軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二百八十三話 出会い

船よりもデカいイカ。それはまさにモンスター。

危険視されて、賞金かけられているというのも納得のデカさ。

ただ、問題なのはそのモンスターが死んでいるということだ。

しかもただ死んでいるわけじゃねぇ。

船がソレに近づくにつれて、その状況が……

「う、うぉ……」

「わぁ……なんか、ぐちゃぐちゃだね、お兄ちゃん」

エスピは可愛らしく言ってるが、戦争経験のあるエスピならではの反応であって、実際はかなりグロイ。

巨大なイカ……と思われる物体の頭部が何か巨大なもので叩かれたかのように潰れており、そのいくつもの足は刻まれ、叩き潰されている。

それは明らかに「何者かに惨殺された」姿。

「う、わ、あ、な、どうなってんだよ!」

「し、信じられねえ……」

「だ、誰がこんなことを……」

そう、誰がこれをやったのか。

そしてその答えを知っているであろう奴の姿も見えてきた。

「おい、あそこに誰かいるぞ!」

「ほ、ほんとだ、小舟に……ん?」

「ちょ、な、なんだぁ?」

船員たちもその存在に気づき、そして同時に驚きの声を上げる。

それは当然……

「え? な……え? こ、子供?」

俺も同じだった。

「お兄ちゃん! 誰か……ちっちゃい男の子がいるよ!」

そう、小舟に乗っていたのは、背丈の小さな……というか、エスピと大して変わらない、子供だ。

「……ん?」

そして、小舟に乗っていた子供がこちらに振り返った。

思わずゾクリとしちまった。

初めて子供エスピと出会った時のように、まるでその瞳に生気も希望も感じさせないもので……ん?

『……ん?』

『……なぁ、トレイナ……』

『……むぅ……』

『アレって……』

ただ、その子供の面影が……というか、どこかの誰かに似ているようなというか……

「………………………」

「「「「「………………………」」」」」

「………………………」

「「「「「………………………」」」」」

「………………………」

「「「「「………………………」」」」」

沈黙。子供が俺たちに振り返って無言のまま、俺たちも言葉を失って、場に重たい空気が流れる。

そして俺たちに気づき、視界に写っているのにまるで興味を示していなければ関心もなさそうに、ただ見て来るだけ。

「……ふん」

やがて子供は俺たちをどうでもいいと思ったのか、そのまま前へ向いた。

「「「「「って、何も言わんのかい!?」」」」」

その瞬間、船員のオッサンたちが一斉にツッコミを入れた。

すると子供はもう一度振り返り……

「うるさいな……息も臭い……ゾロゾロ現れて喚かないでよ……ボクを怒らせたいの?」

おぉ……なかなか尖がってるじゃねえの……

とはいえ、大人たちはその子供に対して「生意気だ」とか「ムカつく」とかそういう言葉を誰も発していない。

近海の主と思われる大型モンスターの死骸の傍に立つ謎で不気味な子供だ。

その異様さに飲み込まれるのも無理は……

「あーーーーーーー!!!!」

と、そこでエスピだけは大声を上げた。

そしてモンスターの死骸を指さして震えながら……

「そ、それって……それって、ダイカイオウとかってイカ……?」

「……?」

「ねぇ……それ、ダイカイオウなの!?」

「……まぁ、そうだけど……何か問題あるの?」

エスピの問いに子供は抑揚ない声で答えるが、その言葉にエスピは悔しそうに歯噛みする。

「うぅ~……それ……私がぶっとばすはずだったのに……」

「は?」

「それ、私がぶっとばして……お兄ちゃんが私をだっこだったのに……う~~、私がぶっとばすはずだったのにぃ!!」

そっちかよ!?

と、皆が思っただろう。

エスピにとっては子供がデカいモンスターを倒したことよりも、自分の獲物を横取りされたという気持ちの方が大きかったようで、プンスカしながら甲板で地団駄した。

すると子供はエスピの言葉に溜息を吐いた。

「君が? ふ~……やれやれ。うるさくて、頭の悪い女の子だね」

「え? ……いま……何て言ったの? 私のこと……何って?」

「頭だけじゃなくて耳も悪いんだね」

「む、むぅぅぅぅうううううう!!!!」

おお、エスピの頬がプクーっと膨らんでカンカンになっている。

「こらこら、やめなさい」

「だって、お兄ちゃん!」

「はいはいよしよし」

そしてこのとき、俺は思った。

なるほど、出会いと第一印象は最悪だったのかと……

「な、なぁ、坊主! それ、大海王イカみてーだけど、ま、まさかお前さんが、これをやったのかい?」

「見ただけで分からないの? あなたたちも大人なのに頭が悪いね」

「あ、お、え、お……」

「邪魔だからもう行ってくれないかな? 今から討伐完了証明のために、必要な箇所を切ったりしないとダメなんだから」

「あ、ま、待てよ! なあ、お、お前さん、何者だ!?」

そして、船員のオッサンのその問いかけに、子供は一度小さくため息を吐きながら……

「ボクは『スレイヤ』。ハンターだよ」

「「「「ッッッ!!??」」」」

やっぱりな。俺とトレイナはその名前を聞いて苦笑し合った。

「す、スレイヤって、あ、あの噂の天才少年!?」

「アイアンハートとか、神童とかって言われている……あのスレイヤか!?」

そして、同時に周囲から驚愕の声が上がった。

この時代でも有名人だったようだな。

「は、はは……な、なぁ、スレイヤ! 何だったら、この船にそれを括り付けて運んでやろうか? そんなデッケー大海王イカを仕留めたんだったら、港の連中にも見せてやりてーしよ!」

「……ん? なに? ボクに恩を売って賞金のおこぼれでも貰いたいと思っているの? 卑しい大人だね」

「えあ、いや、そういうつもりじゃ……」

「まぁ、でも……それなら……コレを切って色々と飛び散って体が臭くなることないし……そうしてもらおうかな。お金はいくら欲しいの?」

「お、おお、そうかい。って、別に金なんていらねーって! ついでだし、むしろ港で皆に見せてやりたくて……」

「ボクは他人からおこぼれを貰うようなことはしない。借りも作らない。それだけだよ」

「あ、お、おぉ……」

つーか、あいつは誰に対してもそういう態度なんだな。

船員のオッサンの問いかけにも冷たい返答。

相手が大人だろうと、きつい言葉をストレートにぶつける。敬語も年上に対する敬いも何もあったもんじゃねえ。

つーか、さっきから言葉遣いがガキのソレじゃねーというか……

『……貴様も敬いが足りんなぁ……』

『はいはい、俺は師匠をソンケーしてるって……とはいえ……』

っと、まあ心の中でのやり取りは置いておいて、いずれにせよあいつが生意気なガキってことに変わりはないか。

だが、同時にやっぱりすごい奴だったんだということは分かる。

『アレが、店長か……』

『うむ……』

未来でトレイナにあいつの経歴をザックリとだけ教えてもらったが、実際にこうして見るのではやはり違う。

そもそも、あんな小さな体で、こんなデッカいモンスターをどうやって倒したのやら……

「ふぅ……よっと……」

そして、話がついて船に飛び乗ってくるスレイヤ。

こうして同じ空間に立つと、より一層独特の空気を放っているのが分かる。

「う~、う~……」

「なに?」

「ふーんだ」

そして、俺の足にしがみつきながらスレイヤに歯をむき出しにして唸るエスピ。

「やれやれ、子供みたいに家族に甘えて……かと思えば自分勝手に怒って……恥ずかしい子だね」

いや、エスピもお前も子供だし……

「うにゅ!? 恥ずかしくないもん! 私はお兄ちゃんと仲良しだからいいんだもん!」

「くだらない……用がないなら睨まないでよ。めざわりだから」

「こ、こ、こんのーーーー!」

あ~~、もう!

「やめいっ!」

「っぐ、お、お兄ちゃん!」

今にもキレてとびかかりそうだったエスピだったが、その前に掴んで止めた。

俺に掴まれながらも足をバタバタさせて暴れようとするエスピに、俺も頭が痛くなった。

「ったく……だから、落ち着けっての……それにお前もだぞ?」

「ん? ボクのことかい?」

「ああ。あんまりさ……女に冷たくするんじゃねーぞ? 女には……ヤサシクシロ」

そのとき、俺が何気なく言おうと思った言葉だったが、俺自身がちょっとここ最近のことで色々と微妙な気持ちになり……サディスとか、姫とか……

『はい、ブーメラン!』

トレイナがノリノリでツッコみ入れてきやがった。

だけど、そんな俺に対して……

「……何を言うかと思えば……」

スレイヤは鼻で笑った。

「ボクは他人に興味を持たない。誰とも心通わせる気も無い。一人で戦い、一人で生きていく……家族で甘やかし合ってヘラヘラしている人に説教されたくないね」

「……お前……そういう言葉遣い、どこで誰に教わってんだ?」

「ふん」

そう言ってスレイヤは冷たい目をしたまま踵を返してスタスタと向こうへ行ってしまった。

未来ではあんなに俺に興味津々に接してきたり、カリーに夢中だったりと……人間変わるもんだな……。

そう、変わると言えば……

「う~~、なーに、あの男の子! ブスっとしちゃって、口悪いし! それに暗いし! 私……ああいう男の子、大きっらい! ベー! イーっだ!」

ちなみにこの二人は後に恋人同士になり、十数年後には結婚目前だったりする……と、ツッコミ入れたいが、それを知っているのは俺とトレイナだけなので、それは胸の内にしまっておくことにした。