軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二百八十四話 めんどくさいガキ

スレイヤの尖った態度に腹を立てていたエスピ。

あんな出会いからどうやって恋人同士になるのか気になるところだったが、とにかくエスピが機嫌を損ねた。

どうやって宥めてやろうかと思ったが、それは意外に簡単だった。

「お魚おいひいい~!」

船内の食堂。

船員たちだけじゃなく、俺らのような渡航のための客も含めて広々とした空間では、食事を楽しんだり、酒を飲んで騒いでいる連中もいたりと賑わっている。

そんな中で、皿に乗っている海鮮料理を次から次へと小さな口いっぱいに頬張るエスピはニコニコしていた。

「おっ、いい食べっぷりだね、嬢ちゃん。ほれ、これも食ってみな。この、グリルで焼いた貝だ~」

「わぁぁ、おっきい貝! わぁ、開いてグツグツいってる~!」

「へへ、出汁が沸騰してんのさ。そして余計な調味料はいらねぇ! 加熱で旨味が増して、そのまま食うのが一番うめぇ!」

「わぁ、わぁ! わぁ! いただきまーす、あ、あ、あひゅい、あひゅうい! はふっはふはふっ……でも、おいしい!」

「そうやって、シンプルにうまいって言ってくれるのが一番うれしいぜ。よし、これもいっとけ!」

なんつーか、海の男たちってのはメシを振舞うのが好きなのかな?

そういや漁港でもそうだったな。

でも、あんときと違って、今はエスピが純粋に笑顔でパクパク食べてるのを見て、ほっこりした海の男たちが次々とメシを食わせているので、俺は放置状態。

まっ、エスピの機嫌がよくなってくれたからいいんだけどな。

それに……

――ケーキは食べたことなかったのか?

――うん! 顎を鍛えるために硬いお肉とか、お薬の入った飲み物ばっかだった

もっと色々な美味しいものを食っていいんだ。

それを笑顔で美味しいって言ってくれりゃ、もうそれでいいんだ。

だから、エスピはいい感じになってるんじゃないかと思う。

癇癪起こしたときは、もともとの力がヤバい分、結構ドキドキするけどな。

一方で……

「さて……あいつは、いねぇか……」

さっき出会った、随分と尖ったガキんちょは食堂に居ない。

先にメシは食い終わったのかな?

エスピは色んな大人たちにおもてなしされているし、楽しそうだからそのままにして、ちょっと様子を見に行くかな? 気になるし。

『意外だな』

「ん?」

『正直、奴がどの程度貴様と絡みがあったかは分からぬし、しばらくは様子見かと思ったが、積極的に絡みにいくとはな』

「ん? ん~……まぁ……どうせ絡みが出てくるって分かってるわけだし、それに……」

確かに俺自身もトレイナに言われて一瞬どうしてかとも思ったが、その理由は簡単だった。

――お兄ちゃん!!

今のエスピは本当に俺に心を開いてくれている。信頼してくれている。慕ってくれていると分かるからこそかもしれない。

俺もあいつをもう他人とも思えねえ。

だからこそ……

――結婚はしてないから。結婚式やってないから。だから、子供も居ないから。結婚も結婚式もちゃんと互いの家族に許可を貰ってからじゃないとね

未来の……というか、現代のあの言葉に繋がるんだ。

『なるほどな』

俺の考えにトレイナは笑って納得した様子だ。

「ああ。妹の将来の結婚相手になるんだろ? だったら、ちゃんとどういう奴なのかを知っておかねえとな……けしからん奴だったら、……くははは、なんてな」

けしからん奴だったら、結婚は許さない? それほど俺自身が大層なやつでもねえし、そんなつもりはサラサラねえ。

ただ、許す許さないじゃなく、あのスレイヤってやつがどういうやつなのか、どういうやつだったのか、それぐらいは知っておかねえと、と思ったんだ。

『ふふん。それにしても……』

「んだよ?」

『妹の方が先に結婚するかもしれんとはなぁ……それに比べて貴様は未だに異性との交際経験もない、ふはははは』

「んな!? そ、そんなの、実際にはあいつの方が年上になって……つか、俺だってクロンとか、シノブとか、サディスとか、将来結婚するかもしれない相手はいるし!」

『……そろそろ、あの姫も入れてやったらどうだ? 流石に余も不憫と感じてきた……』

「……あ~……あ~……う~ん……ちょっとそれはまだピンとこないというか……」

いや、姫は確かに美人だし良い女だと思う。でもな~ただの幼馴染で、目の上のタンコブだった時期が長すぎて、あまり女として意識したことが……俺もそこら辺はちょっと酷かったと思うけど……と、そんなことを考えながら俺はあいつを探しに行こうと思って食堂の扉を開けた直後のことだった。

「……え?」

「あっ……」

バッタリだった。

扉を開けたらすぐそこにあのガキが……スレイヤが立っていた。

しかし、向こうは無表情のまま俺からすぐに視線を逸らした。

「よう」

「…………」

「メシ食いに来たんだろ? 入れよ」

いなかったのではなく、いま来たのかと思って尋ねてみた。

しかし、スレイヤは視線を逸らしながら……

「入らないさ。今はうるさいみたいだしね」

「はっ?」

なんと、入らずに踵を返して戻ろうとしていた。

うるさいから? まぁ、確かに今はエスピに皆が集中して、オッサンたちも酒を飲んだりとはしゃいでるから、うるさいといえばうるさい。

だが、そこまで気にすることか?

「何でだよ。腹も減ってるんじゃねーのか?」

「ふん、ボクは食事中に雑音がするのは嫌いなんでね……群れている者たちが目に映るのもね……」

無表情ではあるものの、その眼光だけは不機嫌そうだというのが分かる。

っていうか、こいつ何歳だ?

「とにかく、ボクに話しかけないでくれ。バカたちと一緒に居たくないんでね」

「お、おい、だからメシ……」

「言ったはずだ、今はいらない。二度も聞くなんてあなたもバカだね。ボクは別にそこまでお腹が空いてな――――」

――ク~~~♪

「…………」

「…………」

「あ、お、おい……」

「なんでもない」

そして、言いたい放題に言った直後、小さな腹の音が目の前から聞こえてきたんだが、スレイヤはそのまま早足でスタスタと行ってしまった。

「行っちまった……」

『腕は立つようだが、なかなかメンドクサイ子供のようだな……』

「ああ。ああいうクールぶって……だけど意外とクールじゃない……昔のリヴァルに似てるかもな」

自分で言ってて、なんだかむしろ納得しちまった。

そういえば、リヴァルも昔はああだった。

そんなあいつを、俺とフーと姫は無理やり遊びに連れて行って、んで、あいつは溜息吐きながらも何だかんだでいつも一緒に……

「しゃーねぇ……」

仕方ねえなと思いながら、腹を空かせたガキをそのままにしておくわけにもいかねえし、俺は後を追いかけることにした。

つっても手ぶらで行っても……何かメシを皿にのせて持っていくか?

『なら、童。アレがあるではないか』

「ん?」

そう言って、トレイナはニヤニヤとしながら……

『それこそ、現代のあやつの店で買っただろう? 余が考案した携帯食を』

キャンプではカリーだったり、街ではエスピのためにケーキを食わせたりと、未だに俺のカバンの中で出番なく眠っていた、トレイナがかつて考案したと言われる例のアレ。

そういえば、現代であいつの店で買ったものの、俺もまだ食ってなかったな。