水を啜った仲なんだからよ』

その想いを背負って戦おうとしている。

その姿に、フィアンセイたちは……

「今更かもしれんが……本来、我らはあの場所にいれたはずなのに……たまらなく羨ましい……」

「モトリアージュくんたち……アースにあんな風に言われるなんて……まるで、子供の時、僕らを引っ張ってくれたあの時のアースみたいに……」

嫉妬だった。

「アカデミーに入って以降……アースが徐々にやさぐれて……しかし俺たちもそこで手を伸ばすのではなく、どこかぎこちなくなり……ああ……そうだな。俺たちがもっとアースに対して……そうすれば……」

リヴァルもまた空に映る、活き活きとしたアースと共に汗を流して笑い合うモトリアージュたちに複雑な想いを抱いていた。

モトリアージュたちこそが……いや……

「うふふふ、青春かな? でも、あの頃のアースくんたちは楽しそうだったね~」

「アマエも一緒におにいちゃんとはしった!」

「そうっすね~。なんか、あんちゃんたちが街を走るのは名物みたいになったっすからね~」

「自分もよく覚えている。僅か二か月足らずで溶け込んだ」

「ええ。坊ちゃまもモトリアージュくんたちも……走ってましたね」

「ははは、恥ずかしいですけど、でも僕たちは今も走ってますから!」

「オラァ! 今ならもっと走れるぜ!」

「少しは体力付いたし……」

「少し痩せたんだな!」

むしろ、このカクレテールこそが故郷の帝国よりもアースにとっての居場所だったのかもしれないと感じるほどであった。

そして、それはある意味で間違っていない。

『うふふふ、ついにこの日が来ましたね、アース』

『まーな』

『今日は公平のためにアースだけを応援は出来ませんが、しっかりとアースを見ています! だから、見せてくださいね?』

アースが照準を合わせていた闘技大会。

本来であれば、外の世界を知る者たちからすれば「閉鎖された井の中の蛙の大会」などと評していたかもしれないが、そんなことはない。

「そして、これか……アース……僕たちと出た御前試合の時みたいに自信満々で……」

「ああ。そして、あの時とは違う。結果だけは既に聞いているが……あいつはこの大会を最後まで戦い抜いた……御前試合と違い」

もう、今では誰もがその大会の行方を気にし、そして一度見た者たちですらまた振り返って楽しむといった様子でワクワクした表情をしている。

「ウム……それにしても……」

「ふふふ、それにしてもこの頃の坊ちゃま……」

そして、フィアンセイとサディスはその上で……

『あれが、天才ヨーセイか。アース、どう思う?』

『めっちゃ不愉快!!』

『……いや、そういう意味ではないのだが……というか、声が大きい』

『ちょっと、あんた! 聞こえてるわよ!』

『ああ。聞こえるように言ったからな。不愉快大量生産共が』

『なっ!?』

これまでなるべく関わらないようにやり過ごしていたヨーセイと、その取り巻きの少女たち相手に……

『お前! 俺の大切な人に……何て言った?』

『お前は聞こえなかったのか? なら、もう一回―――』

『黙――――』

『黙るかァ!!』

『ッ!?』

『悪いが、今日の俺は黙らねえ。そして、引かねぇ、屈しねえ』

一歩も引かなかった。

『だから、俺に黙って欲しければ……黙らせてみろよ。この大会でな!』

『っ……や……やれやれ。弱い犬ほど良く吼えるって知らないのか?』

『くははははははは、バカか? テメエは。これは人の世界。犬の世界の話を持ち出してどうすんだ?』

絶対に負けるわけがないという自信に満ち溢れて圧倒している。

「こ、このアース……なんと……カッコイイ……」

「う~、この頃は記憶を失っていたというのが恨めしくなるほど……ふおおおお、坊ちゃまが、ぐうイケえぇぇぇぇぇ!!!!」

そんなアースにフィアンセイとサディスは完全に心を持っていかれ……

『これより、この国の武の頂点を決める16名の男たちによる大会を始めたいと思います! どうぞ、最後まで御覧ください!』

いや……二人だけではなく……

「うふふふ! ん~、アースはやっぱりカッコイイです! 皆さん見ていますか? アレが私が憧れているアースです! カッコいいんです! でも、これで終わりじゃないんです! アースはもっと、もっと、も~~~~~~~~~っと、カッコイイんです!」

建設工事現場で「むふー」と胸張って自慢するクロン。

「たしかに、なんかスゲー頑張る男で……」

「ああ、生意気だけど根性もあるし……」

「クロンちゃんが惚れてる男だから、どんな二枚目の線の細い王子様みてーなイケメンかと思ったら、泥臭い奴だったんだな」

作業員の男たちにとって人気者となっていたクロンがベタぼれする男は一度見てみたいと思っていたのだが、想像以上で誰も文句は出てこなかった。

「ったく、あいつ……あんなトレーニングしてたんすね、師範」

「ああ……まあ、今改めて振り返れば……やはり、あの小僧に対して色々と解決できない疑問が山ほどあるがな……」

『突如現れた彗星は、凶兆か、それとも未来を作る希望となるか! 道場で叩き出した数値はどれもが歴代トップクラス! そして、あの最強マチョウともスパーを行ったという未知の強豪! その本気の力、今こそ見せてみろ! 『超新星』アース・ラガン!』

そして、クロンだけでなく……

「お兄ちゃんカッコいいィいいいいいい!! あ~~~、もう! 水抜き中のお兄ちゃんを馬鹿にしたあのヨーセイとかいう奴を本当は今すぐぶっとばしに行こうと思ったけど、んもう、いい!」

「これ、記録ということは後で何度も繰り返して見れるんだよね? お兄さんのこの物語は何度でも見たい。あとで、パリピに交渉だね」

「……ハニーってば……嗚呼、私の知らないところでこんなに……君はどれだけ私を惚れさせれば気が済むのかしら?」

「はぅ……アース様……かっこよすぎだよぉ~」

「ふぉ~~~~、婿殿どちゃくそイケてるのじゃァ~~~! いけいけ婿殿~なのじゃ!」

「ふふふ、イイ感じの自信に満ちた言葉じゃない。……にしても……御老公……例の魔力回復云々の……」

「うむ……間違いないのぅ。というか、ノジャも最初はソレ見て騒いでおったくせに……まぁ、よいか。今はコレを最後まで見届けてからじゃな」

エルフの集落でも全員で大盛り上がり。

いや、全員ではなかった……

『やれやれ、俺は目立ちたくないんだが』

『じゃあ、秒で消してやるよ』

一回戦から注目のアースVSヨーセイの試合。

エルフの集落だけでなく、今では世界中がヒートアップして手に汗握ってその試合開始を今か今かと待ち望んでいる中……

「もう……やめて……」

『……童……き、気をしっかりとだな……』

「今では俺の方がこれ以上目立ちたくない……」

恥ずかしさのあまり集落の隅で一人うずくまっているアースだった。