軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二十七話 自分の意思

「お前が帝国騎士になることに迷ってんのは知らなかった……俺もお前を見てやれてなかったから、そういう可能性のことも全く予想していなかったからよ……悪かったな」

「別に……」

初めて聞いた親父の原点。それはこの世界にありふれた子供の夢。

生まれたそのときから、勇者の子だったり、選ばれた存在だとか遺伝子がどうとか、大魔王を倒す宿命がどうとかはなかったんだろう。

子供の夢から始まり、そこから今の俺には途方もつかない物語の果てに、今の親父がある。

「でも……ああ、こうしてお前の話を聞いて……もしお前が帝国騎士にならなかったとしても……お前が他にやりたいことがあるんなら、それでいいんじゃねーかと思う。俺だって、なりたくてなった。自分の意思だ」

「親父……」

「それでも俺も……母さんも……応援するぜ」

たとえ、帝国騎士にならなくても俺は親父と母さんの子。そういうことなんだろう。

照れくさそうにそう言う親父に、なんだか俺もくっさい雰囲気で暑くなってきた。

ほんと、馬鹿親父が……

「で、ちなみにお前はどんな戦士になりたいんだ?」

「……」

でも、「戦士」になることは疑ってねーわけか。

とはいえ、俺に今やりたいことや、なりたいものがあるわけじゃない。

当面の目標は御前試合だ。

その後のことは考えてねえ。

それどころか、そもそも「戦士」そのものになるかどうかも……

「……大丈夫かな~? ちゃんと仲良く話しできてんのかな~? 頑張れ~アース~ヒイロ~」

「奥様……心配なら一緒に談笑されたらよろしいかと……」

「だって! せっかくの父と息子の男同士の会話よ? 難しい年頃だし、見守ってやるのが母親としての……」

「……奥様……確かに、最近坊ちゃまは色々と変わってきているようですが……」

……なんか聞こえる。チラッと見ると、物陰で母さんとサディスが俺と親父の様子を伺っている。

「でしょ? だいたい、この間もあいつは私に内緒でエッチな本を部屋に隠してたって言うじゃない」

「この間も二冊増えていました」

「本当にっ!? ちょ、どういう本よ……? ねえねえ、どんなの?」

「……奥様、目が爛々と輝いておりますね」

「息子がエッチ本を隠しているのを知ったとき、母は息子の成長を実感できるっていう楽しみがあんのよ!」

「……旦那様と冒険をされていたころは、スケベなことが大嫌いでよく、『エロエロ大魔神』などと言って旦那様を殴りまくっていましたのに……」

……もう少し小声で喋れよ、あいつらも!

「あ~……アース……まぁ、お前もそういうのに興味持っても仕方ねえ歳だしな!」

何だ、その親指は! へし折りたい!

やめろ! そういう「父ちゃんも気持ちは分かるぜ」的な温かい眼差しは! 怒られるよりもなんだか気恥ずかしい!

「うるせえ! つか、ババアも何をくだらねーこと言ってんだ! サディスもイチイチ報告すんな!」

「あん? こらああああ、誰がババアですって! 私はね~、永遠の17歳だっつーの!」

「痛々しいんだよ!」

「あああん?」

思わず俺がキレた瞬間、母さんが俺をヘッドロックしてきやがった。

「大体、あんたはサディスにセクシャルハラスメントして、しかもエッチ本も読んだりして! たまには女の子とデートくらいしなさいよー!」

「よ、余計なお世話だっつーの……」

「ったく、この生意気~!」

ほんとに落ち着きがねえよ、母さんは。

本人が言うように、見た目も含めて同年代の女がギャーギャー騒いでいるようにしか見えねえ。

これで実は年齢が三―――

「そうだ、あんた。フィアンセイちゃん……姫様とはどうなのよ~? 仲良くしてもらってんの~? うりうり~」

「うわ、うっざ……うっぜ、くそうっざ。つか、どうもこうもねーよ。いっつも見下されてるわ、説教されるわでコリゴリだよ……あの人もあの人で、まあまあウザい……」

「うわお……」

「……なんだよ、その顔は……」

「あんたさ~、せっかく身近にお姫様が居るのよ~。男ならこ~、姫様を俺の女に的な野心はないわけ?」

やべえ、果てしなくウザい……親とコイバナとかほんと勘弁してほしい。

「まっ……そういう意味で言うなら、この間、リヴァルが姫様に告ってたな。御前試合に優勝したら、婚約者候補にしてくれとか」

「「「ほほうっ!!」」」

うおっ、今度は三人同時に身を乗り出して、目を輝かせてやがる。

こいつら、自分の子たちの恋愛事情に首突っ込みすぎだぞ!?

「はぁ、そっかー、リヴァルはそうだったのか……」

「うはっ~、リヴァルくんもやるね~」

「ほうほう。で、姫様はどう返されたのですか?」

姫はどう返したか? その問いで思い返してみるが、そういえば結局どうするかは返事を姫もしなかったな……あんときは……

「ああ。なんか、うやむやになっちまったな」

「うやむやに? 何でだ? フィアンセイちゃんは、そういうことはしねーだろ?」

確かに、いつもは即断即決な印象のある姫だが、あのときは違った。

それは、俺が空気も読めずに介入しちまったからだ。

そう考えると、リヴァルにはワリーことをしちまったような……だが、あいつも俺を見下してきてなんかムカついたから別にいいか。

「リヴァルに宣言してやったんだよ。……優勝すんのは俺だってな」

「「「ッッッ!!??」」」

「だから、俺のその発言の所為で……」

「「「それでこそ、男!!」」」

と、今度は三人ともどこか感動したように身を乗り出して、声を上げ、俺にガシっと抱きついてきた。

「そうだ、アース! 一歩も引かねえっていうのが男には大事なんだ!」

「母さん、エッチ本よりもその言葉であんたの成長を強く実感したわ」

「坊ちゃま、以前より優勝を望まれていましたが、本気のようですね。私もその日は絶対に応援に駆けつけます」

暑苦しい……でも……なんか、今まで色々と俺は壁を作っていたような気がしたが……案外、話してみるとこんな簡単に……壁が……?

いや……違う。

「その気持ちがあれば、父ちゃんも満足だ。勝敗は関係ねえ。思いっきりやれ」

「うん。あんたが優勝目指して一生懸命やる。その姿だけで母さんたちは嬉しいから」

「坊ちゃま、私は挑戦する坊ちゃまを最後まで応援します」

どうしてだろう?

親父も、母さんも、サディスも「俺の言葉」に満足しているように見えた。

ダメだ。こう考えちまうのは、俺がひねくれているからだろうか?

三人が「俺が一生懸命がんばるだけで満足」というのは、単純に「優勝は期待していない」と聞こえる気がした。

一生懸命やるだけじゃないんだ。俺は、本当に優勝を目指している。

サディスのご褒美とかそういうのもあるけど、それだけじゃない。

強くなった姿を皆に見せ付けて、驚かしてやりたい。だからこそ、懸命にやっている。

でも、そもそも三人とも……

「だが、リヴァルとフーは本当に強くなってるみたいだ。そこは覚悟しておけよ?」

なんだよ、それ。

知ってるよ。あいつらが強くなったのは。

それって、「実力差がありすぎてもガッカリするな」って言いたいのか?

「うん。それで、無理だけはしないでね。優勝を目指して、それがたとえどんな結果になったとしても、お父さんもお母さんも、ちゃんと見てるから」

なんだよ、それ。

もう、俺の「言葉だけで満足」っていう笑顔は。

「でしたら、御前試合の日の夕食は盛大にしましょう。その日は、坊ちゃまのお好きなものを、私はた~んとお作りします」

なんだよ、それ。

どうせ優勝できない俺に対する残念会のつもりか?

「……俺は……」

ダメだ。親父も、母さんも、サディスも、そんなこと一言も言っていない。

いや、そもそもそんなこと思ってすらいないかもしれない。

俺がひねくれているだけで、そう思っちまってるだけかもしれねえ。

でも……それでも……

「ご、めん……親父……母さん、サディス……」

「「「??」」」

「ちょっと、まだ体がダルくて……正直、食欲ねーんだ……せっかくだけど、今日はもう休んでいいか?」

これは嘘じゃなかった。正直、まだ体は万全じゃない。

とはいえ、どうしてもメシが食えないほどというわけではないが。

「ほんとか? そっか……まァ、無理はすんなよ?」

「気をつけなさいよ? 私たちもまたしばらく帰れないけど……大丈夫?」

「坊ちゃま。分かりました。では、もしお腹が空かれてもいいよう、スープなどはご用意しておきます」

俺がそう言うと、三人とも残念そうな顔をしたが、無理に一緒に食卓に座ることを強要しようとせず、俺の体調を気遣ってくれた。

『よいのか?』

俺はそう尋ねるトレイナの問いに答える前に、リビングから出て自分の部屋に早足で戻った。

落ち着かない衝動を抑えきれず、部屋の扉をすぐに閉めて、そしてトレイナに向かって言う。

「トレイナ……頼みがある……」

『なんだ?』

これは、サディスのご褒美が目的でも、トレイナに唆されてうまくノせられたわけでもない。

自分の意思だ。

だから、俺は初めて頭を下げた。

「俺は……勝てなかったけど、一生懸命頑張ったね……なんて慰めはいらない! 勝ちたい! 俺が勝つなんて思ってねえ奴らに、見せつけてやりたい!」

『ほう……』

「頼む……俺をもっと……鍛えてくれ……いや……鍛えてください! 強くなりたいんだ! 俺、どんなキツくても投げ出さない。だから、お願いします! 押忍!」

褒美が欲しいわけでも、スカッとしたいわけでも、褒めてほしいわけでもねえ。

勝ちたい。負けたくねえ。そう思うのは俺の意思だ。

『ふん……童よ……貴様は自分を誰の弟子だと思っている? そして、貴様の師を誰だと思っている? 余が弟子に敢闘賞を取らせるだけで満足すると思うな?』

「ッ!?」

『だが……ふふん……ニンジンぶら下げなくても、その言葉が出るなら良し。共に、勇者やボンクラ共の度肝を抜いてやろうぞ!』

「ッ、押忍!!」

腹はくくった。

俺には姫やリヴァルのような戦う立派な理由はない。

全部自分だけのもの。

俺だけの感情だ。

でも、それでも負けたくねえ! 勝ってやる!

『よし、では体を休めて明日から……と言いたいところだが、明後日からにする。明日は一日休養を取る』

「押っ……え?」

では、早速明日からより一層……という燃えてきた俺だったが、トレイナから出てきた意外な言葉に肩透かしをくらった。

え? 明日からじゃねーの?

『今の貴様は魔改造の影響やこれまでの疲労が溜まっている。肉体的にも精神的にもだ。オーバーワークは逆効果。体を休めるのも立派なトレーニングと思え』

「い、いや、でも……」

『焦る気持ちは分かる。『やりたい』という気持ちも十分に伝わる。だからこそ、体を休めて存分にトレーニングできる状態に、肉体も精神も整えるのだ。よいな?』

トレイナはそう言って「我武者羅にやるだけがトレーニングじゃない」と俺を諭した。

なるほどな。体を休めるのもトレーニングか。

確かにこれまでラダーやらスパーリングやらヴイアールやらで結構疲れてる。こんな状態でもっと追い込んだトレーニングをやっても逆効果ってことか。

やっぱ、すげーな、こいつ。

俺のこと、よく見てるんだな。

『と、というわけでだ……童よ……明日は休養のわけだが……』

「ん?」

と、その時だった。

『そ、そういえば、そろそろではないか? ほら、例のアレというか……うむ、丁度その……な? 届くというか……』

なんか、トレイナが腕組しながら目を逸らしたり、俺をチラチラ見たり、なんか落ち着かない様子。

急にどうした? アレ? 届く?

あ~……

「……あんたが、死んでから読めてなかった小説……本屋に取り寄せをお願いしてたやつが、届く日か……」

『お、おお、そうだったな。そうであったな! うむうむ!』

おい……こいつ……まさか、明日は読書したいから一日休みに……

『な、なんだ、その目は?』

図星か? ったく、こいつは! ……いや……いいか。

「まっ、そうだな。じゃあ……明日はノンビリ読書にすっか」

『ッ!?』

別にいいよな。こいつには本当に世話になってるし……これぐらいで礼になるってなら……

『コクコクコク!』

しっかし、嬉しそうにしちゃってまァ。

なんだか、俺の張り詰めてた気持ちも、急にほぐれちまって、いい意味で気持ちが少し楽になった。