軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第四百四十一話 とりあえずごめん

「なんかさ~……おいおい」

「ああ。思ってた禁術的な何とかってのはなさそうだけどよ~、これはこれで……」

「なんか、やる気あるのかね~?」

所詮は秀才どまりだった男が強くなるというのは「悪魔的な儀式」、「非合法な禁術」的なものに手を出すことなのだろうと、特に具体的な何かを知っているわけではないが、それまでの「勇者ヒイロの息子」を知っている者たちは、誰もがそう思っていた。

そう、誰もがそう思っていた……

少し予想外だったのは、「カクレテール」というその場所の様子だった。

ヤミディレという世界最悪クラスの賞金首が外の世界のことを何も知らない人間たちを統治している土地。だがしかし、その土地での人々の生活はいたって普通。いや、穏やかで、平和で活気のある人々が住む土地であった。

その土地で勇者の息子は、優しいシスターや、懐いてくれる幼い少女、更に道場で体を鍛えたり、同世代の男たちと関わったりと、「六覇のヤミディレ」が統治している地とは思えない環境で生活していた。

だからこそ、「何も知らない者」たちからすれば、その光景を見せられていると共通のことを思った。

――なんだか生温い

……と。

実際、それは仕方のないことであった。

アースも最初の頃は軽い筋トレやシャドーやスパーなどで汗を流し、本格的なトレーニングはヴイアールの世界で徹底的にやっていたからだ。

だが、それもほんの最初の頃の話。

ヘラヘラと笑いながら見ている者たちは、もうじき知ることになる。

そう、それは一つの再会以降に始まるのだった。

『あなたは……わ、たしを知っているのですか?』

『……え?』

『ごめん……なさい……』

『え?』

『分からないのです……でも……ごめんなさい……ただ、分からないのですが……私は絶対あなたに何かを……あなたに何かをしてしまったと……どうしても謝りたいと……』

それは、カクレテールで保護されたサディス。

しかもそのサディスが記憶を失っていた。

「なるほど、記憶を失ったお前はこうやってアースと再会したのか……」

「え、ええ……そうです、姫様。それで……坊ちゃまにも無自覚に色々と失礼なことを……」

「そうか……むぅ……」

フィアンセイ、フー、リヴァルは御前試合の場に居たからこそ、あの時に何があったのかを知っているからこそ、空に映る記憶喪失のサディスと対面するアースの悲痛な表情に胸が抉られた。

『覚えてねぇなら、かんったんに謝るんじゃねぇよぉ!!』

そして、そんなアースが涙を溜めながら叫んだ。

『何が悪かったかも分からないのに! 覚えてもいないのに! とりあえず、ごめん? ふざけんな! 簡単に吐き捨てるな! 本当に、苦しかったんだ……つらかったんだ……心が……痛かったんだ……でも……俺は……前へ進むために切り捨てたんだ! 全部……今までの全部を捨てて……俺は、そうやって立ち上がったんだ!』

『あ……』

『お……ぼえ……てすら……いないなら……だったら、もう、出てくんなよぉ! なんで、なんで邪魔するんだ!』

『……申し訳……ありません……』

『ッ、謝んなっつってんだろうが! その言葉を聞きたくねえから……逃げてたってのに……何で、俺の気持ちを無視して言うんだよっ! なんで……なんで……なん……で……だよ……』

記憶を失ったサディスに何の罪もない。しかし、それでもアースは叫んだ。

そんなアースの姿をフィアンセイたちも「ひどい」などとは決して思わなかった。

「アース……ほんとうに……つらかったんだよ……ねえ、リヴァル」

「…………」

「僕たちなんかじゃ分かち合うこともできない苦しみを抱えて……それが我慢できなくなって……」

「……そうだな……」

リヴァルもまた黙って見つめながらも、アースの辛かった時に何もできなかった自分を改めて悔いていた。

天空世界で再会したとき、既に自分たちよりも遥か高みのステージに到達していたアース。

そんなアースと共に戦うことができなかった自分の無力さ。

そして、天空世界でも御前試合でも、そしてカクレテールの生活でもアースの辛かった時に寄り添って力になれなかった。

それを自分に刻み込みながら、リヴァルもフーも、そしてフィアンセイも空を見上げていた。

だが、一方で……

『んも~……患者さんの前ですよ! メっ!』

『ぬっ!?』

『ん~……メっ!』

そんなアースの傍に、やさぐれて複雑で行き場のない感情に囚われているアースを和ませる存在もあった。

それは、美しさとかわいらしさを兼ね備えた純真無垢な女神の存在。

『何も関係ねえ奴はすっこんで……』

『アース、落ち着くのです』

『つっ……』

『アース』

『だ、から……』

『アース」

『うっ……つっ……』

能天気で空気を読まない。

そしてアースから一切目を逸らさずに、そして真っすぐ見つめる女神クロンの目は、強い意志を秘めている。

その瞳にやがてアースも逆らうことができず、振り上げそうになった拳も抑えて俯く。

『では! 落ち着くために……皆で早朝ティータイムにしましょう!』

そんな女神・クロンを初めて見る者たちは、たとえ彼女が「魔族」であったとしても、多くの者が見惚れた。

世界中から「かわいい」、「惚れた」、「推せる」、「結婚したい」と男たちが惚けたように呟いていた。

そして……

「なるほど~、アレがクロンちゃんか……お兄ちゃんのお嫁さん候補の一人。たしかにすっごいカワイイ女の子だね。シノブちゃんはどちらかというと綺麗系だし。お兄ちゃんに対してもちゃんと「メッ」って言えるのはポイント高いね」

「そうだね。だけど、今のところは世間知らずなただの箱入り娘というような気もするね。身の回りの世話も教会のシスターたちにしてもらっているみたいだしね。全ての家事や料理もレベル高く、戦闘技術もまだまだ伸びしろがあるシノブに比べると物足りないって気もするけどね……」

「そうだよね~。そこがね~。シノブちゃんなら子供が生まれても教育とかしっかりしてそう。ヒイロやマアムみたいなバカと違って頭もいいし、子供を放任するなんてこともないだろうしね」

「まあ、クロンという娘もお兄さんとの子供が生まれたらちゃんと可愛がるとは思うけどね、あのアマエという子と接しているように。でも、あれは子供を育てるというより、可愛がりすぎて、過保護だったり友達親子になりそうだね。そうなると、どうかな~と、ボクは思うね」

「まあ、まだまだこれからなんだろうけど……」

「うん、まだ様子見だね」

エルフの集落で、エスピとスレイヤは二人ともメモを取りながら、クロンを審査するように見ていた。

その表情は真剣そのもの。

自分たちの兄の嫁を自分たちが許せるかどうか査定しているのである。

「ふぁ~、あんなカワイイ人が外の世界にはいるんだ~……女神様って、なんか、ほんとそう……」

「そうね。あれが、クロンさん。私のライバルね……」

「ふぁ~、シノブちゃんのライバルってすごい人だね……それと、あの綺麗な人……サディスさんってどういう人なの?」

「あの人は……ハニーの初恋の人……みたいだけれど……」

「ふぇ?! そ、そうなの!? あ、アース様の……そ、そっか、だからアース様はあんなに取り乱されて……やっぱり……アース様は素敵だから、シノブちゃんも含めてこんな素敵な人ばかりが……すごいな……みんな、いいなぁ……」

一方で、己のライバルであるクロンの姿と、アースとの出会いを知ることができたシノブはほくそ笑み、更にやる気が出て拳を握りしめる。

アミクスはクロンの姿に見惚れてしまったり、サディスがアースの初恋であると知ったりと色々と複雑な気持ちになってシュンとなる。

「ふああああああああ! なんなのじゃ! あの大魔王様の容姿をパクって少女にしたような娘は! アレも嫁候補なのか、婿殿ぉお!」

「ふむ……確かに、どこか大魔王トレイナに面影があるのぅ……ヤミディレの奴、一体何を……」

「御老公、マジじゃない? 声の感じから相当かわいらしく、あの大魔王とイメージが重ならないが、そんなに似てるじゃない?」

そのほか、大魔王トレイナの側近だったノジャや、かつて戦ったりの間柄であったミカドやコジローはクロンの存在に「ただのかわいらしい女の子」以外の何かを感じてジッと見つめ……

「……ってか……パリピなのか? こんな日常のシーンまでどうやって……? てか、どこまで俺はすっぱ抜かれたんだ? なんか、見られちゃまずいもんとか、大丈夫なんだろうな!?」

『……ううむ……』

アースとトレイナは、「ここからどれだけのものを晒される?」と、そのことだけが気が気ではなかった。

そして……

同じシーンを同じタイミングで見ていた、この者たちも……

「ふはははは、随分と感情が揺れ動くではないか、アース・ラガンよ。これでよくぞ吾輩に啖呵を切れたもの。まあ、ここから大幅に成長するのだろうが……ふふふ、それに人形もちゃんと育っているようで何より……ん? どうしたのだ? 二人とも」

アジトの城壁から椅子の背もたれに身体を預けながらリラックスして鑑賞するハクキの傍らで、拘束状態で身動き取れないヒイロとマアムは……

「へっ……『何が悪かったかも分からないのに!』……『とりあえず、ごめん? ふざけんな!』……か、本当にそうだぜ」

「そうね……そして私たちは……今も分かっていない」

遠くの地で、フィアンセイ、リヴァル、フーが胸を抉られたように、この二人もまたアースの悲痛な声に抉られていた。