軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第四百四十話 やはりあいつは勇者の息子なのに残念

『あ、初めましてっす。私、『カルイ』っていうっす! カクレテール魔法学校に通う13歳っす! そして、あるときは教会のシスターだったりと、マジ清楚な乙女っす!』

『……アマエ……』

アースが目覚めたそこは見知らぬ土地。名はカクレテールという情報の閉ざされた鎖国国家。

その地の名を知る者たちは、通常渡航困難であるその地にアースがいたことに驚き、さらに……

『三か月後……この国で、ある大会が行われる。『魔極真流闘技大会』……貴様には、その大会に出て、そして優勝をしてもらう。それまでは、貴様をこの国から外へ出さん。まぁ、逃げられんように色々と仕掛けはさせてもらったが……優勝の特典は『莫大な財宝』……そして、『副賞』が付く。まぁ、副賞は優勝してからのお楽しみだ。大会運営を行う私と教会の者しか知らんが……良いモノだ……絶大なる名誉あるものだ。楽しみにして、励むが良い』

その地の教会の大神官に身柄を取り押さえられ、さらには意味の分からない条件を出された。

戸惑うアース。

しかし、その大神官の正体を一目で何者か分かった軍関係者や賞金稼ぎたちは驚愕した。

「陛下! あ、あの女は……」

「ああ。フィアンセイたちからも報告は受けていた……六覇……ヤミディレ……」

カクレテールのことやヤミディレのことを帝国の皇帝であるソルジャも報告を受けていた。

しかしそれでも十数年ぶりに見た宿敵の現在の姿に、色々と込み上げてくるものがあり、複雑な心境であった。

何より、本当に「あのヤミディレ」の下にアースがいたというのなら、心配するなというのが無理であり、同時にあの悪夢の御前試合での出来事と何か関連があるのではないかと勘繰った。

そして世界的にも有名な賞金首であるヤミディレを知るものは多い。

「おいおい、あの魔王軍のヤミディレと……これって……」

「ああ! やっぱりあのガキは、魔王軍の残党と関りがあったんだ!」

「しかも、カクレテールって言えば……」

「ああ。例の鎖国国家じゃないか! そんなところに隠れてやがったのか……」

「おい、皇帝陛下やヒイロ様やマアム様はこのことを……?」

当然、帝都の民たちは瞬間で反応し、怪訝な表情で声を荒げる。

「やっぱり、あいつはとんでもない奴だったんだ!」

「落ちこぼれが、ついには勇者の血統という誇りも捨てて悪魔に魂を売り渡したんだ!」

「勇者の息子でありながら、なんという恥知らずなの!」

やはり、あの御前試合で見たことも、自分たちが抱いた疑惑は全て本当だったのだ。

そう思った瞬間、帝都の至る所から、この場に居ないアースに対する怒りの罵倒が飛び交った。

そして、それを庇う者は誰もいない。

『三ヵ月後の大会に優勝するつもりだというのなら……マチョウやヨーセイにも勝つつもりということか?』

そんな帝都民たちの想いとは別に、空に映るアースのカクレテールでの様子は流れるまま。

だが、それに対しても何かある度に帝都民たちは声を荒げる。

『そうだな。全員ぶっ倒す……誰であろうとな』

伝説の六覇であるヤミディレが手塩にかけて鍛えている人間たちの中で行われる大会に対して意欲を見せるアースの姿にすら……

「けっ、あんなこと言ってるぜ」

「どうせ、また卑怯な力を使うんだろうが! あの時みたいにな!」

「もしくは、悪魔的な儀式や非合法な禁術などを使うのかも……」

「かもな。なんせ、あの世界最悪の犯罪者の一人でもあるヤミディレが居るんだからよ」

そもそも彼らにとっての「アース・ラガン」という存在は「勇者の息子なのに残念」という固定観念があった。

それは、フィアンセイ、リヴァル、フーという勇者の子としてその血統に恥じない才気溢れる天才たちが居たからだ。

それに比べ、ヒイロとマアムの息子という本来なら最も恵まれた血統であり、誰もがその将来を期待したアースには、皆が「期待を裏切られた」存在として良く思っていなかった。

その上であの御前試合でのできごと。

さらに……

『おおお、マジカルスクワット、230パワーだ! いやー、大したもんだ! 本当に初心者か?』

『すげえな……マジカルデッドリフトも210パワーだし……いやいや、恐ろしい若造だぜ』

『ああ。歴代一位のマチョウには敵わないけど、大したもんだ!』

そこには、カクレテールで身体能力を測定しているアースの姿。

それはほとんどの者にとって初めて見る測定方法だが、「何を測定する」かは見ていれば何となく分かる。

『うお、この兄ちゃん、マジカル・ビジョントレーニングもできるのか!?』

『ろ……60回!?』

『う、うそおお!?』

『これは、文句なしだ! すげえ!』

空に映るアースは次々と「好成績」は残しているが……

『ふむ、まだ五秒あるが、私は62回……まぁ、こんな所だろう……』

『ッ!?』

アースの残す記録はカクレテールの者たちの反応からすれば「好成績」と分かるものの、しかしそれがトップなわけではない。

『くそ、スピードなら……スピードなら自信があるぜ!』

『ふむ、そうか……おっと、ところで、カルイ。ノンビリしていていいのか? そろそろ、学校だろう?』

『……のわああああああ! わ、忘れてたーーー!!?? ちっ、遅刻ううぅぅぅ!! わ、私、い、行ってきまーすっ!!』

どれだけ好成績を出しても、パワーもスピードもあらゆる分野で「トップ」にはなれない。

それがアースであり、まさにそれは帝国民の誰もがこれまでアースに抱いていた評価そのものであった。

所詮は秀才どまり。

それゆえに、その光景を見ていた「帝都民」たちは口をそろえて「ほら見たことか」と分かっていたかのように呆れたような表情を浮かべ、中にはアースを嘲笑している者たちすらいた。

だが、それはあくまでディパーチャー帝国の中だけの話であった。

まさに、そのカクレテールでは……

「うひゃああああ! 私が映ってるっす! は、は、はずかしぃぃいいいい!」

「大神官様! お兄ちゃんもいる! アマエも!」

浜辺に集まって、気づけば皆が腰を下ろして空を見上げての鑑賞会。

カルイやアマエのように自分の姿を見つけた者たちは嬉しそうに興奮していた。

「いや~、ついこの間のことなのに、何だか懐かしいかな? そうだよね、アースくんも始めはあんな感じで、すごいけどマチョウさんたちには敵わない……そんなイメージだったかな?」

「ツクシの言う通り、自分もあの時点でのアース・ラガンに対しては……秀才ではあるが、怖くはない……そんな風に思っていたかもしれんな。もっとも、奴はそんなものではなかったがな」

ツクシとマチョウも懐かしそうに、そしてどこか嬉しそうに微笑んでいた。

そして、それは二人だけではない。

「オラぁ! そういうことだ!」

「うん、僕たちは知っている……アースくんがこの後に何をしたのか……いや、『何をしてきた』のかを」

「僕たちもそのアースくんについていったんだな!」

「ほんと……あの時からなんだ……」

カクレテールの皆は知っていた。

「おうよ! アースの兄ちゃん、すごかったもんな~」

「うん、一時街の名物になるぐらい毎日毎日……」

「だな。ああ……そうだよな……」

初めてアースと出会った時。そしてそれからアースがどのように過ごしてきたのかを。

「この時点のアースは、御前試合のあと……我らの前から消えてからそれほど経っていないころかもしれない……」

「あの時点で既に俺よりも遥かに強かったアース……だが……」

「うん。ここからなんだよね」

「……坊ちゃま」

そして、フィアンセイたちアースの背を追う者たちにとって、見なければならないのはまさにこれからであった。

この時点のアースがこの結果に対して、これからどのような日々を過ごしていくのか?

それを誰もが目を見開いて知ることになる……

一人を除いて……

「ぐわあああああああああああ、いやだあああああ、恥ずかしいィいい! って、これってマジで俺のプライベート全流しか!? どうなってんだよ、おい! パリピぃいいいいい!!! テメエの仕業かあああああ!!」

エルフの集落にて恥ずかしさ全開という様子で顔を真っ赤にして荒れ狂うアース。

自分の過去の姿、そしてその様子を余すことなく自分以外の、ましてや不特定多数に見られることの羞恥心がヤバかった。

実際、不特定多数どころか全世界同時公開中ではあるが……

「んもう、お兄ちゃん静かに!」

「そうだよ、お兄さん! このころのお兄さんの姿なんて、ボクたちは迎えに行きたくても行けない一番悶々とした時期……このころのお兄さんの成長記録を見ないとなんだから!」

しかし、そんなジタバタするアースをエスピとスレイヤ……

「アース様の過去……わぁ~、わぁ~、すごい……すごい!」

「ハニーが私の前から連れ去られて再会するまでの日々……クロンさんも登場するんでしょうけど、これは何という僥倖」

「これはこれは、ヤミディレがガッツリ登場しているじゃな~い」

「う~む……報告では聞いておったが……」

「おお、あやつも元気そうなのじゃ♪ で、婿殿は大人しくしているのじゃ。わらわたちは見たいのじゃ!」

さらには、アミクス、シノブを始めとする皆に取り押さえられている。

集中できないので大人しくしていろと。

そう、皆は普通にコレを見たいのだ。

「嫌だぁ……なんか全部見られるとか恥ずかしいぃ……パリピの野郎……」

『ふっ、パリピめ……』

この瞬間、世界で唯一羞恥を抱いてパリピに恨みを呟くアースに、色々ともう呆れて笑うしかないトレイナ。

いずれにせよ、一度流れたこれからの過去の記録はもはや止められない。