軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二十八話 読書日和

今日は朝から、トレイナがずっとソワソワしていた。

『おい、童。何をグズグズしている。髪の毛整えても誰も見ん。童のくせに色気づくな。早く出かけろ』

「おまッ……あ~、もう、わーったよ。たく……」

『……おい、早くするのだ……』

アカデミー休みの休日。

朝からみっちり訓練……というわけではなく、ちょっと今日は街に出かけることに。

「おや、坊ちゃま。どうされたのですか? もうお体は大丈夫なのですか?」

「ん? おお、まーな。今日は、ちょっと街にな」

「……デートですか?」

「ちげーよ」

「おやおや、寂しい限りですね。ヨヨヨ」

出かける寸前にサディスにからかわれながら、屋敷を出て俺はあるものを買いに……というよりは、受け取るために街へ向かった。

休日ゆえに商業地区には午前から人が多く行き交っており、俺と同じぐらいの年齢のやつらも今日は私服を着て友達同士で遊んだり買い物をしたりしている。

初々しいデートっぽいやつらも居る。死ね。

そんな連中の中を通り過ぎ、俺が目指すのは帝都で一番大きな本屋。

「あ、これはこれはアース坊ちゃま」

「ども……」

本屋へたどり着くと、店の前で本を整理して並べている店長が俺に気づいた。

「朝からありがとうございます。注文戴いた本は全部届いております。古い本ばかりでしたが、全部問題ありません。ですが、配達しなくて良かったのですか? 相当な量がありますよ?」

「ああ、いいんす。それで。一秒でも早く見たいって……いや、早く見たかったんで」

そう、今日は以前より「取り寄せ」を注文していた本を受け取りにきた。

「では、こちらでお待ちください。今、運んでまいりますので」

店長がニッコリ笑って店の中へ。

すると、ずっとソワソワしていたトレイナが更に落ち着かなくなりだした。

『おぉ、ついにディスティニーシリーズの続編が……それに、ドラゴンサークル、サウザンドピース、更には余が生きていた頃からずっと作家が続きを書かずに未完となっていた、イェーガー×イェーガーの続きまで見れるとは!』

なんか、普段は威厳に満ち溢れたトレイナが、もうガキのようにウキウキしながら俺の周りをグルグル駆け回っている。

「アースお坊ちゃま。お待たせしました。持ち運びしやすいよう、小さな荷車も用意しました」

「ああ。どうも、あざーす!」

『キタアアアアアアアアアアア!!』

もし俺以外の奴にトレイナの姿が見ることができても、今のこいつを「大魔王」と言っても誰も信じねーだろうな。

『おい、童! もう、すぐそこの公園へ行け! 屋敷に戻る前に、もう読むぞ!』

「わーった、わーったってば」

『は~、どうするぞ! どうするぞったらどうするぞ! どうするぞったらどうするぞ! 何から読むか!?』

「ははは。しっかし、いいのかね~。大魔王が人間の文化に目を輝かせて」

『ふん、以前も言ったように文化に壁なし。異種族のモノだから何もかも認めないというのは、人間くらいのものだ。というより、もはや無粋なことを聞くでない』

「そっか。わーったよ」

嬉しそうにしちゃって、ま~。

でも、無理もねーかもしれねえな。

十五年以上もあの封印の間で一人ずっと座ってるだけで、誰とも会話すらしなかったんだ。

娯楽なんて一切無かっただろう。

これまで、少し街を見せてやったりもしたが、それも全てが俺の行動範囲内でのこと。

それなのに、こいつには付きっきりで色々と修行を見てもらっていた。

そのこいつがこれだけ喜んでくれるんなら、ま、買ってやって良かったなと思った。

「しっかし、面白いのか? この本」

広々とした帝都中央公園。

大きな遊具で遊んでいる子供。

芝生で弁当を広げている家族連れのピクニック。

俺と同じ歳ぐらいの男女がベンチに並んで彼女に膝枕してもらってる死ねばいいのに。

『童も読んで見るといい。ディスティニーシリーズは童にはまだ難しいが、サウザンドピースなどは面白いと思うぞ? ある男が盗賊王を目指して仲間たちと冒険する話だ』

「いや、待て。大魔王が盗賊王の物語を読んでいたのか?」

『言ったはず。文化に種族の壁はなし』

「ったく……つか、俺にはまだ難しい? 甘くみんなよ? 親父よりは学力は上なんだからよ、俺は」

『ほう。ならばディスティニーシリーズからいくが良い!』

ちょっと噴出しそうになりながら、俺は公園の広々とした芝生を横切り、隅の木陰になっている、人の邪魔もなければ、うるさい声も聞こえないエリアに座り込み、早速本を一冊手に取った。

「どうする? 一応、最初のシリーズから読むか? それとも、あんたが見ていない続きから読むか?」

『ん~、途中から……いや、よい! 最初からだ! 最初から読め! 久しぶりに余も昔を懐かしみたいというもの! というより、童も読んで後で感想を言え!』

そして、俺は木に寄りかかりながら言われた本を一冊手に取って開く。

トレイナは俺の肩越しから覗き込むようにして目を輝かせている。

家族連れやカップルの多い公園で、俺は木陰で大魔王と読書?

いかん……これ、ものすっごいラブラブすぎねーか?

つか、大魔王と一緒に本を読むとか、歴史上初?

『おい、童。早く次のページに移れ!』

「って、まだ読んでねーよ! 俺は初めてだし、そもそもあんまりこういう本を読むのは慣れてねーんだから、急かすな!」

そんな俺とトレイナのシュールな状況などお構いなしに、トレイナはもう本に夢中の様子。

俺がページを読み終わらないと、次のページに移れねえから、俺は仕方なしに読書を進める。

「ふむ……」

冒頭から中々興味を惹かれる入りになっている。

ちょっと難しい用語が入ったりするが、普通に読める。

主人公は――

『おい、童……まだか?』

「えっ?」

『だから、次のページ……』

俺の肩越しでちょっと不機嫌そうな顔のトレイナからの、まさかの言葉。

え? いや、俺まだページ開いて数行しか読んでないんだけど?

「ちょ、ちょっと待ってくれよ。俺は初めてなんだから、そんな急かすなよ」

『いや、それは分かっている! しかし、読むのが少し遅いのではないか? 余は一単語も逃すことなく、もう最初のページだけを既に五周黙読したぞ!』

「えっ!? はや!?」

こいつ、どんだけ早く読みたいんだ? ってか、普通に速すぎる!

そりゃこいつはこの本を以前読んでいるわけだから、スラスラ読めるのは当然だ。

つか、ようやく最初のページを読み終わった。

「ほら、次だ」

『うむ…………………………………おい、次のページはまだか?』

「ってをい!?」

まだページめくって数秒だろうが!?

「んな早く読めるかーーーーっ!?」

俺はあまりにも急かすトレイナに我慢できずに声を上げていた。

だが、トレイナも鬼のような形相で俺に顔を寄せてきた。

『読むの遅いわ貴様ァ!! トロトロ読みおって! 貴様が一ページ読み終わる頃に、余が何度同じページを読み直していると思っている! イライラするわ!』

「んな!?」

『たった一ページにこれほどの時間を費やしおって……これでは今日中に全部読み終わらんだろうが!』

「えっ!? きょ、今日中にこれ全部ッ!?」

ここに来て、まさかの黙読のスピードに文句言われるとは思わなかった。

つか、何十冊もある本を、今日中に全部読むとは思ってなかった。

いや、無理。

一冊の小説を読むだけで結構、目や頭が疲れるというのに、これ以上早く読めって……

『やれやれ。余とスパーリングをして、ラダートレーニングの効果もあって、動きや勘や予測、反応速度などは向上しているが……そもそも貴様は、『眼力』も鍛えんといかんな……』

「いや、つっても、リクドー眼とかって凄そうな魔眼持ってる大魔王の速読と一緒にされてもな……。なあ、読み終わるの遅いってなら、もう俺は読まないでパラパラ捲ってやろうか?」

『ふざけるな! 貴様が金を払って買った本を、貴様が読まずに余だけ読むというのなら、まるで余が恵んでもらったみたいではないか!』

「いや、これは礼も兼ねて……」

『しかも、その金も元を辿れば、ヒイロとマアムが働いて稼いだ金からの小遣いだろうが! この余に、ヒイロとマアムの恵みに感謝しろとでも言うのか!? あくまで、貴様が読んでいる本を余も覗き見ているというシチュエーションだ!』

「うわ、けっこーめんどくせーな、あんた!」

『いずれにせよ、貴様の眼も鍛えてやる! このままでは暇な時に雑談で話題を共有したり、展開予想一緒にできなくてつまら……戦いでも役に立つだろう!』

ん? 今、話題を共有とかなんとか言ったな? 言ったよな!?

『今日はトレーニング休みだが、息抜きも兼ねてこれぐらいなら良いだろう……』

「えっ!? なんかやる気!?」

『うむ。『動体視力』や『周辺視野』を鍛えてやる!』

だが、そんなことを誤魔化すようにトレイナは強引に話を訓練の方向へ持っていき……

『マジカル速読トレーニングだ!』

また、妙ちくりんなトレーニングを提案してきやがった。

つか、速読のトレーニングなんかが、戦いに役立つわけねーだろうが!

そして、結論として……戦闘で、メチャクチャ役に立った。