軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第四百四十五話 辻褄が合わない

『話はこれまで! そう、ここから語るは互いの力のみ! では、一回戦第一試合、始めええええええええ!!!!』

「「「「「ウオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!!!」」」」」

恥ずかしすぎて、ふて寝状態のアースを無視して、エルフの集落では空に映っている闘技大会の会場にいる観客たちと一緒になって歓声を上げる。

「いけー、お兄ちゃん!」

「お兄さん、ファイト!」

「姉さんと兄さんがあんなに子供みたいにハシャぐなんて……でも、分かるな~。アース様ってあんなに……シノブちゃんもノジャちゃんも目がキラキラだね」

「そうね。しかもカッコイイだけじゃない……何だかハニーの戦いって……疼くのよね。体を動かしたくなってくるというか……」

「そうなのじゃ! ベッドでズッコンバッコン体を動かしたくなるのじゃ!」

「あの、大将軍……小生はソレは意味が違うと思いますが……」

アースとヨーセイの因縁の対決。

しかもこれまでのヨーセイとのことで色々と鬱憤溜まっていた皆の応援は熱を帯びている。

そして……

『ビットファイヤ!! ……皆騒いで、俺の魔法はおかしいって……やっぱり俺の魔法は弱すぎるのかな?』

巨大な業火がヨーセイの手から放たれて、その炎が一瞬でアースを包み込む。

ヨーセイの放った魔法は「口だけの男じゃない」と見ている者たちに示すには十分すぎるほど。

『ああ! あまりにも弱すぎて、これから叩きのめすのを躊躇っちまうぐらい、哀れだぜ!!』

しかし、その炎をアースは拳の拳圧だけで消し飛ばした。

そして……

『俺に、この程度の奴かって言ったな? とりあえず……こんなもんだよ!!』

『ぴゅっ!?』

一瞬でヨーセイの懐に飛び込んで、そのがら空きのボディに強烈な左拳を叩き込んだ。

背筋がカクンと折れ曲がり、悶絶し、胃液も何もかもを一瞬で吐き出すほどの強烈なボディブロー。

ヨーセイはそのまま地面に倒れ込み、のたうち回りながら吐しゃ物まみれになるも、もがき苦しむ。

「お兄ちゃんキタアアアアアアアアアアアアッッ!!」

「ざまぁみろ、だね! そもそもお兄さんに勝てるわけないのさ、身の程知らずもいいところ! そして、同情もしない!」

「こ、ここに来て今まで溜め込んだものを……嗚呼、ため込まれたものを見せつけられて、ハニー、私もノックアウトよ……」

「つ、強いし……カッコいいし……もう、アース様ぁ~、ううう~~~!」

「ぬほほほ~~、婿殿~♪ というか、わらわとかが婿殿に土つけられてるのに、あんな小僧が勝てるわけないのじゃ」

全員が飛び跳ねて大歓声。

正直、アースの実力を知るものや、だいたい見た感じでヨーセイの実力も何となく分かる連中からすれば、この状況は当たり前なのである。

しかし、彼女ら彼らにとって重要なのは

「「「「お兄ちゃん(お兄さん)(ハニー)(アース様)(婿殿)かっこい~!!」」」」

と、とにかくアースの大ファンなので、何かやればもうそれだけで飛び跳ねるほどのものなのである。

『うおおおおおお! 俺はまだ本気を出してなかっただけだ! 見せてやろう! 俺の本気! 俺の生み出した魔法理論! ここからは、この世界は今から俺の時間だ!』

だが、これで終わってなるものかと、ヨーセイも醜い姿になりながらも発狂して再び立ち上がる。

見るからに怪しいクスリを飲んで、再び猛る。

だが……

『まぁ、卑怯とは言わねえよ。お前の気持ちも分からんでもないしな。だから……』

『だ、黙れ! お前に俺の何が分かる! ふ……ふふ……ここまで……馬鹿にされるとは思わなかった。俺のことを何も知らないくせに……俺の歩んできた人生を……俺の覚悟を!』

『あ?』

『いいだろう。そこまで言うなら教えてやろう。俺の過去を。俺に何があったのかを。俺がいつ大神官さんと出会い、そして何故この道を選んだのかを。まだ、俺の仲間たちにも話したことのない俺の人生を。この話を聞けば、もうそんな偉そうなことは言えないだろう』

『知るかああああああああああ!!!!』

『ぶびょぼお!』

誰もが分かっている。

アースの敵ではないと。

容赦なくアースはヨーセイを左一本でボコり、圧倒し、そして最後もフックでぶちのめす。

『そういうのは教会でどうぞ。俺はいつまでも過去を引きずったりする奴が大嫌いなんだよ』

『正に、完全決着、完勝圧勝完全勝利! アース・ラガン! 堂々の二回戦進出!!』

「「「「「ウオオオオオオオオオオオオオッッッ!!」」」」」

その瞬間、またもやエルフの集落で大歓声。

結果か最初から分かっていても、それでも誰もが興奮して目を輝かせて飛び跳ねていた。

「いや~~~これ、もうサイッコウ! なんか色々と思うところあったけど、パリピでかしたじゃん!」

「確かにそうだね。ボクたちが会いに行きたくても会いに行けず、しかも情報の収集すらできなかったカクレテールでの出来事までちゃんと記録しているなんて、見事だよ!」

「お兄ちゃんのキメ台詞とかのシーンを切り取っていつでも見れるようにしたいな~」

「うん。それね。ボクも同じことを思ってた。シソノータミの遺跡の技術使えばどうにかできるんじゃないかな?」

特にエスピとスレイヤの興奮は凄かった。

年齢的には本来もっと落ち着いても良いのだが、ずっと会えなかったアースの自分たちが把握できていない時期の成長譚は二人にとってはツボだった。

ただ一方で……

「ふぅむ……キレが全然違うのぅ……力半分も出さずにレベル違う……」

「何をいまさら? 当然じゃない。お兄さんのレベルは御老公も知ってるじゃない?」

「……ううむ」

ミカドは静かに真剣な表情で、その空気にコジローは首を傾げた。

すると……

「アースくんの力……この闘技大会の二~三か月ほど前はあの帝国の御前試合……あの時点でも優れたものを発揮しておったし、儂も家出直後のアースくんに一度だけ帝国領土内の街、カンティーダンで会っておる」

「ああ……その直後にヤミディレに攫われたっていう」

「うむ……」

「で、それが何か気になるじゃない?」

「あの時点から……あまりにも成長の仕方が理想的じゃなと……」

「?」

「儂が話に聞いていたアース・ラガン君のアカデミー時代のイメージは、どうしても殻を破り切れずに壁にぶつかっている秀才というものじゃった。まあ、そういう若者が一度殻を突き破るような覚醒で飛躍的にレベルが上がるということは稀にある。ヒイロなんて『負けそうになったら、突如眠れる力が覚醒した~』という不条理な奴じゃしな」

「はは、まぁ……ヒイロは確かにそうだったじゃない。ボロボロになって立ち上がって、スーパーパワーがドゴーン、みたいな奴だったじゃない?」

「しかし、彼の場合、カクレテールでの生活を見る限りは、眠れる力が覚醒したとかそういうわけではなく、努力……常日頃地道なトレーニングを行う習慣が身についており、そして創意工夫と身に着けるべき技術を習得をしてのレベルアップ……」

ミカドのアースへの見立て。

アースは「突如眠れる才能が開花してレベルアップ」などということで強くなったわけではなく、日ごろの地道なトレーニングや自分に合った必要な技術を習得することで強くなった。

だが、それが何か問題なのか?

コジローがそう思った時、ミカドは隅っこで膝抱えて背中向けてゴロンとしているアースをチラッと見て……

「見る限り、ヤミディレはアースくんのトレーニングにはノータッチの様子……ならば、アースくんはトレーニング方法や技術習得までの計画やアイディアはどうやって……と」

「……ああ……確かに」

「ヤミディレがアースくんにコッソリ教えていたというのであれば……御前試合でのことも、『実は皆が知る前にヤミディレとアースくんは繋がりがあった』とかであれば辻褄が合ったのじゃが……そうではない」

「……流石に独学で……ってのは」

「ありえぬ。パワーもスピードも身体能力諸々、様々なパラメーターの伸び方をここまでバランスよくなど、一人では……ましてや、ブレイクスルーも魔呼吸も十代の小僧が『発想』できても習得するためのトレーニング方法を思いつくなど……ありえぬ」

ミカドとて、アースに悪い何かを疑っているわけではない。

ただ、純粋な疑問である。

アースの成長の仕方。その成長に至るまでのトレーニング。

アースが強くなったことに疑問を抱いているのではなく、強くなるための過程をアースがどうやって考え付いたのかが、ミカドには辻褄が合わなかった。

「コジローはどう思うのじゃ? お主の心の目ではどう見る?」

ミカドの問いにコジローは改めてアースのことを思い返す。

目の見えないコジローがこれまで感じたアースのことを。

「そういえば、オイラが初めてお兄さんと出会ったとき……」

そして、あることを思いだした。

――お兄さんもスゴイが……本当にスゴイのは……

――ん?

――お兄さんに戦い方を教えた人……じゃないの?

――ッ!?

コジローからすれば、それは十数年以上も前のこと。

――お兄さんは確かに強い……そしてそれは才能ではなく努力型……お兄さんの身体能力を把握したうえでそれをバランスよく鍛え上げ、安定感もあるうえに、爆発力もある……何よりも長年の戦闘経験があるオイラですら知らない技術……その技術もまた上辺だけではなく奥が深い濃密なもの……とてもじゃないがお兄さんの若さで……ましてや一人でそこまでに至るのは不可能……

――そ、それは……

――きっと……よほどスゴイ師匠に鍛えられたんじゃないかって、想像できるじゃないの

あのとき、今のミカドと同じことを疑問に思い、その疑問が何も解消していなかったことを思いだした。

そして何よりもあのとき……

「あのとき、オイラが魔呼吸を知っていなければ……最終決戦でオイラたちは……」

「ん?」

「……魔呼吸……か……そして、ブレイクスルー」

そういえば、本当にどうしてなのだろうと、コジローは十数年前の疑問を再び抱いた。

「お兄さんは、ほんと良い男だし……細かいことを気にするのは野暮だが……気にしなくていい疑問かどうか、オイラも分からないじゃない」

「ふむ……」

「エスピ嬢あたりは何か知ってるかもだが……そして、ノジャももうちょい疑問に思ってほしいじゃない?」

コジローもアースを認め、信用と信頼に足る男だと思う一方で、それでもやはり「どうして?」という疑問が芽生えた。

アース自身は教えてくれそうにないが、エスピたちはどう思っている?

「「……ん?」」

ミカドが気になってエスピをチラッと見てみると、エスピとスレイヤは真剣な表情だった。

それは、ミカドやコジローが疑問に思ったことについて彼らも同じようなことを疑問に思ったから?

『……ギュっ……』

『……アマエ?』

『……おにーちゃん……』

『……なぬ?』

いや、そんなことはなかった。

『う~~……おにーちゃん、次もガンバ!』

『……ッ!?』

というより、二人はそれどころではなかった。

『いんや~、すまんすね~、あんちゃん。アマエってば、ずーっと、あんちゃんのことを『お兄ちゃん』って呼びたかったみたいなんすよ』

『今すぐ二回戦だ! なんだったら、出場者全員まとめてかかって来いやー!!!!』

場面は勝者のアースを仲間たちが労い、アマエが初めてアースを「お兄ちゃん」と呼んだ場面。

「は?」

「なに?」

世界中がそのころ「アマエちゃんかわい~」と思っていた頃、これまで目を輝かせて興奮していたエスピとスレイヤだけが一瞬眉を顰めた。

自分たちの世界で一番大好きな兄の胸に飛び込んで「お兄ちゃん」と呼んで甘える幼女と、それに満更でもない様子の兄に「ピクピク」と目尻が動いていた。

そして二人が嫉妬する場面はこれで終わりではなかった。